20話 襲撃
シシドゥは浜に遣いに行っていた女性と一緒に戻ってきた。
ママドゥ達が漁から戻るにはまだ時間が掛かるようだ。
俺たちは畑に案内された。
「なぁシシドゥ、君たちは恒星の位置で時間を見ているのかい?」
俺は聞いてみた。この惑星での常識の確認だ。
「ああ、そうだ。一日は29時間だからな。
恒星が昇る6時に起きて、ドラゴンを見るんだ。
そして、恒星がてっぺんに来るのが14時。
恒星が沈むのが22時だ。
月じゃあ、どうなんだ。違うのか?」
「ああ、月でも同じだ。」
「そうかい、そいつは良かったな。
おう、着いたぜ。ここが俺たちの村のイモ畑だ。
罠を仕掛けたのは、あの茂みの先だ。狭いから注意してくれ。」
シシドゥが先を進んでくれる。
時間に関しては季節でのずれや、1日15分の差があるが、時計が無いようなので気にならないのか。
自転制御装置が正常に作動せず、24時間の自転周期にはならなかった。
ただ、自転周期に合わせて一日24時間としなかったのは、惑星開発部隊も時間間隔がずれるのを嫌ったのだろう。
1秒の定義が変われば彼らの研究にも支障が出るだろうからな。
罠についてはホークとパメラが熱心に聞いていた。
レイチェルとリサは畑の観察だ。
畑は広く、多くのベア族の人々が作業をしている。
畑で作業している彼らを見ることで、その映像はカッシーニ81に届く。
畑の見学を終え、食の場に戻り、さらにしばらくしてママドゥ達が漁から戻って来た。
ママドゥは両手で大きな籠を抱えて来た。
俺たちが座ったテーブルの端に籠を置き、中から大きな魚を取り出す。
銀色の魚体が陽光を反射する。
「月の人には、これがお勧めだ。」
そのままテーブルの端を使って魚を捌くママドゥ。
魚の身を切り分け木皿に盛り付け、それに森で獲れた香草の細切れを振り掛ける。
「ああ、これは旨いぞ。がぶっといくんだ。がぶぅっと。」
「今日は良い魚がたくさん獲れた。たっぷりと食べてくれ。」
そう言って籠の中から2匹目の魚を取り出す。
食の場には村長を始め、多くの村人達が集まってきた。
彼らも昼食の時間だ。
一緒に食事をし、話を聞き、少しばかりの魔法のお披露目をした。
ゴンジー村の歌というタイコ演奏と子供たちの歌も聞かせてくれた。
途中からは大人たちも加わって大合唱になった。
ママドゥは部族長の村への案内を快く引き受けてくれた。
ママドゥの旅支度を待って、俺たちはゴンジー村を後にした。
◇
以前、ママドゥ達の1日の旅程を約40kmと見積もったが、違った。
彼らは俺たちの船まで2日で来ていた。
つまり170kmを2日。1日16時間、85kmを徒歩でだ。
脚早き者の二つ名を名乗っていたのを思い出した。
ゴンジー村を1600頃に出て2時間、俺たちは歩き続けた。
これはきつい。
舗装路なら、まだ大丈夫だろう。だが不整地だ。
最初に根を上げたのは俺だ。
「ママドゥ、済まない。休憩しよう。」
「ファルスカン、いいぞ。大丈夫か。」
「ああ、休憩すれば大丈夫だ。」
俺は腰の剣を外して道に座り込む。
「ファルス、日頃の鍛錬不足だな。」
「第二勤務でカードばっかりしてるからですよ。」
「そう責めるなクリス。歳のせいなんだよ。
それにな、カードに誘われたら断れないだろう、リサ。」
「やれやれ、です。」
「ママドゥ、弓の作り方を教えてくれないか?獲物を仕留めたいんだ。」
「ああ、いいぞ。ええと、すまん、名前は何と言ったかな。」
「私はクリスだ。よろしくなママドゥ。」
「クリス、よろしくな。で、弓の作り方か、うーん。」
周囲の木立を見渡すママドゥ。目当ての物を見つけた様だ。
「あの辺りの樹に良い枝がありそうだ。付いて来い。」
「うん。」
「私もご一緒しますねぇ。レイチェルですぅ。よろしくママドゥ。」
「ああ、レイチェル。よろしくな。」
3人は連れだって木立へ向かった。
「大尉、大丈夫ですか。」
ホークがカップの水をくれた。
「ありがとうホーク。堪えてるよ。」
「ママドゥに歩行速度を落とすようにお願いしましょうか。」
「そうだな。いや、俺から頼むよ。」
「大尉、獲物です。」
「なに?」
「後方300m、10体。こちらに向かってきます。」
「10体は一度に相手にできんな。パメラ、相手は判るか。」
「いえ、そこまでは。リサ、判る?」
「はい、見えました。あれは、もしかしてゴブリン?手に剣を持っています。」
(クリス、レイチェル、ゴブリン10体接近中。距離300だ。ママドゥに伝えろ。)
(了解。)
俺は立ち上がって剣を帯びた。
「妙ですね。相手は10体ですが、こちらは7人。戦力差はわずかです。それほど好戦的なのでしょうか?」
「パメラ、別働隊は居るか?」
「いえ、周囲300m以内には奴ら10体だけです。距離220です。」
「距離100で空気銃で狙ってみるか。相手の反応をみたいな。」
「了解。私は先頭を、パメラは右を頼みます。」
「了解。」
後ろから足音が近付く。ママドゥだ。
「ファルスカン。逃げないのか。」
「逃げるのは最後の手段。まずはゴブリンって奴を見てみたい。」
「ゴブリン?、いや違うぞ、この匂いは、奴らはオークだ。めったに村の近くにはでないんだが、あれは強いぞ。」
「そうか、ママドゥ、一足先に逃げてくれ。俺たちは飛んで逃げられるが、あんたは飛べないからな。」
「ああ、そうか。そうだったな。判った、先に距離を取っている。逃げ遅れるなよ。」
クリスとレイチェルも合流した。
ママドゥは道を走り距離を取る。
「オークか。奴ら、どうした。止まったか?」
「はい。距離120で止まりました。こちらを伺ってますね。」
「我々の動きが止まりましたから、警戒されましたか。」
「よし、少し進んで誘ってみよう。」
「背を見せれば、来るな。ファルス。」
「そういうことだ。」
俺たちはママドゥを追って歩を進める。
(動きました。距離120のままです。)
(このまま追ってくるな。いつ襲ってくる?)
(包囲せずに、追随するなら、この先に有利な地形があるのでしょうか。)
(リサ、ちょっと偵察してきてくれ。そうだな500mぐらい。)
(了解。)
リサが一瞬で消えた。
高度100mぐらいまで一瞬で飛び上がったのだ。
(大尉、この先300mぐらいで丘の下を通りますね。
道が右に曲がっていて背後が丘の斜面になりますから、ここで右側面を取られると危ないですね。)
(そうか。ママドゥに合流してその丘の先まで行ってくれ。)
(了解。)
(どうしますか、大尉。)
(ファルス、ここは罠に掛かる手だろ。)
(そうだな。俺たちの強みは空を飛べる事だ。罠に掛かって、逆に奴らの背後を取る。)
(了解。)
(パメラ、周辺警戒を怠るなよ。別働隊の可能性はある。)
(了解。)
俺たちは進み、オーク共は付いてくる。
やがて左手は丘の傾斜を見せ、道は右に曲がり始める。
さらに進むと大きく右に廻る。
左手は丘の斜面、右手の木立はややまばらになり、低木が多くなる。
(ここだな。)
(オークが接近、後方に4、右側面に6、別れました。)
(よし、走るぞ。
曲がり角で反転。オークを捉えたら遠距離魔法。
奴らが突っ込んできたら、上昇、背後に廻り、包囲する。)
(了解。)
(オークも急速接近。距離80!)
曲がり角で俺たちは振り向いた。
後方から迫る4匹が接近している。
木立を通る6匹はやや遅れている。
身長2m程、やや猫背で頭を前に突き出している。
筋肉はたくましく、ベア族並みだ。半裸の腰布だけの服装に鉄の板のような剣を持っている。
口を大きく開けて吠えている。
「じねぇー!!」
「ヴォォー!!」
「水弾!」
「氷結!」
「火炎弾!」
「風切!」
パメラの水弾は先頭の眉間を貫いた。
レイチェルの氷結は相手を氷漬けにして動きを止めた。
俺の火炎弾は相手の胸に命中し、燃え上がった。オークは地面に倒れ転げ廻っている。
ホークの風切はオークの右足を膝下で切り離した。奴も地面でのたうち廻っている。
20mの距離で4匹を倒した。
木立に廻ったオークはその場で立ち留まってしまった。
(あっ、これは逃げそうだな。)
(なに!まて、まって、うちはまだ戦ってないぞ!)
(あ、オークが反転、逃走を開始しました。)
(あら、戻ってきたのに、終わっちゃいました?)
(え~~、うちの出番~。)
(リサ、すまんがママドゥに終わったと伝えてくれ。あと、オークの死体の始末について教えてほしい、と。)
(了解。)
息があった2匹はホークとクリスが止めをさした。
氷漬けは、これは生きているのか?いや、死んだな。
次回21話「魔石」
敵を倒しても自動で現れません。