16話 月からの合流
艦長たちの月面基地脱出は予定よりも早く実現した。
カッシーニ81に残された脱出艇は6隻。
これをナンドゥールが改造し、月へ送ったのだ。
1隻目には甲板部員用の作業用パワードスーツ(普段着用しているボディスーツの強化版)や個人用作業機器を満載した。
2隻目と3隻目は大改造して、マスターポッドと工作機を1台づつ載せて送りつけた。
これで月面基地では作業効率が格段にあがり、エレベータシャフト修復後の月面基地での脱出艇改修がすぐに終わった。
こちらの脱出艇で送迎しなかったのは、月面基地の脱出艇を捨て置くのは惜しいからだ。
ついでに、月面基地にあった高解像度カメラも回収した。
司令部用4人乗り脱出艇を利用した地上観測衛星を作成して、運用するそうだ。
月面基地固定式では見たい時に見たい場所に移動できないからな。
余裕が出来た時間で月面基地の調査もお願いした。
各研究室と思われる部屋を見廻ったが、機器は残されておらず、空き部屋となっていた。
ただ1部屋、クローン培養生育器と思われる装置が残っていた。
おそらくカルー少佐たちが最後に使った物だろう。
今はもう起動しない。
月面基地の地下に設置されているはずの大型の重力子機関と小型の重力子機関2基もなくなっていた。
おそらく5番艦に積み込んで、地上に降ろしたのだろう。
そして、月面基地到着から12日後、17時間の時間を掛けて彼らは地上に降り立った。
◇
重力子機関によって、ゆっくりと本艦上空に現れた脱出艇8機はそのまま上空で待機した。
脱出艇は船体外殻や月面基地隔壁で外部装甲を追加している。
そのままでは格納庫に収まらない。
ナンドゥールは甲板の左右外殻装甲を開閉式の扉にした。
そして一機づつ甲板区画に降ろす。
脱出艇から排出された個人用ポッドは甲板の隅に並べて置かれた。
ここから船員区画へ個人用ポッドを持ち込むルートが無い。
脱出艇格納庫の脱出ルートを逆走させる方法があるが、いずれ考えよう。
積載物を降ろした脱出艇は浜辺で待機だ。
夜明け前に上空1万メートルまで上昇させておけばブルードラゴン対策も大丈夫だろう。
降りてきた皆には惑星重力に馴れるために20時間の休息を伝えた。
そのまま個人用ポッド内で待機すれば良い。
体内ナノマシンが調整してくれるだろう。
そして、ナノマシンのバージョンアップも行われる。
明日の説明会がどうなるか。
◇
艦長以下全員が健康上の問題もなく、食堂に集まった。
甲板長たちは個人用ポッドを出た後に、改装中の甲板とそこで動き回る工作機を不思議そうに見ていたが。
まずは食堂で皆を一堂に集めて、まとめて説明だ。
個別の質問は後回し。
「こうして、皆と再び会えてうれしく思う。
現状について、皆それぞれに思うところ、確認したいところは色々あると思うが、
まずは俺たち第二司令部の3人が調べたことを説明していく。
最初に、俺からジャンプゲートの事故から第四惑星着陸までについて説明しよう。」
「カン大尉、いいか。」
「艦長、どうぞ。」
「ああ、ここが第四惑星なのは、間違いないのか?」
あなた、月面基地で過ごしたじゃないですか。
「はい、艦長。あらゆる情報が、ここが第四惑星であると示しています。」
「そうか、わかった。続けてくれ。」
艦長は未だ現状を受け入れがたいようだ。
輸送艦艦長をあと数年勤めれば、退官しレギウス本星で元老院の仕事をしながら余生を過ごす。
そんな未来予想図が消えたからだろう。
俺はジャンプゲートの事故と本艦の第四惑星到達までの経緯を説明した。
そして5番艦ベネラ231が月面基地へ帰還するも生存者がいなかったと記録されていること。
さらに生き残った惑星開発部隊と共に地上に降下し、今も赤道上の島にあること。
最後に、今が13488年。俺たちがいた時代から12427年未来だということ。
皆の反応は静かであった。
月面基地で、その辺の事はなんとなく感付いていたようだ。
さすがに12427年と聞いた時は「そんなに!」という声が聞こえたが。
続いてホークから惑星開発部隊の成果についての説明だ。
7大陸7種の種族。そしてドラゴンを始めとする生物。
ブルードラゴンについては、初遭遇した時の飛行映像と本艦に着艦時の映像を見せた。
ブルードラゴンがしゃべると皆一様に驚いた。
続いてはママドゥ達ベア族の3人の来訪映像。
浜辺を歩く3人、俺たちとの接触、そして食堂での会話。
「最後に、これは今後の各大陸での確認作業が必要な未確認情報ですが、
惑星開発部員はクローン体への記憶引継ぎを実現したと考えられます。
よって、惑星開発部員の全員、または一部は今も生存している可能性があります。」
さすがにこれは皆驚いた様だ。
だが、どうすれば良いか判らないのだろう。
「現地人が俺たちと同じ言葉を話している。」
「今も生きてるって?」
ざわつきが収まらない。
どうしようかな、次はもっと驚くぞ。
次はリサだ。
「惑星開発部隊による成果は惑星とそこに生活する生物たちに対する物だけではありません。
私たちの体内ナノマシン、そして大気中に存在するナノマシンに対しても行われました。」
壁面スクリーンにナノマシンへのバージョンアップ項目が並ぶ。
「さて、皆さんには惑星重力に馴れるために個人用ポッドで休息していただきました。
その間に皆さんのナノマシンもバージョンアップされていると思われます。
また、ナノマシンのバージョンアップは本艦の中央管理コンピューターにも影響を与えました。
紹介します、メティスです。」
『皆様初めまして、メティスと申します。』
食堂内にメティスの声が流れる。
『只今皆さんの情報パネルに画像を送信しました。
その画像に写っている物の名称を入力してください。』
送信したのは例の城の画像だ。
『ありがとうございます。メンフィス少尉、全員の入力を確認、全員正解です。』
「はい、ありがとうございます。」
皆がざわつき始めた。気付いたかな。
「さて、皆さん、この画像がお城だと判りましたね。
これが、ナノマシンによってもたらされた、この惑星上で生活する為の基礎知識です。
これら新しい知識は、そのものを目にしたり考えることで記憶の中の知識として認識します。
ですので、戸惑うこともありますが、新しい知識が追加されたことを覚えていてください。」
一応ざわめきは落ち着いた。
第一司令部の3人はメティスに興味があるらしい。
俺に視線を送ってくる。
(サワー大尉、そっちは中央指令室でやるから、待ってろ。)
と、ナノマシン通信で伝えてしまった。
いかん、混乱してる。
リサに気付かれた。
「さて、ここからが本題です。
ナノマシンはバージョンアップの結果、我々が頭の中でイメージした現象を実際に実現させることができます。
では、この後、私は空中に飛び上がり、皆さんに向けて風を送ります。
見ていてください。」
リサは天井付近まで浮き上がる。
そのまま空中に留まり、両手を前方へ動かす。
リサから皆へ風が吹き流れた。
「これから、ちょっと冷たい風が強く吹きますので、皆さん飛ばされない様に注意してください。」
そして、冷風が強く吹く。
あっ、対応が遅れた奴が椅子から転げ落ちた。
「失礼しました。どうですか皆さん、これが魔法です。
これは皆さんも出来ることですし、皆さんのイメージ次第で、色々なことができます。
火を点けたり、水を出したり、飛び回ったり、できます。」
床に降りたリサは左手から炎を噴き上げ、右手から水流を出し、テーブルの上を飛び、皆の後方まで飛んで、再び戻って来た。
当然、皆呆然としている。
何人かは目が輝いてるな。
最後は俺から締めの挨拶だ。
甲板長たちにはナンドゥールも紹介しないといけないが、それはホークに担当させた。
「以上で、俺たちが調べた事の概要を説明した。
個別の詳細資料は情報パネル経由で確認できる。
この後は、艦長、副艦長、第一司令部の皆は、中央指令室で、
甲板長と甲板部員の皆は甲板で、それぞれ質問等を受け付ける。」
「魔法は、魔法について教えてくれ。」
「俺にも使えるのか。」
「ファルス。さっき頭の中に聞こえたのは、あんたの声よね。あれも魔法なの?説明しなさいよ。」
しばらく混乱が続いた。
次回17話「第一司令部」
同じ司令部ですが、第一司令部の顔ぶれは華やかです。




