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第四惑星  作者: ブルーベリージャム
サイドストーリー
141/142

SS 61話 ミララス家の引越し

61話「10日後の午後」の話です。

レギウス村に引っ越してきたミララス家の様子です。




与えられた家への荷物の運び入れは、わずかな時間で終わった。

元より、調理道具と食器の他には少ない衣服と少しの道具ぐらいしかない。

広い家は、とても広く感じた。


手伝ってくれていた月の人は、今はボーアン家の荷物を荷車から家に入れている。


「広い~!」

「ひ~ろ~い~!」

娘のサマリとククリが部屋の中を走り廻っている。

飛猫のチーは首を巡らして新しい場所を観察しているようだ。


「リック。」

「シーラ。」

妻のシーラが、奥の調理場から顔を出した。

「薪がないみたい。聞いてもらえる?」

「ああ、わかった。」


家を出ると、月の人カン殿とボーアンが見えた。ボーアンの足には息子さんがしがみついているな。

荷車の荷物が無くなっているので、片付けも終わりそうだ。


「ミララスさん、何かございましたか?」

「カン殿、私の妻が、薪は無いか、と聞いてまして。」

「薪ですか。」


カン殿は、周囲を見渡すと家の中にいる月の人に声を掛けた。

「パトリック。建築用の木材に薪に出来そうな端材はあるか?」

「はい、カン少佐。神の館の横に木材が残っています。」

「わかった。」


「神の館というと、あれですね。」

ボーアンが指し示すところに大きな建物がある。

ミララス家の家は4軒並んだ家の端だ。

隣がボーアン家。

2軒の家を挟んで、神の館がある。


「そうです。あそこに置かれていますので、とってきましょう。」

「いえ、自分で行きます。ありがとうございます。」

「俺も行こう。ダグ、家に入っていなさい。」

「やぁー。いっしょにいくー。」


俺は空いた荷車に荷馬を繋げるとボーアンに声を掛けた。

「ダグラス君を荷台に座らせると良い。」

「ありがとう、リック。」


カシュー

フィィィィ

聞きなれない音が通りの反対側から聞こえてきた。


通りの先には月の人の巨大な銀の城が見える。

その通りの奥から神の館のような大きな建物が複数立ち並んでいる。


手前の館の端は、私たちがいる所から150mほどの場所だ。


そこには建築用と思われる木材が積まれている。

そこに、人型の大きな物が動くのが見えた。

あれは、魔法で動くと云われているゴーレムという物だろうか?


「おとうさん、あれなに?」

「あれは、なんだろうな?」

「あれは工作機といいます。」

荷台に座ったダグラス君とボーアンの会話を聞いて、月の人カン殿が説明してくれた。

「私たち月の人が使う機械で、あれを使って建物を建てたり、荷物を運んだりします。」

「へえ~、こーさくき。」

「あまり近付くと危ないけど、見に行くかい?」

「えっ!?」

「行きます!」

「いく~!」


娘の声に振り向けば、家の入口にサマリとククリが顔を出していた。


「じゃあ、子供たちに、少し見学させてあげましょう。」

「すみません。」

「よろしくお願いします。」


カン殿に子供を任せて、神の館の裏手に置かれていた木材置き場から薪用の木を荷車に積み込む。

そこから見える景色は、一面の原野だ。


「リック、ここは本当に何もないな。」

「ああ。」

「なぁ、リック。後悔してないか?」

「してないよ。ボーアン。」

「そうか。」


深手を負ったボーアンは、傷の手当ての恩もあって、月の人の村への移住の話があった時にすぐに了承した。

俺も、了承した。

俺がエの国で兵士をしていたのは、他に取り柄がなかったからだ。

オの国の使節団に参加したのも、金が良かったからだ。

だが、エの国への帰国の途上で盗賊団に襲われた。

俺は死を感じた。

だが、覚悟は出来ず、俺は死を恐れた。

家族に会いたかった。

何としても、生きて帰りたかった。

だから、ボーアンが足を負傷し倒れた時、盗賊に降伏した。

もう、兵士は続けられないと思った。

だから、俺は、ここで再出発するしかないんだ。


「おや、村人になられる方ですか。」

「えっ?」

その落ちついた声に振り向けば、ひとりの神官が立っていた。

「月の人のホーク殿のお話では、移民の方はもう数日先とのお話でしたが。ああ、もしかして月の人でしたか?」

「いいえ、エの国からレギウス村に越してきました、リック=ミララスと申します。神官様。」

「ビンセント=ボーアンです。神官様。」

「そうですか、エの国からいらっしゃったんですか。私は神官を務めますレイドと申します。神の館の準備も整っております。ご家族の方と共に来てくださいね。」

「畏まりました、神官様。」



昼食用の火を熾したところに、キルスティンという女性の月の人が昼食を持ってきてくれた。

その横にはサマリとククリが一緒だ。


「お昼食べよう!すぐに食べてキキさんと工作機見に行くの。」

「いくの!」

「こら、サマリ。落ち着きなさい。キキさんが困っているわよ。」

「お母さん、キキさんはすごいんだよ。工作機を動かしてるんだって。」

「まあ、そうなの。」

「食べる~。」


興奮している娘はシーラに任せて、俺はキルスティンさんから昼食を受け取った。

以前、治療の時に月の人の銀の城で食事したトレイだ。

「ありがとうございます。キルスティンさん。」

「いえ。夕食はまたお持ちしますので、その時にこのトレイは回収します。」

「はい。」

「では、娘さんの食事が終わるまで、こちらで待たせていただきます。」

「えっ?」

「ああ、サマリちゃんとククリちゃんと約束したのです。お昼ごはんを食べ終えてから、外で働いている工作機の説明をする、と。」

「そうでしたか。気を使っていただきまして、ありがとうございます。」

「いえ。」


そういうと、彼女は入口脇の床に座り、背中を壁に預けた。

その佇まいは、まるで兵士だ。


俺は手に持った昼食を食堂のテーブルに置いた。

二人の娘が大急ぎで食べ始めたのを(たしな)めつつ、食事をする。


トレイの中には、肉の塊があった。

これは、チーの奴も食べられるかな?


チーを探すと、奴はキルスティンさんのところにいて、キルスティンさんは対応に困っているようだ。

俺は肉を持って、キルスティンさんにそれを渡した。


「ミララス殿、この肉は。」

「たぶん、チーの奴が食べるんで、口元に差し出してみてください。」

「チー、というのが、この者の名なのか。」

「そうです。飛猫のチーです。」

「ナァ。」

ふりふりと尻尾を動かし、羽をパタパタと背中で羽ばたかせる。

早く寄越せ。と言っているな。


キルスティンさんは、右手の指で肉を摘んで差し出した。

それにチーがかぶりつく。

「かわいいな。」

「そうでしょう。かなりいたずら好きですがね。」

「そうなのか。」

「ええ。首を撫でてあげると喜びますよ。あっ、食事中は邪魔すると怒ります。」

「そうか。」


「食べたー。」

「うー。」

「サマリ待ちなさい。ククリはまだ食べてるでしょ。ククリ、慌てないで、ちゃんと食べるのよ。」


どうやら、向こうはまた騒がしくなったな。

食べてる最中は静かなんだが。


「ふふふ、賑やかで楽しそうだな。」

「そうでしょう。私の家族です。」

「家族か。」


ドンドン。

家の扉がノックされて、開けてみれば、ボーアン家のダグラス君がいた。

なるほど、キルスティンさんを迎えに来たのか。


その後、キルスティンさんは子供3人と飛猫1匹を連れて通りを歩いていった。

その先には3台の工作機が動いている。


「リック、お昼食べないの?」

「ああ、今行くよ。」

テーブルの上には俺とシーラの昼食のトレイが置かれている。

シーラは子供達のトレイを調理場の洗い場に置き、お茶のカップを持って戻ってきた。

「はい。温くなっていたから、淹れ直したわよ。」

「ありがとう。シーラ。」


カップを受け取り、ふと、思った。

そして、シーラの顔を見て、もう一度言う。

「ありがとう、シーラ。」

「えっ?何?」

「いや、俺がいない間、娘を立派に育ててくれた。俺がレギウス村への移住を決めた事を伝えた時も賛成してくれた。そして、こうしてお茶を淹れてくれる。

ありがとう、シーラ。」

「・・・もう。突然、どうしたの。こちらこそ、いつも家族のために働いてくれているあなたには感謝しているわ。ありがとう、リック。」


俺とシーラの手がテーブルの上で重なる。


「あ、あの、すいません。」

「え?」

家の入り口を振り返れば、そこに女性の月の人がいた。

最初に家の説明をしてくれた、パメラさんだ。


「あの、扉が開いていたので、勝手に覗いてしまって、いえ、覗いた訳ではないのですが。

その、村民証ができたのでお届けに来ました。

それと、昼食がお済みになりましたら、ご家族でカッシーニ81までお越しください。健康診断をさせていただきますので。

それでは、これで失礼します。」


彼女は村民証を床に置くと、扉を閉めて出て行ってしまった。


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