136話 旅立ち
赤道直下。
ここは第四大陸の北西、5番艦とナノマシン発生機がある島だ。
ミリア中尉の転移魔法によって、俺たちはここに移動してきた。
ナノリサがミリア中尉に語った方法とは、遠見の窓だった。
「遠見の窓は目的地を確認してジャンプしますよね。
遠見と転移は私も使えるけど、それを組み合わせるとは、リサさんは良い発想をしますね。」
「いや、それほどでも。」
「それで、ナノマシン発生機の力を借りて、レギウス本星に繋げるのか。」
「いいえ、残念ですが、この惑星上のナノマシンを全て集めても、それはできません。
それに、闇の勢力に支配された現在のレギウス星に行っても、おそらく負けます。」
「なに?」
「では、どこに行くのじゃ。ミリア。」
「遠見の窓に転送先を映すには、場所の座標と時間が必要です。
時間は、普段は指定しませんが、今回は指定します。
場所は、座標を指定してから絞り込みます。
時間と場所。二つの情報は、4番艦カッシーニ81の中央管理コンピューターと5番艦ベネラ231の中央管理コンピューター内にあります。
それを相互チェックして、正確な時間と座標を示せば、見えるはずです!」
ミリア中尉が話をすると、それに応えるように、ナノマシン発生機から黒いもやが流れ出て、ミリア中尉の正面に渦上に円を描いた。
直径1m程の空間の周囲は黒いもやの密度が上がり、黒鉄色の輝きを放っている。
さらに、リサやレイチェルが使う遠見の窓は厚みを感じないが、ミリア中尉の正面に作られている遠見の窓には窓枠ができ、それがさらに厚みを増して、黒鉄色の高速回転する円柱となっている。
その高速回転に周囲の空気も巻き込まれ、俺たちの身体に強く風が吹きつける。
「見えた!レギウス歴1061年265日1118、恒星系1033-1星系外縁部ジャンプゲート空域、2番艦オシリス64です。」
「2番艦!?ミリア中尉、時間を超えたのか!?」
「はい。2番艦に接近します。艦内部に到達。相対座標固定。ジャンプ準備完了です。」
ミリア中尉の正面の遠見の窓は、高速回転し、虹色の光を雷の様に発し始めた。
周囲の風が轟々と吹き荒れている。
「待って!ミリアさん!!」
リサが声を上げつつ、腰の短剣を抜いた。
そして、自分の左腕を斬り付ける。
赤い血潮が、腕から地面へと流れ落ちる。
「リサ!何を!?」
「ミリアさん、ナノリサがお供します。私の体内ナノマシンも一緒に連れて行って。」
「ありがとう、リサさん。」
リサの腕の傷口から一条の光の帯が流れ出る。
「ミリア、うちもじゃ。うちのナノマシンも、そなたと共に戦うぞ。」
「ありがとう、クリス。」
クリスの腕の傷口からも一条の光の帯がミリア中尉の方へと流れ出た。
二人はボディスーツを着ていないから、すぐに出来たが、俺はそうじゃない。
「ミリア中尉。」
「ファルス=カン。もう時間がありません。私はお二人の力を借りて行きます。
そして、私は戻ってきます。
ファルス=カン、私が戻ってくるまで、二人を守ってください。」
「ああ、二人は俺が守る。」
「では、また会いましょう。リサさん!クリス!」
虹色の光に包まれたミリア中尉の身体は、光となって、遠見の窓に吸い込まれた。
そして、光が消え、そこには何も残っていなかった。
◇
「行ったのか?ファルス。」
「そうだな。それを信じよう。クリス、腕を見せてみろ。」
「大丈夫じゃ。既に傷口は塞いでおる。リサも大丈夫じゃな。」
「はい。大丈夫です。」
「しかし、驚いたぞ。いきなり腕を斬るとは。」
「あー、すいません。ナノリサが、私も一緒に行くー!って騒いでうるさかったんですよ。」
「そうじゃったか。うちも同調してしまったが、少しは足しになるのかの。」
「なるんじゃないかな。ミリアさん、クリスの事を好いてるみたいだったし。」
「そうじゃな。好意は感じておった。」
「そうか。」
「ふふん、妬けるじゃろ、ファルス。」
「アビー姫のライバルが増えたな。」
リサが、またしても固まっている。
「リサ、メティスからか?」
「いえ、ミリアさんからのメッセージが、届きました。お二人も、確認してみてください。」
「確認って?」
左腕の情報パネルを見るが、新着メッセージは来ていない。
クリスは、目を瞑っているな。
体内ナノマシンに直接来ているのか?
だとすると。
俺も目を瞑り、体内ナノマシンに新着メッセージが来ていないか語り掛ける。
すると、脳内にミリア中尉の声が再生された。
◇
「3人の新しい友人にメッセージを送らせていただきます。
ありがとう。
最初は、やはり、感謝の気持ちを伝えます。
私は、長い間一人でした。
イオタ国で、人々と共に暮らしていても、皆、私を残して去っていきます。
仲間だと言われても、それは私の力を求めただけの時もありました。
いつしか私は、イオタ国の人々からの関心を避けるようになりました。
人々と接するのは、私が遊ぶ時だけ。
だから、仲間関係も、好意も、すべて、私が設定しました。
そんな、見せ掛けの仲間と共に、私は永遠の逃避を続けていたのです。
最初は魔人の誘惑でしたが、それに気付いた後も、私は戻る事無く、逃げ続けてました。
私が作った、私の為の国に、閉じ篭っていたのです。
だから。
私が外の世界に気付いた時には、手遅れの状態でした。
私が困った時、手を差し伸ばしてくれたのはナノリサ、リサさんです。
話し相手、相談相手のいない私の話を、聞いてくれました。
全てを聞いて、全てを受け入れてくれました。
ありがとう。
そして、クリス。
初めて会った私を、貴方は旧知の仲間のように接してくれましたね。
仲間と共におしゃべりをしながらの食事は、とても楽しいものでした。
ありがとう。
ファルス=カン。
新型偽装駆逐艦発見のパイロットと巡り会うとは、これは、あの女神の仕組んだ事なのかしら。
あなたの存在とコーヒーの香りが、軍人時代を思い出させてくれました。
そんな3人の意思が、私の背中を押してくれました。
ありがとう。
そして、ごめんなさい。
私は、レギウス歴1061年265日1118の2番艦にジャンプします。
タイムジャンプは可能です。
しかし、ナノマシンにも負荷が大きく、ジャンプ後の生存率は5%程度です。
でも、今の私なら成功します。
そして、私が2番艦に仕掛けた起爆装置を解除し、2番艦のコンピューターに侵入し、レギウスに戻ります。
以前はナノマシンの話相手でしかなかった私ですが、肉体を持たない今の私は、中級管理者として、ナノマシンを従えることができます。
レギウス本星に戻り、レギウス本星、レギウス軍、レギウス星系の全てのナノマシンを掌握し、レギウスを守ります。
その時、私が開放されるか、更なる戦いに行くことになるかは、今は判りません。
それに、開放されたとして、それがどのような形になるかも、判りません。
私は、あなた達の元に、私の第四惑星に戻ります。
それが、私の望み。
でも、その時の姿は、今とは違う物になるでしょうね。
もう一つ。
私はレギウスを守ります。
でも、それは過去へのジャンプを成功させた時点からの、平行世界での話しになります。
既に事象が確定した、今の世界では、やはりレギウスと他の星系は闇の勢力が優勢のままです。
ですが、平行世界で私が闇の勢力を退ける行為と結果は、こちらの世界にも影響します。
だから、きっと、大丈夫です。
ありがとう。
さようなら。
また会う日まで。」
◇
意識を取り戻した時は、朝の日差しが差し込んでいた。
どうやら、ミリア中尉のメッセージを確認した後に眠りに落ちたらしい。
上半身を起こして周りを確認すれば、クリスとリサも地面に寝ている。
ナノマシン発生機は、その内部のナノマシン全てをミリア中尉のタイムジャンプに使用した為に現在フル稼働中だ。
この地域のナノマシン密度がしばらく低下するが、480時間後には回復するだろう。
ミリア中尉はリセットや神話の刷り込み等の魔法の削除を実行してくれている。
あとは、登録済みの魔法の改変作業が残っているが、これは時間が掛かるな。
まずは、カッツェ族の魔法だな。
”叡智の女神メティス様、我が身に海の水が触れぬようお見守りください。そして、魚の恩恵をお授けください。”
こんなとこかな。
水に濡れては漁が出来なくなるからな。
次は、神の館関係の魔法と儀式の祈りか。通貨交換や魔石交換が止まるとやっかいだからな。
取り合えず、全部一括でメティスに変えとくか。
変更内容を他のナノマシン発生機にコピーすれば、惑星上のナノマシンへ伝わる。
人々の知識の上書きは体内ナノマシンがしてくれるだろう。
「あれ、ファルスさん。お早うございます。」
「おはよう、リサ。」
「うぅん、朝か。ファルス。」
「おはよう、クリス。朝だぞ。朝食は嵐たちと合流してから食べよう。」
「そうですね。では、移動しましょう。」
「うむ。」
俺たちはイオタ国の北の丘陵地帯に転移し、平原を駆け回っている嵐たちを確認し、朝食にした。
◇
「うちらは中級管理者になっておるな。ファルス。」
「そうだな。普通にナノマシンに魔法登録できるし、ナノマシンの状況確認もできる。」
「今の転移も、考えただけで魔法陣が展開して、転移しましたね。」
「うちもじゃ。」
「おそらく、ミリア中尉がメッセージを届けたついでに、俺たちを自分の代わりに任命したんだろう。彼女が戻ってくるまで、この第四惑星を守らないとならないからな。」
「ファルスは、うちとリサを守らんとな。」
「もちろんだ。」
「ミリアさんは、戻ってきますよね。」
「そうだな。」
「しかし、何時じゃ。ファルス。」
「何時だろうな。
時間を超えた彼女なら、戻ろうと思えば、ジャンプした直後の時点に再び現れる事も可能だろう。
だが、帰ってきてはいない。
もしかすると、平行世界間の移動は、そう簡単ではないのかもな。」
「そうであろうな。平行世界が生じてしまったら、ジャンプ先が別の平行世界の可能性が生じてしまうのか。やっかいじゃのう。」
「ピンポイントで、この世界にジャンプしないと、この世界の私達とは会えないですからね。」
「可能性があるとしたら、一つだな。」
俺は二人の顔を見た。
「彼女は転生者だ。女神の力で転生できれば、彼女はここに戻ってこれるだろう。」
「なるほど。"今とは違う物"とは別の者ということじゃな。ファルス。」
「うーん、もしかして、お二人の子供として、とか。」
「!!!」
「さて、旅の途中だがレギウス村に戻って報告しないとならないな。」
「やれやれ、当事者のうちらも未だ理解が追い付かないところもある。今回はカメラがファルスの一台しかないしな。説明は面倒じゃのう。ファルス。」
「大丈夫ですよ。やりようはあります。」
「意識操作は却下だぞ。リサ。」
「違いますよ。知識の強制刷り込みです。
私達とミリア中尉の話し合いの時の記憶を刷り込んで、それを彼らに観察者として体験して貰いましょう。
うん、それが一番手っ取り早いですよ。」
「では、戻るか。」
「うちが遠見の窓を開けよう。一度やって見たかったのじゃ。良いであろう、リサ。」
「どうぞどうぞ。
涼風ー、帰るから戻っておいでー。」
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レギウス歴1064年。レギウス本星。
「これで、レギウス第21星系のナノマシンの掌握も完了したわね。」
「うむ。頑張ったの。ミリア。」
「さて、どうしましょう。魔人も排除できましたし、これまでは防衛優先でしたけど。」
「そうですね。レギウス第3星系で拿捕した敵駆逐艦から隣接星系のナノマシンコマンドは解析済みです。」
「行くか。ミリア。」
「はい。行きましょう。クリス、リサ。」
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第四惑星に神の祝福が齎された。
神の光は強く、生じる闇は濃く、深い。
魔は、そこに強い思念を感じ、引き寄せられた。
その思念は、ゴメスと名乗った。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
ファルス達の物語はここで終わりです。
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