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第四惑星  作者: ブルーベリージャム
最終章 イの国
136/142

134話 これまでの話

ミリア=エッシェンバッハ中尉は転生者だ。


転生者。


最初の彼女は太陽系第三惑星に生まれた。


銀河連盟の初期恒星系の一つで人類発祥の地とされる場所だ。

太陽系外縁部に到達した人類は、そこでナノマシン発生機と出会い、重力子機関を手にする。

人類の活動範囲は他の恒星系に広がり、銀河帝国ができ、各恒星系の独立があり、銀河連盟の結成と進む。


レギウス星系が銀河連盟を脱退した頃、ミリア中尉はレギウス星人として生まれた。

いや、転生した。

ミリア中尉には一つの使命があった。

レギウスのナノマシンの面倒を見る事だ。


「面倒を見る?」

「ええ、あの女神は違う言葉を使いましたけど。」


ナノマシンを制御する為に、レギウス星人は操作卓から既存のコマンドを組み合わせた命令操作をする。

彼女は"言語理解"というスキルを使って、ナノマシンとの直接会話ができた。

レギウス星人の生活環境は全てがナノマシンに依存している。

さらに体内ナノマシンがある。

ミリア中尉はすぐにレギウス星人の生命を握る存在となった。


「なんだと。」

「ふむ。レギウスの生命線、ナノマシンを掌握したのじゃな。ミリア。」

「そう、ですね。」


ミリア中尉の使命はレギウス星系を他星系からの侵略から守る事だった。

レギウス星系が脱退する頃の銀河連盟は各恒星系の勢力バランスが崩れ、勢力間の争いが複数発生していた。

だが、銀河連盟にそれを抑制し、停止させる力は無かった。

レギウス星人はいち早く脱退を決め、他星系からの侵略に備えて、軍備の増強を図った。

ナノマシンを掌握したミリア中尉は、レギウス星の指導者達を意識操作し、レギウス軍を作り上げた。


「なんだと。」

「では、ミリア中尉がレギウス軍の創始者!?」

「いいえ、既にレギウス軍は存在していました。

それに当時の私の力では、他人の意識操作は難しく、方向性を示すぐらいしかできませんでした。」

「あ、管理者レベル、ですか?」

「そうです。リサ=メンフィス。

ナノマシンの掌握といっても、それはナノマシンが私を仲間と認識して協力してくれているにすぎないのです。

ですが、レギウス星系を侵略から守るには、ナノマシンの協力が必要です。

ですので、私は常に彼らと会話し、彼らの状態を把握し、要望を聞き、人間側の意識をそちらに向けるように努力しました。」

「ふむ。レギウス軍の規模を考えると、その苦労も推し量れる。

しかし、なぜそれほどの事をミリア一人に任せたのじゃ。女神とは女神メティスなのか?ミリア。」

「そうです。叡智の女神メティス。この世界を担当する神界の神の一柱です。」

「では、なぜ女神メティスはミリアに負担を強いてまで、レギウスを他星系の侵略から守らせたのじゃ。」

「それは、他の星系の人類が魔界の力に負けたからです。」

「魔界?」

「はい。では、神界と魔界についても説明させていただきますわね。」



神界は神の勢力、光であり、均整であり、不変であり、法だ。

魔界は魔の勢力、闇であり、不均等であり、可変であり、混沌だ。


この世界は光と闇のバランスで出来ている。

光が勝れば、何も無い虚無の空間が広がる。そこには人類も惑星も時間すら存在しない。

闇が勝れば、全てが混ざり合った何かが広がる。それは空間であり物質であり時間であり全てだ。

この世界が、世界として成り立つためには光と闇のバランスが大切だ。


光の神の使命を帯びた者が勇者や聖女であり、闇の魔の使命を帯びた者が魔王や魔人だ。

彼らはこの世界で、それぞれの勢力の為に力を行使する。

それは、銀河連盟を構成する各星系で行われていることであった。

そして、それらの戦いに闇の勢力は勝利した。



「そうなのか。しかし、なぜ、それほど闇の勢力が優勢になったんだ。」

「ナノマシンです。」

「ナノマシン?」

「はい。ナノマシンはこの世界とは別の世界の知的生命体が生み出した物で、それを闇の魔人がこの世界に持ち込んだのです。」

「別の世界から、魔人が持ち込んだ?」

「ううむ。神界、魔界に別の世界。話のスケールが大きいのぉ。ミリア。」

「ふふふ。この世界はとても大きく、私達の存在はとても小さいのですよ。クリス。」



ナノマシンは科学技術の一つの到達点だ。

しかし、知的生命体の作り出した道具でしかない。

人類はこの道具に依存し、生命溢れる惑星から冷たい宇宙への進出を進めた。


神界の神々は、この世界に干渉する時には生命体を経由するのが自らの定めた法だ。

そして、観察者である神々は積極的に動く事も無い。

さらに、惑星上の生命体の存在は容易く感知できても、自らの道具に囲まれ、冷たい闇の空間の中に進出した人類は、あまりに小さかった。

それに、彼らの神への信仰も薄かった。


神々が気付いた時、人類は太陽系を離れ、他の星系に進出していた。


魔界の魔は、積極的にこの世界に干渉する。

神々が生命体を愛する様に、彼らは生命体の思念を愛した。

知的生命体の思念こそが、魔の好物であり、強い思念のある所に彼らは引き寄せられる。

強い思念は、時に執念や怨念とも言われる。


ある時、一人の科学者の思念に応じて、魔人の一人がナノマシンをこの世界に持ち込む事に成功した。

その科学者は人類に新しい技術を齎した者として、人々から賞賛された。

そして、多くの魔人をこの世界に生み出した。


魔は神に先んじて、その勢力を他の恒星系に拡大した。人類と共に。



「つまり、スタートの時点で魔が、闇の勢力が優勢じゃったのじゃな。」

「そうですね。」

「では、レギウスにも魔人がいるのか。」

「ええ、いました。私が処理しましたよ。」

「そうなのか。」

「はい。」



宇宙に進出した人々の一部は、幸運にも居住惑星を発見し、そこに住み着いた。

そんな幸運の一つがレギウス星とレギウス星人だ。

彼らは、惑星発見を叡智の女神メティスのお導きと考えた。

信仰が生まれ、神界と繋がり、レギウス星は神の祝福を受けた。


銀河連盟を脱退し、今後のレギウス星人とレギウス星系の庇護を願う人々の願いに応え、叡智の女神メティスはミリア=エッシェンバッハを転生させたのだ。


ナノマシンとの意思疎通に成功したミリア中尉は、その力を使って、レギウス星人内の魔人狩りを実行し、成功した。



「レギウス星人にも魔人がいたとなると、うちらは大丈夫なのか?」

「ええ、幼少時にナノマシンを体内に注入し教育を施す際に、魔人を引き寄せる思念の抑制を施していますので、安心ですよ。

魔人は最初期の頃に発生していただけです。

その後、魔人たちは、近隣星系からの侵攻という形で、乗り込んで来る様になりました。」

「ふむ。それをレギウス軍が防ぐ訳じゃな。」

「そうですね。でも、一度だけ、防げなかったことがあるんです。」

「一度だけ?」

「ええ。ご存知ですよね。ファルス=カン少佐。当時は少尉でしたね。」

「・・・新型偽装装置。」

「そうです。電子的にも光学的にも小惑星に偽装した駆逐艦が星域内に侵入しました。

初期迎撃部隊は全滅しましたが、生還したパイロットに拠って偽装工作が判明しましたので、以降の侵入は防いでいます。

ですが、最初の侵入時点で、敵は一人の魔人を送り込む事に成功しました。

その時の当事者がここにいらっしゃるなんて、驚きですね。」


「ミリア、中尉はなぜ、俺の事を。」

「当時の私は情報部に所属していましたから、各部隊からの最新情報はすぐに入手できたんですよ。」

「それで、その魔人はどうなったのじゃ。ミリア。」

「新型偽装駆逐艦はその後に撃沈いたしましたけど、彼はそれ以前に艦を離れ、レギウス軍の基地に侵入しました。

さらにコンピューターシステムにも侵入し、レギウス軍所属の軍人としてレギウス本星の私の元まで来ました。」

「なんと。お主が狙いじゃったのか。ミリア。」

「最初からだったのか、侵入した後、私に狙いを定めたのかは不明です。

私の元に来た彼は、私に、声を掛けました。」


ミリア中尉は、顔を伏せた。

魔人が発した言葉は何だったのか。

ミリア中尉は、それを俺たちに伝える事に逡巡している。

俺たちは、彼女の言葉を待った。

俺たちが声を掛けなくても、彼女は話してくれるだろう、という確信めいたものがある。

これは、信頼なのか?


ミリア中尉は、顔を伏せたまま口を開いた。

「彼は、私に、"お疲れ様です。"、と声を掛けてきたんです。」

「えっ?」

「そうです。えっ、って思いますよね。

そんな何気ない一言です。

でも、情報部で働いていたその頃の私は、疲れていたんです。

そして、そんな私に、お疲れ様です。なんて、やさしく声を掛けてくれる人なんていませんでした。

その何気ない一言に、心を動かされた私は、彼を見ました。

すぐに彼が魔人である事は分かりました。

でも、彼は続けて言ったんです。

"少し、仕事を休んで、リフレッシュした方が良いですよ。"、と。

なんて、なんて、甘い誘惑。

私は、その時に堕ちてしまったのです。

そうだ、休もう、と。

しばらく、闇の勢力の侵攻はない、と。

レギウス軍のナノマシン達との会話も、休もう、と。

そして、私は、私の最初の望みを思い出したのです。

その実現の為に、所属を惑星開発部隊ナノマシンチームに変更し、この第四惑星に来たのです。」


ミリア中尉は顔を上げた。

作られた顔は変わっていないが、その表情は暗く沈み、後悔している様に見える。



「その魔人は倒したのか?ミリア中尉。」

「それが、不明です。たぶん倒していません。」

「不明?」

「はい。彼は私に声を掛けた後、目の前から消えました。文字通り、消えたんです。

その後も人の形で活動したのか、私を誘惑した事で目的を果たし消滅したのかは、不明です。

私は、その後は、私がこの惑星に来る為だけに動いていましたから。」

「では、レギウス軍のその後は?」

「女神が言うには、1000年持たずに消滅したと。」

「そうか。」

「むう。ジャンプゲートが再建されておらん訳じゃ。」

「あ、それは、私も原因です。」

「ん?」

「この星系に来る時に、あのジャンプゲートの情報をレギウス軍の記録から削除して来ましたので、レギウスが無事でも再建の可能性は低いです。」


「ミリア中尉。」

「はい。」

「ジャンプゲートの事故。輸送隊2番艦オシリス64の爆破は、君が実行したのか。」

「はい。」


スッ

俺の右手に、クリスの左手が載せられる。

ああ、これでは、彼女を斬ることはできないな。


「そうか。」

「すみません。と謝っても仕方の無いことですが、それ程までに、当時の私は狂っていたのです。」


「でも、ミリアさん。ナノマシン教育での思念の抑制効果が効かなかったって事ですか。」

「ああ、それです。リサさん。

私は、その教育を受けていない、唯一のレギウス星人だったのです。

闇の魔人が私を誘惑したのも、それが理由の一つでしょう。」


次回135話「これからの話」

最終回まで後2話です。

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