133話 ミリアと食事
翌日。
朝食後に移動を開始し、昼前には、周囲に整備された防風林が散見されるようになった。
進路を北に変え、遠くに見える北の山脈と麓の丘陵地帯に向けて進む。
そして、日が暮れる頃には北の丘陵地帯に差し掛かった。
「この先は木が密集しているな。」
「うむ。ベア族の北の森はもっと木の間隔があったの。ファルス。」
「そうだな。ここはでかい木の間に低い木が多いな。」
「では、東に廻って街道を行きますか。」
「そうしよう。ここで夕食を摂ってから移動するか。」
「そうじゃな。では、枯れ枝を集めるか。ファルス。」
今日は久し振りに飛竜の尻尾肉のスープだ。
リサが背嚢をひっくり返して探した最後の飛竜肉だった。
昨日のペンダントの件のお詫び、だそうだ。
飛竜退治も暫くしていないからなぁ。
北の街では、おいしい肉の魔獣がいるだろうか?
尻尾肉はじっくりと時間を掛けて煮込むのが、肉が柔らかくなるコツだ。
リサに野菜の投入とスープ鍋の面倒を任せ、俺はクリスに付き合う。
今日は木棍を主体とした組み手だ。
「そろそろ、良い感じですね。」
「待ちくたびれたのじゃ。リサ。」
「ほら、白パンだぞ。クリス。」
「うむ。では、スープを、リサ?」
「ん?」
リサの動きが止まっている。
前にも見たな。
その後、女神姿のメティスと話したんだ。
今度は何だ?
身構えると、リサがこちらを見た。
「ファルスさん、クリス、ナノリサが一緒にお話ししましょう、って。」
「ナノリサ?ナノリサって、リサの体内ナノマシンだったか?」
「そうです。彼女が私達も一緒に話を聞いて欲しい、って。」
「話を聞く?ナノリサの話か?」
「いえ、ミリア中尉です。」
「なに!?」
その時、俺たちの足元が光り輝き、魔法陣が浮かびあがった。
◇
白い部屋。
床も壁も天井も白く、部屋に置かれたテーブルと椅子、天蓋付きの豪奢なベッドも白い。
3方を白い壁で囲われた部屋の外には白い石で装飾されたテラスがあった。
テラスから吹き込む涼しい風が部屋の中にまで届き、夜空には星が瞬いている。
俺とクリスとリサが部屋の中に転送された。
焚き火とスープ鍋も一緒だ。
「ようこそ、おいでくださいました。」
背後から掛けられた声に振り向くと、そちらには向かい合った白いソファとテーブルがあった。
白髪金瞳の白い服の女性、ミリア中尉がソファに座り、俺たちを見ている。
向かいのソファには、リサが座っている。
リサ?
俺は横を向いた。
そこには、鍋からスープを取ろうとして木鉢とお玉を持っているリサがいた。
「リサが二人おるぞ。ファルス。」
「ナノリサなのか?」
「ミリア中尉の姿が、顔が見えますよ。ファルスさん。」
そうだ。彼女はナノマシンの集合体で、その姿は偽りの物だった。
しかし、クールダウンを掛けても、白髪金瞳の白い服の姿は揺るがなかった。
「少し、混乱させてしまったようね。ナノリサ、ご説明した方が良いわよ。」
「ですね。では、私はリサの中に戻るんで、説明よろしくね。」
「えっ?」
ナノリサの身体の輪郭がぼやけて、細かな塵の山がソファの上に残った。
「仕方ないわね。」
その塵の山にミリア中尉の左手が伸ばされ、塵の山はその手に吸収される。
「あれは、火竜たちと同じ物ですね。」
「そうです。ナノリサからの助言ですよ。皆さんにお会いする時は外見を作った方が良い、と言われましたの。」
「俺たちもナノリサから言われた。話を聞いて欲しい、と。」
「ええ、今の状況とこれからの事を相談していたんですの。
皆さんも、こちらのソファにどうぞ、お掛けになってください。」
「いや、それが。」
「うむ。見ての通り、うちらはこれから食事じゃ。肉も程よく煮えておる。
どうじゃ、そなたもこちらに座って、一緒に食べぬか。ミリア。」
「まぁ、よろしいのですか?ご一緒しても。」
「もちろんじゃ。な、ファルス。」
「ああ、口に合えば良いが。」
「それでしたら大丈夫ですわ。私も、普段は冒険者として仲間と食事していますから。」
ミリア中尉はソファを立ち、ゆっくりと歩み寄ってきた。
クリスが位置をずらし、ミリア中尉を俺とクリスの間に誘導する。
リサは、また固まっているな。これはナノリサとの会話中だな。
俺はそっと、リサの腕を掴んだ。
「はい?」
「スープをよそってくれ、リサ。」
「ああ、はい。只今。」
俺はミリア中尉の分の白パンを木皿によそって差し出した。
「ありがとうございます。」
彼女は笑顔で受け取り、リサからのスープの入った木鉢も受け取る。
「まぁ、良い香りですわね。これは何のお肉かしら?」
「飛竜の尻尾じゃ。一緒に黄根と赤根と香草も入っておるぞ。ほら、このスプーンとフォークを使うと良い。ミリア。」
「ありがとうございます。ふふふ、いい香りですね。スープは大好きですのよ。いただきますね。」
◇
食事を取りながらの会話は、最初こそぎこちなかったが、クリスが話を振り、ミリア中尉が応える形で徐々に打ち解けた雰囲気になった。
クリスは、ミリア中尉を敵とはせず、レギウス軍の仲間として接する姿勢だ。
リサにはミリア中尉の姿に対する恐怖心の様な物があったが、おそらくナノリサからの情報も加わり、徐々に言葉も多くなっていった。
俺は、少し距離感が分からなかった。
敵、ではない。
この世界のルールに不満があり、それを正したいだけだ。
ジャンプゲートの事故、2番艦爆発の原因を知りたいだけだ。
この世界を作ったのはミリア中尉だ。
2番艦を爆破したのもミリア中尉だ。
敵なのか?
「ほぉ。北の街の迷宮はそんなに広いのか。ミリア。」
「ええ、今の勇者パーティーなんて、10日間も彷徨ってしまって。あ、でも、昔だと帰って来れなかった時もありましたね。」
「そ、そうか。」
「勇者パーティーといえば、私達、ウの国でジャミルさんとお会いしましたよ。勇者パーティーの一員だったとか。」
「ああ、ジャミルですね。一度別れて、戻って来ました。今はブレイブと名乗っていますよ。」
「では、テレーザも一緒ですか?」
「そうです。彼女も今はテスラと名乗ってますね。
二人が帰ってきたので、勇者パーティーは剣士3人、弓士1人、魔法使いが3人です。7人は多いですよね。」
「うちらは最初は6人で旅をしたな。」
「引越調査の時は18人ですよ。」
「まぁ、レギウス軍の宇宙船の皆さんですね。確か、31人いらっしゃるんですよね。」
「そうじゃな。ファルス、食べ終わったか?お茶でも淹れようか?」
「ああ、いや、コーヒーにするよ。」
「コーヒー!」
ミリア中尉の目が俺と合った。
「あの、コーヒーをお持ちなのですか?」
「ああ、カッシーニ81の食堂の物だが。飲むか?」
「はい。飲みたいです。」
俺は背嚢から2つのコーヒーカップを出し、一つをミリア中尉に渡した。
「ああ、この香り。」
両手でカップを持ち、そっと口をつける。
「苦い!なんで軍人はこんな泥水を好んで飲むんだ!」
・・・何だ?。
「ふふふ、良い苦味ですよね。これが美味しいのに。ああ、今のは気にしないで下さい。」
「そ、そうなのか?無理せずとも、お茶もあるぞ。ミリア。」
「ああ、大丈夫ですよ。クリスさん。私はコーヒー好きですから。
でも、この惑星上にはコーヒーの木が無くて、仕方なくナノマシンに私の記憶の味の再現をお願いしたのですけど、上手くいかなくて、紅茶に逃げていたんです。
ああ、コーヒー、美味しいですよね。ファルスさん。」
「ああ、コーヒーは美味いな。ところで、コーヒーの木は無いのか?」
「そうですね。私が探した限りでは無かったです。もっとも、私はこの国から1万年ぐらい出ていないので、他の場所にあるかもしれません。」
「そうか。」
「でも、今のミリアの話だと、コビィの実の可能性は残っておるな。ファルス。」
「そうだな。可能性はある。」
「あら、どこかにコーヒーの実があるんですか?」
「ああ、第一大陸のベア族に聞いたんだが、そのコビィの実の香りがコーヒーの香りと同じらしい。
第一大陸の南にある煙吹き山という火山の麓に、その木が生えているそうだ。」
「そうですか。やっぱり、外の世界は私が知らない世界になっているんですね。」
「ミリア・・・中尉。話を聞こうか。」
「そうですね。その為に来ていただきましたから。」
◇
俺たちは鍋と食器類の汚れを綺麗にして背嚢に片付ける。
ミリア中尉は、そんな俺たちの動きを見た後に、何かをしたようだ。
焚き火等の物質は一瞬で綺麗に消えた。
白い床には、なんの痕跡も残っていない。
テーブルの上にはティーポッドと4つのカップが置かれている。
クリスとリサは紅茶を貰ったが、俺は背嚢からコーヒーカップを2つ取り出し、一つをミリア中尉に渡した。
「ありがとうございます。ファルスさん。でも、これは大切にとっておきますね。」
ミリア中尉は紅茶のカップを手に取り、一口飲む。
「では、お話しいたします。
この世界の状況とこれからのことを。」
次回134話「これまでの話」
最終回まで後3話です。




