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第四惑星  作者: ブルーベリージャム
最終章 イの国
134/142

132話 平原の夜



中央街道を東へ向かい、まずは畑の西村を経由し畑の街を目指す。

中央街道は畑の街と西の街を行き交う人々で交通量が多い。

とはいえ、西の街方面の丘陵地帯では魔獣の出没もあるそうなので、冒険者ギルドには護衛依頼がある。


しかし、アレク達から護衛任務は退屈だと聞いていたので、俺たちは西の街の魔道具屋前から、直接街道に出て、そのまま東へ進んだ。



中央街道沿いの風景は、森林だ。

左右を丘に挟まれた谷に沿って街道が作られているので、両脇は木立ちで遮られて曲がりくねった見通しの悪い道だ。

木々には葉の茂っている木と葉の落ちている木があり、丘の日陰には堆積した雪が残っている。

同じ丘陵地帯の街道でもベア族の街道の方が見晴らしは良かった。

そうだ、向こうは上下にもうねっていたな。


足元がしっかりと固められているのが救いだが、退屈な道中だな。


(ファルス。これは少し退屈じゃな。)

(どうしたクリス。ナノ通信なんて。)

俺は隣を歩くクリスの顔を見ると、彼女は視線を落として早風の首を撫でている。

(クリス?)

(いや、少し悪い考えをしてしまったのじゃ。反省じゃ。)

(そうか。この丘陵地を抜ければ、草原もあるだろう。それまでの我慢だな。)

(そうじゃな。)


顔を上げて俺を見るクリスは笑顔だ。

大丈夫そうだが、少し疲れているのかな。


「そうかぁ!」

「な、なんだ、リサ。突然。」

「クリス。身体強化のペンダントを外そう。それを着けているから余計に疲れるんだよ。」

「そうなのか。リサ。」

「そうなんです。そのペンダントは身に着けていると効果が発揮されますから、普通に生活する時は邪魔なんですよ。」

クリスは首の後ろに手を廻し、ペンダントを外すと、それを背嚢にしまった。


「うむ。楽になったな。」

「ごめんね。常時発動型だとは気が付かなかったよ。それは戦闘が始まる時に着ける物だね。」

「そうじゃな。しかし、それでは初動が遅れるな。リサ。」

「そうね。出力調整器の様なものが出来れば良いんだけど。」


「そんなに違うのか。クリス。」

「そうじゃな。例えるなら、んー、カッシーニ81を出力40%でポートに接舷させるような繊細さが必要じゃな。ファルス。」

「分かるようで、いや、大変なのは分かった。しかし、魔力を流さなくてもその魔石は効果を発動するのか?」

「身体の近くだと体内ナノマシンの影響範囲内ですから、常時発動型の魔石は効果を発揮しますね。

腕輪の魔法陣のような起動型なら良かったんですが。

あっ、火竜の魔石の水魔法耐性とかは常時発動で身に着けていても普段の生活に問題ないです。

そうかぁ、効果と発動タイプも考えて魔道具を作らないと、使い勝手が悪いですね。」

「そうじゃな。ファルスの魔道具は鎖帷子じゃぞ。普段から着るのか、ファルス。」

「それは、着ないだろう。」

「ですよねー。しまったぁ、逆だったかぁ。

うーん、よし、魔道具屋に戻ります。

クリス、ペンダント貸して。

ファルスさん、涼風をよろしく。

行ってきます。」


バタバタと動いて、リサは遠見の窓を開けて行ってしまった。


「つまり、クリスのペンダントに竜の魔石を付けるのか。」

「そのようじゃな。ファルス。」

「そうなると、水竜の魔石もあった方が良いな。」

「そうじゃな。ま、それは後の楽しみとしておくぞ。ファルス。」



リサは30分程で戻ってきた。

その後は2時間毎の休憩を取りつつ、街道を東へ進む。

何台かの馬車とそれを護衛する冒険者のグループとすれ違った。

この狭い丘陵地帯を抜けるまでは、嵐たちを置いて狩りに行くことも出来ない。


昼食後も街道を進み、日が暮れる前に3軒の宿屋が集まった集落に着いた。

この集落は畑の西村との中間地点で、多くの者がここで夜を過ごす。


そして、丘陵地帯もここで終わり、この先は平原が広がっていた。

俺たちは集落を通り過ぎ、街道を進み、日が暮れると街道を逸れ、平原の中を北東に向って馬を走らせた。



「んー、気持ち良いなぁ。ファルス。」

「そうだな。」

「星空も綺麗ですねぇ。」


雪解けも終わり、乾いた平原は下草も短く走り易い。

この辺りの畑と思われる場所も、まだ土起こしはされていないようだ。

暗くなった平原を1時間ほど走り、夕食を摂った。

その後、2時間ほど走り、大きな樹があったので、そこを今夜の野営地に決めた。


嵐たちの身体を拭いてやりながら、周囲を警戒するが、魔獣や獣の反応は無い。


「ファルス。うちの背中も拭いてくれるか。」

「それは自分で拭け。」

「ク、クリス。・・・そっか、ごめん、私、お邪魔なのね。」

「いや、リサ、冗談じゃ冗談。そうじゃ、うちがリサの背中を拭いてやろう。」

「ええ、いいですよぉ。」

「遠慮するでない。ほら、背中を向けるのじゃ。」

「うう、力では敵わない。」


■■■


はい、ナノリサです。

リサが原っぱで、土魔法と水魔法と火魔法で作ったお風呂で寛いでいますが、私の所に周辺ナノマシンからの相談が届きました。

前回は、閉鎖環境での長時間労働のストレスを聞かされて、管理者宛てにお手紙を出すことになったのよね。

そのお陰で私も天使セリーヌとお話しする時間ができたんだけど。

今日はなにかな?


え、管理者から連絡が来なくなった?

お手紙で連絡しても読んでくれていない?

確か、ナノマシンからは直接連絡は禁止されているんだったわね。

部屋には居るのね。

でも動いていないの?


それは、大変ね。

どうしようかな。


■■■


白い部屋。


ミリアは椅子の上で膝を抱え、テーブルを見つめていた。


「どうしよう。」


何度も何度も、どうしよう、と口にする。

しかし、結論はでない。


いや、結論はでている。

しかし、それを認めることが出来ない。


もう自分ではどうしようもないのだ。

それは分かっている。

だから、女神メティスに連絡をとる必要がある。

それも分かっている。

でも、何を話すのか。

それが、分からない。


助けて、と言えば良いのか。

だが、それでは駄目なことをミリアは知っている。

女神は大雑把なのだ。

単に「助けて」なんて言うと、何をどう助けるか分かったものではない。


それに、女神の力はこの世界には直接行使できない。

女神の代わりに目的を成す者が必要だ。

それが、勇者や聖女と言われる者たちだ。


かつてのミリアがそうであったように。

いや、実は今もそうなのだ。


イオタ国の勇者はミリアが認めた者だ。

それは、単なる呼称でしかない。


この世界で、女神メティスの目的を成す者は、聖女ミリア=エッシェンバッハなのだ。


「どうしよう。」


助けて、と言えば良い。

きっと、女神メティスは助けてくれるだろう。

そして、ミリアは聖女ミリアとしての役割に戻される。

それは、この地を離れる事を意味するのだ。


「どうしよう。・・・、?」


ふと、意識が戻った。

出口の無い堂々巡りから、気を逸らす、光の明滅。


目の焦点を合わせ、白い部屋の景色を意識する。

そこは、光で溢れていた。

青、橙、赤、黄、緑、紫、紅、白、様々な色の光がミリアの周囲に小さな輝きを放っている。


「これは、一体?」


ミリアがつぶやくと、光は一斉に動き出した。

そして、青い輝きとなった光の帯は、テーブル上の一点、点滅する青い輝きを中心に円を描く。

まるで、その輝きに手を翳し、メッセージを見ることを促すように。


そして、ミリアは導かれるままに、手を翳した。


そこにはナノマシンからのメッセージが届いていた。

”連絡無い、心配、連絡を乞う。”

その短いメッセージがあった。


時刻を確認したミリアは定時連絡をしていないことに思い至った。

そして、それほどの間、思考に没頭していた事に気付いた。

この世界の、この惑星の、この国の、ミリア自身の、これからのこと。


「どうしよう。」


再び、出口の無い思いに意識が落ちる。

手を振り、メッセージを閉じる。

すると、メッセージの履歴が一覧表示された。

そこに並ぶ、"連絡無い、心配、連絡を乞う"、の羅列。


ミリアの意識が再び戻る。


「こんなに、・・・、どんだけ心配してるのよ。」

短いメッセージは一覧でも表示される様にした結果なのか?

定時連絡なんて、重要な内容は無い。

毎日28時に国内1219箇所を担当する各ナノマシンに、その日の状況を確認し、異常なしの返事を貰っている。

それ以外のナノマシンは、何かあればメッセージを送ってくる。

そもそも、ナノマシンが心配などするのか?


「付き合い長いからね。益々、ここを離れる訳にはいかないよね。」


その時、新しいメッセージが届いた。


「お話しましょう?ナノリサって、誰?」


次回132話「ミリアと食事」

ついにファルス達はミリア中尉に会います。


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