131話 西の街の朝
「いらっしゃいませー。」
「おはよう。」
俺たちは朝食後に宿を引き払い、ロキの武器屋に来た。
リサは店の前で馬を見ている。
店内に入ったのは俺とクリスだ。
朝早いが、店内は冒険者が多く、カウンター前は列が出来ている。
昨日頼んだ、剣や短剣の研ぎの受け取りのためだろう。
列に並ぼうとした俺とクリスだが、入口の男の子がクリスの手を引いた。
「お姉さん、鉄棒のご注文でしたよね。」
「うん、そうじゃ。」
「でしたら、こちらへどうぞ。」
男の子はクリスの手を引き、店を出ると、そのまま店の横道を通り裏に連れて行ってくれた。
裏にはロキと職人の男がいた。
「ありがとう。」
クリスが男の子に礼を言うと、彼は小走りで店に戻って行った。
「早いな、旦那。姐さんの鉄の矢はできてるぞ。」
昨日の依頼の時はお前ら呼びだったが、一晩で変わったのは、注文したからか?
「ロキ、試射はここでできるのか。」
「もちろんだ。ほら、あそこに的がある。」
ロキが指し示した先、15m程のところに背の高い木塀があり、その手前に木の的板が立ててある。
「ロキ、木塀の向こう側には何がある。」
「何って、あの向こうは後ろの店の物置か作業場じゃないかな。」
「クリス。」
「むう。駄目じゃな。ファルス。」
「そうだろうな。少し待て。」
「あ、おい、旦那。」
俺は木塀の所まで飛ぶと、木塀の向こう側を覗き込んだ。
1m程の空きスペースが有るだけで建物の壁がある。
これでは、クリスの試射で破壊されてしまう。
地面に降りて、木の的板を地面から抜いて、脇に置いた。
「標的土壁!」
これは、俺たちが弓の練習で使っている的だ。
土の圧縮率を高めているので、クリスの木の棒でも貫通できない。
今日は先端の尖った鉄棒だ。
的の厚みは1mにした。
「いいぞ。クリス。」
ドスゥゥゥ
見事に的中した。
鉄棒の先端が10cmほど突き出している。次は厚みを増やすか。いや、標的石壁にするか。
俺は標的土壁を解いて、木の的板を戻して、クリスとロキの所に戻る。
クリスに鉄の矢を渡す。
「ふむ。先端のつぶれもない。繰り返し使えそうじゃな。ファルス。」
「では、残りの鉄棒10本の加工も依頼しよう。」
「ああ、仕上がりは3日後だ。」
「わかった。よろしく頼む。」
「ああ、任せてくれ。」
ロキの表情が強張って視線が定まっていないようだったが。
「ロキの奴、雰囲気変わったか?」
「ふふ、うちの魅力に気付いたのであろう。ファルス。」
「それは大変だ。ここでも決闘しないとならないのか。」
「ふふふ。」
◇
魔道具屋ではクリスのペンダントを受け取りに行った。
今度は俺が馬番だ。
嵐が顔を寄せてくる。
いや、鼻先で小突かれた。
これは、早く行こうぜ、の催促だな。
「すまんな、嵐。もうしばらく待ってくれ。」
俺は嵐の首を叩いてやる。
ブルルル
いやいやをされた。
ここの宿屋では昼の散歩はしていなかったので、昨日はずっと厩舎の中だった。
少しストレスが溜まっているのか。
横にいる涼風と早風は静かなんだが。
「いい馬だな。あんたの馬かい?」
冒険者の男3人連れ、その中の一人が俺に声を掛けてきた。
20代前半といったところか。
3人とも腰に剣を帯びているが、後ろの二人は弓持ちと盾持ちだ。
「そうだ。」
「へへ、そう警戒するな。いい馬なんで声を掛けただけだ。しかし、馬持ちとは珍しいな。
北の街のパーティーなのか?仲間はどこだ?」
「仲間は魔道具屋だ。馬持ちは珍しいのか?」
「そりゃ、そうだろ、冒険者なんだぜ。馬持ちなんて畑の連中だけだ。
あんたは畑の街の者には見えないな。」
「おい、グース。早く行こうぜ。」
「なんだよ、ゴルド。お前がそんなに森好きだったとは知らなかったぜ。」
「仕方ないだろ。今日から魔窟は休みだ。」
「それに、3日も遊んでいられる程の金もないしな。採取でもして時間を潰そうって言ったのはグースだろ。」
「ちっ。」
「魔窟が休みなのか?」
3人が言い合っているので放置して去ってくれれば、と思ったが気になる情報があった。
「ああ、ギルドで告知されてたぜ。昨日誰かが火竜を倒したんで、3日間は魔窟に入れないってな。」
「風竜の魔窟もだった。」
「ああそうだ。火竜も風竜も倒されたんだとよ。」
「倒されると、魔窟に入れなくなるのか?」
「何だよ!?それを聞くか?誰が倒したか、とか、2匹が同時に!とか驚くだろう、普通。」
「ああ、そうか、そうだな。」
「反応薄いおっさんだな。」
「グース、北の街なら勇者パーティーがいるからだろう。」
「ああ、勇者パーティーか。北の街なら今更驚く事でもないのか。」
「なら、竜が倒されれば、復活までの3日間は魔窟が閉鎖されるのも知っているんじゃないか?」
「ん?そうか、そうだよな。おっさん、北の街の人間か?」
「いや、」
「ファルス。待たせたの。」
「お待たせしました。」
クリスとリサが魔道具屋から出てきた。
クリスの胸元には身体強化の魔石を中央に複数の小さな飾りをあしらったペンダントが輝いている。
「ふふん。」
「うん、いいな。クリス。」
「そうであろう。うちも気に入ったぞ。ファルス。」
「すげぇ美人だな。」
「おい、グース行こうぜ。」
「ああ、森へ行くか。」
3人は俺たちから離れて行った。
周囲を見渡すと、冒険者が多くたむろしているようにも見える。
「ファルスさん、今の3人は?」
「ああ、嵐たちが良い馬だと褒めてくれたよ。」
「そうなのか。いい連中じゃな。ファルス。」
「どうやら、昨日誰かが火竜と風竜を倒したせいで、復活までの3日間は魔窟が閉鎖されたらしい。」
「あら!?」
「ふむ。その様な仕組みがあったのか。リサ。」
「えっ、それは私も知りませんよ。でも、これは名前を売るチャンスですね。」
「名前を売る?」
「そうですよ。あれ?ここで活躍して噂になってミリア中尉からの接触を待つんですよね?」
「・・・そうだった。」
「そうじゃったな。」
そうだ、それが当初からの目的だった。
忘れていたな。
クエストが楽しかったからだな。
なぜ、忘れていたんだ。
クエストが楽しいからだな。
「リサ=メンフィスが命じる。強制クールダウン!」
リサの右手が俺に向けられる。左手はクリスだ。
頭の中に風が吹き抜ける様な感じがして、すっきりとした。
そうか、何らかの暗示が掛けられていたんだな。
「ありがとう、リサ。暗示があったんだな。」
「そうなのか?リサ。」
「どうでしょう。それっぽい反応だったのでやってみたんですけど、何か感じます?」
「活躍してミリア中尉からの接触を待つ、という目的は思い出した。」
「そうじゃな。しかし、これはどういった暗示なのじゃ。目的を忘れるような暗示か?」
「いや、北の街へ行き、勇者パーティーと接触する事は考えていたな。」
「うむ。うちもじゃ。ファルス。」
「では、なぜ勇者パーティーに接触しようと思いましたか?」
「ああ、なぜだろう。」
「そうじゃな。ジャミルとテレーザに合う為か?」
「ミリア中尉が勇者パーティーか、その周辺にいる可能性が高いからですよ。」
「そうだ!」
「うむ。ファルスがそう言っておったな。」
「なるほど、ミリア中尉に関する事、ミリア中尉と接触しようとする事が隠されたんですね。」
「そうなのか。」
「ふむ。」
「さて、それではどうします?西の南村で水竜退治の予定でしたけど。」
「その目的は魔石集めだな。リサ、どうだろう重要度は高いか?」
「んー、揃えておけば良いかな、ってぐらいの物ですから、高くはないですね。」
「そうか。ミリア中尉からの接触を待つ、という当初の予定だが、ミリア中尉が自分への関心を消去するような暗示をこの国の内部に掛けているとしたら、彼女からの接触の可能性は低いと思う。」
「そうじゃな。」
「そうですね。」
「では、北の街へ行き、勇者パーティーと接触してミリア中尉を探す方が良いな。」
「了解。」
◇
西の街から北の街へは、北ルートと中央ルートがある。
北ルートの半分は知っている。
俺たちは中央ルートを選んだ。
同じ目的に近付く道なら、その道中は楽しみたいからだ。
なるほど、クエストが楽しいという気持ちは暗示では無かったようだな。
次回132話「平原の夜」
イオタ国の中央部は広大な平原で畑が広がっています。




