121話 同行者
翌朝、宿で朝食を済ませ、嵐たちの顔を見てから村の広場へ出る。
この村は広場を中心に、冒険者ギルド、宿屋、酒場兼飯屋、鍛冶屋、武器防具屋、魔道具屋が並んでいる。
建物はこの広場周辺だけだ。
村の周囲は街道と森。
畑が無い。
完全に冒険者の為の村だ。
そして、神の館が無い。
通常なら神の館にある大時計が、広場の中央、台座の上に置かれている。
ここでは神様関係の話も違うようだ。
朝早くから店は開き、冒険者たちも宿から冒険者ギルドへ、さらに村の外へと移動をしている。
初心者講習までは時間があるので、魔道具屋や武器防具屋を覗いてみたが、目新しい物は無かった。。
この村の店では、ちょっとした修理や加工はできるが、製造や手の込んだ工作は西の街で行うそうだ。
クリスとリサは何か買っていたようだな。
◇
ほとんどの冒険者たちが、クエストを受注し終えた時間なので、ギルドの中は静かだ。
「皆さん、おはようございます。ご案内しますので、こちらへどうぞ。」
ステラさんの案内で、今日もいつもの部屋に案内される。
「今日は初心者講習を受けさせていただく予定でしたが。」
「はい、ですが、受講者が皆さんだけでして。
さらに言うと、皆さんに実技講習で罠の仕掛け方とかは不要でしょうし、薬草採取の注意点とかは必要ないですよね。」
「うーん、そうだな。」
「ですので、この西の街周辺の説明をさせていただいて、後は質問を受けてお答えさせていただきます。」
「そうか。」
「はい。」
「では、よろしく頼む。」
「はい、ではまず、西の街は中央街道の西に位置し、西の山脈の麓にあります。この地域には~」
ステラさんからの説明は周辺の探索範囲と名称、いくつかの有名な魔窟や迷宮の紹介から始まった。
魔窟や迷宮というのは、内部に魔獣が徘徊する洞窟の事で、これらは階層構造になっており、階段で上り下りする。
城の地下施設を思い出すが、魔窟の階層は50階以上あるという。
そして、各階層には階層主という魔獣がいて、下層への階段を守る様に我々に襲い掛かってくるという。
魔窟には、様々な素材の採取ポイントがあるし、宝箱を見つける時もある。
この宝箱は不定期に現れ、仕掛けを解いて箱を開ける事ができれば、中に入っている魔道具を入手することができる。
宝箱は階層主を倒すことでも手に入れることができ、冒険者達はこれを入手するのが目的の者が多い。
入手した魔道具を装備して、より深く潜ったり、他の魔窟に挑戦したりするのだ。
また、ギルドに売る事もできる。
貴重な魔道具や高価な魔道具を入手すれば、大金を手にして東の都に移り住む事もできる。
そうした冒険の場が、西の街と北の街にあり、イオタ国の若者は12歳から冒険者として活躍する。
多くの者は30歳から40歳まで活動し、畑の街に移り、農業に従事する。
鍛冶屋や道具屋、宿屋などで働き、冒険者をサポートする者もいる。
そして、一部の者は生涯を冒険者として過ごす。
◇
「この村にはオイゲン神の神の館が無いのですね。」
「はい、ございません。イオタ国ではオイゲン神より、時の女神ミリア様が信仰されていますよ。その御力で過去から未来までを司り、人がこの世界に生まれてから死を迎える時までを見守っていただけるのですから。」
「死後は、やはり月の神によって魂の再生が成されるのですか?」
「月の神の教えでは、そうなってますね。でもミリア様の教えでは、生は一度切りです。ですので、この生を精一杯正しく生きる事が求められていますし、私達はそれを心掛けています。」
「なるほど。」
「では、この村では魔石を通貨に交換するのは、ギルドに引き取っていただくのですね。」
「そうです。魔石以外の採取物も全て冒険者ギルドでお引き受けしております。」
「冒険者ギルドは、引き取った魔石をどのようにして通貨に交換しているのですか?」
「ええと、全部ではないですけど、魔石はこの村から西の街の冒険者ギルドに送られて、さらに東の都の本部に送られているはずです。」
「東の都には神の館があるのですね。」
「はい、そう聞いています。わたしは東の都に行ったことが無いので、見たことはありませんが。」
「東の都とは、どういう街ですか?」
「イオタ国の中心です。議会があって、法律を決めたり、犯罪人を処罰したりする所です。東の都に住む人は、政治に関わる方と、あとは金持ちですね。」
「金持ち。」
「ええ、魔窟の宝箱で、貴重な魔道具を見つけて、多くのお金を手にすると、大抵の人は冒険者を辞めて、東の都に家を買います。」
「ほぉ、そういった者は多いのか?ステラ。」
「えっ、ええと、どうなんでしょうか。私がギルドに入って、えーと8年、に成りますけど、その間には居ませんね。たぶん。」
「そうなのか。」
「ええ、居れば噂になるでしょうから。」
「魔法兵団という組織があると聞いたが。」
「はい。東の都に本部がありまして、西の街と北の街に支部があります。」
「これは、どういう組織なのだ?」
「数年、数十年に一度なのですが、魔獣が魔窟から溢れ出すことがあります。そういった時に備えた組織です。」
「なるほど。」
「皆さんの魔力なら、魔法兵団にスカウトされるかもしれないですよ。」
「そんな事もあるのか。」
「ええ、有名な冒険者をスカウトすることは良くあります。」
「有名といえば、勇者パーティーがいるそうだな。」
「はい、勇者ジェラルド=ザラーが率いるパーティーです。今は北の街を拠点に活動していますね。」
「北の街か。」
「ふふふ。外の国にも勇名が轟くなんて、さすがジェラルド様ですわね。」
「そうだな。」
「さて、クリス達からは、何か質問があるか?」
「ある。しかし、今は。」
「ファルスさん。この後は女性同士の話がありますので、ファルスさんは外でお待ちください。」
「わ、分かった。では、先に失礼する。ステラさん、ありがとう。」
クリスとリサに部屋を追い出され、俺はギルドの受付カウンター前に置かれたテーブルの一つに座った。
どんな質問をしているのか、聞かない方が良いんだろうな。
◇
この部屋の壁にも西の北村周辺図が掛けられている。
ネイマー支部長からの指名依頼は3つ。
黒蜘蛛の森。ここに2年程前から巨大蜘蛛が現れ、以来、森の奥地は立ち入り禁止となっている。
勇者パーティーへの依頼は出しているが、未だ返事は無いそうだ。
魔法兵団への依頼は地域の危機が明確になれば、すぐにでも出来る。
だが、巨大蜘蛛は森の奥地を生息地としたものの、それ以上の広がりを見せないので、魔法兵団は動かない。
冒険者ギルドはAランクパーティーに度々依頼しているものの、最近は応じるパーティーが無いという。
2つ目は、その話の元の話だ。
この大蜘蛛の出現に立ち会ったBランクパーティーがいた。
彼らは森の奥で魔狼のねぐらの探索をしていたそうだ。
そして、窪地の側面に新しい洞穴を見つける。
その洞窟は、彼らの目の前でその穴の周囲の土が急速に崩れ、広がっていく。
やがて、その穴から細かい棘の様な毛に覆われた脚が出てきた。
脚は1本、2本、3本と続いて現れ、そして、数多の赤い目を持つ本体が姿を現した。
体高5m以上ある巨大な茶色の大蜘蛛だ。
この森にも蜘蛛がいる。
森の名前の由来となった黒蜘蛛だ。
しかし、そいつらは数は多いが、でかくても3m程だ。
今出現したやつは、その2倍以上ありそうな巨体だった。
Bランクパーティーは、即座に攻撃に出た。
だが、粘着力のある糸に捕らわれ、土と風の魔法を操る蜘蛛に翻弄される。
さらに、洞穴からは2匹目、3匹目の巨大蜘蛛が現れる。
Bランクパーティーは、1人を残して、全滅した。
俺たちは、この洞窟を塞がなくてならない。
3つ目は、トロールの岩棚だ。
昨日のイーオンの話によるとトロールは40匹程が居るという。
これを全滅させると、黒いゴーレムが岩棚に出現する、という噂話が西の北村には昔からある。
この噂の真偽の確認だ。
俺たちは昨日7匹を仕留めたが、ネイマー支部長によると1日経てばトロールは復活するそうだ。
これは魔窟の魔獣と同じ現象らしい。
今日の午後はこのトロール退治だ。
◇
ステラさんと一緒に村で早めの昼食を食べた後、トロールの岩棚に転移した。
ステラさんは黒いゴーレム出現の証人役として同行する。
ちなみに冒険者ランクはDランクだ。
Dランク昇格時に冒険者ギルドの採用試験に応募して、採用されたという。
得意武器は短弓と風魔法。
短弓は矢が短く連射に向いているそうだ。
カッツェ族が使っていた物とサイズがほぼ同じだな。
オルトス君や姉妹たちは元気だろうか。
「ちょっと久し振りなので、少し練習を。」と言うステラさんは森の木に向って弓を構えると、素早く2連射をする。
見事に狙った木の幹に命中する。
続けてやや左に狙いをずらして発射。
弓の手元に付けられた魔石が緑色に淡く光ると、放たれた弓矢は途中で軌道を変え、これも木の幹に命中した。
「お見事。」
「ふ~。お恥ずかしいです。でも、大丈夫みたいですね。うん。」
「待たせたの。」
「すみません。」
「お、来たか。森の中で何か見つけたのか?」
「あっ、いやー。」
「ファルス、内緒じゃ。ステラの説明通りにしたら問題なくできた。ありがとう。」
「いえいえ。」
「さて、トロールの奴らを倒しに行こう。ファルス。」
「よし、行くか。」
次回122話「黒いゴーレム」
噂の真相は?そして、カッシーニ81の方でもなにやら問題が。




