119話 5匹の子竜
俺たちは地竜のねぐらを確認する為に、地底湖のほとりに降り立った。
ヒカリゴケの緑色の光に照らされる青い水面が美しい。
「すげぇな、あんたら。途中の幻惑こうもりはバタバタと落下して行くし、大蜘蛛の巣は焼き払うし、こんなに早く辿り着いちまった。」
「イーオン、地竜の住処はどこだ。」
「ああ、あいつのねぐらは対岸の、あそこだ。天井から三角岩が2つぶら下がっている、その横の穴が入口だ。分かるかい?」
「ああ、分かった。では、行くか。」
「ちょっと、待ってくれ。いや、あんたらなら大丈夫だろうけど、この地底湖には水竜と百手がいる。い、一応、警戒した方が良い。と思う。」
「イーオン。ありがとう。俺たちはこの洞窟は初めてだし、君は案内人だ。だから君が必要だと思った事は遠慮なく言ってくれ。」
「ああ、そうか。案内人だからな。水竜は口からの噴射水が強烈だ。尻尾を振り回す事もあるが、飛んでるんだから大丈夫だな。
百手は、その名の通り、あのうねうねと動く触手が厄介だ。百手は、その、俺も戦った事がないんだ。」
「触手うねうね。って、海にいた奴ですか?」
「あれか。うむ、剣で相手するには厄介な相手じゃな。ファルス。」
「そうだな。そいつの触手がどこまで伸びるかが問題だな。念のため高度をとって、天井付近を飛ぼう。」
「了解。」
◇
上からだと透き通った地底湖の様子がある程度分かる。
岸から10mぐらいは底が見えるが。その先は底も見えない闇だ。
水面近くを遊泳する水竜の姿が見える。
水竜が少なくとも3匹はいるな。
百手の姿は見えない。
俺たちは無事に対岸に降り立った。
6時間の予定が1時間も掛からなかったな。
◇
地竜のねぐらの入口とされた洞窟は、しかし、天井近くまでが土壁に塞がれている。
その向こう側から響くのは、いびきだな。
どうやら地竜はお休みのようだ。
「イーオン。君の背嚢を出しておく。君はここで待機してくれ。」
「分かった。」
「ファルスさん、あそこにロープが垂れていますよ。」
「フコル達が使ったものか?」
「どうしましょう。これ崩しますか?」
「いや、上の隙間から侵入しよう。フコル達を検知したら、リサが廻ってくれ。俺とクリスは地竜を牽制する。」
「了解。」
「ふふふ。楽しみじゃ。」
「行くぞ。」
土壁と天井の隙間を通り抜けると、洞窟の様子が鮮明に検知できた。
下の洞窟には地竜が5頭いる。子供だ。
寝ていたのはこいつらか。
洞窟はさらに奥の空間に繋がっている。
そこにでかい地竜がいた。
俺たちに気付き、こちらに首を巡らす。
黄色い目が俺を見た。
体長は30mか?
見慣れた飛竜の身体はスリムだが、こいつはでかい。
赤茶色の皮の下は筋肉の塊のようだ。
「二人の生存確認!」
「リサ、行け!クリス!」
「左に廻るぞ!ファルス!」
ギャオオオオーーーーンンン!!!
地竜の咆哮が洞窟を揺らす。
咆哮と共に飛来した石礫が俺とクリスを襲った。
「くっ!」
俺は上昇し天井に張り付く。
脚にいくつか食らった。
クリスは・・・いた。彼女は地面に降り立ち、前面に土壁を作っている。
リサは、子竜の寝床奥の壁面近くに居るが、子竜たちが今の咆哮で目覚めたな。
(リサ、無理はするなよ。)
(りょうかーい。)
「焼き尽くせ!ファイヤーストーム!!」
クリスが地竜に渦巻く炎を吹き付ける。
ドゴォ!!
轟音と共に地面から土壁がせり上がり、炎を防ぐ。
どうやら地竜は土魔法が得意の様だ。
ならば、これはどうだ。
俺は腰布からバッテリーを取り出す。
出し惜しみはしない。
「ファルス=カンが命ずる。我が敵、地竜に雷撃を!サンダーボルトー!」
ビシィィィ!!
光の柱が地竜を貫く。
グッグゴゴォ
地竜の口から呻き声が漏れる。
まだ息があるようだ。
「ふっ、次は防げまい。
クリスティン=サワーが命ずる! 炎よ熾れ! 風よ吹け! 炎を纏いし暴風となりて全てを焼き尽くせ! ファイヤーストーム!」
地竜が作った土壁を崩したクリスが、再度炎の嵐を地竜にぶつける。
意識朦朧の地竜にそれを防ぐ術は無く、その身体は炎に包まれた。
さて、リサの方は。
振り向いた先には、いびきをかいて眠る子竜が5匹。
リサはその奥に2人の女性と共にいた。
◇
フコル達5人は罠抜けのデニムが垂らしたロープを伝って、入口の土壁を越えた。
そこに居たのは、5匹の子竜だ。
予想外の事態に対応が遅れた。
2匹の子竜がフコル達に気付き、接近してきた。
フコルとフーゴが剣を抜くが、子竜でも体長5m以上ある。
そこに、残りの3匹も集まってきた。
子竜にとっては、フコル達は格好のおもちゃ、遊び相手だったようだ。
噛み付き、爪を振るい、尻尾を振る。
しまいには子竜同士でじゃれ合って、組み付き、暴れる。
ミーシャは、左足を踏み潰されたシズーをかばいながら、壁の裂け目の奥に身を潜めた。
仲間の3人は、いつの間にか姿が見えなくなっていた。
◇
リサの応急手当で意識を取り戻した二人を連れて、入口に待機していたイーオンと合流した。
「生きていたのか。」
「何とかね。」
「フコル達は、駄目だったか。」
「ええ。」
「それで、ファルス=カン。地竜は倒したのか?」
「倒した。」
「そうか。それじゃあ、背負い籠を組み立てるから、ちょっと待っててくれよ。」
「待て、イーオン。その背負い籠というのは何だ?」
「何だ、って。背負い籠は背負い籠だよ。けが人を背負っていくんだろ。」
「ああ、なるほど。いや、それは必要ないぞ。イーオン。」
「あっ、そうか。また飛んで行くんだな。」
「いや、それとも違う。」
「違う?」
「それより、イーオン。彼女、シズーの足は治療が必要だ。村に施設はあるのか?」
「ああ、あるぜ。ただ、その様子じゃあ、西の街の治療院まで行かないといけないか。」
「そうか。では、まずは村に戻ろう。リサ。」
「ええと、どこに開けます?人目は避けたいですよね。」
「そうだな。ギルドの部屋はどうだ。」
「良いですね。ちょっとお待ちくださいね、っと。うん、誰もいませんね。大丈夫です。」
「では、俺がシズーを抱えよう。クリスはミーシャを。」
「了解。」
リサが開けた遠見の窓を通り、ギルドの打ち合わせをした部屋に出る。
俺はソファの一つにシズーを横たえた。
「すみません。」
「なに、お安い御用だ。」
クリスが支えながらミーシャをもう一つのソファに座らせる。イーオンも遠見の窓をくぐり抜けて来る。
「ここは?」
「ど、どこだよ、ここ!?」
「ここは、西の北村の冒険者ギルドだ。」
「えっ!」
シズー、ミーシャ、イーオンの3人の顔が驚きで固まる。
リサが遠見の窓を閉じた。
俺がネイマー支部長を呼びに部屋のドアを開けると、丁度、セレスさんと目があった。
「えっ、ファルス=カンさん?」
「セレスさん、今、地竜の洞窟から戻った。生存者が二人いる。治療が必要だ。」
「え、戻って、生存者、生存者!生きていたのですね。」
「そうだ。シズーとミーシャだ。シズーは左足が重症だし、二人とも酷く衰弱している。医者に見せる必要がある。」
「わ、分かりました。人を手配します。それと支部長に連絡します。ああ!その前に二人の様子を確認させてください。」
「どうぞ。」
ソファに居る二人を確認したセレスさんは、すぐに部屋を飛び出して行った。
「本当に、西の北村かよ。」
「イーオン。今日はありがとう。すぐにネイマー支部長も来るだろうから、今回のクエストはこれで終わりだ。」
「ああ、そうだな。」
「ファルス=カン!本当に戻って来たのか。」
扉が大きな音を立てて開けられ、ネイマー支部長が部屋に来た。
「地竜の洞窟にて、捜索対象の内、生存者2名を救出した。詳しい報告をしようか?」
「ああ、二人とも、よく帰ってきた。今、治療院へ向う準備をさせている、荷馬車だが我慢してくれ。」
「よろしくお願いします。」
「それで、残りの3人は。」
「俺たちの検索では生存者の反応はこの2人だけだった。シズーの話では子竜に食われた可能性が高いが、生死不明だ。」
「そうか。子竜?」
「地竜の子供が5匹いた。親は倒したが、子竜5匹は、そのままだ。」
「そうか。」
「支部長。荷馬車が準備できました。お二人を運べます。」
「頼む。」
セレスさんとギルド職員数人がシズーとミーシャを部屋から連れ出した。
ネイマー支部長がソファに座る。
「あの様子では、すぐにでも回復しそうだ。助かったよ。
さて、ずいぶん早く、そして意外な場所に帰ってきたな。」
「それについては、すまなかったな。彼女達の衰弱具合から急ぎ治療が必要だと思ってな。頼れる場所は此処しかなかった。」
「できれば、次回からは入口から入ってきてくれ。」
「そうする。」
その後、俺とイーオンから救出に至った状況説明を行い、今回の案内役を全うしたイーオンとは別れた。
「さて、そちらも依頼完了、としたいところだが。」
「分かっている。残り3人分の冒険者カードか持ち物の回収だな。」
「頼めるかい?さっきの話じゃ、子竜の腹の中にありそうだけど。」
「何とかしよう。」
という事で、俺たちは地竜の洞窟に戻り、残業である。
次回120話「トロールの岩棚」
残業の後はお楽しみです。




