110話 地下の大広間
やがて、アレク達3人も合流した。
ノエルは今日は来なかったようだ。
「あー、ノエルは残した。徹夜の状態ではきついだろうからな。」
「徹夜?」
「おう、リサさんやジェリー達もだ。岩の下王国偵察用装備を準備してくれたぞ。」
「そうなのか。」
「しかし、我々がここに集まり、ジェリー達もその様子では、カッシーニの留守番は。」
「それなら大丈夫だ、ブライアン。おやっさんに頼んでおいた。たまには家の外に出ないとな。」
「そ、そうですか。」
「心配するな。見張りだけさせて帰れとは言わん。さて、ファルス。潜るんだろ。」
「朝食が済んでからだ。」
朝食を終え、携行食料を各員に渡す。
最悪、数日間を彷徨う事になるからだ。
そして、レギウス村への転移魔法陣。
これは外出組にも持たせている緊急帰還用だ。
さらに、岩塊破砕装置。
これは通常は工作機が使用する物だが、人間でも扱える。
対象物に設置し、起動ボタンを押し、30秒以内に50m離れる。
破砕装置は超振動波を2秒間放ち、周囲の物体を粉々に分解する。
生命体に影響は無い。という事だが、身に付けている装備、ボディスーツは破壊される。
宇宙空間だろうと、基地の地下空間だろうと、裸になるのは致命的だ。
もちろん岩の下王国でもそうだ。
使うときは、全力で退避する。
◇
先頭はマルビンとベンソンが勤める。
二人は偵察機を先行させ、左腕の情報パネルで操作し確認しながら先を進む。
これまでの偵察機はメティスに任せていたが、この地下空間では電波が届かないからだ。
アレクが続き、俺とクリス、マルクスとパトリック、ブライアンとラザロスが殿だ。
いくつかの階段と通路を進み、広い部屋のような場所まで来た。
(敵です。部屋の中に狼とゴブリンが複数います。)
俺は検知を試みる。場所が分かっているので、範囲を絞れば正確な情報が掴める。
ゴブリン9匹、狼9匹。
昨夜の偵察部隊だろう。
1組足りないのは、オークと共に報告に行ったのか。
(狼の鼻はやっかいだな。突っ込む前に気付かれるぞ。)
(弓も魔法も狙いが付けられんな。ファルスの雷撃で狙えないか。)
(狙える。)
(よし、ファルスの雷撃と共に突っ込む。静かに、すばやくだ。)
俺は位置を変え、最後尾に回った。
小声で魔法を唱える。
「ファルス=カンが命ずる。我が狙いし者どもに雷撃を与えよ。サンダーボルト。」
差し出した手に握られたバッテリーから飛び出した電撃の光が通路の天井を走る。
バリィィィィィィ
(突入!)
アレクとクリスを先頭にブライアンたちが続く。
偵察機を抱えたマルビン達と俺が遅れて部屋に入る。
その後は会敵することなく、昨日の到達点、左壁に隙間があり、地下世界の空間が覗ける地点まで進んだ。
今日は指先カメラがあるので、首を出さずに観察できる。
全員が壁際に屈み、右手をあげ、左腕の情報パネルを覗き見る姿は、端から見ると可笑しな光景だろう。
マルビンとベンソンは周辺警戒中だ。
(広いな。)
(ゴブリン共がうようよいますね。何匹いるんだ。)
(ここから通信機を飛ばそう。)
(通信機?)
アレクが背嚢から1台の機械を取り出す。
見た目は偵察機だ。
(この空間の上、天井から光が入ってきてるだろ。おそらく縦穴が開いているんだ。
そこで、この通信機を飛ばして縦穴を探し、メティスとの回線を確保する。後は偵察機をばら撒くだけだ。)
そう言うと、通信機を隙間から押し出した。
空間に出た通信機は静かに上昇を始めた。
(あれ、どうやって浮かんでいるんだ。)
(リサさんとサイモンの仕掛けだよ。魔法陣で浮かべて、光の射す方向に向かうそうだ。)
(アレク班長、鳥のような物が飛んでいます。通信機は襲われないでしょうか。)
(ああ、それも対処している。)
アレクは情報パネルを操作した。
(これで接近警戒モードだ。周囲2mまで接近されたら、追い払う仕掛けがあるそうだ。)
アレク、マルビン、ベンソンはそれぞれの背嚢から3機づつの偵察機を取り出し、それらも解き放つ。
これは、カルーの城に置いた物と同型機だ。
通信機が接続されれば、メティスの配下となる。
それまでは自走モードだ。
俺たちは通路を先へと進んだ。
◇
ざわざわとした騒々しい雰囲気が壁越しに伝わってくる。
(班長、あの階段を降りるとゴブリンの集団がいます。30匹はいますね。)
(オークは見えるか。)
(いえ、ゴブリンだけです。約10m四方の空間です。その先に通路が2本あります。)
(おそらく巣ですね。メスと子のようです。)
(ファルス。)
(後方で騒がれても困る。土魔法で階段を塞ごう。偵察機を戻してくれ。)
その先にも幾つもの脇道や階段があるが、それらを土魔法で閉ざしていく。
通路の先が明るくなり出口に近付いたようだ。
(カン外政官、アレク班長。通路の先は吊り橋です。高さは不明。橋の長さは4mです。
橋の先は、空き地です。身を隠せる穴までは8mほどの距離があります。)
(穴の先は通路か。)
(そうです。広めの通路が奥へと続いています。通路は短く、その先は明るいです。)
(その先の様子は分かるか。)
(いえ、画像にノイズが多くなります。ここからでは詳細は不明です。)
(よし、俺とベンソンが吊り橋を渡り、通路入口から先の様子を探る。)
(待て待て、それは俺の仕事だ。ファルスはここで指揮してろ。行くぞ、ベンソン。)
(了解、班長。)
◇
(見えました。広い大きな部屋です。下方にオーク共がうようよいます。
周囲は壁で、いくつもの窓があり、そこにもゴブリン共がいます。
反対側は壁が途切れていて、そこが出入口のようです。
下のオーク共は整列しています。
一番前に椅子に座った連中がいます。
こいつらは赤い服を着ています。
一匹がその前に跪いています。
あ、首を刎ねられました。
凄い吼え声です。)
(ベンソン隠れろ。オークが来る。)
(奴ら、この通路の見張りか。)
(アレク、何匹いる。)
(2匹だ。仕留められるぞ。)
(1匹は生け捕りたい。)
(情報収集だな。ベンソン手伝え。)
(了解。)
(一匹確保したぞ。)
(人間の勇者を知っているか聞いてくれ。)
(待ってろ。)
遠方から聞こえてくる吼え声が大きくなり、地面を踏み鳴らす音が響く。
ブオォォォォォ
ブオォォォォォ
法螺の音が響く。
(ファルス。奴らは勇者が現れたことを知っている。)
(よし、戻れ。)
(了解。)
アレクとベンソンが穴から飛び出すと、二人の周辺に上方から数本の矢が降ってきた。
(チッ! 気付かれたか。)
(構うな、行け!)
「火弾!」
二人がこちらに飛び込むと、俺は火弾の炎で吊り橋を燃やした。
追っ手が掛かっても時間稼ぎになる。
俺たちは通路の出口から奥へと退避し、集合した。
「アレク、オークは勇者の出現を知っていたんだな。」
「ああ、そうだ。闇の神カルーのお告げがあって"準備"をしているそうだ。次の"出撃"のお告げを待っているが、もう待ちきれないから、地上に出て人間どもを殺すそうだ。」
「闇の神カルー。」
「カルー少佐はオーク共の神でもあるらしい。そりゃ怒るな。」
そうだ、カルーのチームは月の三神とされ、それぞれが闇の神カルー、静寂の神グリューン、転生の神ケンプファーとされた。
さらに、闇の神は下等種の神ともされたのか。
リセットの仕組みの一環として下等種共にナノ通信によるアナウンスを仕掛けると、闇の神からのお告げとなるのか。
そして"準備"だ。これは人族への憎悪の増幅と繁殖力の高まりのことだろう。
さらに装備を整え、人族との大規模戦闘に備える。
これはドラゴンを倒す前から進められているのか。
そして、ドラゴンが倒されると共に、人族に襲い掛かる。
「では、穴を塞いでも、すぐに奴らは地上に出てくるのじゃな。」
「そのようだ。」
「ならば、ここで殲滅させねばなるまい。ファルス。」
「だが、相手の規模がでかい。オークとゴブリンで1万はいるぞ。」
「一日1000匹倒せば10日で片付くな。」
「サワー外政官。それは無茶です。」
「む。」
その時、俺たちの側の空間が光を放ち、円形の穴が開いた。
これは遠見の窓だ。
「お疲れ様でーす。」
窓からはリサ、サイモン、ジェリー、サラ、ノエルが出てくる。
「お、地下通路ですか。まだオークとは戦ってないんですね。」
「間に合いましたね。」
「しかし、急がないと。オーク共の行進が始まってますよ。」
「待て、リサ。お前達は何をしに。いや、手伝いに来たのか。」
「そうです。魔道具各種取り揃えてますから。実地テストを兼ねてますよ。」
「カッシーニ81の留守番は、ホーキンス生産部管理官か。」
「そうです。レイチェルは自宅でパメラと村の人達と何やらしているそうですよ。」
「そうか。それで、ジェリーの言うオークの行進というのは。」
「はっ、先ほど捉えた映像です。大広間と思われる部屋から整列したオークが隊列を組んで移動を開始しました。」
「地上へ向かっているのか。では、ここへ来るか。」
「いや、ここは大人数が通るには狭い。先ほどの吊り橋にしてもだ。違うルートがあるのではないか。」
「違う出口か。地上から探すか。地下から攻めるか。ジェリー、その映像は今も見れるか。」
「お待ち下さい。いえ、見れません。ノイズが多いですね。」
「マルビン、そちらの偵察機は?」
「すいません。今は回収しています。再度大広間へ向かいますか?」
俺は一同を確認した。
リサ達5人が合流して14人だ。
「奴らを地上には出さない。ここで仕掛ける。」
次回111話「それぞれの戦い」
参戦メンバーの視点でお送りします。




