109話 岩の下
「全く。深刻な顔をして、そんな事を考えていたのか、ファルス。スープも肉も冷めておるぞ。」
「しかしだな、クリス。気になるだろう。」
「その考えには、ある大前提が必要だな。」
アレクが俺の顔を見て、次いで皆の顔を見渡す。
「分かるか?
オーク共が勇者の存在を知っている、という事だ。
ならば、どうやって知ることができたのか。
その方法が分からないうちは、でっち上げの戯言だ。」
「そうですね。”勇者が現れました。”なんてアナウンスがあるんでしょうか?」
「頭の中にか。ナノ通信のように?」
「無くはない、のか。」
「ええい、めんどくさい。洞穴行って、オークを捕まえて聞いてみればよかろう。”勇者を知っているか”とな。どうするのじゃ、すぐにも行くか?」
クリスの発言に、皆が俺を見た。
「そうだな。休むには、まだ早い。洞穴に潜ろう。」
◇
「この入口は新しいな。それに人工的に掘られたのだろう。ほら、ここの傷は道具で付けられた物だ。」
「どうやら内側から掘られてますね。内部から掘り広げて、外に出たのでしょう。」
天然の洞窟部分を奥へ進むと、明らかに整備された箇所があり、そこには地下への階段があった。
壁の窪みには光の魔石が置かれ、階段を照らしている。
俺たちは階段を下る。
階段幅は広く、3人は並べる。
天井までの高さは3mほどだ。
蹴上の高さは人間用と変わらないが、踏面が広い。
切り倒した樹を運び込んだようで、樹の皮や木屑が散乱している。
俺たちは足元の木屑の跡を辿りながら奥へと進んだ。
幾つもの枝道や分かれ道があり、通路になっている所もある。
扉などはなく、部屋のように広い場所もあった。
樹の置き場も複数あり、それらを細かく裁断する作業場もあった。
だが、オークはいない。
さらに進む。
下方から響く音が、大きくなる。
空気に、独特の臭気が混ざる。
ざわざわとした気配が感じられる。
(ファルス。この感じはまずい。やつらの巣窟が近いぞ。)
(そのようだ。用心しよう。検知はあまり役に立たないようだな。)
(周囲20mが限度だな。壁の向こうは不明。考えたんだが、魔法はナノマシンによって実現されている。ここはナノマシンが少ないのではないか。)
(そうですね。ナノマシンはナノマシン製造機によって空気中に散布されます。地上に比べれば地中のナノマシン濃度は低いでしょう。)
(では、魔法の威力も落ちるのか。)
(体内ナノマシンは健在だ。体力勝負だな。)
(待て。通路の先が明るい。様子を見るから待機しろ。)
(了解。)
通路の先、右側の壁が明るくなっている。
左の壁に裂け目があり、上側が半分ほど開けている。段差になっているようだ。
左壁に沿って行き、先を覗く。
(これは・・・。)
広大な空間があった。
上方からは薄い光が降り注いでいる。
壁や通路にも光の魔石や松明の炎により明かりがある。
上にも、下にも、前方にも広がりを見せ、柱のような壁があり、曲がりくねった壁があり、複雑に入り組んだ空間が形成されている。
赤土、黒土が堆積し、巨大な岩が積み重なっている。
地下水が壁から滝のように流れ落ちている。
キノコや地衣類が密生して、多くの多彩な花も咲いている。
壁には幾つもの穴が開き、階段や通路などが作られている。
ツタ縄と木板の吊り橋が何本も空中に渡されている。
壁の穴や通路、吊り橋の上にゴブリン、ホブゴブリン、オークがいる。
きっとオーガやトロールもいることだろう。
空中には蝙蝠のような群れが飛びまわっている。
下方のくぼみ付近ではゴブリン数匹が巨大な蜘蛛を相手にしている。
壁の白い塊はイモ虫か?何匹いるんだ。
(すごいな。まさしくこれは地下世界だ。)
(地上では見れん光景じゃな。)
(指先カメラや偵察機を持って来るべきでしたね。)
(お前ら。)
後方で待機していたはずが、皆が顔を出して覗き見している。
(中を見ているファルスの目が輝いていた。気になるであろう。)
(この亀裂なら身体を隠せるからな。独り占めはよくない。)
(凄いですね。ここ、山の中ですよ。)
ブオォォォォーーー
遠くの方から低く大きな音が鳴り響く。
(この音は、サイ族の時に聞いたな。)
(ああ、ゴブリン共が使っていたな。)
(そうなのか。やばい音か?)
(映像記録で見ました。突撃の合図でしたよ。)
(やばそうだな。)
(どうする、ファルス。先に進むか、退くか。)
(そうだな。)
予想以上の規模だ。
昼間の戦闘の疲れもある。
この中では休憩も出来ないし、何より行動目標が定まらない。
(一度退こう。装備を整えて再訪したい。今夜は地上で監視する。)
(了解。)
俺たちは地上へ戻った。
◇
アレク達は連絡艇からカッシーニ81へ戻った。
岩の下王国再訪の準備の為だ。
俺とクリスは洞穴から100m程の距離を取り、西側の森の中で野営することにした。
地下にはオークの他に多数のゴブリンもいた。
オークも何匹いるか分からない。
しかし、300匹の未帰還は、奴らも不審に思うだろう。
奴らはどう考えるか。
様子見か。
状況確認部隊を出すか。
300匹を上回る部隊を送り込んで来るか。
「うちらの常識では、脚の速い偵察部隊で状況確認じゃな。300匹が無事か、全滅か。
敵がいるなら、その規模は?
情報が無いのに大部隊は動かせないぞ。」
「そうだな。300匹は洞穴周辺探査という目的があったから出てきた。
最初にいた100匹は採掘か採取の担当だったのかな。
奴らと探索部隊では練度や装備に差があるようだ。」
「そうかもしれん。で、あれば、オーク共はずいぶんと組織だった連中だぞ。ファルス。」
「それも大規模のな。」
「うちらの興味もあって洞穴は放置してあるが、塞いだほうが良くないか。」
「しかし、他にも穴はあるだろうし、また開けられる。
こちら側から侵入する場合は、今はこの洞穴が唯一の侵入口だ。しばらく確保したいな。」
「そうか。」
「ん?だれか来たな。」
連絡艇方向からこちらに飛んでくる者がいた。
ブライアン、マルクス、パトリック、ラザロスの4人だ。
「お疲れ様です。」
「ブライアン、来たのか。」
「ええ、アレク班長から面白い状況になっていると聞きまして。
今夜は洞穴の見張りだと聞きました。
私達が見張りを行いますので、カン外政官とクリス外政官はお休みになれるかと。」
「生産部の方はいいのか。」
「はい。村に内戦からの生還者が来ましたので、明日は村人達の工房も休みです。」
「そうか。では、ブライアンはクリスと話してくれ。」
「はっ。見張りに関する申し渡しでしょうか。」
「違うぞ、ブライアン。この、うちの腕輪についてじゃ。」
「ああ。魔法陣が役に立ちましたか。」
「それは、もう。」
クリスとブライアンは放っておくか。
俺はマルクスの顔を見た。
マルクスは23歳。パトリックとラザロスは24歳。
2人より年下だが、階級は兵長で上だ。
若いルーク、トミーと一緒の所を良く見ていたが、その二人はバベルと共に外出組となった。
マルクスは馬車の装飾にセンスがある、とクリスが言っていたので、残されたのかもしれない。
俺はマルクス達に洞穴からオーク、ゴブリンの部隊が出てくる可能性を伝え、昼間のオーク退治と岩の下の王国の様子を伝えた。
クリスとブライアンの話し合いも終わったようだ。
「では、2時間交代での監視に付きます。」
俺とクリスはブライアン達に洞穴の監視を任せて、マントに包まり眠りについた。
◇
0600。
顔に当たる朝の風はまだ冷たい。
「おはようございます。カン外政官。」
「おはよう、ブライアン、ラザロス。夜はどうだった。」
「出ました。ご報告はクリス外政官もご一緒に。」
「ん、起きた。いいぞ、ブライアン。」
「はい。2810に洞穴から偵察部隊と思われる者共が出てきました。
オーク3匹、ゴブリン10匹。そして、大型の狼のような獣が10匹です。
ゴブリンはその狼の背に乗り四方へ散りました。」
「村の方にも行ったか。」
「東側はブラウン村の辺りまで行きましたが、南は森の中を2000m程で引き返しています。
そして、こちらの西側ですが、最終的に10匹全てが集まり、後方の焼け野原を中心に嗅ぎまわった後に撤収しています。」
「ここには来なかったのか。」
「はい。80mまで接近しましたが、それ以上は接近しませんでした。
奴らは0300には引き上げています。」
「そうか。」
「では、これで奴らにはオークは全滅。
おそらく西の森が戦場。
そこに人間が6人いた。
という情報が集まったわけじゃな。」
「さて、奴らはどう動くかな。」
次回110話「地下の大空洞」
実はゴブリンたちも神を信仰して神官がいて祭壇を作って火や光の魔石を得ています。
通貨経済はないです。




