107話 オーク肉
連絡艇を上空に飛ばし、オーク達の状況を2時間ほど観察する。
東方はベルナル村からブラウン村跡地まで展開している。
西方は2000mほど、森林と湖周辺まで。
南方は森林を3000m辺りまで来ている。
だが、その辺りが限界点らしく、周辺探索チームは洞穴に向けて戻り始めていた。
「さて、どう攻めるか、だが。」
「今なら各個撃破できるが、森の中は少々めんどうじゃな。」
「だが、洞穴周辺に集合されれば、オークといえど300だ。あなどれんぞ。」
「私達ならば空中から狙い撃てます。」
「弓を扱う奴もいる。逆にこちらも狙い撃たれるぞ。」
「まずは敵の力量をみよう。訓練された連中のようだしな。10匹のチームがチームとして機能しているなら手強い。西の森から順に攻めてみよう。」
「西?下の森ではないのか。」
「敵が南や東に居ると知れれば村が危険だ。敵は西に居ると思わせる。」
「なるほど。」
「連絡艇はどうする。」
「俺たちは空中から森に降下する。連絡艇はメティスに頼んで、上空300mからオークの動きを監視してもらう。」
◇
俺たちは二班に分かれて森を進む。
俺、クリス、ノエルの組とアレク、マルビン、ベンソンの組だ。
狙いは一番西方に突出している10匹。
俺たちが先行し、まずは魔法具の遠方射撃。
その後接近戦となったら、後方のアレク達が入れ替わり相対する。
(目標視認、3匹。)
(よし。ノエル、攻撃開始。)
(了解。)
ノエルは氷の杖を突き出した。
「氷矢!」
杖の先から放たれた氷矢はオークの頭に命中する。
命中精度は良さそうだ。
だが、声を出さないといけないのは、魔法の欠点だな。
せっかくの隠密行動が、耳の良い奴には悟られる。
倒れたオークの周囲にいた連中が吼えた。こちらに向かってくる。
「氷矢!」
ノエルの2射目も命中した。
オークの肩に命中し、一度は倒れたが、起き上がったな。
他の連中も気付いたかな。
「ノエル下がれ。アレク出番だ。」
「了解。」
アレクを中央に、マルビンは左、ベンソンが右だ。
周囲2mは空き地で積雪は10cm程度だ。
草花が生い茂る前なので、剣を振るのに邪魔は少ないが、それは敵も同様だ。
樹の間を駆けて、2匹のオークが突っ込んでくる。
まずはマルビンが相手をする。オークの上段から振り下ろした剣を躱し、その右腕を斬り落とす。
2匹目がベンソンの前に現れる。が、待ち構えていたベンソンが杖から石弾を飛ばす。
至近距離で腹に命中し、うずくまったオークの首をアレクが刎ねた。
マルビンも、心臓を突き刺し仕留める。
3匹の立てた物音と吼え声に気付いた残りの7匹が遅れて接近してきた。
「氷矢!」
「氷矢!」
「雷撃!」
「土弾!」
「火壁!」
何!?
男共が魔道具の杖から遠隔魔法を放つと同時に、クリスの腕輪が輝き、俺たちの前に巨大な炎の壁が立ち上った。
ゴッオオォォォォ
周囲の雪を溶かしているのだろう、白い蒸気も沸き立つ。
炎の壁は、他の腕輪と同じように3秒程で消えた。
しかし、樹々に燃え移った炎がいくつも燃えている。
「ファルス=カンが命ずる!渦巻く霧よ、炎を鎮めよ!ディープフォグ!」
周囲に濃霧が立ち篭り、木々の炎を鎮火し、燻っている熱を冷やす。
オークの反応は無いので、焼けたのだろう。
目の前に出来た幅5m奥行き3mの焼け跡。
こちらに熱風は来なかったが、接近していたオークには炎の熱が届いたようだ。
焼け跡の先で倒れているオークは顔や腹の肉が焼け焦げていた。
「クリス。」
「うー、すまん。反省している。そして、こんな細工をしたブライアンには厳罰をくれてやろう。」
「まぁ、ブライアンも、ここまで威力が出るとは思ってなかったんじゃないか。」
「む、そうか。」
「そうか!魔石を嵌めれば良いかもしれません。」
「どういうことじゃ、ノエル。」
「魔道具は魔石の魔力、ナノマシンに働きかけて魔法を発動させますから、その威力は魔石に拠るんです。クリス外政官の腕輪は魔石がなく、その魔力はクリス外政官の体内ナノマシンに拠ります。」
「それで、威力が桁違いなのか。」
「はい。それに、天使セリーヌのレポートに拠れば、我々の体内ナノマシンから外部への情報伝達能力は現地フォース族より優れています。その事も影響しているのでしょう。」
「天使セリーヌから?そんなレポートがあったのか。」
「はい。魔道具の開発当初、フォース族の魔力、ナノマシンへの情報伝達能力が劣ると考えたリサ外政官が天使セリーヌに問い合わせた結果です。
レギウス村の村人を健康診断した時に脳髄内のナノマシン濃度が我々より明らかに劣っていましたから、それが理由だろう、と。」
「そうなのか。」
◇
オークの魔石を回収し、次の獲物に向けて移動する。
500m先に3グループ、30匹が横並びに展開している。
どうやら、川向こうのようだ。
川を渡ったのが先ほどの10匹だけだったのだろう。
俺たちは川を飛び越え、近場のグループに接近する。
オーク共は行動に統制は取れているようだが、戦闘連携は取れていない。
戦闘技術も力任せに剣を振り槍を突き出してくる。
その勢いを捌ければ、1対1では問題ない。
だが、その勢いが問題だった。
自分が振り回す剣が味方のオークを傷つける事に、一切配慮しない。
間に味方のオークがいるにも関わらず、槍を突き出す。
人間相手の間合いや動きが通用しない場面を幾つか経験しつつ、3つのグループを仕留める。
「これで40匹か。」
「少し休憩しよう。さすがに移動しながらの連戦はきつい。」
「そうだな。魔石を回収したら、30分休憩しよう。」
「ファルス、血の匂いで川からでかいのが出てきたぞ。」
「トカゲのでかいのだろう。オークを2、3匹あげたらどうだ。」
「そうしよう。」
「オークの肉って美味いのか?」
「どうでしょう。」
「トカゲにはごちそうなんでしょう。」
「でも、火弾で焦げたところからは美味そうな匂いがしましたよ。」
どこかで、オーク肉は美味いぞ、と聞いた覚えがあるな。ママドゥだったか、シシドゥだったか。
「試すか。」
「脚、ですかね。」
「よし、焼くぞ。」
美味かった。
◇
その後も洞穴方向へ戻りはじめたオークの10匹チームを背後から襲う形で倒して行く。
森の中ではあるが、葉を茂らせた常緑樹が少なく、魔法による遠距離攻撃は有効だ。
俺とクリスの弓の活躍もあり、接近戦にもつれる頃には、こちらが数的有利になっている。
西の森に展開していた10チームのうち、8チーム80匹を仕留めた。
その頃には西の森のはずれ、洞穴前の空き地まで300mの地点まで接近していた。
「200匹はいるな。」
「どうします。突っ込むんですか。」
「そんな無茶するか。どうするんだ、ファルス。」
「今日はここまでだ、アレク。西の湖まで戻って連絡艇を降ろしてもらおう。」
「では、うちが見張りに残ろう。ファルス。」
「カン外政官、アレク班長。やつら動きますよ。」
「こっちに来ますね。」
オークの集団の反応がこちらに向かって動き始めた。
10匹ごとのチームのまとまりは解れ、ばらばらと、だが集団で迫る。
奴らの吼え声が轟く。
奴らから来てくれるなら、問題は無い。
「うちらの存在を認識していたか。」
「戦闘の時の奴らの吼え声が聞こえていたのでしょう。」
「血の匂いもしてますよね。」
「休憩は延期だ。迎え撃つ。
俺とクリスが遠距離魔法攻撃、100まで接近した連中をアレク達も魔法攻撃してくれ。
相手の数が多い。空中退避も有効だ。」
「了解。」
「うちが北側、ファルスは南じゃ。」
「分かった。ノエルはアレク達と中央を。」
「了解。」
「クリスティン=サワーが命ずる! 我が前方に強固なる壁を! アース・ウォール!」
ズズズズーーーン!
ズズズズーーーン!
クリスの魔法によって前方10mに幅200m高さ3mほどの巨大な壁が作られた。
中央に3m程の隙間がある。
「これでやつらは中央から来る。狙いが付け易いであろう。」
「凄い。」
ノエルは素直だな。
だが、地理的有利を作りだしたのは大きい。
クリスの作った土壁沿いに右へ移動しつつ、背嚢からバッテリーを取り出す。
広範囲への攻撃なら、俺の得意技はこれだ。
オーク共は突然の地響きに戸惑いつつも、前方の壁に向けて突き進んでいる。
検知で壁の向こうにいる50匹ほどを確認した。
「ファルス=カンが命ずる。我が狙いし者どもに雷撃を与えよ!サンダーボルトー!」
手にしたバッテリーから雷撃が空中へ走り、上空で分裂し、オークどもに雷撃が落ちる。
バッシィィィーーーー!
一瞬の光の迸りの後、オーク共の反応が消えた。
「クリスティン=サワーが命ずる! 炎よ熾れ! 風よ吹け! 炎を纏いし暴風となりて全てを焼き尽くせ! ファイヤーストーム!」
土壁の上に立ったクリスの周囲から炎の塊が湧き上がり、前方へと渦巻いていく。
激しい黒煙と、焼け焦げる匂いと、悲鳴の様な叫び声が聞こえてくる。
どうやら炎は北から東へ、半円を描くように広がっているようだ。
炎の勢いに足が止まったオーク共だったが、洞穴への退路が炎で遮られ、土壁へ向けて遁走を始めた。
南へ逃げてきたオークに対しては、俺が相手をする。
壁の中央を抜けたオークにはアレク達が待ち構える。
30分程でオーク共は全滅した。
次回108話「後片付け」
戦闘後の後片付けは勝者の義務ですね。




