104話 屋敷を売る
レギウス村。
俺は今回の報告書を作って、マクレガー村長、マーカス村長代理、ホーキンス生産部管理官に送った。
それとは別にウの国の現状についてもまとめ、これは全員に公開する。
さらにその情報を元にオの国に渡す調査レポートもまとめ、これはクリスに内容確認を頼み、二人でフニオル王子に報告に行く。
その後、マクレガー村長から村の代表者たちへ、ウの国の状況が伝えられた。
村人の間でも話し合いがあり、冬の終わり頃、雪解けを待って代表者数人が今の現地を視察することになった。
案内役は外政部に任された。
レギウス村にも吹雪の日が続き、村は雪に覆われ、工作機が除雪作業に忙しく動き回る日が続いた。
やがて、陽の光が暖かさを取り戻し、雨が降り、雪解けの季節となった。
◇
外政官の館に珍しくホークが顔を出した。
「カン外政官、今朝の運営会議で、ウの国への視察についての問い合わせがありました。
元ブラウン村など、現地を見たいとの要望があります。」
「ああ、代表者8名だったな。メティスに現地の映像を撮ってもらうか。
2日間の動きを見て3日目の朝に連絡艇で飛ぼう。ホークも今回は一緒に来るんだよな。」
「はい、村人から現地を見てくるように頼まれましたので。」
「信頼されてるな。」
「ファルス、ウの国といえば、あの屋敷はどうしたのじゃ。あの件の後、使っていないのではないのか。」
「そうだったな。しばらく動きはないだろうと放置していたが、60日か、さすがに様子を見てくるか。」
「明日は王都ミラルダでも春訪祭であろう。今日のうちに動いていた方が良いぞ。うちも一緒に行こう。」
「なんだクリス、今日は時間があるのか。」
「明日のドレスの準備は終えているからな。ファルスもスーツの用意はよいのか?」
「リリアナが準備してくれている。俺は時間通りに行くだけだ。」
◇
ウの国、王都スーザ。
金貨500枚で購入した屋敷に転移する。
玄関ホールは外の明かりが入り明るいが、空気は少し淀んでいる。
俺は、正面の屋敷の扉に目をやった。
「なんだ?」
扉の下の床の上には複数の書状が散乱している。どうやら扉下の隙間から差し込まれた様だ。
クリスがそれらを拾って確認する。
「こっちは冒険者ギルドから、これは、王城からじゃな、差出人の名前は無しじゃ。ファルス。」
「開けてみよう。」
冒険者ギルドはギルドマスター名義での呼び出し状だ。屋敷の取引についての確認をするので、冒険者ギルドまで来い、と書かれている。
王城からも同様だ。こちらは現ビクター家当主、フルヒム=ビクター執政官からだ。
留守にしている間に王都の様子に変化があったようだ。
◇
冒険者ギルドの受付に行くと、奥の部屋へ通された。
屋敷に調査に来た職員とギルドマスターのエクトールと名乗った60近いと思われる太めの男が応対した。
「何度も屋敷に伺ったが留守であったな。遠出でもしていたのか。」
「エの国へ行っていた。今朝戻ったので、こちらに伺った。」
「そうか。では、単刀直入に言おう。あの屋敷の持ち主であったビクター家より、屋敷を買い戻したい、との話がある。」
「いくらだ?」
「金貨200枚。」
ギルドマスターの提示に隣に座っている職員が驚き、口元を手で覆う。
その反応も当然だ。
「安いな。」
「そう思うだろうな。しかし、貴族の屋敷とはいえ、今の住民は冒険者パーティーだ。
どうせ使用人もおらず、家の管理も碌にしておらんのだろう。金貨200枚、妥当な値段と思われるが。」
「金貨500枚。こちらは屋敷を長期間留守にしていて痛める暇もなかった。これから拠点として利用するつもりだ。
売る気も無いものを売れと言われて安売りするはずが無かろう。」
「むむむ、そうか。では、金貨150枚に屋敷を1軒。この屋敷は金貨300枚相当だ。」
「ほう、ずいぶん気前良く出してきたな。これを断ったら、次は何を付けるんだ。」
「こ、これ以上はだせん。この先も冒険者としてこの国で過ごすのであれば、ここらで手を打たんか。」
「なるほど、最後は脅迫が付いたか。」
「くっ。」
「わかった。」
「おお、では早速、」
「待て、俺がリーダーとは言え、屋敷はメンバーの共有財産だ。皆に説明する時間をくれ。」
「よし、2日やろう。2日後の3の鐘までに屋敷の権利書と鍵束をここに持ってくるように。」
「わかった。」
俺とクリスは冒険者ギルドを出て、王城へ向かう。
◇
城門前には4人の衛兵が立っていた。
俺は屋敷に届いていた書状を彼らに見せ、城内へと案内される。
通されたのは城の中央部ではなく、使用人たちの通用門を入り、階段を登った3階の部屋だ。
部屋の中はテーブル一つに椅子が6脚。それだけだ。
しばらく待たされ、こちらも60近いと思われる細身の男が一人、部屋に入ってきた。
「お待たせしました。ビルヘルム=ホッヘンと申します。ファルス=カン様、クリスティン=サワー様ですな。」
「そうだ。」
「あなた方がお住まいのお屋敷についてお話しさせていただきたくお呼び出しをさせていただきました。お掛け下さい。」
「書状は、フルヒム=ビクター執政官、となっていたが。」
「ええ。ですが執政官は多忙でございまして。フルヒム様の後見人である私がお話しをさせていただきます。」
「この部屋で?」
「申し訳ございません。少々事情がございまして。」
「なるほど。話を聞こう。」
「あなた方がお住まいのお屋敷が、元々は我がビクター家所有の物であった事はご存知かと思います。
先代ヨアヒム様が、ジャミルなる下賎の者に卑怯な手口で襲われ、屋敷をはじめ、多くの物が奪われました。
しかし、ビクター家を継がれたフルヒム様が6名の勇士と共に簒奪者ジャミルを成敗し、今、このウの国を建て直すために日々職務に精励しておられます。
若輩ながらも国の為に尽くすことを決意なされたフルヒム様に、我々は微力ながらもその身をお支えし、かつてのビクター家の栄光を取り戻すことを誓いました。
ファルス=カン様、クリスティン=サワー様、お屋敷を譲ってはいただけませんか。」
なるほど、行方をくらましたジャミルは成敗されたことになったか。
フルヒム=ビクターがアレクが見た暗殺部隊の中の少年だろう。
彼らは誘拐犯として王城に現れ、ジャミルを成敗したと言い、玉座に着いたのか。
「いくつか、確認したいのだが。」
「はい、なんなりと。」
「いま、国王陛下はご不在なのだな。」
「そうです。国王はおらず、フルヒム様が執政官として政務を行っております。」
「あなたは、フルヒム執政官の後見人なのか。」
「はい、私を含め6人の勇士がフルヒム様の後見人であり、従者であります。」
俺はクリスを確認したが、彼女からは聞きたいことはないようだ。
「では、屋敷についてだが、我々は屋敷の所有に拘ってはいない。譲ることは可能だ。」
「おお、そうですか。」
「だが、あの屋敷は冒険者ギルドの紹介で購入した。そして、冒険者ギルドもあの屋敷を買い戻したいと言っている。」
「そう、ですか。」
「確認だが、王城で過ごしている現在、あの屋敷を買いたい理由は何だ。」
「それは、先ほどもお話し致しました通り、」
俺は右手を挙げて発言を制した。
「その建前は聞いた。本当の理由が知りたい。」
「本当の、と申されましても。」
「地下室、があるな。」
「知っているのか。いや、入ったのだな。あの地下室に。」
ビルヘルムの口調が変わった。眉間の皺が深くなり、目が細められる。
領地の屋敷から王城地下へと魔法陣を使って転移したのだ、もう一つの魔法陣の事も、その転送先も知っているだろう。
「入った。そして、あれは今、屋敷には無いぞ。」
「くっ。あれは、あの剣は一介の冒険者の手には余るものだ。我々がその剣を買い取らせていただきたい。」
「いくらだ。」
「金貨100枚。」
「300だ。それだけの価値が、あの魔剣にはあるだろう。」
「くっ、知っているのか。いいだろう。だが、現物を確認してからだ。」
「分かった。」
俺は立ち上がり、背嚢から鞘に収まった魔剣を取り出した。
あの屋敷の地下室で見つけ、サイモンに解析して貰った剣だ。
「おおぅ、持って来ておったか。」
「確認する。という事は、この剣の能力は知っているな。」
「知っている。今、人を呼ぶから、しばし待て。」
ビルヘルムが部屋を出て行った。
「ファルス、悪い顔をしておるぞ。」
「悪役をやるのも悪くない。」
その悪役を倒すためか、ビルヘルムは6人もの衛兵を連れて戻ってきた。
5人を通路に控えさせて、部屋に入るのはビルヘルムと衛兵1人だけだ。
「お待たせしました。こちらの衛兵に対して、剣を使って見せていただきたい。」
「えっ!?」
衛兵の前ではビルヘルムの表情と口調が元に戻っている。
詳細は聞かされていないのだろう、衛兵が驚いて俺と剣とビルヘルムの顔を見て、再び剣に視線を戻す。
魔剣を構えて、俺が声を掛ける。
「大丈夫だ。この魔剣の能力は、アーマーブレイカー。この剣に当たれば、その者が身に着けている武装は砕けるが、身体に傷は付かない。」
「えっ!?」
「はっ!」
言われた事が分からない様子の衛兵に、俺は上段に振り挙げた魔剣を頭部に打ち降ろす。
ガッシャーーン
バラバラバラ
ボトボト
衛兵の兜、銅鎧、腕鎧、篭手、脚鎧、帯剣していた剣に短剣。それらが砕け、細かい破片が足元に積もる。
砕かれるのは金属部だけなので、留め具に使われている革の部分はそのままだ。
「おおぅ、まさしく、アーマーブレイカーだ。」
「こ、これは。」
装備を破壊された衛兵も、何が起こったのかは理解できないだろう。
「さて、金貨300枚、お持ちいただいたか?」
「うむ。持って来させよう。」
ビルヘルムが部屋の外に合図すると、待機していた5人の衛兵が部屋の前の通路に並ぶ。
武装を破壊された者が部屋の外に出て、変わりに二人の衛兵が入ってきた。
彼らは手に皮袋を3つ持っている。
それらをテーブルの上に置いた。
「金貨300枚だ。確認するかね。」
「当然だ。」
クリスが皮袋から金貨を取り出し、中身を確認する。
テーブルの上に積み上げ、300枚を確認し、再び皮袋にしまい、さらに背嚢に入れた。
それを確認し、俺は魔剣をビルヘルムに渡した。
「では、これで契約は成立だな。」
「うむ。」
「あの屋敷だが、冒険者ギルドに売ってもいいのか?」
「構わんよ。」
「分かった。」
俺とクリスは城を出た。
◇
2日後、俺は冒険者ギルドに赴き、屋敷の権利書と鍵束を返し、金貨150枚と新しい屋敷の権利書と鍵束を貰った。
新しい屋敷は一部3階建て、部屋数も十分だ。
だが、この屋敷を利用する予定がなくなったと言って、屋敷を金貨100枚で引き取って貰った。
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冒険者ギルド、ギルドマスターの部屋。
「よし、ビクター家の屋敷の権利書が戻ったか。おい、すぐに王城に人を遣るんだ。探していたビクター家の屋敷の権利書をギルドが取り戻したと伝えろ。」
次回105話「山村の様子」
村人たちの要望に応えて現地の様子を確認します。




