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第四惑星  作者: ブルーベリージャム
第五章 ウの国
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103話 王城の様子

ビクター伯爵家は王都に隣接した領地を持っている。

さらに、王城近隣に屋敷も持っている。

伯爵とはいえ、旧王家では重要な地位にあったと思われた。


「そんな地位にいたなら、ジャミルの暗殺対象になるな。」

「そうだな。」

「俺が見た少年は、伯爵の子か孫か。」


「昨夜の内に城を脱出していれば、この屋敷に戻って来ても良さそうですが。」

「転送の魔法陣を使った。もしかしたら、この屋敷の正確な場所がわかっていない可能性もあるな。」

「それか、まだ王城にいるか。ファルス、今日も詰め所にいくのだろう?」

「ああ、行ってくるよ。」



「おはよう。今日も許可書の確認に来たのだが。」

「許可書の確認? それなら詰め所へ行け。」

今朝の衛兵は横柄な態度で詰め所を顎で示した。

俺は詰め所に向かう。

だが、詰め所は無人で扉は閉まっている。


「すまん、詰め所には誰もいないようだ。」

「そうか。」

「今朝は、君一人しかいないのか。」

「ああ、そうだよ!俺一人だ!」

衛兵は強い声で俺を威嚇するように目を向けた。

そして、手にした槍を手放し兜を脱ぐと、それを地面に叩きつけた。


「くそっ!国王陛下も王妃殿下もいなくなっちまいやがった。

王妃殿下の付き人もいなくなって、イの国へ帰ったんだろうって皆言ってる!

国王陛下が逃げ出したんだ!わかるか!もう誰も王城にいないんだよ!わかったら帰れ!俺も帰る!

くそっ、こんなところに突っ立って、何を守るって言うんだ。くそっ。」


兜の下の若い顔が現状の不満をぶちまけると、俺に背を向け歩き去った。

その方向は王城ではなく街中で、彼はおそらく職場放棄したのだろう。


誘拐、とは言って無かったな。

昨日の捜索隊には伏せられていたのだろうか。


歩み去る衛兵を見ているのは俺だけではない。

門の周辺には多くの店があり、人もいる。彼らにも衛兵の声が聞こえたようだ。

国王不在の噂はすぐに広がるだろう。


俺は衛兵のいなくなった門を通り抜け、王城の中へ入っていった。



国王がいなくなっても城には大勢の人が居るものだ。

衛兵、騎士、女中、執事、料理番、下働き、役所勤めの者達。

しかし、ジャミルが貴族を追い出してからの日々で、王城の中で働いていた人間も少なからず逃げ出していたようだ。

王城は、まるで人の気配がない廃墟のようだった。


俺は王城の裏庭に侵入し、尖塔を見上げた。

テラスから1本のロープが垂れている。

ジャミルとテレーザが脱出の時に寝室から外壁に渡し、切り離したものだ。

外壁上に衛兵はいない。

俺は一気に尖塔のテラスまで上昇し、国王の部屋に着いた。


この尖塔に人はいない。

室内は綺麗なままだ。

寝台の枕の一つに穴が開いていて、その横に短剣が落ちている。

女中が書き置きを見つけたままだ。

部屋の扉は閉じており、鍵も掛けられていないので簡単に開いた。

廊下は静かだ。

昨夜の連中は此処まで来たのだろうか?


昼間に城内探索や地下への階段を探す気にはなれないので、俺はテラスから裏庭に降り、城門から街に戻った。



城門を出て、通りを歩き出す。

数人が俺を見ているのは、俺が城から出てきたからか?


その中に昨日の道具屋の主人がいた。

俺は何気なく道具屋に近寄っていく。

「おはようございます、旦那様。」

「おはよう。屋敷の床を磨きたいのだが、良い道具はあるかな。」

「へい、もちろんです。どうぞ店内に、ご案内いたします。」


板材の磨き粉と作業用の布きれを買った。これで魔法陣は綺麗に消えるだろう。

「旦那様。先程は王城から出てこられたようですが。」

「ああ、国王陛下への謁見を申請していたのだが、今朝、門番の衛兵から国王不在と言われたのでね。聴いていたかい?」

「いいえ、私は聞いておりません。ですが、先ほどから道の方からそのような事を話す声が聞こえてきまして。」

「そうか。私は城内に入り、城の中でも確認しようとしたが、人と会うこともなくてね。どうやら国王陛下とは会えそうも無いな。」

「それは、残念でしたね。ですが、良かったのかもしれませんよ。」

「ほう。なぜだね。」

「いえね。この国が内戦でしたでしょ。新しい国王様は昨年の秋ごろに国王になったんですが、全然姿を見せず、何も仕事をしていないって話だったんですよ。

今年は新年のお言葉もありませんでしたからね。

きっと、旦那様がお会いになられても、儲け話はできなかったでしょうね。」

「そうか。ありがとう、帰って床を磨くよ。」

「へい、またよろしく。」



「城の様子はどうじゃった、ファルス。」

「人が居なくなっている。俺と話していた門番の衛兵も去った。いずれ盗賊にも入られそうだ。」

「それは、ひどいな。」

「人の問題は昨日今日の話じゃないな。昨夜の暗殺部隊の騒動があったのかどうかも判らなかったよ。」

「なんじゃ、収穫なしか。ファルス。」

「床の磨き粉を買ってきた。魔法陣を綺麗に消そう。アレク達は?レギウス村に戻ったのか?」

「アレク達は冒険者ギルドじゃ。昨日の報告をして、報酬を貰ってくるそうじゃ。」

「そうか。」


「しかし、城内はそれほど人がいなかったのじゃな。では人が隠れられる部屋もある訳じゃな。」

「そうだな。ああ、暗殺部隊は城内に潜んでいるのか。」

「うむ。奴らの行動を考えたのじゃ。暗殺を決意して王城に乗り込むが国王は寝室にいない。王妃もいない。

おそらく執務室なども確認するじゃろう。

だが、何処にもいない。

国王夫妻は外出しているのか、何処に行ったのか、いつ戻って来るのか。

これは誰かに確認しないとわからない。

戻るか?城内に潜むか?

戻ると決めた場合、転送の魔法陣が使えないと分かる。

これでは城門から出るしか方法が無い。

奴らはまだ、王城内に潜んでいるとは思わないか。ファルス。」

「考えられるな。そして、城内の人間に接触して、国王夫妻の誘拐、またはイの国への逃亡、の話を聞くだろうな。」

「ん?誘拐ではなく、逃亡の話もあるのか。」

「ああ、城門の衛兵の話だが、3人の付き人もいなくなった事で、逃亡の噂も出たようだ。」

「そうなのか。」

「ビクター伯爵。いや、若きビクター家当主はどうでるかな。国王の座につくと思うか?」

「若いゆえに座るかもしれんな。周りにいる6人の男達次第じゃろう。

さて、どうする? 床を磨くのか?ファルス。」

「いいや、報告書を作ってしまうよ。今夜の夕食後にマクレガー村長と話したい。」

「なら、茶を淹れてやろう。」



昼食前にアレク達が冒険者ギルドから戻ってきた。

ギルド職員と一緒だ。

「すみません、お邪魔します。」

「やぁ、いらっしゃい。昨日も来たね。今日は何の御用かな。」

「あははは、毎日すみません。今日は、こちらのシャトフさんから、屋敷に転送の魔法陣があって、昨夜何者かに侵入されたと聞きまして、それの確認に参りました。」

「ギルドで盗賊退治の話もして、昨夜の話になってな。これは屋敷を売ったギルド側の確認不足ではないか、となったんだ。」

「なるほど。では、魔法陣をご覧になりますか。」


綺麗に掃除する前で良かった。

俺たちは大広間の転送の魔法陣を見せ、昨夜の出来事を話した。

(アレク、ここからビクターの屋敷に俺たちが飛んだことは話したか?)

(いや、話していない。)

(よし、その話はするな。)


「つまり、昨夜、突然7人の男達が現れ、消えた。原因を探って絨毯をめくると魔法陣があったので、使えないように一部だけ消した、という訳ですね。」

「そうだ。」

「あちらの小さな魔法陣は?」

「不明だが、あの大きさでは一度に7人の転送は無理だ。なので昨夜使われた魔法陣では無いと判断し、残してある。」

「7人の男の確認はどうやって?見ましたか?」

「見てはいないな。留守番の者が探知の魔法で人数を確認した。

留守番2人に対し侵入者が7人だったので、彼女達は相手の確認より身の安全を優先させ避難した。」

「なるほど。」

職員の彼女は手元の紙束に状況を書き込んでいく。

2枚の木の板の間に紙を挟み、穴を開けて紐で留めているのか、良く出来ている。

インクつぼは腰帯に装着していて、ペンは腰と紙束の間を行き来する。

足元の床に、いくつかの黒いしみができているな。


「では、その男達が何者かは判らなかったのですね。」

「そうだな。しかし、この屋敷の隠された魔法陣を使ったのだ。この屋敷の元主人、ビクター伯爵家の者たちだろう。」

「ああ、そうですね。」

「もし、そう名乗るものが現れて、この屋敷は伯爵家の物だから返せ、と言ってきた場合は、冒険者ギルドが対応してくれるのか?」

「ええ、その場合は、私どもで対応させていただきます。

昨夜の侵入者ですが、他に壊されたような物とかはございませんか。」

「それは無いな。」

「そうですか。」

彼女は床にしゃがみこみ、魔法陣に指先を触れた。

「古い物ですね。」

「ああ、一部は板に染み込んでいる。昨夜の内に掃除してしまうつもりだったが、時間が掛かるのであきらめたよ。」

「そうですか、わかりました。」


ギルド長に報告しておきます。と言って彼女は帰っていった。


「あの表情は信じていないようだな。」

「証拠が魔法陣だけ、侵入者は痕跡無し、俺たちが話を作っただけって可能性があるな。」

「むぅぅ。なるほど、反論できないな。なんで、俺たちがビクター家を確認した話はしなかったんだ?」

「この魔法陣ではなく、ナンドゥール製の複製だ。それこそ、俺たちが騙している様に見えないか?」

「そうか。」


アレク達と一緒に、俺たちはレギウス村に戻った。


次回104話「屋敷を売る」

金貨500枚。安売りするとリサに怒られます。


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