102話 謎の転移者たち
ファルスがジャミル達と別れる少し前。
王都近郊、南方の村。
「アレク班長、前方300に屋敷があります。屋敷の中に7人。」
「よし、道を外れて木の陰を移動しよう。」
「了解。」
盗賊退治に向かったアレク、マルビン、ベンソンの3人は道から外れて草地の奥にある木立に向かった。
商隊護衛任務を合同受注していた冒険者パーティーとは別れているので3人だけだ。
彼らにしてみれば、危険度の割りに報酬が少ない盗賊退治を進んでやる気にはならず、アレク達を奇異の目で見送っていた。
一方のアレク達は、荷馬車の隣を歩いているだけで終わった護衛任務が物足りず、身体を少し動かしたいと思ったのだ。
目的の貴族の館は村の集落から外れた森林との境に建つ。
周囲に人家はない。
かなり迷ったが、なんとか見つけることが出来た。
「今夜は明るいですね。」
「月が3個揃っているからな。」
「我々の格好、目立つかもしれませんね。」
白いボディスーツに灰色のマント。
確かに木の陰とはいえ、月明かりに照らされれば目に付くだろう。
「もっと色の濃いマントや普通の服装も必要だな。まぁ今回はしかたない。」
3人が歩いている木立は屋敷の石壁まで続き、屋敷の庭に忍び込める。
葉の落ちた木の陰を移動して、屋敷の石壁まで辿り着いた。
「この塀を越えますか。」
「ここは、飛んでも良いですよね。」
「いや、この高さなら行けるだろう。俺がロープを持って侵入するから、二人で持ち上げてくれ。
その後に二人はロープを伝って登ってこい。」
「了解。」
3人は今回の行動目標の一つに"飛行禁止で目的地に到着"を挙げていた。
「よし、なんとか侵入に成功したな。」
「気付かれなくてよかったです。」
「奴らは1階の部屋に集合してますね。あの角の向こう側です。」
「足音に注意して、窓に接近しよう。中の会話が聞きたい。」
身を屈め、ゆっくりと壁際に接近し、壁伝いに目的の部屋の窓に接近する。
窓からは明かりが漏れている。
アレクが窓の横手から部屋の中を覗き込んだ。
(男達が居る。武装しているな。部屋の中央に杖を持った、あれは少年か?何か話しているな。)
(声が聞こえます。"いよいよ今夜、我々の復讐の時だ。"、と言ってますね。)
(復讐?盗賊ではないのか。)
(あ、"行くぞ"、と声を掛けました。)
(男達が少年の周りに集まっている。あっ、何だ! 消えたぞ。)
(検知からも消えました。班長、これは転移ですよ。)
(そうだな。だが、どこに行ったんだ。)
■■■
「むー。さすがに眠くなってきた~。」
「2348。もう少しで合流時間だから、頑張らないと。2415ぐらいにクリスさんに連絡するから、その後で寝ようよ。」
「そうだね、そうしよう。」
シャーリーとロッテは屋敷の食堂でお留守番だ。
夜になって明かりが点いていないと、不審がられますよね?と言ったのは誰だったっけ?
とんだ貧乏くじであった。
ザワッ
その時、屋敷の中のどこかで、何かの気配がした。
二人は顔を見合わせ、静かに椅子から立ち上がる。
(シャーリー、大広間に反応、7人です。)
(明かりはそのまま、裏口から外へ出よう。)
(はい。)
二人は素早く食堂から支度部屋に通じる内扉を開けて、炊事場から外へ出た。
シャーリーが上を指差し、二人は飛び上がり、屋根に降りる。
(さて、どうしよう。)
(大広間にいきなり現れました。転送の魔法陣を使ったのでしょうね。)
(ビクター家か、王城地下から来たのか。相手の正体を確認しないと。)
(人数が不利ですよ。)
(部屋から出た。)
(明かりが点いてますから、屋敷に人間が居ると考えての捜索でしょう。)
(捜索は2人、大広間に5人。ん?捜索隊が部屋に戻る。)
(もしかして、ここは中継地でしょうか?)
(ああ、ビクター家から王城地下へ行くのか、またはその逆。)
(ほら、大広間に7人揃って固まりました。あっ。)
(消えた。)
二人は食堂に戻った。
玄関ホール側の扉が開いているが、卓上の皿やカップはそのままだ。
大広間は暗く、静かだった。
「どうしよう?」
「2352。うーん、2410にクリスさんに連絡しましょう。」
「そうね。」
二人は椅子に座り、カードを再開した。
■■■
「二人とも、無事か!」
「私達は無事ですよ。屋敷も荒らされていません。」
「連絡は受けておったが、この目で確認しないと安心できんからな。ファルスは心配性じゃから。」
「高速飛行でぶっ飛んだのは、クリスだぞ。」
「ファルスもしっかり追い付いたではないか。」
俺とクリスはロッテからの連絡を受け、急ぎ屋敷に戻ってきた。
「さて、元の持ち主が使う可能性を考えていなかったのは、反省点として、どうしたものか。」
「魔法陣を消すか? ファルス。」
「うーん。それぞれの転移先に興味があるし、誰が使ったのかも知りたいものだ。」
「しかし、うちらがいない間に勝手に出入りされる可能性がある。それは面白くないぞ。ファルス。」
「リサかサイモンは起きているかな? 魔法陣の一部を消せば、効果はなくなるかもな。」
「それならば、昼間サイモン達が魔法陣をスキャンしておる。再現は可能じゃな。」
「そうだな。」
絨毯をめくり、食堂を掃除した時の雑巾を使って魔法陣の四分の一程を拭き消した。
「後片付けは明日だ。今夜は寝よう。」
俺たちは食堂の明かりを消し、転送門からレギウス村に戻った。
屋敷のベッドより寝ごごちの良いベッドと個人ポッドで眠る為だ。
◇
翌朝、カッシーニ81の食堂で朝食を食べながら、リサに事の顛末を話した。
シャーリーとロッテにサイモンも同じテーブルにいる。
「そうですね。これだけ魔法陣を消去すれば、魔法陣としては起動しませんね。」
左腕の情報パネルで俺が最後に写した魔法陣の状況を確認してもらう。
「で、誰が使ったんでしょう。元の持ち主、ですか?」
「ヨアヒム=フォン=ビクター伯爵という名前だ。今はそれしか判っていない。」
「移動の方向も気になりますね。王城か、屋敷か、どちらへ行ったのかが問題ですよ。」
「王城へ行ったとしたら、帰る時も使いますよね。でも、魔法陣は動かない。」
「動かない理由を探りに、また屋敷に来る?」
「今日も屋敷で待ってみるか。」
■■■
王都近郊、南方の村、早朝。
「アレク班長、奴らは戻ってきませんでしたね。」
「屋敷の中は荒らされていて、目ぼしい手がかりも無いですね。」
「これ以上は無駄だろう。王都の屋敷に戻る。」
■■■
さすがに今日は客が来るかどうかも判らない。
なので、今日の留守番は俺とクリスだけだ。
「アレク達は戻って来てないな。」
「む、やつらが戻ってきても、今日はカードは無しじゃ、ファルス。」
「・・・クリスの淹れた茶は美味しいな。」
「そうじゃろう。オの都でも人気の茶葉じゃぞ。」
外政官の館で寝たクリスは、ここで自分の分の朝食を作り、俺には茶を淹れてくれた。
「しかし、一日中屋敷にいるのも暇だろう。何をしようか。」
「屋敷の整備をしても良いが、これをどうする? 売るか?使うか?今後のウの国での活動方針も決めなくてはならんぞ、ファルス。」
「そうだな。」
少し、整理するか。
「国王不在の状況だと、物品の売買は無いな。春まではクッションの販売をオの都で展開するだろう。その次はエの国だ。もっとも、こちらも貴族制廃止の影響でどうなるか。
いっそ、オの国に集中するか。人員も少ないからな。」
「春まではそれでも良いじゃろう。しかし、貴族制が廃止になろうと皆、腹は減る。春以降は物は売れるぞ。ファルス。」
「そうだな。馬車用の転送の魔法陣も出来るだろうし、今年はレギウス村の麦粉も売りたいな。」
「麦粉は夏の終わり頃まで待たないとな。昨年の蓄えがどれ程余るか判らん状況では外に出せない、とマクレガー村長も言っておったぞ。」
「マクレガー村長か。そうだ、ウの国の現在の状況を村の代表に話すべきだろうか。マクレガー村長に相談するか。」
「うむ。村人たちも気になっている者もおろう。もしかすると、元の村に帰りたがる者もでるかもしれんぞ。ファルス。」
「そうだな。」
彼らが居た土地には新しい入植者が入っている。
戻っても、元の生活に戻れるとは限らない。
しかし、それは彼らに情報を伝えない理由にはならない。
選択するのは彼らだ。
ドンドンドン
屋敷の扉が叩かれた。
(ファルス、屋敷に着いた。いるか?)
(今、開ける。)
アレクたちが帰ってきた。
◇
「良い匂いだ。俺たちの分の朝食はあるか?」
「無い。肉を提供するならば、サンドイッチを作ってやるぞ。アレク。」
「あれ?二人だけか。他の皆は。」
「今日はカッシーニ81だ。」
「そうか。今回はギルドの依頼と、帰りは盗賊退治だったから、狩りはしてないんだよ。」
「班長、以前に狩った鳥を持ってます。」
「助かる、ベンソン。」
「では、肉を焼いてくるか。ファルス、ベンソンから鳥を貰っておいてくれ。」
「え?この鳥を使うのではないのですか?」
「鳥を捌く手間が掛かるからな。」
「ああ、なるほど。」
「盗賊退治はどうだったんだ。」
「屋敷に到着し、中に居ることは確認したのだが、逃げられた。」
「逃げられた?何かあったのか?」
「屋敷の床に転送の魔法陣と思われるものが描かれていた。7人の男達が目の前から消えたよ。」
「7人の男。それは何時の事だ?」
「ん、2350頃だな。」
「合うな。アレク、そいつらの転移先はこの屋敷だ。」
「何!? ここに現れたのか。」
「そうだ。そして、ここからさらに転移した。目的地は王城地下だ。」
「カン外政官、奴らは移動前に、復讐の時は来た、と言ってました。」
「復讐。すると、奴らは貴族の生き残りで、狙いは国王か。」
「しかし、国王はもういないのだろう?」
「ああ、昨夜イの国へ向かった。盗賊団、いや暗殺部隊の連中は城の中を探し回ったのか。」
「まずは、リサとサイモンに魔法陣を修復してもらうか。アレクが見た屋敷と転送先の屋敷が一緒か確かめないとな。」
◇
石筆での魔法陣の修復は難しいので、ナンドゥールが魔法陣の複製をプラスチックシートに印刷した。
サイズは直径2mと小さく、2人か3人が同時に転移できるサイズだ。
起動用の魔石を中央の円に置けば転移する。
リサは、馬車用転送魔法陣を作るので手が離せない、と言い、俺にその複製と魔石を手渡し、制作室に戻ってしまった。
◇
「なんだ、リサさんは一緒じゃないのか。」
「すまんな、アレク。」
俺とアレクが転移し、この魔法陣の転送先が昨夜アレク達がいた貴族の屋敷、ビクター家である事を確認した。
屋敷の床に描かれた魔法陣は、起動しなかった。
そうだろう、鍵となる杖を持っていないからな。
リサから渡された魔石は転送元の魔法陣の中央にあるはずだ。
帰りはアレクと共に王都に向けて飛ぶことになった。
次回103話「王城の様子」
転移者たちは王城にいるのでしょうか?




