100話 ファルスの推理
道具屋を出た俺は皆に状況報告をする。
(全員へ通達。今朝、捜索隊が王城を出たことを確認した。)
(了解。)
(こちらアレク。冒険者ギルドは平穏。いつもの朝だ。俺たち3人は隣村までの商隊護衛任務に参加する。戻りは夜の予定だ。)
(なに? 王都を離れるのか。)
(そうなるな。まぁ問題ないだろう。)
(わかった。)
◇
俺も冒険者ギルドに顔を出す。
依頼板を確認するが、半分以上は空きスペースとなっている。
王都での依頼なので商隊護衛や屋敷の警護などが多い。
ゴブリン退治や動物の捕獲などは無いようだ。
続いて家の案内板も見る。
金貨100枚までの家や簡素な屋敷もある。
「あら、昨日お屋敷を買われてましたよね。」
職員のひとりが話しかけてきた。
「ああ、いい屋敷を案内して貰ったんで、その場で決めたんだが、少し広すぎたようだ。
買い換えるかもしれない。」
「まぁ。あのお屋敷は主人の貴族が地方領主で不在だったので、荒らされる事もなく入手した超優良物件ですよ。本当に良いお屋敷なので、買い換えるのはお勧めしませんけど。」
「そうか。」
「そうですよ。他の屋敷は貴族が立て篭もったり、抵抗したりで、手直ししないといけない屋敷が多いですから。それに住み慣れれば良さも分かります。」
「なるほど、早計は控えよう。」
「はい。」
「今日は受注できそうなクエストも無いようだし、屋敷に戻るよ。」
「お仲間さんは商隊護衛任務に参加されてましたよ。
Dランク対象の依頼は近隣の村からの依頼がありますけど、朝の内に取られちゃいますから、朝の早い時間にお越しくださいね。」
「わかった。ありがとう。」
◇
屋敷へ戻るとクリスとロッテの姿がなかった。
(クリス、聞こえるか?屋敷に戻ったぞ。)
(おかえり、ファルス。うちとロッテは地下室におるぞ。片付けているから、もう少し時間が掛かるな。)
(わかった。)
先ほどのギルド職員の話だと、この屋敷は主人が不在だったという。
屋敷の明け渡しは使用人達が行ったのだろう。
彼らはそのまま解雇となったのだろうか。
2階の部屋、ドレスや書斎がそのままなのも納得だ。
その他にも、そのままの物があるかもな。
俺は2階の書斎に入った。
紺色の絨毯が敷かれた床。
扉の左手横に1台と寝室側の壁に2台の本棚があり、様々な本や書物が並んでいる。
扉に対面する壁には窓があり、その前には机と椅子。机の前には来客用の椅子が1脚。
扉の右手の壁には前庭に面した窓がある。
主人が何かを隠すとしたら、どこだろう?
机の中。
絨毯下に板が外れる細工がしてある。
本棚の本の中。
寝室側の壁に隠し場所があるとしたら、2台の本棚の横、机の横は壁板が見えている。
この部屋は右側にスペースがある。
床か天井の板ははずれるだろうか?
まずは机の中だな。
俺は昼食の連絡がくるまで、部屋中を探し回った。
◇
リサとシャーリーが買い物から戻り、昼食はパンと鶏肉のスープだ。
「ファルス。そんな事をしておったのか。」
「全く、あきれますね。」
「クリス、秘密の地下室があるかも知れないぞ。」
「む。」
「さすがに地下室は使用人たちが知っているでしょう。あっても何もありませんよ。」
「そうじゃな。最後に片付けたのは使用人たちじゃ。価値がある物やすぐに売れる様なものは持ち出しておるじゃろ。」
「でも、そうだとすると、カン外政官の考えは良いと思いますよ。あるとすれば使用人も知らない主人の隠し財産でしょう。」
「使用人にばれずに主人が物を隠す。ならば書斎か。なるほど。」
「でも使用人たちも、そう考えますよね。書斎は探索済みではないですか。」
「そうだなぁ。」
「そもそも何を隠しますか?お金は使用人に渡すでしょうし、自分の分は領地に持って帰りますよ。」
「奥方も宝石の類は持ち帰るじゃろう。」
「貴重品で無いとすると、情報、ですか。」
「何らかの秘密を書き記したメモ、書類、手紙、といった物ですね。」
「まだ、本棚は調べていない。」
「ほう。」
◇
昼食後は俺とクリスにロッテの3人が書斎の探索。リサとシャーリーは応接室と大広間の探索だ。
仮に隠し部屋や地下室があれば知っておきたいものだしな。
そんな事をしていると、屋敷の扉を叩く音がした。
書斎の窓から下を見れば、この屋敷に案内してくれた冒険者ギルドの女性職員と城の衛兵が4人、扉の前に居る。
「今開ける。」
俺は声を掛け、下へと降りていく。
シャーリーが扉を開け、彼らを出迎えていた。
「やあ、いらっしゃい。」
「あなたが、こちらの主人かね。」
「主人ではないが、このメンバーのリーダーを務めている。ファルス=カンだ。」
「私は城の衛兵をしているゴメス=バッサムという。突然で申し訳ないが、屋敷の中を検めさせていただく。」
「それは構わないが。何かあったのか?」
「すまんが、それには答えられん。」
「そうか。まぁ好きなだけ見てくれ。俺たちも昨日から住み始めたばかりだが。」
「そのようだな。」
「ん?ああ、ギルドの職員さんに聞いたのか。」
「そうだ。この屋敷には何人いる?」
「今は5人だ。3人が冒険者ギルドで仕事を受注して外出中だ。」
「では、全員をここに集めてくれないか。」
「やれやれ。シャーリー、すまないが2階のクリス達に声をかけてくれ。」
「その必要は無い。」
クリスとロッテが階段を降りてくる。リサも大広間から出てきた。
「突然の来客だからな。気になって聞いていたぞ。」
ゴメスが俺たちを確認する。
「女ばかりか。では、屋敷の中を調べさせてもらう。案内は必要ない。」
「どうぞ。」
衛兵達は2人づつ左右に分かれた。
まずは下から調べるようだ。
「間取りは知っているようだな。」
「すみません。先程ギルドに来まして、あなた達が昨日買われた屋敷に案内しろといわれたものですから。」
「まぁ、こちらは問題ない。それより、持ち主だった貴族に問題でもあったのか?」
「すみません。彼らは理由をはっきり言わないんですよ。」
「そうか。」
「うちらはここに居ないといけないのか?」
「人数確認したから、もう良いでしょう。動くなとは言ってませんでしたよ。」
クリス達は、元の部屋に戻っていった。
1階の部屋を調べ終えた衛兵達は、バタバタと足音をたて、次は2階に上がっていく。
客間を調べ、俺たちがひっくり返している書斎も確認し、階段を降りてきた。
ゴメスは手にした紙を見ている。
「この屋敷には地下室があるな。」
「ああ、食料貯蔵庫だ。入口は裏にある。」
「うむ。」
彼らはバタバタと調理場を抜けて裏庭へと出て行った。
「彼らには離れがあることも伝えているのか?」
「はい、ギルドにあったこの屋敷の間取り図を渡してますので。」
「そうか。じゃあ、問題ないな。
ところで、この屋敷には間取り図に描かれていない隠し部屋や地下室はないのか?」
「え? い、いえ、私は知りませんが。あるんですか?」
「いや、これだけ大きな屋敷だからな。あれば面白いと思ったんだ。」
「そうですか。」
「この屋敷の持ち主だった貴族については知っているか?」
「ビクター伯爵です。南の村の領主様としか知らないです。すいません。」
「そうか。ビクター伯爵か。」
書斎の机の中を調べた時に見た名前だ。ヨアヒム=フォン=ビクターというサインが複数の書類に記されていた。
リサが大広間から出てきた。
笑顔だ。
「どうした、リサ。良いものでも見つけたか?」
「ふふふ、まだ内緒ですよ。」
足取りも軽く、階段を上がっていく。
「お待たせしました。お茶を淹れましたから、こちらでお待ちになりませんか。」
シャーリーが応接室の扉を開けて、俺たちに声を掛けてきた。
「すまない、立たせたままだった。」
「いいえ、すいません。お気を使わせてしまって。」
捜索隊の検分はそれから20分程で終わり、彼らは引き上げて行った。
◇
「ではでは、皆さん、大広間へどうぞー。」
「リサ、その手に持っている杖はなんだ。」
「これは鍵です。」
「鍵?」
リサの案内で大広間に行く。
この部屋は3部屋分の広さがあり、床には模様の描かれた絨毯が敷かれ、壁際に複数のソファと小テーブルが置かれている。
「さて、問題です。隠された部屋に行く場合、どうやって行くでしょうか。」
「それは、隠された通路や扉を開けて行くのだろう。」
「いや、待て、ファルス。そうか、転送するのじゃな。リサ。」
「あったりー。さて、この絨毯の模様ですけど、中央のこの部分を見て下さい。円が描かれています。そして、円の中は少し窪んでいます。
綺麗に円の中だけ、窪んでいます。
そして、寝室の衣裳部屋にあった、この杖。杖の頭に飾られているのは、風の魔石です。
この杖をこの円の中に立てれば、隠し部屋に転送しますよ。」
「待て、リサ。転送先は隠し部屋なのか?領地の屋敷とかの可能性もあるだろう。」
「あー、その可能性もありますね。」
「この絨毯の模様が魔法陣なのか?これを解析すれば転送先が分かるか?」
「うーん、この模様はカモフラージュですね。それに、所々傷んで模様が掠れています。
おそらく、本来の魔法陣は絨毯の下に描かれていると思いますよ。」
「よし、絨毯をはがそう。」
「あっ!リサ、こっちにも円があって、真ん中が窪んでいるよ。」
「え、もしかして目的地別に複数あるとか?」
「よし、絨毯を全部はがそう。」
床には3つの魔法陣が描かれていた。
次回101話「街道を南へ」
ジャミルとテレーザを見送ります。




