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第四惑星  作者: ブルーベリージャム
第一章 惑星開発
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1話 惑星開発

レギウス歴1061年。

レギウス本星系から180光年離れた恒星系1033-1の第四惑星近傍宙域。

そこに俺たちの輸送船団61554部隊は、惑星開発部隊の開発基地設営の為に駐留していた。


今回の開発対象の第四惑星は両極部に氷の堆積部があるものの海を持たない惑星だ。

大気があり、平均気温はマイナス60度前後とやや低い。

開発部隊は第四惑星の両極2か所と赤道上の4か所に自転制御装置を埋設し、惑星上の各所にナノマシン発生機を設置した。


第四惑星上空には3つの月が浮かんでいる。

惑星開発部隊はその1つ、直径3200kmの月に開発基地を設営した。

第四惑星を巡る軌道が円に近い為だ。

この月面基地から第四惑星上に散布されるナノマシンを操作し、惑星開発を進めて行く。


惑星開発の期間は約10年。

10年後に人類居住可能環境が整う予定だ。

だが、惑星開発計画の発足から80年。

今回が6星目の開発対象になるが、未だ成功例は無い。


我々レギウス星人は20を超える星系に進出し、小惑星を利用した基地建設技術は確立されている。

今回の月面基地の様に地表下500mの地点に高さ100m、2000m四方の空間を作る。

この人工空間を複数作成し連結することで、最大10万人の都市を形成することができる。

惑星開発計画は、この人工空間の生活環境生成・維持技術を基に惑星規模の開発を目指しているのだ。



120日間の設営期間が過ぎた。

月面基地の設営、惑星上への自転制御装置とナノマシン発生機の設置作業、初回のナノマシン散布の確認をしたところで、惑星開発部隊員42名を残し、俺たちの輸送船団は第四惑星近傍宙域を離れ、レギウス本星系への帰途に就いた。

今後は2年毎の定期船による物資補給と人員交代となる。


40時間後。

輸送船団5隻は恒星系外縁部宙域に到達した。

恒星系内航行は宇宙船に搭載されている重力子機関の制御航法で巡航するが、恒星系間移動にはジャンプゲートを利用する。

ジャンプゲートは重力子機関の応用技術により、直径3000mの空間を出入口としたジャンプ空間を創出している。

入口から入れば、対となる出口から時間差無しで出て行ける。

レギウス本星系到達までには、レギウス第八星系などの3つの恒星系を経由しなければならない。


1番艦がジャンプゲートへ向かっている。

5分後の1110(ヒトヒトヒトマル)にジャンプ予定だ。

我が艦は4番艦だ。

1艦あたり10分間隔でのジャンプゲート通過が義務付けられているため、1135(ヒトヒトサンゴ)まで待機して1140(ヒトヒトヨンマル)にジャンプゲートを通過する。


4番艦カッシーニ81。

船体は直径110m、全長820mの円筒形をしている。

主操縦士および航法担当が俺、ファルス=カン大尉(32)の担当だ。

隣席に副操縦士および機関担当のホーク中尉(28)。

後席に通信および船外環境担当のリサ=メンフィス少尉(22)。

そして船内環境担当を兼務する副艦長のエディ=マーカス中佐(48)。

船体中央に位置する中央指令室内には今はこの第二司令部部員4名が居る。

艦長以下の第一指令部部員4名はこの時間は第三勤務で乗員区画内の個人用ポッドで休息中だ。

他に甲板長以下甲板部員23名を含めた計31名がカッシーニ81の乗員だ。


「本艦は30分後にジャンプゲートを通過する。各員待機せよ。」

副艦長のマーカスが艦内放送での通達をする。

もっとも、乗員たちはボディスーツ左腕に装備されている情報パネルにより現状確認ができるのだが、この様な艦長通達は慣例というやつだ。

ちなみに右腕には装着者の体内情報パネル、いわゆる”健康チェック”が装備されている。

ジャンプゲート通過時は中央指令室内の4人を除いた乗員全員が個人用ポッド内での待機状態となり、艦内各所の機密隔壁も閉鎖され、万一の事態に備えている。


『1番艦がジャンプゲートを通過します。2番艦が移動を開始しました。』

中央管理コンピューターのアナウンス音声が中央指令室内に流れる。


俺はジャンプ先のレギウス第八星系の星系図を呼び出した。

レギウス第八星系外縁部には4つのジャンプゲートが設置されている。

この恒星系1033-1用に新設されたジャンプゲートから次のジャンプゲートまでは約3時間の航行が必要だ。


隣席のホークは星系図を見ている。

恒星系1033-1の星系図は作成中の状態だ。

最初期の恒星系探索機とジャンプゲート設営部隊が放った恒星系内探査機12機が現在も探査データを更新している。

惑星開発部隊の月面基地からの情報でも補完されて行くだろう。

恒星系内の惑星や小惑星ベルトの分析も行われ、数年後には恒星系開発部隊が乗り込んできて恒星系内の資源採掘が始まる。


『2番艦がジャンプゲートを通過します。3番艦が移動を開始しました。』

中央管理コンピューターのアナウンス音声が中央指令室内に流れる。


「異常重力波検知!」

後席からリサの声が響く。

指令室内のスクリーンに赤い注意表記と警告表示が次々に表示されていく。

「2番艦が爆発!?したのか?」

前面大型スクリーンに表示されていたジャンプゲート設置空域。

その中央に2番艦の船体と周囲に広がるガス塊が見える。

おそらく船体部品が拡散しているのだろう。


「船体反転。恒星系内に退避します。」

俺は即座に声を掛け、船体操作パネルに指示を打ち込み始める。

「承認する。3番艦、5番艦にも通知!」

「はい、3番艦、5番艦に通知します。」

「重力子機関、星系内航行レベルに遷移。」

「緊急通達、総員退艦準備!」

副艦長の艦内放送が響く。左腕の情報端末にも表示がされた。

この情報発信と共に乗員たちの個人用ポッドは船内を移動し、艦外周部にある脱出艇に収納される。

脱出艇は定員10名、本艦には10隻が外部装甲下に格納されている。

尚、”総員退艦準備”との指令だが、この総員の中に中央司令室内の4人は含まれていない。

中央指令室と隣接するコンピュータルームは船体中央に位置し、船内では一番頑丈で安全な区画になっている。

なので、最後まで面倒を見ろ。という訳である。


俺たちはジャンプゲートでの事故発生時のマニュアルに沿って緊急退避行動に移った。

マニュアルが正しければ、この後ジャンプゲートは小型ブラックホールになる。

飲み込まれる前に離れなければならない。


なぜ、”マニュアルが正しければ”、なのか。

宇宙船の爆発事故や行方不明は過去に何度も起きている。

だが、ジャンプゲートでの爆発事故なんて過去に発生していないからだ。


前面大型スクリーンのジャンプゲート転送空間が波打っている様にみえる。

それらが渦を巻くように徐々に変形していく。

中央に見えていた2番艦の姿は、もう無い。

ジャンプゲート周辺には、ジャンプゲート制御装置が12基設置されていた。

円状に配置されジャンプゲートを安定稼働させていたのだが、それらの位置情報が動いて行く。

ジャンプゲートは確実にブラックホールへと変化していく。

どうやら緊急マニュアルは正しかったようだ。


「ホーク!機関出力を140%まで上げろ!」

俺はホークに叫ぶ。

船体は恒星系内に向けて反転中だ。

180度回頭には4分掛かる。

恒星系内に退避すると言ったが、距離と時間を稼ぐなら恒星系外縁部を最大船速で走る方が良い。

航法スクリーンに表示されている恒星系内への退避ルートを消して、過去に恒星系外縁部を進んだ探査プロープの軌跡を表示する。

「ファルス大尉!どこへ行くつもりだ!」

副艦長が問い質す。

「逃げます。」

俺は短く答えて、重力子推力レバーを最奥まで押し込む。

「3番艦、信号途絶!」

リサの報告の声は悲鳴に近い。

俺たちよりジャンプゲートに接近していた3番艦が犠牲になった様だ。

「10SS(恒星系内運航速度)加速に入ります!」

「待て!艦内重力制御は4SS加速まで、」

10SS加速による衝撃が船体を軋ませる。

俺たちの身体もシートに押さえ付けられた。

艦内モニターの警告表示が増える。


10秒だ。10秒の加速を行えれば、安全圏に逃げられるはずだ。


前面大型スクリーンに映るジャンプゲートだった空間。

そこが強く光を放ち始め、俺の視界を白く染めた。


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