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閑話:神咲 瑠花 ④


そこからの展開は早かった。


時任くんが一方的に痛めつけられているのを見ていることしかできない私たち。


自分の無力さに嘆いていると急に時任くんが呻き出した。私たちが慌てている瞬間に、カマキリの頭が無くなりそのままカマキリは倒れ伏した。


突然のできごとで呆然としていたが、時任くんが倒れそうになり咄嗟に体が動く。


「っ大丈夫!?時任くん!」


さっきまで全く動かなかった体だけど、恐怖の象徴がいなくなった瞬間動けるようになるなんて、自分のことながらなかなか現金な体だなと思う。


なんてくだらないこと考えてる場合じゃない。私が一番言いたかったことがまだ言えてない!


「ありがとう…そしてごめんなさい…ぐすっ」


「うちらあんたに酷いことしてたのに…ひっくっ」


しっかりした力強い言葉できちんと感謝と謝罪をしたいのに、涙が溢れて止まらない…


そんな私たちの謝罪に時任くんは困ったような表情だ。確かにいまさら謝られてもだよね…


でもたとえ今は許されなくてもいつか許してもらえるように何度でも謝ろう。


「とりあえずそれは後だ。まずはこのダンジョンを出よう。」


「「うんっ」」




◇◆◇




あの後、私たちは時任くんに散々謝りつつ、…いじめに至った経緯を話した。


しかし謝っただけ。おそらく時任くんは許してくれていない。なぜなら私たちの謝罪を聞いているときの時任くんはどこか上の空だったからだ。


でも、それはまだダンジョンの中にいて私たちの謝罪を聞く余裕が無かっただけ…かもしれないという希望に縋るため、ダンジョンから出たいまもう一度謝罪する。許して貰えなくてもせめて謝罪する心を知って欲しい。


「「今までごめんなさい!!」」


誠心誠意謝罪した。しかし時任くんの反応は微妙である。


「いや、もういいんだ。それより早く家に帰りたい。」


…この場にいれば、これを字面通りに受け取るバカはおそらくいないだろう。それほどまでに時任くんの興味は私たちに向いてなかった。


確かに許されないことは覚悟していた。でもここまで深い溝があるとは思わなかった…。


ここまで心を傷つけて、その果てには私の失態のせいで身体までも傷つけてしまった…私はなんて……


私が俯き苦悩していると横で有栖が声をあげた。


「時任っ!!?」


その声で顔を上げると時任くんが倒れ伏していた。あんなに満身創痍だったのだ。なぜ、真っ先に救急車を呼ばなかったのだろう。と冷静に考えている横で有栖が慌てながら救急車を呼んでいた。


数分後、救急車がやってきて時任くんは運ばれていった。それを見送ったあと、私たちもそれぞれ家に帰った。




◇◆◇




そして現在に至るというわけである。


私は後悔の記憶を思い返してはどうすれば許してくれるだろうと、繰り返す自問自答の中である一つの答えにたどり着いた。


そもそも、許してくれと思うことこそ傲慢なのではないだろうか。


謝罪とは一見、相手の怒りを鎮めるための行為に思えるが、行き過ぎた謝罪はもはや謝罪することによって自分は謝ったんだ、と自己満足するための行為にも思える。


そんな答えにたどりついた私は一つのことを決心する。


もう謝罪はしない。けれども罪を償いたい。だから私は彼に影から尽くし、支えることにした。


これだって一種の自己満足なのかもしれない。けれども、なにもしないことはできない。


それに、これ以上彼にウジウジしているところを見られたくない。


なによりーー


「時任くんから離れたくない…」


そんな呟きが無意識に私の口から漏れていた。


意識下でも無意識の中でも時任くんのことで頭がいっぱいになっていることに気づき一瞬で顔が真っ赤になる。


「姉さん、少しいいかな?…ってなんでそんなに顔が赤いの?」


混乱しているからなのか、私の罪を誰かに聞いて欲しかったのか、部屋に入ってきた美來に洗いざらい全てを話してしまう間抜けなわたし。


私は洗いざらい全て話した後の妹を生涯忘れることはないだろう。


私の妹の職業は『憤怒』という特別な職業。『憤怒』なんてなんだか暑そうな職業に全く似合わない冷静な美來の本当の憤怒。


ここだけの話、怖すぎて少し漏れた。


これまで謎だったこの職業の能力が本気で怒ることで発揮できたり…なんて簡単な話じゃないよね…


現実逃避はやめて、美來をどうにかしなきゃ。


はぁ…早く学校に行きたいよ…




…………



……







果たして彼女の考えていることは、彼への贖罪のことだけなのだろうか…


なぜ、早く学校に行きたがったのか…


顔をまるで林檎のように染めたのはなぜなのか…


この芽生えだした気持ちに彼女が気づくのはもう少し先の話。





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