閑話:神咲 瑠花②
家に着いた私は慌ただしく靴を脱ぎ、居間にいた美來に時任くんのことを聞いた。
「空斗さんですか?とてもいい人ですよね…♡」
美來は頬を朱に染めうっとりとしている…。想像以上で唖然としてしまう…。
「それにしても姉さんのお友達だったとは…今度お家に呼んでみようかしらっ♡」
美來の男嫌いはどこに?ってくらいデレデレだ。美來が異性に懸想している所を見たことがないからなんとも言えないけど…
「というか美來はどこで時任くんと知り合ったの?」
美來は家から少し遠い女子校に通っており、時任くんと接点なんて無いと思うんだけど…。
「実はね、私が駅を出たところで男達に絡まれた所を助けてくれたの♡」
確かに、美來は艶やかな黒髪ストレートに出るとこは出てるのに線は細い、姉から見ても見事な美人大和撫子だ。
だけど、まさかそんなことがあったなんて…普段の時任くんの様子からはとてもじゃないけど想像できないわ。
それに美來のこの様子…。明らかに普通じゃないわよね…?
私は疑心暗鬼になりつつある心で色々なことを考えてしまい、堂々巡りになっていたところで昨日見たドラマを思い出してしまう。
そのドラマに結婚詐欺に遭ってしまう女性が出てくるのだが、その女性の様子と美來の様子が一致している気がしてきたのだ。
いくら苦手なクラスメイトだからといって詐欺師と一緒にしてはいけないことは分かっている。でももしその美來に絡んできた男達を時任くんが裏で操っており、いいタイミングで助けて自分をよく見せようとしていたのならば…。
…一旦この話はやめよう、そう思いこの考えを打ち消すように部屋に籠り勉強を始めた。
あれから、ご飯を食べてお風呂に入り寝る準備を整えた。いつも通り、だけどいつもと違うことがある。それは夕方考えたことだ。
忘れようとしたけど、1度考えてしまったことは簡単に消えず、むしろ強くなっていく。
…明日、時任くんに聞いてみよう。
「おやすみなさい」
誰に言うでもなく独りつぶやき瞼を閉じた。
漠然とした不安や焦りを胸に抱えたまま。
この日、この時、確かに色々タイミングも悪かったけど言い訳はできない…。
思えば、私の運命の分岐点はこの時だったのではと今となっては考える。
私の後悔の記憶はまだ始まったばかりだ。