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オタクが初めて本気で恋した話

作者: ハニワのハニー

初めてエッセイ・ノンフィクション小説を書いてみました。ちょっと…いやかなり恥ずかしいし不安ですが。少しでも何か感じていただけたら嬉しいです。

もう完全に吹っ切れたことだし、1つ、私が実際に経験し、青春の一部となって風化しつつある【恋】の顛末を、徒然なるままに書き綴ってみようと思う。

いわゆるエッセイというやつに挑戦してみる。


あれは今から、もう、8年も前のことになるのか…



......................................................



はじめて、好きな人ができた。

いや、ぶっちゃけ3ヶ月前から付き合ってる人はいるんだが、全然好きじゃない。勢いと好奇心で付き合っただけで、別れるのは時間の問題だ。


私は今、専門学校1年生。入学してすぐ、彼のことは覚えた。同じクラスのCくんだ。理由は簡単。顔が良いし、顔が良かったからだ。


友達ができて、流れで彼氏ができて、なんやかんやで、Cくんとはまだ全然話せていない。


そんなある日、席替えがあった。「隣にCくんがきてくれないかな…」と思ったら、本当にきた。「うわぁぁあマジかよ神々しい!!!」と心の雄叫びを上げながら、


「あの…あんまり話したことなかったけど…よろしくね」


なんとか声をかけることに成功。めちゃくちゃドキドキしていた。体が心臓になったようだ。


「よろしくー」


返ってきたCくんの声は、とても可愛かった。録音したかった。その日はそれしか言葉を交わせなかったけど、下校中、ふと思い立って、学校に引き返した。


「わ、忘れ物しちゃったー」


わざとらしい言い訳を放ちながら、いつも放課後、友達と残って遊んでいたCくんのほうに行ってみた。


「何してるの?」


どう見てもトランプしてるところに声をかけると、


「トランプー。ハニー(下の名前)さんもやる?」


なんか普通に下の名前で呼ばれて、トキメキで死ぬかと思った。


「うん、いいの?」


それを見ていた先生が、


「ハニワさん、Cくんに会いに戻ってきたのか~?(笑)」


図星なことを言ってきた。やめてください。


それがキッカケで、私はCくんとその友達に、トランプに誘われるようになり、自然と学校内でいつも一緒にいるようになっていった。


だいぶCくんとも話す回数が増えた。でもやっぱりドキドキし過ぎて、うまく喋れなくて恥ずかしい。

なので、私は携帯(当時ガラケー)のメモ帳に、Cくんと会ったら使える話題リストを作って、何かおもしろいこととかがあったらメモするようになった。


その作戦は成功で、Cくんとの会話はスムーズになった。Cくんのほうから話しかけてくれることも多くなった。

Cくんは、私と同じアニメ・漫画・ラノベ・ゲームが好きな、いわゆるオタク仲間で、とっても趣味が合うと分かった。


ここぞとばかりに、私はCくんの好きなジャンルを聞いては、家に帰ってからそのジャンルについて調べてみたりした。そして、次に学校で会ったときに、そのことを話すの繰り返し。


「この本おもしろいんだけど、ハニー(下の名前)さん、貸す?」


そんなやり取りも増えた。本やゲームの貸し借り、好きなアニメやボカロ曲の共有。

Cくんと話すことが楽しくて幸せで、本当に大好きだと思った。もっと知りたいし、私のことももっと教えたい。この頃にはもうとっくに私は元彼とは別れていた。


ある日の帰り道、Cくんと友達と私の3人で歩きながら話していると、


「でさ~、こういうアニメあるんだけど、ハニー(下の名前)さn……」

「?」

「……ハニワ(苗字)さんは、それ知ってる?」

「…えっ」


照れたように、咄嗟に苗字で呼び直したCくん。「どうして呼び直しちゃったんだろう」と少しさみしい気持ちになった。だけど、なんとなく、ドキドキしていた。きっとCくんも。


それ以来、苗字で呼ばれるようになった。あとから気づいたが、Cくんは女子を下の名前で呼ぶようなキャラじゃなかった。今まではちょっと頑張ってたのかもしれないな、と思った。


その頃には、私はCくんと2人で帰ることが多くなっていた。夏の晴れた暑い日が続いていた。


「歩くの早くない?」

「うん、ありがとう」


Cくんは、いつも私に歩幅を合わせてくれる。さりげなく車道側にいる。自転車通学のときには、自転車から降りてゆっくり歩いてくれる。

遠足で公園に行って、転んでヒザを擦りむいた日の帰り道も、


「足、大丈夫?」

「えっ、気づいてたの?」


そう言うと、恥ずかしそうに顔を背けた。


「ありがとう、Cくん」


嬉しくて、愛おしかった。Cくんが可愛くてたまらなかった。

学校で「ハニワはのんびりし過ぎだよなw」と言われて、落ち込んだ日の帰り道も、


「なんか元気ない?」

「…あの、Cくん…。Cくんは、私の長所って、何だと思う?」


こんなこと聞かれても、迷惑だろうな。わかんないって言われるだろうな。そう思っていたら、


「のんびりしてるところ」

「…え?」


びっくりして顔を上げると、Cくんはまっすぐにこちらを見ながら微笑んでいた。涙が出そうになった。Cくんは、エスパーなのかもしれない。

次の日、私は思い切ってCくんをカラオケに誘ってみた。


「あのさ、今度一緒にカラオケ行かない?」

「え、2人で?」

「あ…や、嫌かな、やっぱり…」

「べつにいいよー」

「えっ」


脳内ではリオのカーニバル並に喜び勇んだが、なんとか平静を装った。それから、私とCくんはときどき2人で、カラオケやファミレスに行くようになった。みんなには内緒で。


カラオケではもちろんオタオタしいマイナー曲が流れ続けた。何も言わずともハモってくれるCくんに、いいね!を100回くらい押したい。

帰り道、やっぱりCくんは自転車を押してゆっくり歩いて駅まで送ってくれた。


「ごめんね、遠回りさせちゃって…」

「これくらい当然」

「そうなの?」

「そうなのー」


Cくんは淡々と、ポーカーフェイスで話すことが多いから、何を考えてるのかよく分からないけど、少なくとも、私に好意的なのはわかったから、本当に嬉しかった。

またある日のファミレスでは、


「ハニワさんは明日の飲み会出るの?」

「ああ、クラスのみんなの?」

「うん」

「んーどうしよっかなぁ。Cくんは行くの?」

「……僕はハニワさんが行くなら行く」


頭が爆発するかと思った。この世にはこんな可愛い生き物が存在するのか。なんて尊いんだろう。Cくん。やっぱり私にはCくんしかいないと思った。


その日、私は夜中0時を過ぎても眠れなかった。ドキドキしていた。Cくんのことが頭から離れなくて、もうどうしようもないと思った。泣きたい気持ちで、決意した。


朝起きて、まず母に向かって、


「ちょっとCくん呼び出して白黒ハッキリさせてくるわ」


と宣言して、スカイプチャットでCくんに、いつものデパートに来てください。と果たし状のような内容を送った。

待ち合わせの時刻。ドキドキとソワソワと、期待と不安と、なんかもう死ぬかもしれないと思った。

そしてついに、Cくんがきた。いつものクールな無表情。1人分間をあけて、隣に座って、しばし沈黙。


「あ…あの……急に呼び出してごめんね……」

「べつに大丈夫だよー」

「あの…えと……話したいことがあってね…」

「うん」

「あ…あ……ちょ、ちょっと、そっち向いて!!」

「!?う、うん…?」

「そのまま動かないで、聞いて!」

「は、はい」

「あの、あの……単刀直入に言う。私…ずっと前から、Cくんのことが、…好き…でした…。よかっ、たら、付き合って…くれませんか…?」


なんかもう泣きそうで死にそうだった。Cくんのほうを見れなかった。視界の端で、Cくんが頭を抱えてうずくまるように恥ずかしがって、「うーあーー」と呻いているのがわかった。

私の頭は真っ白。人生初の告白。もうどうにでもなれ。死ぬ。あーもう死ぬ。すまん。全人類にすまんって言いたい。そしてCくんは口を開いた。たぶんこっちを見ながら。


「気持ちは嬉しいんだけど…」

「……」


声が出ない。それって、だめってことなのかな。


「その…僕も同じ気持ちです」

「え…?」


ちょっと何言ってるのかわからなかった。


「うそ…え……、え、私…のこと、好き?ってこと?」

「そういうこと」

「くぁwせdrftgyふじこlp」


言葉にできない叫びが出た。このときが、私の幸せの絶頂だった。最初で、最後の。


「だけど、お付き合いはできない」


思考が停止した。どういう意味?え、それどういうこと?


「ごめん、意味わからないよね…」


うん、マジ意味不明なんですけど?


「実は…誰にも言わないつもりだったんだけどさ…」


神妙な顔つきで、Cくんは話し始めた。私はなんだか嫌な予感がした。でも、そんなの関係ない、きっと。だって両思いなんだから。


「これ、聞いたら多分、ハニワさんは引くかもしれない」

「だ、大丈夫だよ…!私、Cくん大好きだもん!」

「…うん…ありがとう」


なんだか突然、Cくんが遠くにいるような感じがした。そしてCくんは言った。


「僕、新興宗教に入ってるんだ」

「……シンコーシューキョー?」


咄嗟に理解できなかった。宗教って。何?それ?


「家族ぐるみで、僕は生まれたときから新興宗教の一員なんだ。だから、家族を捨てることはできないし、抜けることもできない。変だよね。気持ち悪いよね、こんな宗教なんて…。ごめんね…。」

「どうして謝るの?ねぇ、Cくんは私のこと、好きなんだよね…?」

「好きだよ。初めて見たときから好きだった。」

「だったら…!」

「でも付き合えない…そういうルールがあるから…」

「宗教をやめることはできないの…?」

「それはできない…家族を見捨てることになる…」

「そんな…」

「ねぇ、ハニワさんは、僕と結婚を前提に、宗教に入ることができる?」

「そ、それは…無理だよ、私は…宗教には…」

「うん…そうだよね」

「でも…じゃあ、どうすれば…」


「だけど、これだけは覚えていてほしい。僕は、どこへ行っても、ずっとずっと、ハニワさんのことが好きだから。それだけは、信じてほしい―… だけど、ハニワさんは僕と一緒にいても不幸になるだけだ。そんなことはできないから…。ハニワさんには幸せになってほしい。」


絶望と幸せが、同時に襲いかかってきた。私は、どうすればいいのか、まったくわからなかった。

好きな人が、私のことを好きだった。とても幸せだと思った。泣きたいくらい。


涙が止まらなかった。泣いても泣いても、涙は枯れなかった。私は欲張りなんだろうか?こんな結末ってあるだろうか?


それからなんとなく、Cくんは私と距離を置くようになっていった。信じられなかったし、信じたくなかった。

もう、終わってしまったのかな?


あまりにも、つらすぎた。そんな日々が祟って、私は体調を崩した。人生初の胃カメラを飲んだ。ストレス性胃炎だった。


このとき、私は2年生の終わりだった。Cくんは、2年課程の生徒で、私は3年課程の生徒だった。つまり、Cくんは、もうすぐ卒業してしまう。

そして、噂で聞いた。Cくんは、遠くの地方の実家に帰ってしまうと。

為すすべもなく、すべてが、壊れてしまった。


カラオケの帰り道、2人で夕日が沈むのを見ながらずっとベンチで喋っていたこと。


みんなで初めてのスケート体験をしたとき、転びそうになった私を抱きしめてくれたこと。


バレンタインに手作りお菓子をあげたらものすごく喜んでくれたこと。


みんなでマリオパーティーしたこと。


飲みかけのジュースを味見させてくれたこと。


スカイプのビデオ通話で長話したこと。


毎日のように放課後、トランプで遊んだこと。


笑ってくれたこと。


悲しんでくれたこと。


助けてくれたこと。


あの楽しかった時間は、目の前にいたCくんは、もういない。

私が学校を休んでいる間に、Cくんは卒業して、何も言葉も交わさないまま、姿を消してしまった。


さみしい、とか、かなしい、とか。言葉に形容しきれない何かが、溢れた。


きっとCくんは、最初からこうなることを分かっていたんだ。ときどき感じていた、Cくんの、あの寂しそうな、儚げな表情も、言葉の端々からにじみ出ていた、他人を拒絶するような雰囲気も。


辻褄があっていた。私とは、絶対に、結ばれることはないんだと。


だけど、他にどうすることができただろう?


Cくんは、私のためを思って、身を引いてくれた。口には出さないけど、確かにCくんは私のことを一生懸命考えてくれていた。Cくんは一度も私を責めなかったし、否定もしなかった。



......................................................



私の中のあなたを、ずっと見ていた。

失くした想いと、壊した糸。


痛みさえ愛しくて、悲しみさえ温かかった。


不安定な坂道が、気付いたら夜の海。

360度の星空、刹那に消える。


苦しみさえ優しく見えて、寂しささえ尊く思えて。

1人にしないで、もういなくならないで。何も見えない。


私の中のあなたを、ずっと見ていた。

まぶたに焼き付く、まばゆい微笑み。


私の中のあなたを、ずっと見ていた。

本当のことなど、知りたくもない。


瞳に映るあなたは、あんなに近くで、口ずさんでいたはずなのに。


伸ばした手が繰り返す、真夜中に飛び込む。

360度の星空、刹那に消える。


痛みさえ愛しく思えて、悲しみさえ温かかった。


真っ暗な世界。

私の中のあなたを、ずっと見ていた。


失くす想いは、壊した糸の先。


終わるはずない、この物語は、振り返ると、始まってすらいなかった。


......................................................


私のことを、愛しているのでしょう。

ならば、その証をください。


二度と見捨てないと。

永遠にそばで微笑みをくれると。


例えば、私があなたを突き放せば、すがりついてくれて。

例えば、あなたに罵詈雑言を吐けば、傷ついて涙を流してくれて。


私無しでは、生きられなくなりますように。


1分1秒が、その瞬間が今が、とてつもなく苦しい。

息ができない、まるで、真夜中の海のよう。


塩水が体に入り込む、ああ、これは私のあなたのためだけの愛。


例えば、私があなたの前から消えたら、あなたは冥土の先のどこまでも、私を忘れず、壊れてしまう。

例えば、あなたを私の前から消したら、あなたは冥土の先のどこまでも、私だけのもの、私だけのあなた。


あなたを想えば想うほど、募る悲しみ、山積みの障壁。

すでに私は私ではないのです。こんなはずではないのです。


あなた無しでは、生きられなくなっているのは誰なのでしょう。


......................................................



今もときどき夢に見る。架空の私とCくんが仲良く喋っている夢。


目が覚めて、すぐに消える。過去は過去でしかない。私はもうあの頃とは別人だ。


「幸せになってほしい」


私はCくんに感謝することができるようになった。一緒にいるだけで楽しくて、何の根拠もなく、永遠に続くことを信じていた。


あの頃、私とCくんは、幸せだった。


それ以上に、もう、何もいらないんじゃないかと思う。

かけがえのない時間をありがとう。私は私の幸せを集めて、また今日も生きていく。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

気持ちの整理がつくまで数年かかりましたが、ようやっと落ち着いたので小説としてまとめました。少しでも何か感じていただけたら嬉しい限りです。ありがとうございました。

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