空き缶の中のおっさん
空き缶を覗くと、おっさんがいた。
てっぺんが若干ハゲかけていて、ヨレヨレのスーツを着ていた。そして眠そうな顔で
「なんや自分。見せもんちゃうぞ。」
と、真夏に扇風機の前で寝転んでいる時のお父さんみたいにダルそうな口調で言ってきた。
ただ、お父さんと違っておっさんは凄く甲高い声をしていた。
「おっさん何してるん?」
僕は本当に何してんだろうコイツ、と思って聞いてみた。
「みてわからんか?」
おっさんは目を瞑って呆れた表情をした。
「わからへん。学校の算数くらい分からへん。」
「それはちゃうやろ。今お前はおっさんが「何してんのか」が分からへんのやろ?お前は算数で分からへんとこすら分からへんやろ。」
おっさんはよく分からない事を言ってきたので、僕は帰ろうとした。するとおっさんはダルそうな声で僕を引き止めた。
「お前な、空き缶におっさんが入ってんねやぞ。もっと食いつけや。帰ろうとすんなや。」
それもそうだなぁ、と思い、もうちょっと居てあげる事にした。
じっ、とおっさんを見ていると、家計簿をつけている時のお母さんより大きなため息をついて衝撃的な事を言った。
「おっさんなぁ。遭難してん。」
「....そうなん?」
「いや、おもんないねん。」
おっさんはまたため息をついた。
おっさんなのに親父ギャグは好きじゃないのかな。
「おっさん何でスーツなん?仕事中に遭難したん?」
「まぁ...せやねん。俺が悪いんとちゃうねんけどなぁ...。」
おっさんはまた臭そうなため息をついた。
僕はおっさんを助けてあげようと思ったが、どうすればいいのか分からずしゃがみこんでいると、後ろから声をかけられた。
「それ俺らの空き缶やねん。返してもろていい?」
振り向くと、僕と同じくらいの年齢の男の子がいた。
「んーいいけどな、遭難してるらしいねんよ。」
僕がそう言うと
「んー?よう分からんけど、俺らそれで缶蹴りしててん。でもな、ちょっと飛ばしすぎてしもて探しててんよ。せや、よかったら君も一緒にやる?」
僕は二つ返事で了承して公園で遊ぶ事にした。
公園には時々おっさんの「カーン」と叫ぶ甲高い声が響いていた。
おっさんの仕事は空き缶の中で「カーン」と叫ぶこと。
給料いいんですかね?