怒りの拳
「あれっ?覇道のアニキ!随分と早いお帰りで」
クラッシュ覇道は顔を伏せていて、ノイジーには表情がわからない。
早い帰還から、きっと失敗したのだと、ノイジーはそう思っていた。そして、ノイジーは始めからできるとは思っていなかった。
「予想より早い帰還なんで驚きましたよ。随分と早く音を上げたんすね」
そこでようやくノイジーは気付く。クラッシュ覇道は小さく震えていた。そしてそれは、武者震いの類のものだと。
「へ、覇道のアニキ……?」
顔を上げたクラッシュ覇道は楽しいものを見るように、満面の笑みを浮かべていた。
「俺は、眠れる獅子を呼び覚ましたのかもしれねえ」
そう言ったクラッシュ覇道に、ノイジーは背筋が凍った。それもそのはず、クラッシュ覇道の身につけた龍の化石は、かつて世界を救った希望の少年のもの。その力の一部を使えるのだ。そんなクラッシュ覇道が笑っているのだ。
「こんな短期間で身につけたってのか……ッ⁈そいつはマジでバッドじゃんよ!」
テスタは地獄の特訓を終えて、疲れを癒すため温泉に浸かる。
二週間ほどの日数で身につけたが、その苦難はたしかにテスタの身体を激しく痛めつけた。しかし、その甲斐あって強力な力を得られたのだ。テスタはその力を確かめるように拳を固く握り締める。
アウトレイジの力に目覚めてからかなりの時間が経った。
時間が記憶の混濁を治した。すでにテスタはその準備を始めていた。自分が誰にやられたのか、仲間が誰にやられたのか、テスタは思い出していたのだ。
煮えたぎる熱き思いがテスタの力を更に増幅させる。
テスタが闘志を燃やす中、火文明ではレースが行われようとしている。そのレースのタイムを縮めようと足掻いているものたちが、練習を終えて温泉に浸かりにくる。
そこでテスタは、他者の話に耳を傾ける。
修行の間は火文明で何があったのか、そういった情報を入手する手段がなかった。
そうして聴き始めたがめぼしいものは特になく、誰もがレースのことばかり。仕方ないとテスタは温泉を上がり、風呂上がりのバッドドッグを食べる。
その日をテスタは休息に当てた。
テスタの身体にはテスタの予想以上にダメージがあったようで、テスタは痛みに目を覚ます。体を起こしてようやくその力の対価を理解した。
特訓の日々。そうして得た力、B・A・Dは、確かに強力な力だ。しかし、その代償は自分の体なのだ。
ふらふらと歩いて建物の外へ出る。
右腕が動けばテスタは戦える。右腕の動作確認も含めて体の点検をする。
本格的な使用はまだしていないので、テスタはどれほどの反動が来るのか正確には知らない。しかし、その予想が例え正確でなくとも、それで倒し切れなかった場合の算段は立てておく必要がある。
そういったデータでもあればと思ったが、火文明は賢いとはとても言い難い文明だ。戦車だって歯車で動いているのだ。そんなデータはないと断定する。
そしてテスタは、かつての仲間を思い出して苦笑い。親友共々散々辛口叩かれていた、そんな記憶だ。
テスタは算段を立てると、冷静な頭で敵がどこにいるかを考える。いや、これは再確認と言うべきだ。
何度も考え、その度にそこだろうとその場所に辿り着く。
テスタは元々そこまで頭は良くない。それはアウトレイジであっても変わらない。
テスタが目覚めた時の姿には重大な役割があった。その姿はアウトレイジとして目覚める前の姿。オラクル教団にいた頃の姿だった。それはテスタにない冷静さを与えた。
テスタはその熱き拳を武器へと作り変える。
かつての仲間はここにはいない。
テスタは今の仲間のために戦うことを誓う。
完全復活したテスタ。そしてテスタは文明の端へと駆ける。
それが何による影響なのかはわかっているが、目的まではわからない。しかしテスタには、そんなことはどうでもいいのだ。
友の仇、そして火文明を守るため、そのためにテスタは熱き大地を駆け抜ける。
テスタは体を炎に包み、体の一部を武器へと変える。そうして肩が変じたジェットパックで更に加速し、世界の端に迫る闇文明へと一直線に飛行する。
途中で何度か休憩を挟み、そうしてテスタは端に着く。しかしそこには誰もいない。
それもテスタは見越していた。
誰もいない。あの時の敵も火文明の仲間も、何もいない。しかしテスタは、そんなことは御構いなしにその先へと足を進める。
そこは各文明を覆う闇文明の領域。それはテスタも百も承知だ。それでもテスタはその先へと足を踏み入れた。
宣戦布告にも等しい行為だ。しかし、先に攻め込んできたのは闇文明だ。戦争はもう始まっている。
そうして姿を見せる闇文明の凶鬼たちは、テスタを遠巻きに眺めるだけで、何かを仕掛けはしない。
「出て来い!このムカデヤロー!!!」
そう叫ぶテスタ。
仲間を苦しませている闇文明に来て、怒りが爆発してしまったのだ。
そしてそれは姿を現す。
巨大で強大なムカデ。一度見たら誰も忘れられないであろう、狂気溢れる容姿のムカデ。
それは六本の特徴的な腕を持つムカデ。
阿修羅ムカデ。
「速攻でケリをつけてやる!」
「おまえには倒せないゲジ」
「そんなことは、やってみないとわからないだろ!」
挑発的な態度で向き合うムカデに、テスタはさらに怒りを増幅させる。
「おまえも、あのネズミたちと同じ目に合わせてやるゲジよ!」
ゲジゲジと笑うムカデに対し闘志を剥き出しにするテスタ。
テスタの腕は炎に包まれその形を剣のような形状へと変化させる。
「怒りっぽいやつゲジねぇ」
「うるさい!仲間の仇!とらせてもらうぞ!」
「弱い犬ほどよく吠えるでゲジー」
テスタはそんな態度のムカデに、とうとう怒りを理性で抑えられなくなり、それは形となってテスタの周りに表れる。
「ダッダッダッダッダッダッダッダッ!」
そのテスタの言葉のリズムに合わせて、炎が踊り荒れ狂う。
「行くぞ!B・A・D!!!」
テスタは加速しその刃でムカデの体を斬り裂く。
速さと火力を兼ね備えた一撃。
その一撃はムカデの体を深く削り、その身に生やした数多の足の多くを削ぎ落とす。しかし、ムカデの生命力を舐めてはいけない。
ムカデは、今何かしたか?と言うかのような表情でその身を再生させてしまった。
そして、テスタの攻撃時にムカデが仕掛けた毒が、テスタを蝕み体の自由を奪う。
「どうしたゲジ?さっきまでの威勢はどこいったゲジか〜?」
テスタの表情が苦痛に歪む。それもそのはず、その毒は体から力を奪うと同時に、痛みももたらす強力な毒だ。
テスタは抜けていく力を闘志で補いなんとか立ち続けるが、とても戦えるような状態ではない。しかし、休んだところでその毒は抜けない。
阿修羅ムカデを倒す他に、テスタに道は存在しない。
「おまえもあのネズミたち同様、無様に殺してやるゲジよ〜」
テスタは再度仲間を愚弄され、ついにその力を解放する。
「この炎は、仲間を思う熱き心……!俺は……」
「くっさいセリフゲジね〜。おまえは無様に命乞いでもしてるのがちょうどいいゲジよ〜」
「俺は……負けねえ!!!」
どこまでも愚弄するムカデに、テスタは怒りの拳を放つ。
「ザ・ヒート!!!」
テスタは燃える拳をムカデに叩きつける。しかしムカデもただやられるだけではない。
左右の腕のいくつかが、テスタの攻撃を受け止めようとする。そして残りはテスタに向かう。
しかし、テスタの拳はその程度の壁では止まらない。その怒りはそんなものでは阻めない。
ムカデの武器は炎に阻まれ、テスタの拳はムカデの守りを打ち砕き、まだテスタがチュリスだった時に入れた場所に刺さる。
そこにはテスタがチュリスの時に残した怒りが込められている。
テスタの拳にさらに怒りが乗り、その怒りが無限にも等しい力を与える。
そしてムカデはテスタの炎によって焼かれ、そこには残骸と勝者が残った。
今回登場オリカ
無法装者 テスタ・ロッサ
アウトレイジ/ビートジョッキー
5マナ
パワー5000
B・A・D2(このクリーチャーを、コストを2少なくして召喚してもよい。そうしたら、このターンの終わりにこのクリーチャーを破壊する)
スピードアタッカー(このクリーチャーは召喚酔いしない)