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お仕事


 謝罪の言葉だけを残して、思わず逃げ出してしまった。命の危険は無いにしろ、精神を勢いよく削る彼女のお小言はとてもヤバい。


 …前に見た時は、あのゴツいゴリアスの身体が、本当に消えるんじゃないかって錯覚するくらいに小さくなってくように見えたもん。呪いの一歩手前の力があるんじゃないか?…と、シズルはそう思う。


 まあ、そもそもが魔法使える娘だしね。母親譲りの才能ってやつか?(ゴリアスに偏らなくて良かったな)


「しっかし、どうするかね…?昨日の今日で大口な仕事って無いんだけど…」


 俺は逃げた手前、そのまま帰るのも気まずいと思って、ギルドまで足を運んでいた。


 …手土産1つで手放しで喜んではくれないだろう。ついでに宿代も稼いでしまえば一石二鳥!………とは、いかないものです。


 ……………


「なんで何も無いのっ?!」


 受け付けカウンターまで押し掛けて、受け付けの女性に迫る。


「ねぇねぇねぇー!昨日はまだ色いろ…イッタい!ちょっ、痛いから、待ってアヤ姉、地味に痛いからヤメテ!」

「だったらもう少しだけ静かにしなさい。私もお仕事中なんですからね?」


 彼女は執拗にペンで俺の手の甲に黒い点を増やしていく。あんまりだ。

 いきなり押し掛けたのは自分が悪いけど、ペンをそんな風に使わないで欲しい。


 …それにお仕事っていう癖に、彼女だって書類か何かの余白一杯に落書きしてた。


「それにしても、何度見ても不思議。まだ治らないなんて、呪いか何かじゃないのかしら?」


 最初は『お仕事してます』アピールをしていた受付嬢 ―アヤ・ウッドベル― は、飽きたのか普通に話し始めた。


「痛くないの?」

「見た目は痛々しいけど、これで全然大丈夫なんだよ。…っと、そんなことよりなんでソロの依頼書が無いの?」

「だって、貴方のランクではソロのは無いの」

「えっと…初耳ですけど…?」

「もう、ちゃんとこの前言ったでしょ?()()()()()がある、って。覚えて無い?」


 …そう言えば、そうだっけ?


 縦とも横ともつかない、微妙な角度で頷いてみせた。知ってるような、知らないような。


「別に怒らないから、わからないなら『わかりません』って言って良いからね?」

「わかりません!」


 ―ゴスッ!!


 凄く鈍い音が、俺の鼓膜を刺激する。衝撃とともに頭の中から聞こえてきた。


 ―怒らないって言ったじゃないのさ?


 頭に打ち付けた本(どう見ても薄いのに…)を目の前に置き、アヤ姉がページを送っていく。


「はい、ここ。ちゃんと覚えておかないと大変よ?」


 そう言って、彼女が指差す場所を読み進める。…本当に後が恐いので、真面目にだってなる。


「俺の場合は下から2番目…だから、緑風(グレフ)の紋で、……本当にそう契約されてるね。それでこの減額ってなんのこと?」

「あらっ?書いてないかしら?」


 そう言って、自分の見やすいようにして本の上から下までの文字を一気に読み進めて、答えてくれた。


「これは上のランクにつく制限ね。…例えば、もし緑風(グレフ)紋の貴方がすぐ下の蒼水(ソール)紋のランクのお仕事しても、25%は報酬を減額します、ってことよ。ランクが離れると大変よ?」

「大変って、もっと減ったりする訳じゃ…」

「そう。そのまさか。あり得ない話だけども、タダ働き同然になる訳なの。…そんな人達が新人さん達の領分を荒らしはしないでしょうけど」


 当然と言えば当然な話か。

 (知らなかったけど)ちゃんとルールがあったんだ。

 でも…それじゃあ俺はこれからどうすれば良いの?つまり下の仕事もやれるけど、75%…じゃ割に合わないよな。

 今のランクより上げないとソロもない。けど今の俺は仕事にありつけない。あり得ない。人生終了だよ!


 そう葛藤し始めると、アヤ姉が止めの一言を放つ。


「シズくんは友達居ないから大変ね?」

「ぐふっ!」


 あぁ…鬼の形相のソニアの顔が目に浮かぶ…。


「ツケてる宿代の一部でも払えないなんて…!すまないゴリアス、ごめんな、ソニアぁ…」


 あっ、でもそうだ。雇ってくれないかな。この際タダ働きでも置いて貰えれば…


「ダメよ?ちゃんとしなきゃ。人の優しさに甘えてばかりじゃ、いつか酷い目にあうのよ?」


 なんで簡単に答えに先回りできるのアヤ姉は?


「でもさ、誰も…とっ、友達居ないもん。どうしたら良いの?」

「うーん、そうねぇ…今回は私が力になってあげるわ。また明日、この時間で良いからギルドまで来てくれる?」

「大丈夫だよ、暇しかないから。ありがとうアヤ姉。また明日…で良いよね?」


 …そう言って、頼れるお姉さんとギルドから別れたのは良いけど、何をしよう。



 本当に冒険者に友達がいないから困る。冒険者以外な人も、この時間は暇して無いし。

 宿に帰る…ってのもまだ怖い。だって、宿屋の方向を向くと、嫌な予感がする。


 ―色々と考えても仕方ない。顔を上げれば、見上げた空が眩しい。遠くの太陽を左手で隠してやった。


 その拍子に、自分の左手が当然目につく。


 さっき、アヤ姉にも聞かれたけど、見た目がよろしくない。自分じゃどう言えば良いかわからないけど、火傷のようなそうじゃないような、痛々しい見た目をしてる。

 痛くはないし、利き手じゃないから普段から気にもしないくらいだ。


 暫く手を眺めていたら、あることを思い出す。昔の事じゃなくて、ついさっきの事。

 アヤ姉が口にした『呪い』どうのと言う話。

 どうせ暇なら調べて見るか、と考えてみた。

本屋? 図書館? 専門家? 病院? ……。


 …よくよく考えると、苦手な物や者だらけ。


 今、自分の中の天秤には、宿屋と苦手なものがかけられている。

 …………やっぱりソニアが恐いので、苦手な方にしよう。ごめん。


 

 じゃあ、気を取り直して、今日はこれからお勉強でもしますかね…?

 

 

不安定に不定期に。別のがあるから仕方ない。

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