予想以上
8話目
「いざ、気合を入れて武器を召喚したものの、なんも居ねーな」
「いいから、ちゃんと警戒しろよ忍者」
「うるへー。分かってるよ重鎧」
「ナイナイ。入口からいきなりモンスター襲ってくるとか、確率的に、運悪過ぎるだろ。そうそう、そんな事ないから安心しろ」
未到達領域だし、いきなり襲ってくる可能性も、無きにしも非ずだが、殆ど無いな。入口をゴーレム系のモンスターが、護ってる場合とかじゃない限りは、縄張りを巡回してる、野生のモンスターぐらいだ。
「まあ、参謀がそういうなら」
「だから、参謀はよせって。俺は記憶力が良いだけで、頭の回転が早いわけじゃないっての」
「同じ学校なんだから、頭の出来は同じぐらいだろ。ドングリの背比べはやめようぜ。悲しくなってくる」
「言うな忍者。泣くぞ」
「泣くなよ重鎧。気持ち悪いから」
確かに。リアルならまだ慰めてやろうかな?ぐらいの心は持てるけど、ゲームの中で泣いてる大男とか、まず慰めたくならない。
二十分程敵との遭遇も無く、薬草を採ったり、好きなグラビアアイドルの話なんかをしていた。
不意に忍者の言葉が途切れる。
「索敵反応三十秒後接敵!数5で、編成は不明!」
先程までの和やかな雰囲気から一変、忍者の鋭い声が響き渡った。
「目視5の特殊個体無し!辺りに別敵性モブ無し。前4中1で、バードはいない!」
「了解。戦闘準備!忍者下がれ、重鎧引き付けろ」
「ああ」
「オウ!」
おっ、どうやら忍者が鑑定に成功したようだ。
『妖護幼犬リトル・ファングネルコボルト』ファングネル種のコボルトの群れからはぐれた、ファングネルコボルトの幼体。レベルは23が四体。
最後の一体は『幻魔想アグル』中衛のコンジャラー系モンスターで、見た目は手品師然としている。コンジャラーは死霊幻術系のデバフ補助魔法中衛職だったな。レベルは28で、この森のバード以外で、一番レベルが高い奴だ。
確かターゲット持ちのギガントがレベル27で、タゲ持ちのギガントが27で注意に上がってるのに、28がどおりで話題にならんわけだ。レベルが高くても、デバフ専門のモンスターじゃな。
ただ、死霊幻術系のデバフは、見た目が結構キツいから、先に倒すか。確かこの森は、攻撃系の後衛職は、いないんだったな。代わりに中衛・後衛の補助系と回復系が出てくると。
一番多いのは前衛攻撃職みたいだな。たった一回のエンカウントとはいえ、前衛四体は流石に偏り過ぎ。
「重鎧はコボルトそのまま全部相手してくれ!お前のレベルなら余裕だ。忍者は、俺と2人でアグルを速攻沈める」
「行くぜニルヴァーナ・シュタイン!」
「コボルトは任せろ!」
忍者が、接近しつつ、片方を投擲する。
既に詠唱を始めていたのか、対処出来ずに突き刺さる。忍者の投擲スキルは結構高いので、その補正も有るだろう。
痛みと驚きによってだろうか、相手の詠唱が中断された。
俺も忍者の後を追い、ディネテレート・スペルドを突きの構えで、防御は気にせず幻魔想アグルに突撃をかます。
前衛は4体とも重鎧が受け持っているので、防御は捨てでいい。
いくら補助系魔法職とはいえ、近付かれたら詠唱時間が無いから、近接に移行するしかない。
案の定、急激な速度で接近する俺と忍者の対処の為に、アグルは腰の短剣を抜き放った。
そりゃ、魔法職のモンスターは頭良いから、仕方ないとは思うよ?でも、やっぱりゲームのモンスターが、補助武器というか、予備武器持ってんのは納得いかねー。
忍者が辿り着く粗同時に、投げた片方が忍者の手の中に精製される。完璧なタイミングで、二刀をアグルに振りおろした。
顔面と片方の目に当たったようで、目に当たった方にクリティカル判定が出ていたらしい。おかげで、アグルが大きく仰け反った。
俺はその隙に、アグルは人型のモンスターなので、クリティカルが確定で発生する心臓を一突きした。
二連続のノックバック発生で動きの止まったので、少し余裕を持って、今度は確定クリティカルの喉に剣を突き刺した。
「ギゅッ……ぴィ」
アグルの気持ち悪い断末魔と、消滅をしっかり確認する。
忍者の方は、二連続ノックバックが確定した瞬間に、反転して重鎧の援護に向かっていた。流石忍者だ。反応が速い。
重鎧のHPが結構減ってるが、まだ、安全域なので、回復薬は要らなさそうだ。
忍者と重鎧が一体ずつ仕留めた辺りで、俺も漸く合流できたので、遠慮なく後ろから斬り掛からせてもらう。背後からの攻撃は奇襲扱いなので、容赦無くクリティカルをもらっていくと、直ぐに倒れた。
残る一体は、三対一で袋叩きにしただけなので割愛。
「ふぅ……。流石に4体はキツかった」
「俺も地味にもらってる」
「俺はノーダメだな。回復薬じゃなくて、回復役が欲しいな。美少女の」
「それな」
「ほんとそれ」
いや、美少女とか高望みしないし、なんならむっさいオッサンでいいから、回復役が欲しい。
「いる?」
「薬はいらん」
「忍者。ヤク言うな。俺には1本くれ」
「3億円でいかが?」
「いや、そんな価格で売れないだろ」
「知ってた。まあ、普通にかけるわ」
「最初からそうしてくれ参謀」
「ふざけたい時もあるんだよ」
「まあ、半分も減ってないし、緊急じゃないからいいけどな」
意外と、一番レベルが低いはずのコボルトの攻撃力が、地味に高い。これは不味い、回復薬足りないかもな。地味に遠いから、一度街へ帰るのも面倒だな。
次のエンカウントの組み合わせで、三本以上使うようなら、一度装備を整えに帰らないと。
レベルや情報だけじゃなく、実際戦ってみないと判断できないあたりも、リアルっぽくていいよな。こういう仕様は俺は好きだ。
モンスターに個体差があるのもいい。このレベルなら、必ずクリア出来ます。みたいなのは、ゲームゲームし過ぎててあんまり好きじゃないんだよな。
ゲームやりながら、ゲームゲームしてるのは好きじゃないんだ!とか、傍から見たら、大分意味不明だろうな。
や、でもあるじゃん?ゲームシステムここ縛らなくて良くね?もっとここ自由度欲しいんだけど……みたいな。ね、皆有ると思うんだけどな。
……一体俺は誰に言い訳してるんだろうか。
前にこれを重鎧に話したら、文字通りは?って顔をされて、実際に「は?」って言われた。けど、忍者は共感してくれたので、多数決的に考えて俺が正しいな。
「さて、この調子で狩ってくか」
「待った」
「どうした忍者」
「バードとギガントの組み合わせは逃げだけど、ギガントに中衛複数の場合はどうするか決めてない」
「ん〜ギガントの強さが体感で分からんから、なんともいえないけど、取り敢えず、中衛3以上にギガントなら逃げで」
「できれば、ギガント単体と戦えればいいんだけどな」
「重鎧のいうことは最もだが、探す方がしんどいぞ」
「だよなぁ……」
「まあ、ギガント戦は中衛が0か1の時だけにしよう。予想以上に、HPか守備力が高い可能性もあるしな。どちらも、平等に高ければそれが一番なんだが」
「タゲ持ちで、どっちかが飛び抜けて高いと面倒だしな」
「そういう事だ。それに飛び抜けて守備力が高いと、忍者の投剣が、通らない危険があるしな」
そういうと、忍者がうへぇ〜みたいな顔をする。全く酷い顔だ。こりゃ女にモテないわけだ。
……完全にブーメランだな。俺もモテた経験ねーや。
「気を抜くなよ」
「へいへいほー」
「あいあい」
軽口を叩きながらも、忍者は警戒態勢に入り、重鎧も目付きは鋭いままだ。俺も一段と気を引き締める。
レベル帯の割に、モンスターが強い。デバフ、バフ、回復が、敵に揃って出てきたら苦戦しそうだな。気を付けよう。
アイテム採取でのんびりもいいなぁ……。森の探索はまだ続きます。