到達
7話目
雄大に、空を召喚したモンスターに乗って飛行する。
アイツらの乗ってる特別報酬のバード達は、アイテム扱いで、レベル依存しないので、めちゃくちゃ狡いと思う。
まあ、特別報酬なのに、レベルが足りないので保有出来ません、召喚できませんとか泣くしな。
「敵のレベルが上がる、システム的な境界線は、大体どの辺なんだ」
「このゲーム、明確な線引きが無いから、遥か昔のゲームみたいに、西に一歩でも入ると敵が急に強くなる。みたいな感じなんだよな。いや、確かに自然界に明確な境界線とかないけどさ」
「要らんとこまでリアルだよな。まあ、それでも、天災があって、住む場所が奪われた。みたいな理由が無い限り、出てこないしな。強いモンスターが発生して、逃げて来たとかな」
野生動物には、野生動物らしい、動きが要求される。それは過ごし方もだ。「モンスターも含め、動物の観察ならゲームの中でいい」生物学者がそういう程には、リアルなのだ。
あらゆる知識に於いて賢者達は優れていたが、一見ゲームに関係無さそうな野生動物まで、生態を完全に再現しているのだから、畏れ入る。
「あ、あそこだ。左右対称に三本ずつ並んでる、シシカ杉。そこより奥が俺達の未到達マップだ」
「シシカ杉か。確か、樹液と葉が、回復薬になったな。少し取ってくか」
「流石参謀お詳しいこって」
茶化すなよ忍者。『良質な葉』や『良質な樹液』が採れれば、ちょっと高く売れるんだがな。
採取スキルが低いと、高い品質のは採れづらくなる。これは、現実でもゲームでも、一緒だな。技術が無ければ、いいものは作れないし採れない。ただ、運良く良いのが採れる時もある。
劣悪な品質のものが採れてしまった場合には、自分のポーション作成スキルのレベル上げに使う。
ただ、これが全くといっていい程上がらない。
ゲームなんだから、もう少し手加減してくれてもいいんじゃないの。と、多分皆思ってる。
「あーあー。このまま、ビューっと飛んで、未到達領域の探索終わらせたいわ」
「それができたら苦労しないって」
重鎧の愚痴に、忍者が答える。重鎧の着てる鎧は、ゲーム的なアシストで軽くなってはいるし、現実と同等の重みは無い。それでも、素早く動いたり、長時間活動するには辛い重さだ。
正しくいうなら「脳が重いと錯覚している」が一番近いだろう。十数キロのダンボールは重いけど、十数キロの子供は軽いと、錯覚するのと同じだ。なので、肉体的負担は殆どない。
「空飛んで探索したら、一瞬で終わるやんけ!」なんて、子供的発想を、俺ら以外の人間が最初に思い付かない訳がないわけで、失敗した実績があるゆえに、誰もしない。
理由は極限まで単純だ。
こちらが飛行系モンスターを所有しているという事は、敵にも飛行系モンスターがいるということ。
フィールド上のモンスターは、力や体力にパラメーターが割り振られている。しかし、移動用の召喚モンスターは、機動力や移動速度に割り振られている。なので、移動用の召喚モンスターの方がレベル的に高くても、多少のレベル差なら、殆ど戦えずに空中でやられ消滅する。
そうなれば、当然乗ってる人間は空中に放り出されるわけで、後は地面と愛し合うだけだ。
機動力が高ければ逃げられそうな気はするが、問題は相手が一体とは限らないことだな。高レベルの移動用モンスターでも、複数に囲まれたらおしまいだ。
だから、飛行系モンスターの出ない、若しくは比較的少ないポイントを記載されたマップは、高く売れる。
皆で地上に降りて、未到達領域の少し手前から歩く。
「忍者、いつも通り先頭よろしく」
「あいよー」
「索敵で見つけ次第、数と方向を言って、すぐに俺の後ろに下がれよ」
「シシカ杉採取中は警戒よろしく。今スキル初期だから、ちょっと時間かかるけど」
「へいほー」
忍者の索敵スキルと、集団隠密スキルのお陰で、敵に遭遇すること無く、目的地入口のシシカ杉まで着く。
俺らのパーティは、クレリック系がいないので、回復はアイテム以外の手段が基本的にない。余分なHPを、目的地前に消費する余裕はないのだ。
「じゃあ、ちょっと採取してるから、周辺警戒よろしく」
「あいさー」
「さんきゅさー」
「サーは止せ」
奴らとくだらないやり取りをしながらも、採取キットを使い、スキルを発動させる。
このビンの上に出てきたゲージが、いっぱいなれば、採取完了だ。
こういうところは、ゲーム的で助かる。薬草や植物に合わせた採取方を一々覚えなきゃいけないのは、流石に面倒過ぎる。
ただ、このゲームの面白いところは、スキルに頼らず正確な手順で採取すると、品質が高くなる可能性がグッと上がるところだ。
面倒な手順を踏めば、しっかり結果としてついてくる。それが、このゲームのいいところ。
キャラロスト以外では、どんな努力も無駄にならないし、知識は復活後もすぐに使える武器だ。人は決して死なないし、努力は必ず実る。
「今のうちにアイテム欄整理しとくか」
「忍者もやっとけよ」
「へいへい。やりますよっと」
「やっぱ回復アイテムは、すぐに使えるようにしとかないとな」
「前にそれで、全滅したもんな」
「あれは、唯一の壁役が、麻痺るのが悪い」
「仕方ねぇだろ!無効化できないんだから!」
「重鎧の装備で、13レベルも下のモンスターから、麻痺もらう確率とか、1パーセント切ってるだろ」
「いやいや、俺から言わせてもらえば、参謀と忍者が、麻痺の解毒ポーション持ってなかったのが悪い」
「だって」
「なー」
「「高かったんだもん」」
「ハモるな!嫌がらせか!」
あー回復役欲しい。いつもいってる気がするけど、美少女に癒されたい。ゲーム的な意味で。
大体、男三人旅とか、むさくるしいでしょ。もう、圧倒的、常識的に考えて、何か臭いわ。男臭がする気がする。
ゲームの中で、汗や体臭がするわけがないのだが、イメージって大事。
そんな、たわいない事を考えていると、ゲージが満タンになった。
「警戒解除!」
「あー」
「おー」
やる気が有るんだか、無いんだか分からない、返事とともに、少し弛緩した空気が漂ってくる。
「上がったか」
「重鎧。たった1本で上がるわけないだろ」
重鎧の軽口にそう返すと、今度は左側から、声がかかる。
そんなに簡単に上がったら、そこら中スキルレベル上限に、達してる奴らばっかりになっちゃうってーの。
「じゃあ、残り5本全部やるか」
「んなわけ」
忍者の冗談に、スっと返す。
このレベル帯で、三人しかいないパーティメンバーの一人が、動けない状態を押し付け続けるのは、流石に忍びない。
しかも、わざわざ未到達領域まで来て、採取中に全滅しましたでは、あまりに辛い。
シシカ杉は、特別レアでもないアイテムだしな。これで全滅したら、泣くに泣けない。
「じゃあ、行きますか!未到達領域」
「おうよ!気合い入れ直しとこうぜ!」
「さんせー」
まあ、俺は採取で手にしてないしな。
俺が立ち上がると同時に、二人は装備を解除する。
「叫び、魔力を解放し、敵を断つ裁魔の鉄を創造せよ!サモン!『ディネテレート・スペルド』」
「放て、穿て、無二の力を今ここに!サモン!『ニルヴァーナ・シュタイン』」
「崩壊せよ、終滅せよ、魔を壊せ!サモン!『アンチ・ギルガディア』」
魔法陣に包まれ、電子の煌めきが空間を走る。
やはりこの瞬間はゾクゾクするな。
手を伸ばし、空間を掴み取る。俺だけの特別な重みは、どこまでも俺を強くしてくれる。
どんな未知の化け物にだって、今なら勝てる。
さぁ、世界を始めよう。
まさか、中に入らないとは……進まなかった。