サモン・モンスター
5話目
今はレベル上げの作業中だが、相手が弱く暇なので、雑談しながら狩りに興じている。
「なぁ〜忍者。お前いくつになったよ」
「闘技場ランキングか?」
闘技場。
それは、この対人システムの無い世界で、唯一優劣を示す事の出来る場所。
勿論、相手はモンスターで、どのレベルのモンスターをどれだけ倒せたかで、ランキングが決まる。
闘技場といえば、世界ランク一位の帝が、全世界のプレイヤーに喧嘩を売った動画が有名だ。
推定レベルは120前後。
帝が倒した闘技場のモンスターのレベルが97で、それに対する立ち回りや、切り付けた回数から、導き出した予想だ。
ありとあらゆる手段を用いても、チートが不可能なこの世界で、このレベルははっきり異常と言っていい。
前にも言った通り、全プレイヤーの平均がレベル50前後。天災級のドランゴのランダムな出現や、高難易度ダンジョンの理不尽なトラップを掻い潜り、生存してる事になる。
攻略情報等が出回り罠に掛からないとか、天災級のドランゴの出現時間を把握出来てるとかならまだしも、未来AIによる情報統制と完全ランダムを、人間に予測しろってのは無理だ。
電卓を渡されて、今から10秒以内に落ちてくる隕石の被害範囲を割り出せ、出来なければ極刑。とか、そんな領域の話になる。
120まで生きる事が出来るとしたら、たった12人だけだろう。なので、帝は賢者の1人が姿を変えたものなのではないかと、専ら噂だったりする。
勿論本人も否定はしていたし、未来AIからの返答もNOだった。未来AIが嘘をついてしまえば、ゲームとしての公平性が瞬く間に失われるので、それだけは無いと断言出来る。
まあ、未来AIに本物と言えるだけの証拠を揃えてからでないと、開示されない可能性は有るけどな。要するに、イベントの発生条件を満たして無い故にって事だ。如何にもその辺はゲームらしい。
「レベル聞くわけねーべ」
レベルを聞くのはマナー違反だからな。聞いても罰せられたりはしないけど、相手の詮索はNG。銀はAg。.....うん。
「そだなー。まだ、億から抜けてないぐらい」
「だよなー。人類ほぼ全員やってるもんな。やって無いのは、物心つく前の幼児ぐらいだよな」
「最近は現実との齟齬の無さと、安全性の高さから、物心つく前から、やらせてる親もいるらしいぜ」
「重鎧、なんでそんな事知ってんの」
「街で良く見ると、子供抱いてるプレイヤー居るぞ?」
「マジか〜全然興味なかった。子供とか無縁過ぎだし」
「俺ら日本の法律だと、まだ子供だぜ」
「いや、そういうのいらないから。求めてないから」
「子供どころか女と無縁だしな」
「いや、そういうのもいらないから。つーかそんなの、俺らの年で結婚とか中世の貴族ぐらいだろ」
「中世の貴族だと行き遅れてないか?なぁ、忍者」
「俺!?知らんけど、そーなんじゃね?急に振ってくんじゃねーよ、焦るだろ。焦り過ぎて、ニルヴァーナ落としたじゃねーか」
「武器手から落ちないから、大丈夫だから。変な嘘つくんじゃねーよ」
慌てたり、驚いたりする度に、武器取り落としてたら、ゲームになんないしな。
「わーってるよ。それぐらい驚いたって意味だよ」
「驚き方微妙過ぎない?」
「じゃあ、お前驚いてみろよ!」
「えっ何その無茶振り!?」
「めっちゃ驚いてる」
笑い過ぎだろ、マジギルティ。重鎧め、人を指差すんじゃありません。
「とりゃ!っと、おっレベルあっぷっぷ〜」
「20になった?」
「なったなった!」
「じゃあ、召喚用のモンスター契約に行こうぜ!」
二十になると、モンスターを召喚できるようになる。召喚士達の宴ってだけあって、ほぼ全てのモンスターを、召喚することが出来る。
要求レベルに応じて、召喚出来るモンスターの数、モンスターのレベルが変わってくるのだ。
例えば、自分のレベルが100だとしよう。そうすると、要求レベル100のモンスターなら一体。要求レベル1の最低ランクのモンスターなら、百体使役する事が可能である。まあ、要求レベル9以下のモンスターとか、愛玩用以外何の役にも立たないけどな。
それに百体も同時に召喚すれば、邪魔過ぎて確実に顰蹙を買う。狩場なら、最悪妨害行為で、ペナルティだろうな。
場合にもよるが、モンスター召喚のペナルティは、召喚したモンスターの帰還と、一定時間召喚禁止だ。
割と軽いが、あからさま嫌がらせで、同一プレイヤーが何度もって場合は、召喚契約が無効化される。
モンスター契約は、一体ずつしか出来ないので、百体で取り消されたら普通に泣くな。契約自体、安いって訳じゃないし。
夢物語だし、有り得ないが、要求レベルさえ満たせば、天災級のドラゴンも使役出来るらしい。それが、このゲームの面白いところだと思う。
限りなくゼロに近いがゼロではない。ちゃんと、どんな不可能に近い事に対しても、夢が有るのだ。
「誰んとこで契約するよ?やっぱ亜人系?天使系、悪魔系もいいよな!」
「それ、重鎧が見た目可愛い女の子モンスターが、好きなだけじゃん」
「うるせぇぞ忍者。いいだろ、どうせモテないんだから」
「いや、だからモテないんだよ」
「俺ら全員モテないから、その理論は違うな。顔が悪い顔が」
「知ってる?真実は、人を傷つけるんですのことよ」
「帝は別にイケメンじゃないけどモテるだろ!」
「世界ランク一位と比べるとか、お前言ってて悲しくないの?」
「心は豪雨」
「「だよな〜」」
しょうもないところで、忍者とハモってしまった。
閑話休題
契約師によって得意な系統が違うので、契約したいモンスターによって、色んな人の所を回らないと行けないこともある。
このゲーム職業システムは無いので、契約のスキルを上げれば誰でも成れるんだけどな。前にも言った通り、スキル上げが馬鹿みたいに面倒臭いんだよね。
スキルレベル10が最大で、レベル10になれば、どんなモンスターとでも契約させることが出来ると噂だ。
ゲームが開始された年から、一度も死なずに契約のスキルをあげている、一番有名な契約師の人のスキルレベルが、現在6と言えばスキルレベルを上げるのがどれだけ大変か分かるだろう。
こういう点に於いては、やっぱり世界を支配してるゲームじゃなきゃ、絶対やってないと言われる所以だ。
あの帝ですら、たったのひとつも、スキルレベル10は無いらしい。
「取り敢えず、移動速度が現在ゴミなので、騎獣と偵察役の鳥系かな」
悪かったな、移動速度がゴミで。
「レベル上がってくると、色々組み合わせられるけど、序盤はテンプレっつーか定番だよな〜」
「基本は大事だよな。騎獣は無難に馬?」
「うわ〜忍者つまんな」
「おい、表出ろ重鎧」
「なんで俺の召喚モンスターを、お前らが決めてんだよ落ち着け」
無難に、安価なモンスターを、二体にしよう。
という訳で、一度街に戻った俺らは、契約師の所に来ている。
「私は鳥系の契約師だ。スキルレベルは3。お兄さんご希望は?」
「レベル19の『フィーブル・ヒポグリフ』とレベル1の『スモールファング・レッサーバット』をお願いします」
「成程ね、丁度ってわけね!」
「えぇ、そうなんです。天災龍にやられちゃって」
「あ〜そいつはご愁傷様。そいじゃ、手を出してくれるかい」
「はい」
そっと差し出した手の甲に、契約師が特殊なインクで魔法陣を描いていく。風が巻き起こり、壮大なエフェクト撒き散らされる。
「汝、その魂を盟約に従って、理を解せ!」
契約師が呪文を唱えた途端、魔力が魔法陣を通して流れ込んでくる。
「さぁ、出来たよ。一度店の横の空き地で召喚して見てね!後で注文と違うって言われても、またお金もらうことになっちゃうから」
「分かりました」
店の横の空き地って言っても、本当に空き地な訳じゃなくて、店と繋がってる別空間って感じだけどな。
ジャイアン・ゴーレムとか店の中で召喚出来ないから、そういう為の処置だ。
「よし、いくぜ!サモン!『フィーブル・ヒポグリフ』サモン!『スモールファング・レッサーバット』」
ちっこいコウモリと、馬っぽい鳥みたいなモンスターが出てきたので成功だ。問題無かったと言っておこう。
「これでようやく、歩いて移動せずに済むな!」
「ポータル無限に設置できればいいのにな」
分かる。超分かるよ忍者。
「そしたら、モンスター召喚要らんだろ」
「確かに」
契約師にお礼をいって店を出た。
「さて、不老不死なんざ本当にあるか知らんが、賢者様達を探しに行きますかね」
「重鎧次の目的地は?」
「南東の未到達マップだ。まあ、俺らのって頭に付くけどな」
「最寄りの街は『神都市アルカナム』だ」
「神の秘薬が有るとされてる街か」
「そうだ。多分、神の秘薬が、賢者の手掛かりなんだと思う」
「ただの回復アイテムとか、伝説の蘇生アイテムって話もあって、真偽は不明だけどな」
「いっちょ冒険と行きますか!」
「「おう!」」
いざ、アルカナムへ!