34軒目:誰か正しい昔話の切り出し方を教えてくれ。
遅れてごめんぬぇーーーーーーっ!!!
あ、本当に申し訳ありませんでした。
34話です。四章最終回です。
R1.8.19:本文を修正させて頂きました。
某年六月二十一日
夕暮れ時、オンボロ自転車を押しながら帰途に着く。
普段なら……と言ってももう三週間前の日常だが。今日の様に帰り道の途中に銭湯に寄れる場合は行く所なのだが、何処かの我儘娘が家に来てからというもの『楓花に会うなら私も連れて行って下さい。そして変態さんの財布を薄くする為、もとい私の完ッ璧なボディを更に美しくする為に奢って下さい。勿論コーヒー牛乳とフルーツ牛乳もセットで。』等という理不尽な言い草……というより言い草にもなっていない命令口調で鉛を飛ばせる方の御弾き片手に迫ってくるのでやむを得ず一度家に帰っているのだ。
……いや、うん。何でロボである彼女が風呂に入らなきゃいけないんだろう。ていうか何で僕がお金を払わなければいけないんだろう。
確かに、あのロボは掃除や洗濯、片付けや安くて美味しい食材の買い出しをしてくれている上に僕でも失敗しなさそうな料理レシピを探したり考案してくれているし更には腕を水に付けるだけで水を浄化、殺菌出来るから水道代の大幅な節約になっているし、空気清浄機とか扇風機とか付いてるから雨の日でも洗濯物が生乾き臭しないでキレイに乾いてくれて大いに助かっているけどもね?
……アレ? 結構助かってるな……じゃないよッ!
そうじゃなくて彼女は我侭が過ぎるって話であって……まぁ、彼女の本意で僕の所に転がり込んできた訳じゃないし、多少の事は聞くつもりではあるけどもね?
でも、出来ればボクに対する毛嫌いというか悪感情を弱めてほしいなぁ……なんて、本ロボに言ったらうるさいと一蹴されるんだろうけど。
そもそもの話、どうして僕は嫌われているのか。この三週間である程度の目星はついてきた。恐らく、僕の少しの言動や纏ってる雰囲気というか、そういったものが癪に障るらしい。
……なんか、僕の存在全否定だな。万人に嫌われないような性格を心掛けたつもりだったんだけど、それが仇になったという感じだろうか。いや、というよりかは何かもっと理不尽な……っていうのは、只の憶測に過ぎないか。
チャーランラン! チャーランラン!
不意に掛かってきた電話に少し戸惑いつつも、ジーパンのポケットから携帯を取り出し、未だに慣れない手付きで応答する。
「はい、もしもし。」
「やっほー、センくん?」
「……おかけになった電話番号は電波の入らない惑星に居るか電源がバックステッポで回避しているので繋がりません。つきましては……」
「流石の私でもそれは嘘だってわかるよ!? ていうかもしもしって言ったよね!?」
ハイ決定的。
「甘いよシロ。先輩なら一旦切ってから気付いて掛け直してくる。」
「嵌められたっ!? クソッ、なぜ気付かなかったマイフェイバリットマインド!! ノリツッコミのチャンスだったじゃないですかっ!!」
まあ、最初の一言で何となく判ったけどね。イントネーションが微妙に違ったし。
ていうかマイフェイバリットマインドって何だ。
「で、教えてもないのに携帯に掛けてきた上に先輩の声までして何の用?」
「よ、用が無かったら掛けたらダメ……なんですか?」
「いやそういうのいいから。時間引き伸ばして電話料金上げようとしてるの丸わかりだから。ていうか本当にそういうの止めていただけるとありがたいですはい。」
「チッ、今朝変態さんに付けておいた発信器を確認したらなんにもない道路で数分間動かなかったので、早く風呂に入りたいなぁーなんて思いつつ、あわよくば死んでないかなぁーと考え、そして楓花の振りをして連絡することで罠に嵌めてサクッと殺れるかなぁーなんて想像して連絡したんですよ○ね。」
帰りが遅かったのは申し訳ないし、ちょっと立ち止まって溜め息を吐いていたのはまあ僕の過失と言えなくもないけどそれにしても酷え。
「ていうかこんな完璧エクストリーム美少女が頑張って罠作って殺害を目論んでるのにノコノコとやってこないとか物理法則無視としか言いようがないんですが? 正気ですか貴方は???」
「ごめん君が何を言っているか一つも理解できないし通話に集中させて背後からの奇襲に気づかせないという君の手口の殺意の高さには脱帽だけど本当にやめようか。そして今一度考えてみたけどやっぱり物理法則は関係ない。」
後ろからの殺意が半端ないから。何となく脅威が迫ってるってわかるから。
「ダァカァラォアッ! 気付いても黙って罠に掛かれとォッ!!!!!」
唐突にガチギレしたシロの声が後ろから聞こえ、僕の頭に拳銃のような物が突きつけられる。理不尽である。
「オーケーわかった、話し合おう。僕が悪かった。要求を聴こう。」
「今日は外食で。」
「……あの、この後まだお仕事がありましてですね。」
「誰が貴方みたいな変態ゴミクソ野郎と一緒にと言いましたか?」
「本音を言うと君の金使いは割と荒いから安易にお金を渡したくない。」
「人聞きの悪い事言わないで下さい。私か浪費するのはボロボロにしてもいい財布がある時だけです。」
「僕の首を回させる気無いだろ君。」
ハァ……と深い溜め息を吐くと、彼女は何処か腑に落ちない表情で僕を見ていた。
「――嘘つき。」
僕に聞こえる事を想定していないであろう彼女の言葉。
だから僕も聞こえなかったフリをした。
その言葉の真意はわかる。恐らく彼女の僕もお互いの事を何となく理解してきているのだ。
誰にだって、知られたくない事の一つや二つあるものだ。だからといって、それが隠し通せるものであるとは限らない。
この頃感じている彼女に対しての微かな違和感、僕が彼女を嫌いな理由、彼女の身体の事、そして先輩が僕に彼女を預けてきたという事実。
まあ、大方の予想はつく。詳細はわからないけど、面倒事を抱えているのだ。僕も、彼女も。
それに気付いてもお互いに不干渉なのは、僕らが『他人』であるからだろう。
只の他人の為に無償で何かをする程僕らは善良じゃない。ましてや、嫌いな奴に対してなんて論外だ。
だからこそ、彼女は僕に何も聞かない。
僕は……
僕はどうしたいんだろうか。
彼女と過ごす日々は嫌いじゃない。
只、彼女に拒絶されることをどうにも恐れている。
あの時の様に、僕の存在が誰かの負担になってしまう事が、どうしようもなく怖いと感じている。
先輩と出会って、前を向こうと決めた。
でもあの止まり木は、どうにも居心地が良すぎたんだ。
だから僕は、こんなにも進む事を恐れている。
――センくんのペースでやれば良いと思うよ。人付き合い。――
息を、吸った……そして大きな溜め息を吐いた。
ズルイなぁ……先輩は。自分の歩幅なんて考えさせる間も無く、僕の腕を引いてくんだから。
――『考えろ』よ。正直僕は君に飽き飽きしている。君が考え、自分の手で足掻き出す事こそが、君を助けてくれている全ての人間に対する報いだと思え。――
嗚呼、分かったよ。考えるさ。
他人から見れば、失笑物の悩みだろうけれど。僕は『あの時』を振り切らなきゃ前に進めないみたいだから。
「銭湯に行こうか、シロ。」
変わろう。願望でも、決意でもなく僕が僕である為の『絶対的な条件』として。
「戦闘ですか、いいですね。無惨に殺される覚悟は出来ましたか? 生憎と私は殺す覚悟しか持ち合わせてません。」
「そっちじゃないよっ!?」
*(センセーショナル銭湯タイムッ!)
のれんを潜れば、何処かのアニメで見れるデフォルメされた熊のように、むっしゃむっしゃとナッツを貪る先輩の姿があった。
「やっほーっ、センくんとシロちゃんこんばんわっ! 今日は早かったね? ピーナツ食べるぅ?」
「食べます。カシューナッツあります?」
「…………ハァ。」
うん、何だろうか。この人が真剣に覚悟を決めたというのに肩骨をスライムにするかのような雰囲気の和らげ方は。脱力感がパない。
「あるよー! およ、どうしたのセンくん? お腹痛い? アーモンドあるよ?」
「お通じ改善しそうですね。後、お腹は痛くないです。」
「あそぉ? でも何かストレス改善的なアレがそれでこれらしいから日頃接客で頑張ってるセンくんも食べてみそ?」
そういって先輩が差し出したのは、自らが食べているそれでなく新しい袋……
「って多いですよッ!」
「? 大丈夫だよチャック付きだし。」
「いや業務用スーパーでお徳用って書いて売ってそうなサイズ出してくるのは流石に迷惑とはいかないまでもそれなりにキツイですよ!?」
「良かったじゃないですか変態さん。何処かの国では豆は主食ですし。」
「晩飯にしろとッ!? 大丈夫かなぁそれ、喉詰まらない!?」
「寧ろ詰まっていただけるとありがたいです。私が直接手を下す必要性が無くなります。きっと楓花もその為に……」
「ほぇ? シロちゃんも欲しかった?」
「……楓花、それは天然ボケですよね? あの、ナチュラルにお前も死ねって言った訳じゃないですよね?」
「???」
シロ、その辺にしとこう。リラックスしてる時の先輩のセリフを真に受けるとロクなことが無いよ? いやホントに。
「変態さんは黙ってて下さいッ!」
「いや僕何も言ってなかったよねっ!?」
「何か言おうとしてました、ええしてましたっ! そして顔がうるさいッ!!」
「理不尽ッ!!!!」
「気持ち悪い面は口ほどにモノをベラベラデュフデュフ言うんですよッ!!」
「デュフデュフ!? 容姿を貶すのはやめてくれヘコむッ!!」
自分では中の下くらいはあるとは思ってるのにっ!!
……先輩を揺すっているシロは放っておいて、先に入ってようかな。
「先輩、ここに代金置いとくんで……」
「何私を無視して風呂に入ろうとしてるんですか下等生物ッ!」
「本当に理不尽だな今日の君ッ!!?」
*(ナッツィングリラクゼーションタイムッ!)
「シロちゃん落ち着いた? 黒蜜飴食べる?」
「ナッツじゃないんですかそこは……食べますけど。」
あれから数分と立たずシロは落ち着きを取り戻した。まあ、いつものネタ的な感じなんだろう。
『蜜飴美味えっ!』と目を輝かせる彼女と、それを肩ひじをつきながら眺める先輩は、どことなく微笑ましい。
姉妹……と、いうよりかは親子? うーん、二人とも見た目と内面が一致しないから何とも形容し難い雰囲気だな……
「さて、楓花に餌付けしてもらった所で変態さん。行きますよ風呂にっ!! ビバッ!」
「いやそんな『いざッ!』みたいに言わなくとも……ていうかそこ餌付けって認めちゃうんだね。そして何故にナチュラルに男湯に……」
「いつもの事でしょう。」
「非常識を日常にするのはどうかと思うっ!」
「何ですか貴方はッ! 私からストレスの無い生活を奪った上に貴方を詰る愉しみまで奪うつもりですかッ!! 一体何が貴方にそこまでさせるんですかッ!!! そんなに私の事が嫌いかッ!!!! 気が合いますね私もです反吐が出ます死ねッ!!!!!」
「ここまで清々しい逆ギレを僕は初めて見た。」
「こんなゴミクズの居る場所に居られるかっ! 私は風呂に入らせてもらうっ!!」
「わかってて言ってるとは思うけどそれ死亡フラグだからねっ!?」
あ、行っちゃった……
「……シロちゃん、何かあったの?」
「いえ、僕は何も。この頃調子が悪いというか、空振り気味というか……」
「そっかぁ……ダイエット中とか?」
何故その発想に行き着いたんですか先輩。あの娘太らないって言ってたしロボだし自分の美貌に絶対的な自信持ってますから違うと思いますよ。
「……お通じがw――「それは絶対に無いと思いますよ先輩」――……そう?」
ていうかいつまでそのネタ引っ張るんですか。身近に便秘の人でもいるんですか。
「いやね、五丁目の田原さんが便秘で悩んでるみたいだったから……」
「いや誰っ!?」
「前にシロちゃんがお風呂場に居るの見られて撃っちゃった人。」
「……あの人かっ!」
いやその節は大変ご迷惑をお掛けしました。お大事にッ!!!!
「……もし、さ。」
一拍置いて、先輩は真剣な目で此方を見つめた。
「シロちゃんが頼ってくる事があったら……さ。」
「先輩、後輩権限で失礼します。」
ああもうっ、駄目ですよ先輩。そんな顔をしたら。
溜め息を吐きながら僕は先輩の頬をつねる。
「いららららららぃっ! へんくんっいはいっ!」
「昔から先輩が他人を気遣ってる時はイラッとします。出来もしない事を無理にやらないで下さい。」
「ひろぃっ!?」
数秒間彼女の頬をグニグニとした後、ゆっくりと離す。
「いったぁ……」
先輩が涙目で頬を撫でるが引っ張った場所とは少し位置がズレているので多分実際はそんなに痛くなかったと思う。もしくは先輩が只鈍感なだけか。
「先輩はもっとどっしりと余裕綽々で悩みなんて一つもないような顔をして構えてればいいんですよ。いつもみたいに。」
「センくん酷くない……?」
「じゃあ最近一番悩んでることは?」
「カロ○ーメイトって一箱じゃ何か満足出来ないから二箱を一つにして『びっぐさいず!』みたいな感じで売って欲しい。」
「……人生楽しそうですね。」
そしておやつ感覚でカロリーメ○トを食べないで下さい。肥りますよ?
「うん、楽しいよ!」
「うん、皮肉が通じない!」
知ってたけどね!
「……そうやって、先輩が楽しそうにしてるから、皆が自分の悩みをちっぽけだと思えるんですよ。」
だから、笑って。そして、前を向いていて欲しい。
周りのことなんてお構いなしに。いつも皆の先頭に立って。周りの人を引きずり回して。
「センくん……」
先輩がハッとした顔で僕を見て……
「髪伸びたねぇ。」
「今 言 う こ と じ ゃ な い で す よ ね ぇ そ れ ッ!!!!?」
何だこのシリアスブレイカーッ!? ボケないと死ぬの!?
「フフ、ごめんごめん。じゃ、シロちゃんを宜しくねセンくん!」
ニカッ! と笑う先輩の表情は、いつもの彼女そのものだ。
「……まあ、善処します。」
少しずつ自信が無くなり曖昧な返事になってしまったものの、先輩はそれで満足だったようでウンウンと頷いた。
「うん。最近の優しいセンくんよりちょっと背伸びしてるセンくんの方がいいと思うよ。」
……ホント、この人は。
「先輩の言葉じゃなかったら惚れてました。」
「えぇー? 最初っから惚れてるって?」
「言ってませんよ。」
*(ロジカルパブリックバスタイムッ!!)
銭湯では本来タオルを湯船に浸けてはいけない。湯を汚すことになるからである。
例えそれが未使用のものであろうと、それは他人に証明出来るものではない。要らぬ荒事を起こしたく無いのであれば、下手な行動は起こすものではない。
だが、まあ……幾ら相手が性悪だといえ、女性型アンドロイドが見ている中、下半身を露出して風呂に入る訳にもいくまい。
その為僕は態々、頭と腰に二枚とタオルを携えて
……何故僕が彼女に配慮しなければならないのか、という自問自答には飽きた。
僕が折れた方が早い。まあ、だからといって何もしない訳じゃあ、ないけれども。
……まだ、手を伸ばすのは早い。そう思った。
「やぁーっと来ましたかぁ、変態さぁーん。」
ぐでぇっ、と身体を後ろに倒しながら、ヘアゴムで纏めきれていない幾らかの髪をだらしなく垂らしている様は、我が同居人ながら実に怠惰である。
「髪ぐらいちゃんと纏めてくれよ……」
「やですよメンドクサイ。我慢すれば抜けないしロボだからフケも出ないし清潔なんだからいいでしょう?」
「僕は君の精神面の心配をしてるんだよっと。」
次の仕事まではまだ時間がある。流石にゆっくりと食事を摂る時間までは無いだろうけど、昔話をするには十分だ。
僕はこの後控えてる長話に向けて、持参しているシャンプーを泡立てた。
*
髪を洗い終わると、シロがジト目で此方を見つめていた。
……何か、僕は彼女を怒らせる様な失態をしただろうか。
「あ、終わりました? じゃあ上がりますよ。」
「いや、僕はこのまま湯船に浸かるよ。まだ次のバイトまで時間が……」
「はぁー? ワターシお腹ハングリーなんですが? ふざけた事言ってるとハンバーグにしますよ? 食べませんけど。」
「僕を食材と見なすなら食材は粗末に扱わないでくれ。」
……じゃなくてっ。ああもう、話すと決めたんだ。
それだったら、ちゃんと自分と向き合おう。
「……わかった。じゃあ一緒に此処でゆっくりと僕の『昔話』に付き合ってくれたら今晩の晩御飯は君の好きにしていい。その上、君の毎週の生活費を割り増ししてもいい。」
「……何が目的ですか。」
「何でもいいだろ? 君には利益しかない。別に僕の話を聞けとも言っていないんだから。」
「……勝手にすればいいじゃないですか。」
そう言うと彼女は湯船の縁に顔を預け、プカプカと浮かんだ……その重さで浮くってどんな構造してるんだろうホントに。
それはそうと、どこから話したものかな……
「……子供の頃から、頭の回転が早かった。」
「自慢ですか?」
「『事実』だよ。君も何となく覚えがあるだろ?」
「……モールス信号を無駄に早口で発したのに読み取れたり無駄知識大量に頭に詰め込んでたりしてたらそりゃ何となくは?」
「まあうん、そんな感じだよ。一秒を十数秒に引き伸ばすとか、覚えようとしたものは絶対忘れないとか。」
高度な演算能力、と言ったのは誰だったか。
身体能力が高い訳でも反射神経が良いわけでもないけれども、脳の処理速度を早くすればある程度はそれを補える……とか、まあ色々使い道は多様ではある。
勿論単純に計算も早いし物覚えも良い。
「何ですかそのバトルアニメの能力者みたいなスペック。」
「ホント、産まれる次元を間違えたかもしれない。そのせいで色々といざこざもあったしね。」
「イキリ発言乙ー。」
茶化してくるシロの声は、どことなく小さくなっているような気がした。それでも、彼女がこの話を悲劇として受け止める気が無い事が、僕には嬉しかった。
「……それでも僕が社会に存在出来る『一個人』としている事が出来たのは、普通の子供と変わらない対応で育ててくれた両親の影響が大きいと思ってる。まあ、二人とも僕が四歳の時に死んだけど。」
「不幸自慢ですか?」
「不幸とはあんまり思ってないからそれは微妙な所かな。で、それから僕はあんまり知らない僕の事を異常者だと罵る叔父さんの所に引き取られたんだけど、君の拳から繰り出される破壊力を最小限に抑える方法とかを実践的に教えられたり、社会の厳しさとやらを物理的に叩きつけられたり、冬の雪の冷たさをご教授していただいたり、まーお世話になったんだ。」
「…………」
これが僕の終わった話。先輩と出会った事で振り切った、過去の話。
それは決して消えるものではないけれども、今の僕には気にも留めない程小さなものに感じる。
それでも、心に刺さった些細な棘は……大きな傷に隠れた小さな穴は、次第に大きさを増していく。
何故ならそれは、いつもなら痛みに隠れて気づかないのだから。
「で、ここからがやっと本題なんだけれど、君がここに来る数日前に僕はその御礼を法廷で一杯したら色々と帰ってきたものがあってね? 法律の勉強とかで色々お金を使っちゃったけど、収入と合わせてそろそろ貧乏生活を脱却出来そうって話。」
「………………あ、そういう話だったんですか?」
ボォーっと天井を見ていたシロの視線がこちらに向き、その瞳は点になっていた。
「逆に何の話だと思ってたんだよ。僕が只の貧乏青年だと思われてそうだから、一応話をしただけだよ。」
まあ、わざとわかりにくい話し方をしたし、彼女に伝えたい別のこともあったけど、それは何となく伝わっただろう。
少し、遠回り過ぎた気もするけれど。
「……じゃ、私は上がりますから。」
「僕はもう少し浸かってるよ。財布は不用心に棚に置いてるから勝手に持っていってくれ。」
「私に貴方の服を触れと?」
「君いつも洗濯してるだろぉっ!?」
その嫌悪感全開の目線ヤメテ!? 傷つくッ!
「……うるさいです、死んで下さい。」
そう言って湯船から出ていく彼女の声は、どことなく覇気が無くて……
「…………なんとなくカッコつけてみたはいいけど、僕は一体何をすればいいのやら。」
まだまだ課題は山積みで、一向に前に進める兆しは見えずに、また今日も一日が終わる。
どうか願わくば、今日の選択が明日の僕に繋がりますように。
そんな願いが浮かんでは、失笑と煙に掻き消された。
遂に明かされる驚愕の真実……! と、いうほどでもありませんが、サラッとした零人君の過去でした。ある程度伏線というかそれっぽい箇所はあったのでお気づきの方もいました……よね???
この過去は中々ヘビーな過去ではありますが、現在零人君の抱える悩みとはあまり関係がありません。なのでこういう過去とか設定があるからシロさんの攻撃を耐えれたり、唐突なコアなネタに反応出来たり、無駄に無駄な知識があるんだなー程度に思っていて下さい。彼も好きでフリーターをしているわけでは無いのです。
本編で名前が出た田原さんを思い出せない良い子の皆は保護者の皆さんと一緒に八軒目辺りを読んでみようっ! 悪い子は知らないままでいいと思うよっ!
さて、次回は売店。今回もあの『彼ら』のラブコメを楽しみにしている方は、残念な感じの内容になるかも……しれませんしならないかもしれません。
ではではぁッ!!!!!
次回予告
京也「…………」
有須川「どうしたんだい京也?」
京也「いや、俺の影薄いなーって。」
有須川「ここで喋れるんだからまだマシな方じゃないかい?」
京也「姉ちゃんはメイン張る時はメインでちゃんと出れるしお前は凄え優遇されてるだろ。新キャラも出てきたし、そろそろマトモな出演をだな……」
有須川「次回、京也が出ないかもしれない売店。次回も良かったら宜しく頼むよ。」
京也「オイ待てどういうことだァ!?」
次回予告はイメージです。実際の内容とは異なりパラドクスがどーたらこーたら。




