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想いなんて夏の空に溶けていったらいいのに 5

 バスは40分ちょっと走り、私たちは海へたどり着いた。

 まだ9時半にならないくらいなのに結構人が多い。ヒロちゃんとタダが休憩所の貸し出しの場所を借りに行ってくれている間、彼女と二人きりになってしまった。

「ユズちゃん?」とまず彼女。

「…はい」

私の事、ヒロちゃんからどんな風に聞いたのかな。


 ニッコリと笑って彼女が自己紹介を始めた。「私、黒田ユキ。ヒロトとは隣のクラスで合同授業が一緒になるから、それで同じグループになって話をするようになったんだよ。ユズちゃん小学から一緒なんでしょ?タダ君も。ヒロトから聞いてる。ユズちゃんは何ユズちゃん?」

「私、大島ユズルです」

『ヒロトから聞いてる』に、イラッとしながら答える。

「ねえねえ」と、こそっとした声で聞くユキちゃん。「ユズちゃんとタダ君は付き合ってるの?」

ぶんぶんと首を大きく振った。「違うよ」

「そっか。でもうらやましいな~~。ずっと仲良くしてる友達がいるって。私4回引っ越ししてるから」



 ユキちゃんは初対面なのに当たり障りなく、それでも感じ良く話しかけてきてくれる。だからさらに思うのだけれど、ユキちゃんはヒロちゃんがいつも良いって言っている女の子のタイプとは違う。あっさりとしていて、可愛いんだけれど女子っぽさを前面に出したりはしない感じ。

 そしてユキちゃん良い子だなと思いながらも、私はまた考えるのだ。

 この子そんなに私と変わらなくない?

 胸だって顔だって。人間を…ていうか女子を大まかに分類したら私と同じ所にユキちゃん入るんじゃないの?


 「タダ君てカッコいいね」

ユキちゃんがふいに言う。

 あれ?ユキちゃん…。ユキちゃんもやっぱり早くもタダ狙いか!?

 とたんに警戒する私だ。ていうかヒロちゃんが調子に乗って写真とかいろいろ見せて、その中にはタダの写っているのもあって、『ねえこの子も一緒に海に行こうよ』とかそういうノリで…

 ユキちゃんが言う。「ヒロトが面白そうに、『オレのツレはすげえモテる超イケメン』って言って写真見せてくれたけど、ほんとカッコ良くて、実物もやっぱカッコ良かったビックリ」

思った通りじゃん!!ヒロちゃん…自分から墓穴掘ってるよ…



 …まあいい。ユキちゃん。そのまま真っ直ぐにタダの方へ行け。そしてもう明日からはヒロちゃんに関わるな。

「なんかでも…」と、テヘっと笑ったユキちゃんが言った。「私はヒロトの方が断然カッコいいと思うんだけど」

 うっ、と言葉を失ってしまう。


 …なにこの子。どういうつもり?普通の女子だったら見た目だけで速攻タダの方へ行くのに。ヒロちゃんのカッコ良さが本当にわかっているのは私だけなのに!

 そう思って軽く睨みつけるようにまじまじと見つめたら、ユキちゃんが赤くなった。

 赤くなった!て言う事は本気で言ってるって事!?


 ユキちゃんが言う。「ヒロトね、2年のすごい綺麗な先輩に告ったんだよ。6月の始めの頃の話だけど」

 知ってる、と思うが『知ってる』とは言わない。

「みんなに無理だって言われて、でもその先輩が断りながらも『ありがとう』って言ってくれたって、すんごい嬉しそうに話すんだよね。ヒロトが相手だと男子も女子も結構気安く話が出来るから、いつも周りに友達がいて…で、その後ヒロトの事良いよね~って言って、付き合いたいかもって言い出したヒロトと同じクラスの子がいたらしいんだけど、結局うまくいかなくて」

 それも知ってる。そのデートにタダと一緒に参加したし。

「それでも」とユキちゃんが言う。「その子とも変わらず話をするし、みんなに別にすごく優しいわけじゃなくて誰かのご機嫌取るわけでもないのに、すごく適度に冷たくもなく熱過ぎもなくあんなにうまい感じで接する子がいるんだな~って感心して。前から良い子だなって思ってたんだけど、その子との事があった後、急激に好きになっちゃったんだよね」

へへっと笑うユキちゃんは可愛い。


 なんだもう~~~~~やっぱユキちゃん良い子じゃん…ヤダな…この子やっぱりタダを好きになったらいいのに…と、意地悪な私は本気で思いましたとさ。




 屋根の付いた板場の休憩所の1画を借りてきてくれたヒロちゃんとタダが戻ってきて、私たちは移動する。

「ねえ、ヒロトヒロト」とユキちゃんが先に行くヒロちゃんに駆け寄って行って、私の横にはタダが来た。

「なあ、どうだった待ってる間。何か喋れた?」

そう聞くタダは笑っているからまた面白がっているのだと思う。

 コイツは何?私が辛い思いをしたら嬉しくなる感情を持ち合わせてるヤツ?

「喋れたよ」しれっと答える私。「でもユキちゃん、タダの事いろいろ聞いてきたよ」

 意地悪な私は思わせぶりにちょっと言ってみる。

「あ、そう」

『あ、そう』?

 いつもの事ですみたいな感じで言ってんじゃねえぞ!


 ハハ、とタダが軽く笑ってから言った。「なんかな大島、今すげえ悪い顔してる」

「へ!?」

両手で慌てて頬を覆う。

「うそうそ」と面白そうに言うタダ。「そこまでじゃねえけど。今日の子いつもと違うじゃん、みたいには思ってるよな?」

「何も思ってない」

早足でタダよりも先に歩く。途中でパッとユキちゃんが振り向いて私にニッコリと笑った。



 

 そして着替え終わった私は思うのだ。

 やっぱユキちゃん巨乳じゃない。巨乳どころか、Bカップでもないかも。もうちょいでBのAみたいな…

 まあそれでも負けてるけどね…私はAだし…でも!私だって左側のおっぱいは右よりちょっと大きいんだけど。A´くらいな感じ?って自分の左右のおっぱいの大きさの微妙な違いを持ち出してどうする。

 「ユズちゃんの水着可愛い」

ユキちゃんが言ってくれたが、それは女子にありがちな『可愛い~~~(私のも褒めて)』的な感じも、『可愛い~~(私の方が可愛いけど)』的な感じも全く感じられない、普通に褒めてくれる感じの『可愛い』だった。


 …ダメだな私。こういう素直じゃない感じ方をいちいちしてしまうところが、タダなんかにバカにされる原因なんだ。

 

 ユキちゃんの水着は肩がひも状の茶色のキャミソール型の上と、下は濃いグレーのショートパンツのセパレートの水着。色は地味な感じだけどすんなりと伸びた手足と合わせて健康的で活動的。

 …なんか自分が恥ずかしくなる。ユキちゃんに向けてる嫉妬心が余計に私を貧乳にさせているのだ恐ろしい。

 結局、持って来た薄手のクリーム色のパーカーを羽織ってしまう私だった。



 「ヒロト~~~」

手を振りながら借りたスペースへ戻るユキちゃん。ユキちゃん元気だな。

 …私もね…男子だったらこういう子と付き合いたい。別に巨乳なんかじゃなくていいから、そして女の子らしくなんてなくてもいいから、元気で明るい子がいいよね。私みたいにうじうじしてない子がいい。


 …あ~~~…ヒロちゃんカッコいい。赤茶の海パン男らしい!ハンドボールをずっとやってるから胸筋も良い感じで付いて見とれてしまう…。全体のバランスが良いよね。…触らせてもらえるなら触りたい。

「さっそく海行こ。海海!」ユキちゃんがヒロちゃんの腕を掴んだので、私がドキっとする。

すごいなユキちゃん…小学から一緒の私でさえなかなか腕なんて掴めないのに、いとも簡単に…。

「お~~」と答えるヒロちゃん。

 …あれ?なんかちょっと…ヒロちゃんいつもより反応薄いような…


 

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