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想いなんて夏の空に溶けていったらいいのに 4

 なんで?なんでタダ来てんの?昨日、いいってちゃんと返事したのに…

 夕べタダからラインが来たのだ。

「ヒロトが水着持ってったらしいじゃん。じゃあやっぱ明日迎えに行くわ」って。

 それに返すのに『いいよ大丈夫』って打ってみて、これじゃちょっと嫌な感じだなタダはせっかく気を使って迎えに来てくれるって言ってんのに、と思って打ち直した。

「ありがとう。でも大丈夫。今日ヒロちゃんがうちのお母さんにもいろいろ説明してくれたし。私もヒロちゃんの連れて来る子見てもすんなり挨拶出来ると思う」

それで、ありがとうって言ってるウサギのスタンプも付けようと思ったけれど、やり過ぎだなと思ってそれは止めた。

 でもそれに対する返信が、「じゃあ7時45分な」。

「本当に大丈夫だよ。一人で行ける。うちに来たら遠回りになるでしょ?じゃあヒロちゃんちでね」

それは既読にはなったけど、その後は何も来なかった。

 なのに…。



 慌てて荷物を持って玄関へ行く。

 『はよ』も『よお』も言わない無言のタダが私を見て、うん、とちょっとはにかんだように笑って頷く。

 タダは白い無地のTシャツの上に7部丈の薄いグレーと水色の中間の色のシャツ、薄い茶色のひざ下の短パンにこげ茶色のサンダル。

「昨日ね」と母。「ヒロちゃんが久しぶりに来てくれて、めちゃくちゃカッコ良くなってたけど、タダ君もホント、イケメンさんになったねえ~~。もう女の子からすんごい声かけられるでしょ?」

「あ、いえ…」としか言えないタダ。

 タダはねぇ、人見知りするんだよ母。なのになんでうちまで迎えに来たかな。いいって言ったのに。

「お母さん、」と私が母を注意する。「ヒロちゃんとはキャラ違うから。困ってんじゃん、そんな絡みしたら。行ってきます」

「あの!」タダが慌てて言う。母にだ。「あの、ちゃんと帰り、遅くならないように送って来ますから心配しないでください」

 それを聞いて、ふふっと笑う母。「ありがとうタダ君。タダ君なら他のもっとイケてる女の子、10人くらい一遍に連れてけそうなのに」

「お母さんて!」と注意する私。

 私もまあ、そう思うけど。タダはヒロちゃん好きだからね。タダは彼女が出来たとしても、ヒロちゃんから誘われたら絶対ヒロちゃんを取りそう。




 ヒロちゃんの家まではうちから5分かからない距離だ。空は雲ひとつなく晴れ渡った、いかにも夏休みはじまりました!って全力で言ってるような清々しい青さ。

「はぁ~~緊張した」とタダが言う。「なんかもう…大島は『何で来たの?』みたいな顔あからさまにするし」

え?そんなに顔に出てた!?

「ほらな?」とタダが笑う。「あ、マズい、みたいな顔すんな」

「ごめん」



 ヒロちゃんと合流したが、一緒に行く予定の女の子は、その子の家の近くのバス停から乗るらしい。じゃあタダがうちに迎えに来てくれた意味なかったんじゃないの?と思うがさすがに口には出さず、そのまま3人で歩いて大通りまで出て、スーパーの前にあるバス停から8時16分のバスに乗った。

 ヒロちゃんの今日の服装は紺色のTシャツに白のひざ下のパンツ。カッコいいな。腕も足も部活のせいか結構もう焼けている。タダもヒロちゃんと同じハンドボールをやっているのにそれ程でもない。頑張りが違うんだね。ヒロちゃん偉い!

 もちろんヒロちゃんの隣に腰かけたかったが、これから彼女になるかもしれない巨乳の子が来るのに、そんな図々しいことは出来ないし、もちろん『なんでここに座るん?』てヒロちゃんに突っ込まれたら海に行く気を失う。


 ヒロちゃんの後ろの席の通路の方に座ると、タダが窓側に行けとバッグで私の足を押した。

 隣に座る気?他に席いっぱい空いてんじゃん…て思ったのがバレたのかタダが苦笑しながらも、さっきより強くバッグで私の足を押す。

 確かにタダはヒロちゃんとずっと一緒にいたから、他の男子よりは慣れてるけど、すぐ隣にずっと座られたらちょっとどうしようかなって思ってしまう。窓の外ばかり見るのも良くないような気がするし、かと言ってずっと喋り続ける事も出来ないし。と思っていたらタダはすぐに寝始めた。良かった。


 バスがバス停に停まる度にドキっとする。ヒロちゃんに告った子が乗ってくるかなってソワソワする。 

 いくつか目のバス停で、20歳くらいかなっていう女の人3人組が乗って来て、後ろの方の席へ行く時に3人ともタダの寝顔をゲキ見して行った。そしてその後から慌てて乗って来た女の子。この子かな可愛いじゃん…。その子が私たちを見つけて、ぱあっと笑顔になった。この子だな。

 でも想像していた感じと違う。

 彼女の後に乗って来る人はいなくて彼女は私たちの前の席のヒロちゃんの前で止まり、またぱぁっと笑顔になって「おはよ!」と元気に言い、次に私と彼女の声で目を開けたタダを見て、「おはよう!はじめまして」と言った。そして、慌てて「「おはよう」」と返す私とタダにニッコリと笑うと、当たり前のようにヒロちゃんの隣に座った。

 バスがまた走り出した。




 …予想と違う。

 まず巨乳じゃないし。

 彼女は黒猫の顔が胸に大きく印刷してあるクリーム色のTシャツを着ていた。私の席からは、下は何を着てるか見えなかったけれど、全体的にあっさりした感じの子だ。明るそうで普通に可愛い子。ヒロちゃんがいつも好きそうな、大人っぽくてやたら女子っていうのを前面に出しているような子じゃない。けど…残念私!この子もポニーテールだった!なんで私今日ポニーテールにしたかな…。前回もだよね。前回もヒロちゃんが連れていたミカちゃんとツインテールが被ってた。髪ほどこうかな…。

 ヒロちゃんが彼女に私とタダの話をしているのが聞こえる。


 「どう?」とタダが少し顔を寄せて前をそっと指差しながら小さな声で聞いてきた。

 どうって『思ってたのと違う』とかそんなの今言えないよ。

 どうしよう…普通に可愛い子だし。嫌だな…

 そう思ってしまっている私の顔を横からタダが覗き込み、睨むとニヤっと笑った。

 もう!と思う。嫌なヤツだやっぱり。


 窓の外の流れる街並みを見ながら考える。こういう子がヒロちゃんの事を好きって言って来たって事は、ちゃんとヒロちゃんの中身の凄く良い所をわかって好きって言って来たのかも。

 どうしよ…

 でも…

 でも!この子だったらそんなに私と変わらなくない?



 もやっとした気分のまま、私はまた外を見たりぼんやりしたりスマホを見たり、タダはずっとイヤホンで音楽を聞いていて、また途中から寝ていた。

 たまにヒロちゃん達の話声が聞こえるか聞こえないかで聞こえて来る。もちろん気になるし。はっきり聞こえない分、余計気になる。

 …ていうか巨乳じゃないじゃん巨乳じゃないじゃん巨乳じゃないじゃん…




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