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いま一度、君に出逢って  作者: 日ノ宮九条
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宝暦543年12月30日【エルフィエラ】ユーリス

ーーーあの日、自らの主を裏切った日から、幾度となく考えたことがある。


ーーーもしも、時を戻す術があるならば。


私はきっと、何を失おうと構いはしないだろう。


私が宰相の地位を前国王陛下より授かったのは、今から11年ほど前。

ノアール様が2歳の誕生日を迎えられた翌日だった。

その時、初めてお会いしたノアール様の姿に、私は忘れられない衝撃を受けたのを覚えている。


「エルフィエラ第一王子、ノアールだ」


はにかんだような、それでいて、幼いながらも凛とした美貌と真っ直ぐな眼差しに、私の心は一瞬にして奪われた。


ああ、この方はきっと、今までにない最高の王になるであろう、と。

そして、将来この方に仕えることができるかもしれないことに心から歓喜した。


幼い頃より、その王としての類希な資質を周囲に知らしめていたノアール様。

賢く、理性的で、民を思いやる高潔な王子。

ぶっきらぼうな態度や言葉をとってもなお、心根の優しさが滲み出ている真っ直ぐな王子。

まさに王になるために生まれてきたようなその方は、ご婚約者との仲も睦まじく、周りの期待をその小さな体一心に受けていた。


ーーーそれが変わり始めたのは4年前、王宮のパーティーで男爵令嬢、エリシュカ・フライランスと出会った時からだった。

身分は低いながら、その独特の感性と包容力のある容姿と言葉でノアール様の心を奪ったエルフィエラ始まって以来の毒婦。

我々臣下や父王たる前国王陛下はノアール様の行動を幾度となく諌め続けた。

けれど、諌めれば諌めるほど、ノアール様の心が我々から離れ、エリシュカへと依存していった。


その結果が前国王陛下の崩御直後のご婚約者、クローディア様の処刑とエリシュカとノアール様の結婚だった。


止めきれぬままに最悪の事態へと転がり始めたにも関わらず、私達はどうすることも出来なかった。

エリシュカへと向いたノアール様の心を取り戻すことも、エリシュカの暴挙も止めることが出来なかった。


ーーーなぜ。

なぜ、あれほど聡明であられたノアール様が。

そう考えなかった日はなかった。


けれど。

今、すべてが終わって、気がついたことがある。


聡明で、不器用ながらも優しいノアール様。

そんな方に、我々が、どれほどの重圧を強いていたのか、ということに。


賢く、美しく、賢王たる資質を持った王子。

ノアール様は物心つく前からそう讃えられてきた。

けれども。

私達は考えもしなかったのだ。

それが、そんな我々の大きすぎる期待が、あの方の心にどれだけの影を作っていたのかを。


家臣からの多大な期待を一心に背負わされ、それでも懸命に「理想の王子」たろうとしたあの方に、我々が何をしたのかを。


「・・・・・・そう。私達は何もしなかった」


慈悲深くあれ、賢くあれ。

賢王としての役目を多大な期待とともに押し付け、我々はあの方の心の闇を見ない振りをし続けたのだ。

自らの願いや期待のみを押し付け、自分からは何もしない、あの方の心を思いやることすらしなかったではないか。


ノアール様をお産みになり、直後なくなられた王妃様に似て、あまり体が強くはなかったあの方が、体調を崩した時でさえ毅然として勉学をはげむ姿。

遊びたい盛りの日々に鍛錬に勤しんでいる姿。

それを見ていた私達はその姿を正に王の器と、さすがはノアール様だ、と褒めたたえた。

けれど。

その賛美はこと更にノアール様を縛り付け、「ノアール様ならば当たり前だ」という思いの元、あの方がどのような思いであったのか、考えもしなかったのではないか。

私達の、自分は何もしないだけにも関わらず、過大な期待だけを押し付け、聡明なノアール様なら出来て当たり前と、その応じたる姿のみを褒め称え、努力の本質自体を認めることも褒めることもせずにいた私達の傲慢さが、ノアール様の心に、あの女が付け入る隙を与えたのではないか。


「思えば、ノアール様がエリシュカと出会ったのは、あの方がクローディア様の愛を疑うようになった時でした」


誰もが気付かぬうちに、少しずつ、クローディア様を遠ざけ、臣下の者達と距離をとるようになったノアール様。

そんな主の心のうちを、なぜ、自分は側にいながら気が付かなかったのか。


「・・・・・・いいえ。気づいていなかったのではないのです」


私は怖かったのだ。

理想の王子であったノアール様が変わってしまうかもしれないと考えるなど。

そして、それを指摘してしまえば、何かが壊れてしまうような気がして、私は見て見ぬ振りをしたのだ。


「・・・・・・自分勝手に理想を押し付け、壊し、それにもかかわらず、壊れたあの方を、今、私達は見捨てようとしている。なんて・・・・・・」


なんて、非道なのだろう。

なんて、傲慢なんだろう。


「だからこそ、私は」


ーーー今一度、やり直せるならば。


もしも、時を元に戻せるならば。


何を失ったとしても構わない。


今度こそ。

今度こそ、あの孤独な主を、支えられるようにーーー。

次はまたしばらく書き溜めてから一気に投稿すると思いますので暫くお待ちください

予定では今月中に次の話を載せたいと思っています


もし、宜しければ感想など、お願いします

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