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 第1章 〜出逢い〜

少年と少女を軸にストーリーを進めていきますが、非現実的な言動、表現などが含まれると思います。素人の書くフィクションなので、なにとぞご了承ください。



 それは、今から3年ほど前のことだった。




 オレは小学6年で、卒業まであと少しといった頃のことだった。

 あの出来事は、今も尚、しっかりと記憶の中に焼き付いている。





 オレの通う小学校には、校庭に桜の巨木がそびえ立っていた。

 その堂々とした存在は、学校のシンボルのようなものであった。

 今年は、例年よりも早く桜の開花の兆候がみられている。

 このまま行けば卒業式には咲き揃うように思う。


 オレはいつも、この桜の前を通ってその脇の狭い道から登下校する。今日も帰り道として、桜の前を通る。

 今は大体3割程度といったところか。小さな花がチラホラと開いているのがわかる。

 大きな木だから、チラホラに見えても、実際には普通の木よりもたくさん咲いているのだろう。


 そんなことをぼんやりと考えながら、桜の側を歩いてゆく。


 すると突然、強風に襲われた。


 風に煽られ、まだ幼い桜の花びらが舞う。


 やっと風がおさまったかと思った頃、何かが頭に当たった。



「てっ……」


コン……。


 オレの頭に降ってきたそれは、弱々しく足元に落ちていた。


「なんだぁ??」


 オレは足元のそれを拾い上げ、ひとり呟いた。

 それは細い木の枝で、よく見ると桜の幹をしていた。



「ごめ〜ん!

大丈夫〜?」


 声は上から降ってきた。

 この桜の小枝と同じく。


 声のする方を振り仰ぐと、そこには一人の少女の姿があった。


 彼女は美しかった。


 年頃は自分と差ほど変わらないだろう。

 年頃の違わないような少女のことを『美しい』と言うのは少し変かも知れないが、少なくともその頃は、『きれいだ』と思った。


 彼女は桜の巨木の太い枝に腰掛けていた。

 足が宙に浮いていることなど気にも留めていない様子だ。


 肩までで揃えられた色素の薄い髪が、桜を通して陽の光を受けて、淡く薄紅掛かった色に照り返す。

 それが靡く様は、何物にも例えようが無いほどに美しかった。


 彼女の風貌に一瞬呆気にとられたが、そんなことはすぐにふっ飛んだ。

 彼女は悪びれもせずにこちらに微笑む。

 今自分が手にしている桜の小枝。

 ここ以外に桜のある場所は、もっと離れたところだ。このあたりの桜はこの巨木一本だけ。

 つまりはそこにいる少女が、この枝を自分の頭に投げつけた張本人なわけだ。

 そしてこんなにも都合よく人の上に落ちてきて、しかもピッタリ頭にヒットするなんてまずない。

 やっぱり犯人はアイツしかいないと、オレはくってかかった。



「お前ワザとやったろ!!?」


 オレは少女の座っている枝に向かって怒声を張り上げる。



「え〜。ちがうって〜」


 彼女はその可愛らしい声で、白々しく、そしてワザとらしく答えた。


「お前しかいないだろ!?

こんなことできるの!!」


 今ここにいるのはオレと彼女だけで、状況的に彼女以外には不可能である。

 そして、彼女はまた口を開く。

「ちがうって〜。手がすべって………

━━━あ……」


 彼女はしまったというように口元を手で覆う風な仕草を見せた。

 そのわかりやすいリアクションで、さらにカチンときた。


「━━━!!

なにが『手がすべって』だよ!!

やっぱりワザとだろ!!」



「ちがうよ!!」


「ウソつけ!!」


「ちがうって言ったらちがうの!!」


 そう言って、彼女は首を縦には振らない。



「ていうかお前なんなんだよ!?

この学校のヤツじゃないだろ!!

誰だよ!?」


 6年間もいっしょにいれば、他のクラスのヤツも1・2年くらい下のヤツも、大体は顔を覚えてしまうものだ。

 少なくとも、同じくらいの年頃にしては、見知った顔ではなかった。



「なにその言い方!!

失礼でしょ!?

だいたい人に聞く前に自分名乗ったらどうなのよ!!?」



━━━━逆ギレ。



 怒っていたのはこっちのハズだったのに。

 何故か、圧倒された。


「━━━勝……

陣内勝…」


 文句もつけられず、おずおずと従う自分が情けない。


「しょうくんね。

しょうって、どういう字??」


 大人しく言うことを聞いたのに満足したのか、さっきとはうって変わって、彼女の態度は穏やかだった。


「『勝つ』って書く」


「へぇ……

ケンカとか、強そうだね」


 読んで字の如くそのままの感想。

 そう言って、彼女は笑った。

 その笑顔は、花のように明るく、見る者を引き付けた。



「━━━お前は…?」


 オレは問う。

 オレは彼女の名を聞いたつもりだったが……。


「へ?」


 彼女は自分の名を聞かれているとは思っていなかったらしい。

 というか、先ほどまでの会話でわかると思ったのだが、わかっていないか、失念していたかだろうと思う。



「お前の名前」


 彼女はハッとした。

 まるで何かに弾かれたように聞き返す。


「あっ…!

わたしの名前!?」


 やはり頭になかったようだ。

 それと同時に、彼女に動揺の色が見えた。

━━━ように、オレは感じた。

 実際どうなのかは、彼女以外にはわからないのだろうが。

 彼女はしばし沈黙した。

 そしてそのしばしの沈黙ののち、おもむろに口を開いた。



「━━━わたし…

わたしはねぇ……

━━桜姫!!」



 一瞬、わけがわからなかった。


「はぁ??

なんだそれ?

…ていうかお前明らかに今考えてたろ!!」


「考えてないも〜ん」


 彼女は知らん顔で否定する。


 まるで取って付けたような名前。

 お姫さまになりたいなんて幻想からつけたようにも思えるが、そんな夢はもっと小さい女の子が語るものだろうと常識的に感じる。


「じゃぁなんだよさっきの間は!!?」


 オレは追い打ちをかけるように言う。



「…うるさいなぁ!!

桜姫って言ったら桜姫なの!!」



━━━━また逆ギレ……。



 しかも、無理矢理自分の言うことを通そうとする。

 本人がそれが名前だと言って聞かないのだから、なんとなく、なんでそうなるんだと聞くこともはばかられる感じがした。



━━━…コイツ……強情だな……。


 その強情さに、半ば呆れ気味になる。



「はいはいわかったよ。

ったく……」


「なんか言った〜?」


 最後のは聞こえないように言ったつもりだったのだが、聞こえていたようだ。



「……地獄耳…」


 今度こそ聞こえないようなボリュームで呟いた。


が…。


「なによー!!」



 残念ながら聞こえていたようだ。

 これはもう、正真正銘の地獄耳としか言いようがなかった。


「………」


 ひとり、ため息をつく。

 だが、そんなことも知らず、彼女はまた話し始める。


「ねぇ、しょうくんて何年生??」


「……6年だよ…」


 またも、渋々答えてしまう、情けない自分。


「へ〜」



 彼女はというと、こちらを見ながら適当に相づちを打っていた。 その様子からは、今の質問の解に興味があるのか、それともどうでもいいのか、まるで読み取れなかった。



「お前はどうなんだよ」


「ん?」



 彼女はまたさっきのように聞き返す。

 その様子からは、悪意の欠片も見えない。



「━━━お前人の話聞けよ!!」


「あっ!ごめん!!」



 彼女はやはりこちらの聞いていなかったようだ。

 そちらから聞いておきながら、失礼極まりないというかなんというか……。


 だが、彼女のその在らぬ方を見つめる表情も、憂いをおびて映って美しかった。



「お前が何年か聞いてんだよ!」


 彼女は答えた。


「別に何年だっていいじゃない。

どうせこの学校のコじゃないってわかってるなら、知らなくてもいいでしょ」



 そういう問題じゃないと思ったし、逆に御最もだとも思えた。


「じゃぁどこ小の何年だよ」


 オレはムキになって聞いた。

 なんとなく、上手いこと自分を言いくるめてしまうコイツに、負けたくなかった。



「なによ、そんなにムキにならなくたって……」


 そんなに闘志むき出しに映っていたのか………。


「━━━あ!!」

「えっ!!?」


 突然、彼女が叫んで視線とともに遠くを指差した。

 オレもつられてその方向を振り返る。


が……



 やられた。そう思った。

 振り返った先には何もなかった。

 同時にこんな典型的且つ古典的な罠にはまる自分のバカさ加減に呆れる。


「フフ……

じゃぁね。しょうくん」



 後ろで彼女のうれしそうな声がした。

 そちらに向き直ると、もうそこに、彼女の姿はなかった。

 春を迎え始めた澄みきった青空に、その声が木霊する。


 短い夢をみていたような錯覚に囚われた。

 むしろ本当に夢だったんじゃないかとも思えた。





 桜姫と名乗る不思議な少女の余韻を、まだ春風と呼ぶには少し冷たい風がさらっていった。








この度はお目通し頂きありがとうございます。

いかがでしたか?ご感想などあれば是非お願いします。

※厳しい非難などは受けかねます。

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