ドッキドキの入学式だぜ☆
4月10日 午前07:30 聖宮学園駐車場
そこに在るのは広がる芝生、綺麗すぎる校舎、
そして制服を着た紳士淑女の皆様。(変態じゃないヨ)
やべえ。場違いすぎる。
こいつらホントに高校生か?
女の子達とか普通に「オホホ」とか言いそうで怖い。
言わないだろうけど。
「それでは、行ってらっしゃいませ。お嬢様」
運転手さんに見送られ、歩き始める。
ここでは私もお嬢様なんだな。セレブなんだな。
うははははははは!!
まぁ 心はさっぱりお嬢様らしくないんだけど。
だってしょうがないじゃーん!
いきなりこんな状況になったんだし。
とりあえず体育館行こ。
4月10日 午前08:00 体育館
やっと着いたよー。
クソただっ広いなこの学校。
豪華でいいんだけど無駄なもの多すぎ。
ちくしょう 金持ちめ!
あ、始まる。
なんか変なオッサンが出てきた。
なんだ校長か。
「次は理事長のお話ですが、理事長先生が不在のため生徒会長挨拶です」
大きくて四角いメガネをかけた七三分けの真面目の塊みたいな先輩?が言葉を並べる。
少数の女子生徒がヒソヒソクスクスして、
「わー 噂のあの先輩、今日もあんな格好なさって、恥ずかしくないのかしら~」
と、噂話まで始めてしまっている。
まぁ当然だろ。見るからにおかしい。不自然だ。
実際こんな奴なんて私にはまったく関係ないんだけど、
理事長が休みってどうなんだ。入学式だぞ。しっかりしろ!!
そう考えている内に、会長のお出ましだ。
会長は、キリッとしつつも大きめの瞳、スラリと伸びた長い脚、
ラフな感じがありながらよく整えられた少し緑がかった髪。
簡単に言えばイケメンだ。イケメン。
でも、あのドヤ顔で見下している様子から絶対俺様系だわ。
私の嫌いなタイプ。
しかし、美しい容貌からか、女の子はきゃあきゃあ言っていたり、
すんごい眼力でガン見している子が大半だった。
イケメンに弱いのは、庶民も金持ちも同じなのね。
こう、金持ちのお嬢さん達を見ていると、
やはり庶民との違いをはっきりと感じてしまうからだ。
髪は艶やかで、指も爪もキチンと整えられている。
仕草なんかも1つ1つ洗練されている。
これが男子達も例外でないから困ったもんだ。
もちろん、私の髪も普段よりずっとサラサラで、触っていて気持ちがいい。
バーン!!
いきなり後ろからものっすごい音がし、やがて体育館中に響き渡る。
それと同時に生徒達の体もビリビリと震えが伝わる様にも見えた。
ったく。何なんだよこの学校!
「遅刻しましたー!!すいませんっしたー!!」
うっせ。音もすごいが声もうるさい。
遅刻の次はその喧しさを謝罪しやがれ!!
ほーら。話途中の会長サマが、怒りと恥ずかしさで、
ドヤ顔がピクピクし始め、次第に崩れてゆくのが分かる。
しかし、顔は会長サマに劣らぬ美形だ。
爽やかすぎる彼の笑顔が、汚れきった私の目に眩しい。
あまりに余った大きい声さえなければなあ・・・。
そんな呑気な事を考えていると、爽やか君は、少し驚いた表情を見せ、
こちらに近づいてくるではないか。
あれ?私何かした?おかしかった?庶民ってバレた?
「何!?編入生!?うちの学園、極端に高等部からの編入生が少ないんだよ。
俺、同じ1年の土師環。」
そして腕をぶんぶんされた。いてーっつの。それだけで話しかけてくんなや。
イケメンはとっても嬉しいのだが、あくまで目の保養なんだ。
関わり合いたいとも思わないし、目立ちたくもない。
「おい!土師!お前はこっちだろ!!」
「あ~、ハイハ~イ」
慌てる先生に呼ばれ、ハジくん?は去って行った。
まあ、あんまり会いたくはないと思ったけどね!?
その後は着々と入学式が進んでいき、また校門に多くの車を見たのであった。
やっぱすげー。
4月10日 午後05:00 自室
ふうぅぅーーーーーー。
長い溜息をつきながら、私はベッドに倒れこんだ。
帰った後、自分の部屋を色々と探ってみたが、
中学校時の教科書やスケジュール帳には「星宮玲」という名前が書かれてあった。
結局のところ、この世界の私は本当の私でも、未来の私でもなかった。
もといた学校もここにはない。
父さんも母さんも私の知らない「お父様」と「お母様」になっていた。
ここに存在する確かなモノは、「星宮玲」という私にそっくりの女の皮をかぶった
「橋宮玲」という私だけ。
絶望と諦めの渦に飲み込まれながら、私は静かに目を閉じた。
テレーーレレー テーレー テレーレー♪
!! これは間違いなく私の着メロ、「ペレアスとメリザンドよりシチリアーノ」!!
そういえばすっかり忘れていたが、ケータイもあったんだった。
ケータイを見てみると、「御川様宅」の文字がある。
優梨からか!?
「通話」を押し、恐る恐る声をかけた。
「もしもし・・・・・」
「もしもし!?玲!?今どこにいるの!!」
「分かんない・・・。でも私、星宮玲って名前になって、父さんも母さんも知らない人で!!」
「ホシミヤ・・・!!待ってて!!すぐ戻ってくるから!」
優梨の声は何かを確信したように聞こえた。
そう考えていると、また違う声がしてきた。
「玲。絶対に助ける方法を探し出してみせるからね」
なっちゃんからだ。
とてつもない喜びと期待で心をいっぱいにしていると、また優梨の声がした。
「玲。あんたは今、ある乙女ゲームのキャラクターなの。
私の姉が大学行く前やってるのを見てて、玲と名前と顔がそっくりだったからよく覚えてる。
馬鹿馬鹿しいと思うかもしれないけど信じて頂戴」
乙女ゲーム・・・。存在自体は知っていたが、自分でやったことは一度もなかった。
そんな得体の知れないものの中に私はいるという。
「それでそのゲームは?会社もどうなったの?」
「どこか問題があるってすべて回収したらしい。会社もとっくに潰れたわ」
「ゲームが?」
「そう。ゲームが」
ゲームを回収することは可笑し過ぎる。
が、終わったことはどうしようもない。また次の質問をしてみた。
「それで、役柄は?」
「ヒロインの親友」
うおっ 一番微妙な役柄来た!
いや。イケメン共とほどほどに話せるし情報も入りやすい。
帰らないといけないことを考えると最高の役だ。
でも、次の言葉が私をより不安にした。なっちゃんからの声だった。
「あと、ごめんね。私達2人以外、玲が消えたことを知らないの。
他の人も全く覚えていなかったし、
学校に行ったけどの机もないし出席簿にも名前が載ってなかった。
ポン、と玲そのものがこの世界から消えた気がしたよ。
本当にそうだったから驚いたけど。
それに優梨と私、2人で電話をかけないと繋がらないみたい。
でも、私達だけでも玲を待ってるからね。
また、何か分かったら連絡するから」
何も言えなかった。
だが2人が待っていてくれると言っているんだ。
私は全力でそれに応えて見せよう。