南国捜査一課番外編
南国捜査一課番外編〜絆〜
Kazu「...........今年で六年、か......」
休憩時間。青空を見上げなからそう呟く刑事の名はKazu。普段は感情をあまり表に出さず、数年間コンビを組み続けているdaigoでも、彼の心の内をほとんど知ることはないという。そんな彼が、空を見上げなから黄昏れる訳.......それは、彼を支えた一人の友の存在があった.......
〜六年前〜
Kazuが警察学校に通っていた頃。当時の彼の性格は今と全く変わらず、周囲からは気味悪がられて相手にされなかった。彼自身も誰とも喋ることなく、どんどん孤立していった...時が経つにつれて、彼の存在感は無くなり、誰も彼を相手にしなくなった。
Kazu「...............ん?」
―約1名を除いて―
笑司「おっ、Kazuまたぼっちかよ!あーっはっはっはっ!」
この男の名は磯巻笑司。かなりの笑い上戸で日常の些細な事でも大笑いしてしまう、だが彼はこの警察学校のトラブルメーカーだった。
Kazu「..........俺に話し掛ける物好きがこの世にいるとは......とんだ変わり者だな。」
笑司「誰とも話さないで1人殻の中に閉じこもってる方がよっぽど変わり者だぜ!」
Kazuは笑司を睨みつける。が、笑司は怯むどころか大声で再び笑い始めた。流石のKazuも呆気に取られ、睨むのをやめた。
Kazu「................. 用が無いなら話し掛けるな。俺はお喋りが好きじゃないんだ」
笑司「なぁ、ちょっと付き合ってくれよ!」
Kazu「........頼むから話を聞け」
その後笑司はKazuをゲームセンターに連れていった。そして、ダーツコーナーの前で止まった。
Kazu「..........お前、ダーツをやった事があるのか?」
笑司「無い!あーっはっはっはっ!」
Kazuはダーツの矢を1本手に取り、これを投げた。矢は真っ直ぐな軌道を描き的の中心に命中。流石の笑司も笑いが止まり、一瞬だけその空間は静寂に包まれた。
笑司「意外な才能..........アハハハハハ!」
Kazu「.............意外は余計だ。ホラ、お前もやってみな。」
笑司「よしいくぞっ!........そいやっ!」
力み過ぎたのか、笑司の投げた矢は、的を大きく外れて近くの壁に突き刺さった。
Kazu「.........................クスッ」
思わずKazuからも、笑いが溢れる。それを見た笑司は、満面の笑みで俺を見た。
笑司「..........その方がずっといいさ!」
Kazu「...........勘違いするなよ。」
Kazuは笑司の前に金を置き、立ち去っていった。笑司はその時見たKazuの背中に、なにか温かいものを感じたと言う........
〜数日後〜
Kazu「...............ダーツを教えて欲しいだと?」
笑司「おう、なんかさ、ダーツ出来る男ってかっこいいとおもったんだ!あーっはっはっはっ!」
今の掛け合いに笑えるところはあったのか。Kazu自身、笑司の笑いのツボは一生かかっても理解出来ないだろうと悟った。
Kazu「分かった。そこまで言うなら教えてやる。」
休憩時間の合間を縫って、Kazuは笑司にダーツを教え始めた。今まで誰からも気にも留められず空気の様な存在だったKazu。だがこうして、自らを必要としてくれる者がいる事を知り、彼の心の中は、無意識のうちに満足感が支配していた。
笑司「また明日も教えてくれよな!」
Kazu「...............あぁ。」
その日は別れ、明日もまたダーツを教える事になった。Kazuは割と上機嫌で帰路に着いたのである。
...............それが、笑司との最後の会話になるとも知らずに。
〜数日後〜
Kazu「............笑司はどうしたのだ....」
Kazuが頭を抱えていると、教官が辛辣な面持ちで入ってくる。Kazuはその表情を見て、何かを察した。教室の空気が一気に変わる。
教官「..........磯巻笑司が事件に巻き込まれた。」
Kazu「!!!」
教官「ダーツの矢を喉に刺されたらしい。犯人は未だに逃走中だ。皆も気をつけるように。」
教官が立ち去る。Kazuの心の中には、言葉に出来ない怒りや悲しみなどの負の感情が沸き上がってきていた。恐らく笑司の喉に刺されたダーツの矢は、Kazuが笑司に貸した物だろう。あの時、自分がダーツの矢を貸していなければ.....そんな後悔の呵責に苛まれ、Kazuはその日、1日中俯いていた。
Kazu「..............すまない、笑司........」
次の日、Kazuは笑司が入院する病院に行った。部屋をノックし中に入る。そこには、かなりやせ細り、以前まで見られた、笑い上戸の磯巻笑司はどこにもいなかった。
笑司「あー......君か......」
元気の無い返事、声もかすれている。その光景を見ていると、罪悪感が増していく。
Kazu「..........すまない。俺があの時、お前にダーツの矢を貸していなければ......」
笑司「..........君が気に病むことはないよ.....君からダーツの矢を借りた......俺が悪いんだ......ゲホッゲホッ!」
Kazu「おい、大丈夫か!」
笑司「あんまり長い時間.....喋ってられないんだ....ごめん........」
Kazu「分かった.......今日はもう帰るな。それじゃ。」
Kazuはその後無言で病室を立ち去った。
〜次の日〜
最近、あまり笑司の話題が出なくなった。だが、Kazuだけは決して忘れることはなかった。初めて出来た「友達」......忘れるほど腑抜けではない。
教官「Kazu。」
教官に名前を呼ばれる。全身に悪寒が走った。最悪の予感が頭を駆け巡り、体が震え出す。
教官「.............磯巻が死んだ。」
Kazu「..............そ、そうですか.......」
やはりな、という思いと、そんなバカな、という思いが同時にこみ上げた。しかし、涙は出なかった。
教官「遺族の方が......お前にこれを渡してくれとのことだ。」
渡されたのは、ボイスレコーダーだった。すぐに音声を再生する。
笑司の声「Kazu、もうこの言葉を聞いているということは、俺はこの世にいないって事だな。良いか、一つだけ言っておく。俺が死ぬのはお前のせいじゃない。だから気に病むことはするな!前を向いて、笑顔で歩いていってくれ!それが俺からの....最後のお願いだ。じゃあな。お前は今まで生きてきた中で......最高の友達だった!あーっはっはっはっ!」
録音はそこで終わっていたが、Kazuはそれで十分だった。ボイスレコーダーをポケットにしまうと、Kazuは屋上まで駆け上がり空を見上げた。雲一つない、青空である。
Kazu「笑司.......犯人は必ず俺が上げる.....だから......天から見守っていてくれ!」
青年は誓う。短い時間ではあったが、確かに芽生えた強い絆。その絆を絶やさぬ為...市民の安全や安心の為...絶対に笑司を殺した犯人を捕まえることを。
〜現在〜
Kazu「時間が経つのって早いな.....」
daigo「こんなとこで何してらっしゃる?」
daigoが缶ジュースを投げる。Kazuはそれを受け取り飲んだ。
Kazu「.............ちょっと思い出に浸ってただけだ...」
daigo「ふーん...」
突然、Kazuの携帯が鳴り出す。
daigo「どうした?」
Kazu「...........事件発生。殺しだ。」
2人は上着をはおり、すぐさま現場へと向かう。
Kazu「..........行くぞ。」
daigo「おう!」
〜完〜