守れ、この人を
『それは審判の日に総べての人と同じように死から甦り、楽園で永遠の生命を与えられる』
誰かが、そんなフレーズを口ずさんでいたのを覚えている。
それは孝行をした覚えもない、親子で散歩をしたことも皆無なほどの希薄すぎる親子関係でしかなかった父親のものだっただろうか。
空二は自問する。
(俺は後悔をしているんだろうか? 後悔しているとしても、それは何に対してなのだろうか?)
解答が導き出されることはなく、まどろんだ意識がさらに白い光に照らされ溶けていく―――
※
眼を覚ますと、両手首に激痛が走った。
実際にはそれは逆で、激痛が走ったおかげで瞬間的に覚醒したのではあったが。
意識と思考はすぐに常態に復帰し、周囲を見渡してみることで現在の立場が把握できた。
やがて完全に陽が落ちようとする薄暗い室内で、両手首を手錠で拘束されている。
もちろん、それだけではなく、張り出した鉄骨を抱きしめるように座らされ、牢獄に閉じこめられているかのごとくだ。
夢でないことを確信するまで、比較的長い時間がかかったのは、洞藤空二も普通の高校生に過ぎない証であったろう。
室内の反対側にはもう一本のむき出しの鉄骨があり、その脇には制服姿の女の子が倒れていた。
横向きなので、角度が悪くて顔までは見えない。
しかし、その女の子が蜂条夕卯子であるということはすぐに理解できた。
突発的に湧き上がった怒りと共に立ち上がろうとしたが、両手首に銀色に光る手錠が掛けられているせいで、勢いがつかない。
むしろ、ダッコちゃん人形が背筋を伸ばしたみたいに無様な姿だった。
足掻きながらも何とか立ち上がり、倒れふした夕卯子の様子を窺う。
彼女も手錠で拘束されているようだが、空二とは異なり、それは足首に掛けられていた。
少女の両足と手錠で輪を作るように鉄骨を回っている。
夕卯子は横を向いて眠ったように脚を伸ばし、その股の間に鉄骨が伸びているので、スカートの中がちらりちらりと見えそうになる。
あまり女性にさせていい格好ではなかった。
酷くエロチックな光景でもあった。
(これはちょっと目の毒だな……)
彼が困惑して視線を外すと、離れた位置にあったパイプイスに三十代前半ぐらいの男が座り込み、手にしたナイフを弄んでいた。
携帯電話の画面で見た覚えがある馬面をした男だった。
赤面していた顔に、高い怒りのテンションがすぐに戻る。
「……で、あんたが『凶手』か」
「起きたてだってのに、ずいぶんと頭のめぐりが早いな、坊主」
「……どこだよ、ここ?」
「坊主の家の側にある元病院さ。一昨日、おまえらが探っていただろう? あれをたまたま見掛けてな、ちょうどいいんでアジトに使わせてもらった」
言われてみれば、部屋の中に消毒薬の残り香のようなものがしていた。
それすら気のせいかもしれないが。
「すぐに警察が来るぞ」
「安心しな。おれは運がいいから、警察なんぞに、バレやしねえよ。奴らは運が穢れていて、ついでに眼も眩んでいやがるからな」
「……随分と自信があるんだ、あんた。警察が怖くないのか?」
「ああ。おれは運がいいからな」
しつこいくらいに、「運がいい」を繰り返す『凶手』の態度を、空二は何か絶対的な根拠をもったうえでの自信なのだと看破していた。そして、瞳に宿る狂気の存在も。
怖気を奮う狂った光だが、同時に命乞いを聞くだけの理性も備えていることを見抜くことも難しいことではなかった。
いつ、自分がこのような人間観察力を身につけたのか、空二にはわからない。
幼い頃から常に他人の顔色を探っていた影響だろうか。
チャコたちと出会って、何かが奇跡的な化学反応をしてしまったのかもしれない。
ただ、それでも目の前の男のような薄気味悪いタイプに接したことは皆無なので、それらの推測だって誤りの可能性はある。
しかし、まず死んだように身動きをしない夕卯子のこと確認しなければ。
「……悪いんだけど、あんたに頼みがあるんだ。そこにいる、女の子だけは助けてやってくれないか。俺とは関係ない娘なんだよ」
単刀直入に、最もしなければならない願いを口にした。
自分一人ならいざ知らず、巻き込まれただけの友達の命乞いをするのに、体面なぞはいらなかった。
手錠がついたままなのでできなかったが、ある程度自由に動ける余裕があったならば土下座したって構わない。
「その女はいきなり気絶させたから別におれの顔を見たわけでもないし、助けてやってもいいけどよ……」
「なら、お願いだ」
「悪いが、そういうわけにはいかねえ。おれはこう見えても殺し屋でな。この職業では、証拠になりそうなものは四の五の言わずに消しちまうに限るんだよ。なっ、わかってくれるかい? まあ、おまえさんを自暴自棄にさせないためには、まだこの娘を生かしといたほうが都合がいいから、すぐにサクッとはやらねえがな」
『凶手』の言葉にはてらいがない。本気だということも、またすぐにわかった。
こんな殺し屋の考えが読める自分に、空二は驚いていた。親近感すら沸いていたのかもしれない。
思っているよりも、彼の歪みは深刻なものだったのかもしれない。
だが、そんな問題よりも、何よりも夕卯子を救わなければならない。
自己分析は後回しにすべきだ。
外されていないガラス戸の方を向くと、まだかすかに明るい。
太陽が落ちきってはいないらしい。
「あれから三十分も立っちゃいねえよ。おまえらをここに運ぶだけで手一杯だ。いやいや、重労働だったぜ」
チャコやウォータはどうしたのか。
もう一人の黒い影を追っていったことしか覚えていなかった。
「まあ、すぐにあの可愛いのがやってくるだろう。ふぅー、一度に二匹ものバケモンとやり合えるなんて、今回はついているぜ」
「…チャコたちのことか?」
「おお。おれのライフワークって奴だ。あいつら、バケモンをぶっ殺したあとの高揚感、堪えられねえアレのためなら何をしたって構わねえ。おい、坊主はわかるかい? おれは誰よりも運がいい。おれの中の不運は常に放出され、素晴らしい運は常に清浄に維持される。坊主には信じられないだろう、『輝いた幸運』がおれには満ちている」
男―――『凶手』の言っていることはまったくわからない。
この男はまさしく狂人に違いなかった。
ただし、その全身から吹き付ける生真面目ともとれる真剣さは本物だ。
この点が、空二の肝を冷やし続ける。反論は危険だ。おとなしく『凶手』の吐き出す狂った理屈を拝聴する必要がある。
「『輝いた幸運』?」
できるだけ興味があるように聞き返した。
実際には耳にもしたくもないが、ここは耐えるときだ。
「そうだ。おれたちが産まれついて持っているものでもっとも重要なのは、『幸運』って奴だ。こいつはだいたいみんな同じ量――単位で計れるほど安っぽくはないんだがよ――を持っている。こいつが人生って奴をすべて左右するんだ。おれもおまえも変わりはない。だけどよ、運って奴は日ごろの行いによってどんどん汚れていき、最後には穢れた幸運――つまり『不運』になりさがっちまう。そうなったら、そいつは終わりだ。運に見放された人生を歩くだけの惨めな豚に成り下がる。――だが、そうはならない方法がある!」
『凶手』はいったん黙り込んだ。
演説の続きをしたいのだが、唯一の聴衆の反応が気になるのだろう。
空二は聴衆という与えられた役をこなす役者になった。理解する必要まではないが、観察をしておくにこしたことはない。
今日の彼はどこまでも冷静だった。
「……手段というけど、汚れた運を綺麗にする方法なんてないだろ。善い行いをすればいいのか」
「くだらねえが、世間のバカが好みそうな、いい意見だぜ、坊主。そりゃ、そういう偽善的な振る舞いっての奴が有効なのもいるだろう。おれは知らねえけどな。……おれの場合は、人間の命が贖ってくれるのさ。汚れで穢れをそぎ落とすというか、一人殺せば、そいつの魂がおれの運を磨き戻す。わかるか? 人の命は砥石と一緒だ。他者の運を磨くために、消費される石ころだ」
一度、息を吸いなおし、
「しばらくして綺麗になった運がまた汚れることになるとしても、また他人の命でフレッシュに仕上げなおす。これを繰り返すことによって、ニスを塗りなおした家具のように、幸運は輝きだす。何度も何度も繰り返せば、さらに光が増してくる!それを『輝いた幸運』というのさ!」
狂人の自慢めいた演説は執拗に続く。
空二は語られている内容にはまったく賛同ができない。
どのような生い立ちなり生き方なりが、このような悪の夢想を男に授けたものか見当もつかなかったが、狂気を確たる信仰として抱いているらしいことだけは信じられた。
この男は、自らの幸運というものを過剰に美化しているのだ。
誰しも運に頼ることはある。
だが、妄信はしない。運のために身を粉にして働くことはない。
しかし、この殺し屋にとって、運は崇め奉られる神像のごときものであるらしい。
その信仰心を聞いてもらいたくてたまらないのか、『凶手』の話はまだ続く。
「ただ、普通の人間の命じゃ、こびりついた茶渋のようなカスまではとれない。だからといって、放っておいたらおれの運だって最後には磨いても落ちない穢れにまみれて、最後は不運そのものになっちまったに違いねえ。けどよ……おれはそれを克服するたった一つの冴えたやり方を見つけ出した」
想像はついた。
こいつが狂った思考の持ち主であることだけは疑いないが、それが必ずしも論理的な思考ができないという訳ではない。
狂人には狂人の方程式があり、あてはめるべきXやYも、ありえないものではないのだ。
「……おまえの言うところのバケモノの命なら、不運をリセットできる。……だろ?」
「その通りだぜ!坊主。その通りだ!」
『凶手』は幼児のようにはしゃいでいた。
今まで、誰にも話してこなかったことを、つい興に乗ってトークしてしまったら、いとも簡単に理解者が現れた。
誰かに話しても無駄だと諦めていたが、なんのことはない、実はどんな奴でも理解できる話だったのかもしれない。
「あのバケモノどもはイイ!そこらの一山ナンボの連中と違って、特別で、峻別されていて、魂の色まで次元が違う。ただの血の詰まった肉袋どもとは比べ物にならねえ。そして、奴らを見分けることがおれにはできる。それができるからこそ、おれもまた特別なのさ!」
なるほど、この狂人のゴーレムたちへの執着は、つまりはこういうことだったのか。
しかもそれだけではなく、ゴーレムたちでも触れ合わないと判別できない種族の区別を、こいつは見分けるだけで可能とするらしい。
さらに、厄介なことに独自のジンクスというか迷信を持って、殺人を儀式的に楽しむ、狂った殺し屋でもあったのだ。
チャコやウォータ、華さんが脳裏に浮かぶ。
出会って間もないが、今までほとんど抱いたことのない感情を沸きたてられる相手達だ。
その感情はいつか、大切なものになるかもしれない。
彼らをこいつの言う『不運を磨く研石』とするわけには行かない。
だが、その前に、空二の視線は仰向けのまま動かない少女に向けられていた。
確かに『凶手』の第一目標はゴーレムだが、人間を殺さないという保障はない。
『エル・ポエップ・ダエッド』で聞いた限りでは、何十というただの人が殺害されているはずだ。
なら、すぐにでも無防備な姿勢のままで横たわる夕卯子を殺害しないという保障はない。
それが現実になる前にも、なんとしてでも夕卯子を助ける必要がある。
空二には自分の心臓の鼓動がどっくどっくと鳴り、汗の玉が顔と背中のくぼみをつたい落ちるのまで感じられていた。
「俺は彼らとは違うぜ」
「……ああ、坊主は人間みてえだな。パッと見、なんか変な野郎だと思ったが、よくよく見たらなんの変哲もねえ、ただのクソ餓鬼だ。どうやら、俺の勘が鈍ったらしい。なんでバケモン共とつるんでいるのかはわかんねえが、その辺りはまあどうでもいい。あいつらが、何で、何のために生きているか、なんてことには興味がねえ。欲しいのは、おれの輝きだけだ」
鼻先に飛び出しナイフが突きつけられる。
チャコが忌々しげに言及していた凶器が、これだろう。
臆病にも腰が引けていくのを感じながらも、まっすぐに『凶手』の黄色い白目をもった瞳を見返した。
「俺たちを監禁してどうするつもりだよ」
「どういう訳か、てめえを守っていた二匹のバケモンのガキがいただろう? どちらも若くて珍しいタイプだ。おれは、ああいうタイプを一度殺ってみたかったんだ。ザクッてやれば、シュワーといくんだろうな、オイ」
低い哄笑が響き渡る。
「さて、そろそろ坊主達を探してどっちかがくるだろう。……楽しみだぜ」
それから踵を返して、
「ここはわかりづらいからな、すぐには来ないかも知れねえ。もっと多くの仲間を掻き集めて来るも知れねえ。いつまでも来なくたって、これまた構わねえ。まったく、どうということはない。おれには『輝いた運』があるから、すべては順調にうまくいく」
と嘯き部屋を出て行った。
でたらめな行動基準だが、確実に発動する幸運の存在を信じているなら、あながち的外れではないかもしれない。
少なくとも、『凶手』の運に対する異常な信仰心は揺らいでいない。
仰向けで横たわった夕卯子は、スカートが脚の付け根までめくれ上がり、生の太ももがむき出しだ。
青いパンツが――男はショーツと言ってはいけないという会話がすでに懐かしい――ちらちらと見える。
ややガニ股なポーズが苦しいのか、細い柳腰が小刻みに震える。
ううん、とまだ意識が戻っていない夕卯子は、寝苦しいのか寄せた眉根をせつなく下げて、あえぐような声をあげた。唇が半開きで艶かしい。
だが、十代には刺激的な光景といえど、今は眼を奪われている場合ではない。
自分の手を見る。
両手は塞がれていており、柔らかくもない鉄骨を抱き枕にして、まったく身動きも取れない状態だ。
手錠を脇を絞める要領で鉄骨にぶつける。
当然のように、外れる様子はなかった。
手錠自体がドラマで使うような鉄製のいかにもな品だが、人を拘束するという点、もしくは拘束するということにおいての効果は覿面で、どんなに捻っても外れる様子はない。
抜こうとしても手首の骨の部分に阻止されて、骨を削り取らない限り難しい。
何度も試してみたがやはり無駄に終わった。
「う……うぅ……」
また苦しそうなうめき声。
コンクリートの床がつらいのか、姿勢が変わり、夕卯子の顔がこちらを向く。
空二はその顔に眼鏡がないことに気がついた。
眼鏡のない顔を拝むのは中学を出て以来だった。
中学二年のとき、自分の前に大地震のように現れた少女の面影はまだ健在だった。
昔に比べればあどけなさがなくなり、怜悧な印象が増しているようだが、彼のもっとも大切な友人であることは変わらない。
その友人の艶かしさに少しだけ興奮してしまったことは問題だが……。
右手をかざしてみる。
ただの手にしか見えないが、この右手は本来は人のものではない。
普通の人間よりも、はるかに強い膂力を持っていることは、すでにチャコ相手に確認していた。
ちょっとしたコツでゴーレムと遜色ない怪力が発揮できるということを教えられたのだ。
空二はもう片手で学校の机をボールのように放り投げることが出来る。
だが、この鉄の器具を引きちぎれるようなスーパーマン的行為ができるほどの怪力ではないのが恨めしい。
せいぜい、テーブルを片手で持ち上げたりする程度でしかない。
つまり右手の力ではどうにもならない。
なら、左手はどうか。
左手も、華さんたちの説明によればゴーレムのものと同じはずだ。
ただし右腕と違って、元の肉体と変わらず怪力などは行使できない。
つまりは人外と同じであるだけで、何かの役に立つものではない。
この左手に興味を持つのは、左手になんらかの価値を見出しているゴーレムたちと、そのゴーレムたちに狂意をもっているあの殺し屋だけだ。
……殺し屋?
周囲を見渡した。
頭に浮かんだ考えを形にするために、必要なものを探してみる。
手に届く場所にもあることはあったが、さすがに可能な限り避けたかった。
だが、他には全然見当たらない。
しかたなく、最初に目に付いたものを利用することに決めた。
もう手段を選んでいる時間はない。
視線の先には、鉄骨があり、その上部にコンクリートの塊とそこから突き出た鉄芯が頭を覗かせている。
空二は己の掌を見つめた。
チャコの話では、擬似的な痛覚が備わっているから、怪我をしたら痛いことは痛いらしいが、すぐに治まるものらしい。
そして、中身が少しぐらい減っても死ぬことはないはずだ。
心を決めるのはここだけ。
左の掌をねじ切れた鉄筋の先端に当て、右手を上に添える。
眼を閉じ、一呼吸。
そして、ゴーレムの怪力を込めて、ぐっと一気に押し込む。
ちぐっと体験したことのない類の鋭い激痛が走り、脳を蹂躙する。鉄筋が体内に突き刺さる荒い感覚。
「うぐぅぅ!」
かつて忌避し続けた青き血潮がだらだらと鉄筋を伝わり、灰色のコンクリートを汚していく。
床に溢れると鮮やかさは失われ、ガソリンの溜まりのようになった。
傷口がずきずきと呻きを上げる。
これがただの幻痛だと今の空二は知ってはいるが、脳が認識する痛さそのものは変わらない。
偽者だろうと、痛いものは痛いのだ。
次に右手を左手首にかけ、思いっきり手錠を引き抜いた。
空二の策は単純だった。
骨を削らなければ抜けない手錠でも、手首そのものの密度を下げて萎ませれば楽に外せるだろうというものである。
幸い、空二の左手は、中身を抜けば萎むマヨネーズケースのような代物だった。
引き抜いた左手の穴の端を摘み、これ以上は出血しないように止める。
ポケットの中から、ミニサイズのホチキスを取り出し、傷口を止めて塞いだ。
これは一見したところ荒っぽいが、ゴーレム達にとっては基本的な治療術らしい。
ドクターが華さんにした治療を後で習っておいたのだ。
その上からセロハンテープを厳重に巻きつける。
これで、これ以上の出血(滲みだしている物が本当に血なのか、空二は疑っていたが)は防げる。
それから夕卯子に駆け寄った。
わかってはいたが、無事であることを改めて確認して、安堵の息を洩らす。
もう見慣れてはいたが、決しておろそかにはしないと誓った顔をじっと見つめる。
長い睫毛が揺れていた。
改めて思うまでもなく、美しい少女だった。
この少女に、俺はどれだけ救われたろう。
この友達に、俺はどれほど返せないものをもらったのだろう。
この仲間に、俺はどれほど尽くしてもらったのだろう。
(俺は戦ってみるよ。『凶手』は特別な自分という奴に自信があるみたいだけど、俺は勘違いで自分が特別だなんて思っていたようだから、その辺では負けるかもしれない。でも、特別が確実に平凡を凌駕するわけじゃないしさ。特別って奴をなんとか打ち負かしてみせるよ。だから、無茶をするけど許してくれな)
人差し指で、少女の上唇をなぞってみる。
少しくすぐったそうだった。
それから、静かに外へ出た。