殺意の鞘当て
月曜日。
高校が昼休みに入ったときに、洞藤邸の家電話が鳴り響いた。
今時の高校生にしてはマイノリティに分類される携帯持たない派であったことから、空二は頻繁に家電話のお世話になる。
しかも黒電話である。
今時、プッシュフォンですらない電話機が珍しいこともあって、眼を離すと電話を受けたがる居候の二人を制して受話器を取る。
相手は夕卯子であった。
「どうした?」
「学校をサボっている割には偉そうね、洞藤くん」
珍しく苗字で呼ばれた。
何か、言いたいことがありそうだ。
とは言っても、真実を包み隠さず説明するわけには行かず、すっとぼけてみせることにした。
そういえば父親も自分に都合の悪いことをすっとぼける癖があったが、今となってはその心境が理解できる。
世の中には答えるのがどうにも面倒くさい事項というものがあるのだ。
「忙しくて登校している暇がないんだ。しばらくは行けないかもしれないと担任には伝えてあるぞ」
「それで学校側は納得したの?」
「行方不明の親父の所在がわかりそうだと言ったら、わりとすんなり通った」
「……あなたも生徒会の役員みたいなもんだしね、教師の信用がそれなりにあるんでしょ。職員室でもあんたのお父さんの失踪は話題になっていたようだし。まあ、いいわ。で、わたしの用件なんだけど……」
「……何だ?」
嘘ではないが本当のことを言っていない罪悪感もあって、強く出られない彼の心情を見透かしたように、ふふんと鼻を鳴らしてみせる。
電話口を通してもわかる。
勝ち誇ったようなドヤ顔を浮かべているに違いないことを。
「さっきからやけにぶっきら棒ね。いつものあんたより、三倍比ぐらい態度が良くないわ。聞かせたくない相手でもいるのかしら。例えば、すぐに人の関節を極めたがる変な金髪とか……」
明らかなカマかけにたいして、空二は動揺が表に現れないように答える。
「そういう勘繰りは似合わないから止めとけ。……で、用件の方を続けろよ」
「はいはい、やめておくわ。……帰りにあんたのバイト先で待ち合わができないかしら。もしかして、今日はバイトを休んでいたみたいだから顔向けできなくて近寄れない?」
「確かに近寄りがたいな。一昨日、いきなり辞めたから。まあ、夕方のシフトの連中なら別に俺のことは知らないだろうし、待ち合わせるのは構わない」
夕卯子が息を呑む。
「……辞めたの、バイト?」
「ああ。店長やバイトの仲間には悪いことしたと思っている」
「へぇ、わたしが何度言っても辞めるどころか、シフトを削る気配も見せなかったくせに、急に辞めちゃったんだ……」
「なんで、夕卯子の言うとおりにしなければならないんだ。俺にだって、俺の都合ってもんがある」
「バイトを口実にしてクラスメートとの付き合いを避けていたくせに」
「生活費がいるからしかたない」
「じゃあ、バイトを辞めるってことは生活費よりも大切なことがあるんだ?そういうことでしょ」
「どう解釈しても構わないが…、おまえ、待ち合わせはどうするんだよ。行ってもいいけど、時間を指定しろよ」
「ふーん。やたら強気なのね。じゃあ、四時にコンビニ脇の駐車場でよろしく」
そう言って、電話は切れた。
少し刺がある態度のように感じたが、彼女への言い訳はあとですればいい。こちらにはやらねばならないことが溜まっているのだから。
※
獲物を発見した。
付き合いのある仲間から仕入れた情報は正確だった。
金曜日にも、すぐに目的の獲物と接触できたし、それなりの成果を挙げることに成功した。
もっとも一番重要な部分に手を付けられなかったのは、心残りといえば心残りだった。
それでも面を確認することはできたのだから、それでよしとするべきだろう。欲を張って失敗するのはまったくもって頂けない。
そのおかげか、今日も比較的短時間で獲物を再確認することができた。
僥倖といえるだろう。
愛用の刃物の存在を、指を差し入れて確認する。
刃の縁に指が触れる。
今にも皮膚を裂き、その先の肉に分け入りそうな極細のシャープさにゾクゾクする。
これで彼は今まで多くのものを屠ってきた。
同族のみならず、それ以外も。
今日もこの刃は生命を蹂躙をし、肉体を切断しまくるだろう。
恍惚とした自分を振り払い、獲物たちに意識を戻す。
褐色の肌、金髪の少女と黒い服、黒髪の小柄な少女に挟まれて、一人の少年が歩いている。
その異常さ加減は見ただけではわからない。
だが、彼は十分に熟知していた。
そう、絶死の領域に落とさねばならないのは、まず、かの平凡そうな少年だけなのだ。その先に歩くべきか否かはまだ彼の責任の範囲ではない。
三体を視認できる範囲に収めると、彼は尾行を開始した。
どこで襲うかは状況次第。まだまだ考える段階ではない。
ただ、少年の護衛に入っているらしい二体をどうするかは難しいところだった。
少なくとも、金髪の少女は稀にみる運動性能と本当の戦いを知っているガーディアンであることは証明されている。
金曜日の時点で彼に見せてしまった失態を、もう一度繰り返すことはないだろう。
また、見た目に騙されてしまいそうになるが、もう一人の黒髪もそれなりの敵である。
金髪の少女の相棒であるという事実が間接的な証明をしているといえる。
この二体をいかにして、少年から引き離すべきか…。
少年の重要性はすでにコミュニティーの間で大きく喧伝されている。
もともと規模が小さく、交流も狭い、その中で構成員名簿が作成されているような世界なのだ。
情報の伝達速度は異様に早い。本来隠すべき情報が、彼のような存在に伝わってしまうのも危機管理に妙に無頓着なゴーレムたちの欠点だろう。
洞藤空二。
ある種の希望として、一瞬にして全世界のゴーレムたちに伝わった名だ。
だが、彼にとってはどうでもいい名だった。
獲物たちは彼の存在を察知することもなく、歩道橋を連れ立って渡っていく。
その目的地がおそらく少年の所属する高校であるらしいことにピンときた。
少年の普段の通学路をなぞっているからだった。
なら、先回りすることもできるだろう。
彼の生活パターンはすでに把握済みだ。
そうであるならば、襲撃地点の目星はすぐにつけられる。
彼は愛用の刃物をぎゅっと握り締めた。
※
待ち合わせのコンビニに、夕卯子はすでにやってきていた。
学校帰りなので制服はそのまま、それなのに何故かカバンは持っていない。
物凄い顔をしてこちらをを睨んでいることから、ちょっとした恐れを抱かざるえない。このあたり、無意識に構築された彼らの上下関係というものが垣間見える。
ふと隣を見ると、チャコも夕卯子に向けて似たような顔で凄んでいた。
双方、稀にみる美少女なので威嚇しあう地獄の鬼のように迫力があった。
なぜ、人は眉間にしわを寄せて眼力をあげようとするのだろう。
おそらくは自分が原因のはずの諍いであるにもかかわらず、空二はどうでもいい感想を抱いていた。
(こいつら、仲悪いんだろうな)
確かに出会いからすれば、仲良しという関係への進化はありえないだろう。
ただし、二人とも武闘派なので、殴り合って和解しマブダチになるということはありえそうな気もする。
夕卯子の自宅の蔵書を思い起こすと、「タイマンはったらマブダチ」というフレーズが大好きなことは丸わかりだ。
しかし、お互いの人物評が「黒猿女」と「ゴリラ女」である。
すでに類人猿の段階でいがみあっているのだから、どこかで進化の環―――ミッシングリンクの存在が必要かもしれない。
「……洞藤くん。わたしは、あなたとの二人きりでの対話を希望していたんだけど、それは叶えてもらえないのかしら」
いきなりの直球だった。
インハイのストレートで打者をのけぞらせる配球。そうすると、次のボールはアウトローか。
だが、打者も並みの選手ではない。
闘志満々の左バッター、動揺も見せず、バッターボックスの定位置を外さない。
当然、難しいとはいえ配球は読んできている。
「あれ、カバンは構えないのか? おまえのこったから、いきなり考えなしに大振りしてくると思ってたのに、残念だぜ」
「だって、力じゃあなたには勝てそうにありませんから」
「あたしも凶暴さでは譲るな、おまえには」
「口が減らないわね、黒いお猿さまの分際で」
「珍しい、ニホンゴ話すよ、このゴリーラ」
何故、いきなりカタコトになるのかわからなかったが、褐色の肌、金髪碧眼にマッチしているといえばマッチしている。
ただユーモラスだからといって剣呑さがなくなるわけではない。
二人はほんのわずかな会話の応酬で一触即発ともいっていい状態になった。
そんな痛い空気をまったく意に介さず、ウォータが空二の袖を引っ張った。
居た堪れなくなっていた彼は、それに便乗してやばい二人組から視線を反らすことにした。
「どうした、ウォータ?」
「ちょっとお水を買ってきてもいい。家で補充してくるのを忘れちゃってたの」
「ああ、いいぞ。俺はチャコが守っててくれるからさ、大丈夫だ」
その言葉を聞きとがめたのか、夕卯子が険しい顔になった。
「守るって、それ、どういうこと?」
「あ……」
一瞬考えたのを怯んだと見たのか、夕卯子は間髪いれず追求を重ねてくる。
「あんた、もしかしてヤバい立場に置かれているの?」
「いや、ち、違うぞ」
「この黒猿がVIPの護衛でもできそうなぐらい怪力なのはわかっているけど、なんであんたが何かに守られるようなハメになっているのよ!」
「いや、別に危ないことはないから」
返事がしどろもどろになる。
「だいたい、学校に来ないってこともおかしいわ。どんなに私が言ってもシフトを減らそうとしなかったバイトまでいきなり辞めちゃって、いったい何があったの? ……私には一切連絡してこないし」
「夕卯子には言おうと思っていたんだけど、……調べ物が結構あってさ、時間が取れなかったんだ。気がついたときはもう深夜だったりして。ほら、夕卯子のお母さん、夜の電話を嫌うって言ってたろう?」
「調べものって、何よ。その左手のことじゃないの?」
「いや、これにも関係あるんだけど。……主に親父の事かな」
「おじさん? ……おじさんがどうしたってのよ」
「……いい加減にしとけや、ゴリラ女」
割って入ったのはチャコだった。
詰問に対して、たじたじになっていた状況なので渡りに船だった。
もっとも、戦闘用の軍船なのでキャッチアンドウォーという具合になりそうだったが。
「……邪魔をする気? あんたに関係がない……て訳じゃなさそうだけど、私と空二の間に割り込むのは許さないわ。どきなさい」
「言うじゃねえか」
「ふざけた口をきくと、殺すわよ」
「……やるか、おい」
間接罵倒をふっとばし、直接罵倒と恫喝で会話が進行していく。
空二は来るべき恐怖の近未来を想像し、いかにして運命を変えるべきかを模索することになってしまった。
そのとき、チャコの猫の眼が動いた。
いきなりコンビニの壁を蹴ると、ゴミやダンボールを仕舞う倉庫の真上の張り出し屋根に昇る。
まるで、忍者か猿のごとくしなやかな動きであった。そのあまりの早業と運動神経に夕卯子が眼を丸くした。
チャコは大阪城の石川五右衛門のように周囲を睥睨する。
「いやがった」
舌打ちとともに、張り出し屋根の上から飛び降りる。
三メートルの高さをものともしない無謀さだったが、着地したチャコにはなんの衝撃もないようだった。
デイバッグを腰から外し、空二に投げ渡す。
「クゥ、黒い奴がいる。『凶手』だ。あたしは奴を追うから、これを持っててくれ」
「おい、チャコ」
さらにポケットから携帯電話が放物線を描いて、空二の手に渡る。
慌ててキャッチしたときには、持ち主はすでに脇目も降らずに駆け出していた。
金色の髪が住宅街の片隅に消えると同時に、店内からウォータが出てきた。
小さな手には、二本の2リットル・ペットボトルが抱えられている。
一目で相棒がいないことに気づき、
「チャコは?」
「『凶手』だ」
簡潔な答えで全てが通じたのか、それ以上は何も言わずに頷いた。
「いくらチャコでも独りじゃ危ないのに。……クウジ。ウォータも追うから、クウジはここにいてね」
ペットボトルを地面に置いてから走り出そうとすると、空二の手にあるチャコに投げ渡された携帯が鳴り出したので、ウォータの足が止まった。
着信表示を見ると『HANA』とだけ表示されている。
「華さんだ」
ウォータに向け携帯を掲げて、声を張り上げる。
チャコの携帯に勝手にでることが躊躇われたのだ。
「クウジが話を聞いておいて」
電話の相手が華さんであることだけを確認すると、それ以上は振り向きもせず、小柄な身体は弾丸のように視界から消えていく。
過去において、数えるほどしか携帯電話に触れたことのない彼は、その基本的な扱いさえおぼつかなかったが、かろうじて『ON』というボタンを押すことで通話を可能にした。
「はい、洞藤です」
「空二くんか? チャコに替わってくれないか」
携帯越しに、予想通りに華さんの声が聞こえた。
替わろうにも、本人はおらず、代理に立てられそうなウォータも出払ってしまっていた。
仕方なく事実をありのままに述べた。
「チャコなら『凶手』を追って行きました」
「なんだって……。じゃあウォータに渡してくれないか」
「ウォータもチャコのあとを追って行きました」
「なんだって? それはマズイよ!よく聞いてくれよ、空二君。いいかい、空二君、気をつけるんだ、危ない奴は一人じゃない!一人じゃなかったんだ!」
「……なんですって?」
「この前に話した、創造主に復讐をしようとするグループのことを覚えているかい? そのうちの一人が今、君の側にいるんだ!チャコが『凶手』を見つけたことから忘れられてしまっていたが、その一派のメンバーが来日していて、近くに潜伏していたんだ!この間、僕の腹を掻っ捌いてくれた奴、そいつがおそらくは暗殺グループのメンバーだったんだよ!」
華さんの言っている意味がすぐにはわからなかった。
(つまり、なんだ、『凶手』って奴以外にまずい奴がいるっていうのか)
空二はさらなる情報を求め、携帯に耳を澄ました。
それが危険の去ってしまうおまじないとでもいうかのように。
「『凶手』のアジトだと目されていた部屋を調査したのだが、何泊もしているはずなのに物を飲食した様子がなかった。
『凶手』は凶悪だけど、やはり人間にすぎないから、食事も摂らず何日も過ごせるはずはない。しかし、明らかに君達を狙おうとしているらしい痕跡だけは残っていた。そうなると……」
ガタ。
何かが落ちる音が聞こえた。
空二は異常な胸騒ぎを感じて、すぐに振り向いた。
崩れ落ち、駐車場のコンクリートに倒れこんだ夕卯子の姿が見えた。
そして、そのすぐ側に鏡のように立ちつくす黒いコートの男。
携帯に何かを叫ぼうとしたとき、男の黒い拳が空二の腹に食い込んだ。
意識を断ち切るには充分すぎる激痛を貰い、人形のように前のめりに倒れる。
よく知る誰かの顔が脳裏に浮かんだ。
※
目指す相手に追いつくのは至難の業というほどではなかった。
チャコは華奢な見た目に相応しく他のゴーレムたちに膂力では劣るが、それでも人間よりも優れた身体能力を持っている。
走って逃げる人間に追いつくなどということは児戯に等しい。
そして、三つのマンションを同時に建築中の広めの工事現場にまで追い詰めた。
周囲からは死角となっているため、通行人の興味をそそる場所ではない。
派手な音さえ立てなければ、少々の立ち回りは問題はないだろう。
そんな楽観的な判断をチャコはしていた。
後ろ向きの相手は追い詰められた姿、そのままのように見える。
チャコは挑発の意味をかねて、バカにした口調で声をかけた。
「……さてと、『凶手』。これ以上、兄弟姉妹たちをあんたにやらせるわけにはいかないからね。それにクゥに手を出そうとする以上、このまま見逃してあげるわけにもいかない。ここで覚悟してもらうよ。」
チャコは相手の背中を見据える。
殺す気まではなかったが、全身に相応の障害を与えるまでダメージを与えるのはアリだろう。
「……『凶手』?」
黒いピーコートの男は背中越しに応えた。
不思議そうな疑問符交じりの声だった。
「とぼけんじゃないよ、金曜にあたしの前から逃げたことを後悔させてやるからね」
「確かに俺は金曜日に失敗をしたが、おまえ一人から逃げたことなどはない。間違いを正してやろう。俺は『凶手』なんて名前じゃない。姉妹よ、それはおまえの早とちりだ」
黒いコートが振り向いた。
「えっ」
かつて一度だけ見た覚えのある馬面の男ではなかった。
眼前に居るものは、同じ東洋系の容姿を持ってはいたが、あきらかに別人のものであった。
それだけではない。
灰色の髪とややかすれかけた色の肌。
古い年代のゴーレム特有の強烈な威圧感をもつそれは、紛れもなく彼女の見知らぬ兄弟のものであった。
相手が人間だという先入観を持っていたおかげで、その正体を見抜くことができなかったのだ。
もし少しでも疑いを持っていたら、幾つかの不審な点を捉えることができたろうに。
懐から刃物が抜き出される。
それは、金曜日に華さんの腹を割った凶器に酷似していた。
このときになって、初めてチャコは『凶手』とこのゴーレムの二種類の敵がいたという事実に思い至った。
(クゥ、ごめん。しくじった!)
致命的な失策にチャコの心が動揺する。
すぐにでも空二の元に帰らなければならないが、目の前のゴーレムははっきりと確信できるほどに恐ろしすぎる相手だった。
対峙すれば実力差が理解できる。
「……俺はあの無節操な人間の殺し屋とは違う。だが、俺が創造主の手がかりを持つあの少年のもとに行くというのを邪魔するならば、おまえを排除するぞ、姉妹よ」
「あんた、暗殺派の……」
「チャコ!」
オレンジのコーンを蹴り飛ばして、ウォータが建築現場に飛び込んできた。
ゴーレムらしく呼吸はまったく乱れていないが、その顔は真剣そのものだ。
本来なら願ってもいない助太刀のはずだが、今だけは眼が眩みそうなほどまずいタイミングである。
「ウォータ、戻って!クゥを一人にしちゃ駄目だ!」
「えっ?」
加勢に来た途端、いきなりの戻れ発言にウォータは戸惑った。
「あたしらは勝手に罠にはまっちまったんだ!クゥが危ない!」
目の前にいる見慣れぬ黒いゴーレムとチャコを見比べて、状況を察したのか、その白い美貌がさらに白くなる。
置き去りにした空二が危険に直面しているかもしれない可能性に行き着いたのだ。
慌てて回れ右をしようとする。
それを制止せんと、黒いゴーレムが動いた。
だが、ウォータと黒い影の間には、稲妻のようにチャコが割り込む。
「おっとっと、行かせやしないよ」
「……邪魔をする気なんだな、姉妹よ」
「おうさ。どうやら、あたしは取り返しのつかないへまをやっちまったみたいだけど、だからこそ、これ以上のへまはできない。ここで、でかい失地を取り戻させてもらうよ」
「俺とやろうというのか」
ゴーレム間の性能の差はあまりない。
ただし、それはスタンダードな性能においてだ。
古く年を経たゴーレムは様々な意味で新しいものたちより優れていることが多い。特に戦いについては、多くの経験がものを言う。
チャコは黒い相手が、彼女の何倍も活動し、肉体に改造を重ねてきた生粋の戦士であることを実感していた。
「ああ、仕方ないけどさ」
チャコは自慢の金髪を、取り出したバンドでとめた。
それは限界を超えた戦いを執り行うための儀式。
「ここでアンタを止めないと、あのバカが苦労するからさ」
チャコはここで命を懸けることを決めていた。
なぜなら、チャコの脳裏にはある少年の顔だけが浮かんでいたから。




