頑張る度に癒してくれる隣の席の聖女様
中学一年の頃。
「きゃーーー!!!!」
遠くから叫び声が上がった。
教室で少し勉強した後。帰ろうと、階段を降りていた俺は声に気づいた。
なんだ? 女の子の叫び声!? 何かあったのか? 見に行くか。
俺は声のした方へ行く。
そこはそう離れていない近場の教室で、綺麗な長い金髪をした女の子が一人、地面に座っていた。
女の子は何かを怖がるように震えていて、スカートを濡らし地面には液体が広がっていた。
夕日が赤く教室を照らす。
俺はその光景を見つめる。驚きながらも状況を理解しようと頭を回す。
声がしたのはこっちの方だよね! と廊下から二人の男子生徒が近づいてくる。
俺は女の子を隠すように前に出た。
女の子はなに!? と目を見開いている。
男たちが教室へ入って来た。
「何これ? どうしたの?」
「……何か臭くない?」
俺は男たちに言った。
「お、俺……が漏らしちゃった……」
◆◆◆
背も伸び、周りにいる人たちの面々が変わった。
高校一年の春。
俺は一竺秋右。
あの時のことは今でも覚えている。
あの時の女の子は痴漢に遭っていたらしく、ちょうどそれが夕焼けが凄く一人の時だったらしい。あの時と同じ状況だ。それがフラッシュバックしたんだそう。
俺は新しい高校の教室に入る。
そこには日本ではとても珍しい地毛の金髪美少女がゴミ拾いの掃除をしていた。
その人は俺を見るや嬉しそうに笑顔を浮かべる。
「おはようございます秋右」
どこまでも優しい声で俺にそう言う。
母がイギリス人、父が日本人のハーフ。
髪は金髪の本名エネム・ファウナ・スミーニ。
愛称でファウニと呼ばれている。
この人こそがあの時、俺が庇った女の子本人だ。
「おはよう。それから俺を名前呼びするのは俺を意中の相手にする時にしてくださいよ。他の男たちから嫉妬で殺されます」
「ふふ、ごめんなさい秋右」
微笑みを浮かべながら、小さなイタズラをかましてくる美少女。
可愛いから嫌な気持ちにはならないんだよなー。
他の人たちも登校してファウニに挨拶をする。
「おはよー」
「おはようございます」
◆◆◆
この人はよく分からない。
俺はファウニと隣の席になっている。
ファウニはスマホを触りながら何か困った固い表情をしていた。
眉根を寄せスマホを睨むファウニ。
何してるんだ?
その時「チリン!」とファウニのスマホが鳴った。
何かの通知音だよな。授業始まるしマナーモードにしなくていいのかな……?
あああ、と慌てるファウニは、俺の方をチラと見る。
もしかして、マナーモードの設定の仕方が分からないのか? ……まー確かに高校からだもんなスマホ持ち込めるようになったのは。
教えるか……でも……相手は女子だし……。
俺は手をもじもじさせる。
き、き、緊張するなーー。
女子に声を掛ける? いいのか?
ファウニはスマホを触り困り顔でいた。
俺は椅子ごと身をファウニに寄せる。
「音消せないの?」
俺は勇気を出して聞いた。
「そうなのです。どうにかしたいのですが……」
「ま、まかせて俺がやってみるよ」
俺はスマホを借り、本体設定を開いていく。
スマホをいじっているとファウニは俺を笑顔で見つめてくる。
うう、そんなに見られると恥ずかしいな。めっちゃ可愛いし。
「できたよ。これでどうかな?」
「ありがとうございます……では……」
ファウニは急に俺の耳元に寄り優しいまろやかな声で話す。
「よく勇気を出して私に声を掛けてくれましたね。私、嬉しかったですよ。よく頑張ったね」
俺はその甘い声に一瞬肩を震わせる。
ファウニの頬は少し明るんで、口角を上げて上目遣いでこちらを見ていた。
心臓を刻む音が早くなる。
「きゅ、急にどうしたん……?」
俺は照れながら頑張って笑みを浮かべる。
「お礼です」
「そうですか」
一体なんでこうなったのか……こんな生活がこの後も続いた。
◆◆◆
教室のドアから背が高く、筋肉もある強面の男が入ってきた。
恐らく三年生なのだろう。
その人はファウニの前まで歩いていった。似たように三年の男や女が、後からざわざわしながら大量に付いてくる。
俺はぼーっと見る。
三年の男はファウニを前に言った。
「一目惚れした。俺と付き合ってくれ」
きゃーーと周りの三年たちは騒ぎ出す。
圧を強く感じる。
「……ぁ……」
ファウニもこの数からの圧には耐えられないのか声を出せずにいた。
困っていた。
どうしよう。助けないと、でも……怖っ!
男は、あの……? と言う。
ファウニ話せないよな。この人も威圧掛けてるって気づいてないな。
い、行くか……。
周りにいる人の数がいつもより多く年上で。
俺は恐る恐る目の前に出る。
ファウニは俺を見た。
「あ、あのファウニ怖がってるから」
俺は男に言った。怖気づきながらも。
「ちょっと邪魔しないでもらえますかね」
「邪魔……」
やべ、どうしよう……引くか?
その時、服の背中を摘まれる。
俺は口を開いた。
「おぉお、お、俺が好きなんだ!」
なんて言えばいいのかも分からず言ってしまった。
その瞬間クラスの空気が凍った。同じクラスの人たちは目を見開いている。
……誰も何も言わない。
「そうか……」
そう言って男は踵を返す。
あれ? 付き合ってるとは言ってないんだけど……勘違いした?
俺はファウニの様子を見ようと振り返ると、がっと両手で抱きしめられた。
ファウニの顔が良く近くで見えた。
唇が柔らかそうに鮮明に見えるぐらい至近距離だった。胸が押しつけられる。
ファウニは優しく言う。
「良くできました。ちょっと怖かったんだけど来てくれてホッとしたよ。ほんとに良くできました」
俺の頬は赤くなる。だが終わらないハグ。周りの目も気にせず。
「あ、あのファウニ……」
ファウニの頬も赤くなる。
ぎゅっと強く締め付けられる。体に温かさが伝わってくる。ファウニの綺麗な瞳と嫌でも目が合ってしまう。
「それから……」
ファウニは小声で耳元に囁いた。
「私も」
ハグを解き俺から距離を取る。
窓際、外の景色をバックに彼女は照れている。
私もって……この人は……。
「秋右!」
片手を出し俺の頭を撫でる。
「いいこいいこ」
ニコニコしながら顔を真っ赤にしてやけに振る舞っていた。
周りの人たちも何故か照れだす。
◆◆◆
俺たちは手をつないでいる。
夕焼けが教室を照らす。二人きり。
「私、庇ってくれたあの時からずっと好きだったんですよあなたのことが」
「え、あの時から!?」
「そうです!」
俺たちはそんな会話をする。
今日は大変だった。が、ファウニを守れて良かった。
ファウニは俺に囁く。
「あの時からずっと見てたよ。いつもいつも頑張っていて偉いね。よく頑張りました」
甘い声で俺を癒す。
「ありがとう」
あーこの人はやっぱり
とっても可愛い俺の……
頑張る度に癒してくれる隣の席の聖女様。
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