異世界に転生したけど、たぶんモブ
神様に会ったわけではないけれど、私はどうも異世界転生というものをしているらしい。
中世ヨーロッパっぽいと思わなくもない服装と建物で、でも魔法が使えて魔物や迷宮で魔物を狩ると魔石や便利素材が取れるお陰でネットなんて勿論ないけれどそこそこ便利で前世よりの生活ができ、転生者がチート無双したような前世の世界にあったような料理が食べられるからそんなに不自由は感じていない。
熱を出したとか死にかけたとかの理由もなく幼い頃に突然前世を思い出した私は、そんなご都合主義満載な生活環境から乙女ゲームの世界に転生したのかなと思っていた。
乙女ゲームはしたことがなかったけれど、読んでたネット小説では大抵乙女ゲームの世界に転生していたものだから、なんとなくそうなのかなって、ね?
ただ、ここが乙女ゲームの世界だったとしても、私はやっぱりモブだったみたいなのよねえ。
「お前は可愛いミルキィに嫌がらせをしていたそうだな。それだけでなくおとといミルキィは学校の階段でお前に突き落とされたというではないか! 虐めにしても酷すぎるだろう!」
なんでやっぱりモブだと思ったか。
それは私がモブで主役はあっちだと思う方々が、今まさに婚約破棄の真っ最中だからだ。
今日は通っていた貴族学校の卒業式、私も一応貴族の娘なので三年間社交を頑張りつつ、そこそこの成績を修めて無事本日卒業となった。
卒業後、結婚予定のない子爵家三女の私ことリリアンヌは、親戚の侯爵家のメイドに雇ってもらえることが決まっているのでこれから先も王都暮らし。
でも、友人達は自分の領地に帰ったり結婚して旦那さんの領地に行くのが決まっていたりするから、卒業後は思うように会えなくなる。
だから私達は卒業祝いの会と言う名の夜会で、別れを惜しんでいた。
貴族の子供が通う学校だから、こういう催しを行う建物がしっかり準備されていて、令嬢たちがお茶会の授業を受ける部屋とか、舞踏会や晩餐会の模擬練習をする広間とかがあるのだけれど、ここはその中でも一番大きな場所になる。
この夜会を取り仕切るのが生徒会で、世代交代したばかりの生徒会の面々が卒業生のために一生懸命用意してくれたのだ。
会場を飾り付け、軽食や飲み物を用意し、楽団を手配して演奏曲を決めるのは大変だったと思うのに、その後輩たちの努力を見事にぶち壊してくれたのだ。
そう、今日私達と一緒に卒業したこの国の第五王子が「婚約破棄だー!」と宣言したのよ。
相手は公爵家の跡取り娘、ミヤビーナ・ファビラ様、つまり第五王子は婿入り先を自ら捨てたってわけなのよ。
「ねえ、あの方って成績と素行不良で卒業できなくて半年前に退学されましたわよね? 違ったかしら」
第五王子の腕にぴったりとくっついている女性を見て、なんでこの人がここにいると疑問を覚えた私がつい友人に聞いてしまった声は、婚約破棄の現場を皆が真剣に見ていたせいで静まり返っていた大広間にびっくりなほどよく響いてしまった。
マズイと思った時は既に遅く、あちこちから私に視線が集まってしまう。
ずっと大人しく学生生活を送っていたのに、最後の最後でやらかしてしまった。
「そうね、試験は毎回赤点で授業もまともに出ていなかったのを問題視されて退学になったと聞いているわ。それから暇になって王宮通いしていると噂だったわね」
目立った私に、友人は追い打ちをかけていく。
その声は意図的なのか私よりも大きい。
「それでどうやって学校に? 学校の警備そんなに抜けがあるのかしら。怖いわ」
もう一人の友人は、全く怖くなさそうな顔でそこそこ大きな声で話す。
こちらは、もう皆聞いてくれと言わんばかりだ。
「そもそも退学した人をどうやって虐めるのかしら」
「そうよね、制服は退学者は返却だと聞いてますから、私服でしょう? その恰好で校内にいたら目立つでしょうし、彼女がどこにいても警備がまず気がつきますわよね」
この学校、高位貴族と違い下位貴族の生徒の制服は学校から貸し出している。
制服は貴族学校専属の仕立て屋がすべての学生分を仕立てている。
使用される布やボタンは、贅沢になれた高位貴族の令息令嬢から不満がでることがないように、上等なものが用意されていて、でもそんな高級品は下位貴族では買えないため、高位貴族の卒業生や在校生の家が寄付してくれたお金で下位貴族の生徒用に制服を作り、生徒は大切に三年間着る。
貸し出しの制服を着ているのは自分の家が貧乏だと思われそうで貸し出しを申し込めなかった生徒が過去にいたらしく、今は全ての子爵、男爵家の生徒は貸し出しの制服を着る決まりになっていて、男爵令嬢の彼女も退学になる前は当然貸し出しの制服を着ていた。
ちなみに身長が伸びてサイズが合わなくなった制服は、申請すればちゃんと体に合ったものが用意されるからありがたい。
形は同じでも、暑い季節用、寒い季節用で使われている布地が違っているし、それぞれ三着ずつ借りられる。おまけに魔法がある世界だから、制服は清潔の効果が付いているからこれもありがたい。
この制服卒業した場合は売るなりなんなり自由だけど、退学者は返却しなければならない。
つまりちゃんと卒業したら、賃料無料に制服を借りられ返却不要で売ってもいい。お金がありあまっている高位貴族の大きなお財布ありがとうな制度なのだ。
でも、高位貴族の寄付ありきの話だからこそ、退学者が返却しないことは許されず窃盗扱いになると聞いたことがあるから、さすがの彼女も制服を持って帰ったりはしていないと思うけど、どうなのだろう。
そう言えば、彼女って第五王子以外にも高位貴族の令息と懇意にしてたけれど、最終的に第五王子に決めたのだろうか。
「退学? そんな話聞いていない」
「え、あの、あの、あの方達はミヤビーナ様のとりまきで、私を虐めていた人達で」
「なんと、そうなのか。なら退学は嘘か」
退学と聞いて驚く第五王子は、彼女に簡単に言いくるめられてしまう。
凄い。なんて簡単に騙されるんだ王子、それでいいのか。
でも、言いがかりは止めてほしい。
私は子爵家の三女、この国は親が籍を抜くまではいつまでも貴族のままいられるとはいえ、結婚予定もする気も無い私はメイドになって働く予定なのだから、虐めをしていたなんて噂は困る。
結婚しないで働きたいという思いを隠し、親戚の前で三女なんて持参金すら用意されない未来は暗い。とぼやいたらメイドで雇ってもらえると決まったのだから。
親戚が優しいのは、幼い頃からの付き合いで良く知っている。
親戚は母の従姉妹で、侯爵家に嫁いでいる。
母に連れられて侯爵家の屋敷に遊びに行く度私達兄妹に美味しいお菓子を用意してくれていたし、下位貴族の母の相談にものってくれていたし、屋敷の雰囲気も良かった。
侯爵家の令息は私の三つ上で、屋敷に行くと一緒に遊んでくれたのは良い思い出として私の中に残っている。
兄や姉達はお菓子目当てだったけれど、私はこんなお屋敷で働けたらいいなって思っていた。
幼い頃から、結婚より働きたいって思っていたから、裁縫や刺繍の腕を磨きながらメイドや侍女の仕事ができるように勉強をしていたのだ。
前世の記憶のお陰で、どうにもこの世界の結婚制度は自分に向いていないと思っていた。幸いお金がそこそこある下位貴族の娘に生まれたけれど、考え方の根っこに庶民感覚があるからどうにも貴族令嬢の生活は堅苦しくて無理寄りの無理だと思っていたんだ。
こんな私だから高位貴族にはなるべく近づかないようにしていたし、下位貴族の娘なんてそもそも公爵家の跡取り令嬢なんて友人どころかとりまきにすらなれない。
身分社会ってそういうものなんだから。
ちなみに私の友人の一人は私と同じ子爵家の娘で彼女は婚約者がいるからすぐに結婚するだろうけれど、もう一人は領地なし男爵で跡継ぎは兄という子で、こちらは婚約が決まるまでは家で花嫁修行するらしい。
本人は花嫁修行という名の家事担当だと言っているけれど、家族の仲がいいから結婚が決まるまでのんびりするらしい。ちなみに使用人を沢山雇う余裕はないらしく、雇っているのは料理、掃除、洗濯なんでもやる女性が一人いるだけで、彼女はその人から家事全般を習うのだそうだ。
私同様二人は平和に卒業し堅実な未来を獲得するべく、目立たず騒がす学校で過ごしていたんだから公爵家とつながりなんてあるわけがない。
「どうする?」
「不敬になるかしら」
「でも虐めていたとか、噂されるのは困るわ。私これから結婚相手探しするんですもの」
良い噂は広まってもすぐ消えるけれど、悪い噂は延々と残るし尾ひれはひれがついて大きくなる。
だから、火だねは小さなうちに消すに限るのだ。
「虐めなんてしてないし、嘘も吐いてない。なら堂々といきましょう」
花嫁修行予定の友人は、あっさりと腹を決め私たちは巻き込まれた。
いや、私が二人を巻き込んだのか?
「恐れながら、その方本当に退学されましたので嘘は申しておりませんわ」
「はい、先生方がもうすぐいらっしゃいますし、直接ご確認ください」
まだ今は卒業生だけで楽しむ時間で、先生たちは後からやってくる。
生徒会がすべて仕切る夜会だから、先生たちも招待客の立場なのだ。
「前期末で退学されたのですから先程の階段の件やその他は、その方が無理矢理校内に入らない限りありえませんが、教科書や制服はどうして持っていたのでしょう? 退学したら返却しないといけないのに」
三人とも、気持ちが決まればハッキリキッパリ答える。
それにしても王子が騙されやすいから、こんなにすぐ分かる嘘吐いたのか、ミルキィってもしかして私と同じ転生者なのだろうか。
「な、な、な、なんだと」
「わ、私嘘なんて」
「それに、仮に虐めていたとして、ファビラ様悪くないのではありませんか」
虐めは勿論やってはいけないことだけど、婚約者にちょっかい出している人に虐め、もとい嫌がらせするのは当たり前の話だ。
婚約は家と家との契約なのに、横からそれをかっさらう行為しようとしてるんだから、人の婚約者になにしようとしてくれてんの? と、物理的にお話されてるだけになる。
「どういうことだ」
「真実の愛とかおっしゃってましたけど、それはただの不貞ですし。目の前で不貞されて、黙っていたら家の立場が無くなりますし。ねえ、皆様そう想いません?」
泣き寝入りなんて、この世界の貴族には無い。
そんなことしてたら、家が侮られて終わる。
報復が正当防衛になるとは、なんて恐ろしい世界だと知った時は恐れおののいたけれど、貴族社会なんてこんなものなのかもしれない。
前世の世界で政治家の根回しなんてものすら知らない私には、とてもできるとは思えない。
下位貴族の三女で良かったと心から思うし、私は指示を受けて動くことはできても誰かに指示するなんて無理だから貴族家の夫人なんて絶対にできないと思う。
「ふ、不貞」
あれ? 気がついていなかったのだろうか。
もう、この際だから言えるだけ言ってしまおうかと、心を決める。
友人はすでに心を決めているから、私もそうする。
大丈夫、親戚の侯爵家はファビラ公爵家とは同じ派閥だからあまりにもファビラ様がお気の毒でと言えば、メイドで雇う約束はなくならないと思う。
侯爵は高位貴族には珍しい義理堅い人だし、母の従姉妹である侯爵夫人もそうだから、黙って婚約破棄を見ていたとバレる方がマズイと思うんだ。
「恐れながら、王子殿下はファビラ様のお家に婿入りされるお立場ですのに、妻になる方以外を真実の愛だと言われるのは大問題ではないのでしょうか? まさか愛人を連れて婿入りされるおつもりでしたのでしょうか?」
「まあ、愛人を連れて結婚なんて許されませんわ」
「婚約している相手がいて、他の人を愛するなんてどう言い訳しても不貞ですわ」
信じられなーい。とばかりに私達三人で煽ると第五王子の顔がみるみる赤くなる。
「婿入りなんてしないっ」
「それは良かったですわ。真実の愛だから私と婚約破棄してその方を妻にして婿入りすると言い出されたら、我がファビラ公爵家を馬鹿にしているのかと、王家に抗議するところでしたもの」
私達から離れた場所で、にっこりとファビラ様が笑う。
素晴らしき笑顔だ、やっぱりここって乙女ゲームの世界で、ファビラ様は悪役令嬢だとぴったり合う気がするけれど、この場合はヒロインが処罰されるパターンなのだろうか。
「婚約破棄はお受けします。皆様聞いていらっしゃいますから、撤回はできませんがよろしいのですよね?」
「撤回するわけないだろ!」
ファビラ様、煽る煽る。
もう、私の気持ちは、ライブ会場で『ファビラ様、ファンサして!』と書いたうちわをフリフリするファンのようになっている。
うちわもペンラも用意して、私は推しのファビラ様を精一杯応援するよ。の気分だ。
「第五王子殿下の婿入り先がなくなったら、どうなるのかしら」
「王家に籍が残るのは第二王子殿下まで、新しく家を興せるのも第二王子殿下まで、他は皆様婿入りされないと成人と共に籍が抜かれるしきたりだったはずですわ」
貴族は親が籍を抜かない限り貴族でいられるけれど、王家の場合は違う。
それは多分、婿入りも嫁入りもしない王子王女は、何かしらの問題があるからなんだと思う。
王家から籍を抜く、それは籍が無くなるんじゃなくて命が無くなるんだないだろうか。
怖っ。
「でも、今までそんな方いらっしゃったかしら」
ファビラ様を見つめながら、私達三人は無責任に会話する。
普通は第三、第四までは王子王女共に外交の駒として他国と結婚する。
王家には残れなくても、他国の王子、王女がこちらの国に結婚しに来た場合に限り王族として残れ公爵家を興せる。
ファビラ公爵家は確かそうやって出来た家だったと思うけど、違ったかな?
そうなると、さっきの怖い想像が真実な気がしてきてしまう。
「あ……」
王子もやっと自分の立ち位置を思い出したのだろう、婿入り先を自分で無くしたら、それって未来を自分から捨てたのと同じだということを。
「あ、今のは、よ、余興だ。婚約破棄は」
「そんなつまらない余興、認められませんわ。私婚約破棄の手続きを父と進めないといけませんので、失礼します」
見たこともない笑顔を残し、ファビラ様は颯爽と大広間を出ていく。
がっくりと座り込む王子と、逃げ腰になるミルキィ。
そういえばこの人退学したら貴族と認められないのに、どうするつもりなんだろ。
この国の貴族は、卒業して初めて貴族だと認められる。退学するということは貴族でいられるだけの最低限の資質がないと決定されたも同じなのだ。
まあ、卒業できててもファビラ公爵家を敵に回したら貴族家としてミルキィだけでなく家族にも未来はないからいいのかな。
どの道私には関係ないや。
「私達も帰ろうか、これ家に報告しないといけないし」
「そうだ、報告大事。ホウレンソウ!」
先生はまだ来てないけれど、もう祝いの夜会を楽しむ気分じゃないし、すぐに家に帰って話さないといけない。少なくとも侯爵家に連絡しないのはマズイだろう。
ポンと手を打ち友人に頷くと、二人にがしっと腕を掴まれて外に連れ出された。
「ねえ、薄々そうじゃないかって思ってたんだけど、リリアンヌって日本知ってる人?」
「ねえ、ここ乙女ゲームの世界って知ってた?」
馬車乗り場に向かい歩きながら、まだ人目があるからと小声で聞かれて、嘘だろと目を見開く。
「え、そんなことある?」
転生者三人? そんな大盤振る舞いな転生あるのおかしくない?
「私たち電車の脱線事故が最後の記憶だけどリリアンヌはどう?」
「脱線事故? あ、私もだ」
今の今まで前世の最後なんて忘れていたし、気にしてもいなかったけれど私の死亡理由は電車の脱線事故だった。
私の側に妊婦さんがいて、電車が倒れ始めた時とっさにその人を守ろうとして周囲にいた人と妊婦さんの衝撃が和らぐように彼女が他の人に潰されないように庇ったんだっけ。
周りに友達とかはいなかったけど、あの時の結束は完璧だっと思う。皆これは死ぬな、と一瞬で覚悟決めて動いたんだもん。
でもあの妊婦さん、無事だったのかな。
「妊婦さんは無事、電車が脱線して横倒しになった時、あの場で何人もの人がその妊婦さんを庇ってたのよ。それで本当ならその人が亡くなって別の人が助かるはずだったけど、神様が皆の助けたいって気持ちを考慮して母子ともに生涯健康で病気怪我知らずのメンタルツヨツヨになる加護もつけて助けてくれたのよ。あと、オプションでマスコミや世間から攻撃されない幸運も。その加護のおかげで、妊婦さんは私達が自分を守って亡くなったのは申し訳ないけど、私達の分まで生きるって前向きになってるみたい」
メンタルツヨツヨは大事だし、マスコミとかから攻撃されないのはもっと大事だ。
事故から助かっても、皆に色々言われて心が病んだら申し訳なさすぎで、助けちゃってごめんなさいと、私たちが謝らないといけなくなる。
神様はなんで私の前に出てきてくれなかったか知らないけど、ナイス選択! と心の中で拍手する。
「私たちの家族には、自分より他人を助けようとした子だったのを誇りに思って、悲しみから立ち直るし、ちょっとだけ加護もくれたんだって」
「なにそれ、凄く助かる。私の家族滅茶苦茶泣き暮らしそうだもん」
良かった、神様ありがとう。
自分が死んじゃったのは仕方ないけど、家族が元気でいられるのは本当に感謝だ。
さすが神様、さす神。
これから毎朝、毎晩感謝の祈りを捧げるよ。
「そういえば、私達も加護もらってるのよ。知ってた?」
「え、知らない。なにそれ」
日本人だと分かった途端、砕けた口調で聞いちゃうけれど、加護があるなんて自覚はない。
ちなみに私の思考は貴族令嬢じゃなくて、前世の庶民感覚だから独り言とかは令嬢らしさゼロだ。
「まず、健康。私も彼女も一度も風邪すらひいたことないわ。それから真面目に頑張れば、望んだ生活ができる」
「私も風邪ひいたこともなければ、お腹壊したこともない。ついでに生理痛もない、めちゃ軽い」
前世はとにかく生理関係ズタボロだったから、生理痛がないだけでこんなに快適に暮らせるのかと生まれ変わってから驚いた。
ちなみに、この世界の生理用品はスライムパウダーが吸収体になった生理帯だ。
ナプキンと言わず生理帯というのがちょっと抵抗があるけれど、そういう名前がついている。
ちなみに赤ちゃん用のおむつとの違いは、サイズのみ。
初めて使った時、スライムかぁって思ったけど絶対に漏れない素晴らしいアイテムだ。
薄いし蒸れないし漏れないし臭いもないから、前世の私が使ったら泣いて喜ぶだろう。
「そういえば私も無い。前世は毎月寝込んでたから本当ありがたいけど、そうかこれも健康の加護のおかげなのね。神様に改めて感謝しなきゃだわ」
「私は、毎月神様に感謝の祈りを捧げてる。もう本当に感謝しまくってるわ、私なんて前世何回痛みと貧血で倒れかけたか分からないもの」
二人も酷かったんだ、生理問題は切実よね。
本当、神様ありがとうだわ。
それにしても、望んだ生活かあ。
「あ、私貴族の奥様なんてできる自信ないから結婚したくないなあって思ってたら、親戚の家で雇ってもらえることになったのよ。いいお家なんだ、メイドになって働くの楽しみ」
「私はお金で苦労しない幸せな結婚したいなあって思ってたら、結構大きな商会やってる男爵家の人と結婚が決まったから嫁ぐの楽しみ。前世は貧乏だったから、お金の苦労はしたくなかったの」
「私は、前世社畜で就職してから一度も実家に帰れなかったから、今世では結婚決まるまで家族と過ごすんだあ。家族大好きだから嬉しいっ」
なるほど、それなら三人共に望む生活になってるんだ。
これは真面目に頑張るのが条件みたいだから、これからもしっかりと頑張ろう。
「教えてくれてありがとう、全然知らないで過ごすところだったわ」
「うん、私と話した神様が、自分が声をかけても気が付かないで転生しちゃった魂がいるって笑ってた」
「神様が転生させてあげられる世界ってどれも乙女ゲームの世界らしいんだけど、この世界に転生したのは三人だけって神様いってたの。でも転生者三人が友達になったって、もっと早く分かってたら良かったわね」
私は全く気が付いていなかったけれど、二人はいつ互いが転生者って知ったんだろう。
「ねえ、二人はいつ転生者だって分かったの」
「卒業式の前、私が今日断罪あるのかなって呟いたら、この人にそれを聞かれたの」
それってつまり、それまでは知らなかったんだ。
あれ、でも私が日本人だと思ってたってさっき言ってなかったかな。
「私が日本人っていうのは?」
「うん、なんかたまに日本語っぽい言葉呟いてたから」
「え、自覚ないんだけど」
「でしょうね、いつも凄く集中している時だったもの。聞き間違いって思う程度の小さな声だから、確認することはできなかったのよ。だって違ってたら変な人に思われちゃうじゃない?」
馬車乗り場までわざとゆっくり歩きながら、小さな声で話し続ける。
三人が転生者だと知ってもこれから先は簡単に会えなくなるから、少しでも長く話していたい。
「そうなのね、言ってくれたら良かったのに」
「ねえ、学校にいる間に知りたかった」
「本当よねえ」
本当にこの世界が乙女ゲームの世界だったとか、私達三人とも転生者だったとか知ってたら楽しく学生生活過ごせてたのになあ。
寂しいなあ、友達と分かれるの。
遠くに住んでいても話したくなったら電話するとか、この世界じゃできないのだもの。
「離れちゃうの寂しいね」
「本当、でも手紙書くから」
「うん、私も書く」
のんびり歩いていても、馬車乗り場についてしまった。
それぞれの家の馬車がまだ来ていなければ良いと期待したけれど、こういう高位貴族、下位貴族が混ざって参加する夜会って、下位貴族は早めに帰宅するのが普通だからそれぞれの家の馬車はもう到着しているみたいだ。
「今日の婚約破棄の話はしっかり家族に話さないとね。私達のチャレンジャーな発言込みで」
「怒られちゃうかなあ」
「多分大丈夫よ。私達三人共家はファビラ公爵家と同じ派閥だし」
そう言えば三人が仲良くなったのも、家が同じ派閥だったからっていうのもあったんだ。
「それならちょっと気が楽だわ」
「うんうん、きっと神様も冤罪を見て見ぬふりした方が問題って思うわ」
「そうよ。それにファビラ様って悪役令嬢ヒロインだもの、婚約破棄された後他国の王子に求婚されてハッピーエンドになるけど、それまでは可哀想な目にあうのよ。それを防げて良かったわ」
うんうんと二人が納得してるけれど、そういう展開なんだと私だけ驚いている。
乙女ゲームって分からないからなあ、今やりたくってもできないけど。
「じゃあ、いいことしたんだよね」
「うん、大丈夫大丈夫。勝手に婚約破棄して第五王子が平民落ちするしミルキィは罰せられるから、不敬罪なんて言われないわ」
自信を持ってるけれど、そういう展開に本当になるか不安だなあ。
ちょっと不安になりながら、私達は別れを惜しみつつそれぞれ馬車に乗る。
これで卒業か、とかこれからはメイドとして働くんだなとか考えながら家に着き、私の卒業祝いの準備をしていた家族に婚約破棄の話をした。
怒られはしなかったけれど、心配された。
ファビラ様を守ったのは偉いとも、褒められた。
その後、友人の話通り第五王子は平民に落とされて、ミルキィは第五王子をたぶらかした罪で罰せられて、ファビラ様は他国の王子に求婚されて嫁いだ。
私はといえばメイドとして働いていただけなのに、気がついたら侯爵家の若奥様になっていた。
そんなつもり全くなかったのに、幼い頃侯爵家に行く度遊んでくれた令息が私の夫になったのだ。
え、神様私貴族家の夫人なんて無理って思って、生涯メイドをやってくつもりだったのに。
望みの生活が送れるっていう加護はどうしたの?
私の疑問はともかく健康の加護のお陰か、息子を二人と娘を三人を超安産で産み、産後のトラブルもなく夫とも使用人たちとの関係も良好なまま私は呑気に侯爵夫人生活を満喫している。
これも加護のお陰なんだろうか、卒業のあの日に思った通り私は朝晩神様に感謝しつつ、これからも真面目に頑張ればいいかと、最近大きさが目立ってきたお腹をさする。
まさかの六人目、どれだけ健康の加護は凄いのか。
でもきっとまた安産なのだろうと、私はお腹を撫でながら元気に生まれておいでと呟く。
モブに転生しちゃった私だけど、こんな生活ならモブ転生ってありだよね。
終わり
読んでくださりありがとうございます。
主人公が恋愛しない転生ものって、カテゴリーに悩みます。
ハイファンタジーでいいのかなあ。
連載化の予定はありません。




