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馬車に向かうと、屋根にはトランクがちゃんと積まれている。
「ミヤ、ありがとう。ちゃんと荷物を積んできてくれたのね」
「はい。でも……驚きました。何と言うか、こんなふうに荷物を積むなんて、夜逃げみたいじゃないですか。夜逃げしなければならないような事態が起きるなんて……。お嬢様の魔法は修復魔法<時間遡行魔法>で、未来を見通す魔法なんかではないのに。まるで予見されたようです」
これには「第六感で知覚したみたいなの」と笑うしかない。
(それにしても王都から出て行け……などという中途半端な断罪ではなく、国外追放か、修道院送りを想定していたのに。王都から出たら、どこへ行こうかしら?)
まずは王都から出ることであるが、その後の算段は予想外過ぎて立てていない。でも小ぶりの屋敷一つを買えるぐらいのお金はある。何せ公爵令嬢で王太子の婚約者。宝飾品は一級品で、売ればかなりの値段になる。
「でもお嬢様、王太子殿下から婚約破棄されたのですね。しかも王都から出て行け……だなんて。一体、何があったのですか!?」
「心配をかけてごめんなさいね。話せば長くなるわ。本当はゆっくり話したかったのだけど……。でも私はこれから王都を出なきゃならない。ミヤとはここでお別れだわ」
「そんな! 私も連れて行ってください、お嬢様! 実は私自身の荷物を詰め込んだトランクも……一緒に積んであります!」
この言葉にはビックリしてしまう。
ミヤはルーディン子爵家の三女で、実家は王都にある。私が王都追放になるなら、そのまま実家に戻るのが一番だと思うのだ。
「お嬢様がどこに行くにしろ、お世話係は必要です。……アルのことは連れて行くつもりなんですよね? でもアルにお嬢様の身の周りのお世話はできません! そこは女手が必要なはずです。私はお嬢様がおばあさんになるまで仕える覚悟なんですよ! ぜひ連れて行ってください」
実はミヤは婚約者がいたが、手痛い裏切りにあっている。婚約者は幼なじみだった令嬢と浮気し、しかも妊娠させてしまったのだ。婚約は解消となり、ミヤは……結婚などこりごりとなり、私の侍女に立候補したという過去がある。
(なるほど。よくよく考えると、婚約者をヒロインに奪われた悪役令嬢であるミランダとミヤは、通じるものがあるのね)
そうなったら答えは一択になる。そしてミヤの言う通りで、アルについては問答無用で護衛としてついて来てもらうことを想定していた。
(でもそれも国外追放であれば、国境まで。修道院送りだったら、その修道院までを考えていた。あくまで道中の護衛をお願いしたいだけだった。でも……)
「お嬢様。自分もミヤを連れて行くことは賛成です。お嬢様のお着替えは自分では絶対に手伝えませんから。そして三人ぐらいであれば、なんとか生きていけるはずです。自分も働きます!」
アルもまた、どこまでもついて来てくれるようだ。そのアルはカイトス侯爵家の次男で、爵位を継ぐ予定があるわけではない。
(ならばいいのかしら? 二人を巻き込んでしまって)
チラリと二人を見ると、同時に大きく頷く。
つまり巻き込んでOKの合図だった。
「分かったわ、二人とも。では馬車に乗ってちょうだい。移動しながら何があったか話すわ」
「「かしこまりました!」」
こうして馬車は卒業舞踏会が行われていた学院のイベントホールを出発した。
◇◇◇
馬車の中で、今回卒業舞踏会で起きたことを話すと、ミヤは憤慨する。
「お嬢様がエドワード王太子殿下の婚約者になってから、常にやることに追われ、睡眠時間を削り、頑張られている様子を……ずっと見て来ました。それは王太子殿下のためであることは……何となく分かっていただけに、そんな、そんな理由でお嬢様と婚約破棄を言い出すなんて」「良かったと思います」
ミヤの発言にアルが言葉を重ね、しかも「良かった」と言い出す。
私の隣に座るミヤは座席から立ち上がりそうな勢いで「なんてことを言い出すのですか、アル!」と、対面の席のアルに尋ねる。
「エドワード王太子殿下は、お嬢様の容姿に不満をぶつけただけではないのです。タリア・ネリア男爵令嬢の方が未来の王妃に相応しいとのたまったのですよ? そんなクズ男との婚約が破棄になり、心から嬉しく思います。それに侮辱罪まで問うなんて……許し難いですよ。相手が王族でなければ、自分が……」
「ア、アル、落ち着いてちょうだい。わかったわ。エドワード王太子殿下はお嬢様に相応しくなかったと思う! あなたの言う通りだわ!」
アルが今にも剣を抜きそうな殺気を放つので、ミヤが慌ててフォローをする。「分かっていただけてよかったです」とアルはいつもの状態に戻ると、私に尋ねた。
「このまま公爵様にも会わず、王都から出るのでよろしいのですか?」
「……構わないわ。もたもたしていると何が起こるかわからないわ」
とっとと王都を離れた方が、私が婚約破棄され、断罪されたことは紛れもない真実として捉えられるはずだった。
「このまま王都を出て、どこへ向かうか、ですが……」
「アル、何か当てはあるかしら?」
「王都を抜けると、森林地帯が広がっていますよね。王都防衛のためにもうけられた植林により生まれた森です。ですが戦もなく、結局その森はならず者の住処となっています。王都を逃れた者たちが住み着いている。ですが所詮、ならず者。せっかく森の中に住処を手に入れても、悪事の末に捕まり、戻ることができない。そうして放置されている小屋や建物が結構あるそうです」
「なるほど。それはおあつらえ向きね」
「女性のみであればそんなところへ潜むことは提案しません。ですが自分がいます。それに一時であれば、そこに滞在し、そうしながら新たな住処を探すのでも、よいのではないでしょうか」
これを聞くとミヤは「父親の狩猟によく付き合い、狩猟館でジビエ料理作りに挑戦したこともあります。お任せください!」とうけおい、アルも「狩りは得意ですし、下処理もできます。美味しい肉料理を楽しみましょう」と言ってくれる。
本当は狩猟は許可制になっていた。でも王都の周辺の森は広大で、いちいち取り締まる方が手間だった。それに相手はならず者たちで厄介。相手にするのも骨が折れるので、いつしかこの森の狩猟については、あまりうるさく言われなくなっていたのだ。
(予想外の断罪内容で、どうするかと思ったけれど、これで何とかなりそうね。森を抜けた先には宿場町も広がっている。そこでおいおいはこぢんまりとした屋敷を見つけて、そこでアルとミヤと三人で生きて行ければ……)
私には修復魔法<時間遡行魔法>もあるし、アルだって自然魔法<元素抽出魔法>を少しだけ使える。三人で生活するだけのお金は確保できるわ。
まさにすがすがしく心の中で決意した時。
突然、馬車がガタンと、止まった。
これにはすぐにアルが剣を手に臨戦態勢となる。
(まだ王都の中心部からそこまで離れていないはずよ。それなのに急に馬車が止まるなんて……!? 盗賊でも現れたのかしら!?)
そこで馬車の扉がノックされ、大声が聞こえてくる。
「王都警備隊のジャック隊長です。こちらの馬車にはミランダ・シンシア・チェスター公爵令嬢がいらっしゃると思います。王妃殿下から特別な命令が出ておりますので、我々と一緒に王宮へお戻りいただけないでしょうか」
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