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 エドワードからの婚約破棄と断罪がなされた!


 このことに私は心の中で大万歳だった。


(それにしてもまさか生き恥をかかせた罪で侮辱罪、だなんて! よく考えたわ、エドワード。彼ってやっぱり攻略対象の中で、一番頭がいいわね)


 そこで私はニコニコしそうになるのを堪えながら、彼のことを瓶底眼鏡越しに見る。


「エドワード王太子殿下。殿下の婚約者でありながら、そのご要望にお応えできず、大変申し訳ありませんでした。これだけ大勢の前での婚約破棄宣告。国王陛下や王妃殿下の許可を取られたのかどうか。それはわかりませんが、チェスター公爵家有責の婚約破棄であるならば、後日報告でも国王陛下夫妻も何も文句はない――ということなのでしょうね」


 私の言葉を聞いたエドワードが片眉をくいっと上げる。


「ミランダ、これだけ大勢の証人がいるんだ! 後から父上や母上に泣きついても無駄だ。侮辱罪は僕が問える王族の特権。撤回はしない。とっとと王都から消え去れ! それに……優しいタリアが言ってくれたんだ。『殿下、見苦しいからと言って絞首刑は可哀想です。王都から追放すればいいのでは?』とな。タリアの温情に感謝することだ!」


 そう言ってエドワードが自身の胸にタリアを抱き寄せるが……。

 タリア自身は苦々しい表情をしている。


(まあ、そんな表情もしたくなるわよね。だって本来、悪役令嬢であるミランダは、数々のヒロインいじめで断罪される。そして絞首刑になるのが正しいゲームのシナリオ。でも私は……ヒロインいじめはしていない。している暇なんてなかったわ)


 それでもこの日を迎え、悪役令嬢を断罪しなければならない。そこでみんなの頼れる攻略対象、頭のいい王太子エドワードが侮辱罪を捻りだしたわけだ。でもさすがにそれで絞首刑までは行き過ぎだと思ったのだろう。見苦しくても公爵令嬢、ミランダの両親であるチェスター公爵夫妻は相応に力を持っている。たとえ娘は政治の道具としか思っていない両親でも、絞首刑には文句を言うだろう。これまで私に投資したお金もあるのだ。あっさり殺されては元も子もない。


 六歳でエドワードの婚約者となり、王宮暮らしが始まると、両親とは没交渉だった。王太子の婚約者になると同時にスタートする王太子妃教育は、それはもう大変なもの。根を上げて逃げ出せないよう、実家との連絡は取らないように……というのが表向きの理由。実際のところはここが乙女ゲームの世界であり、公爵令嬢が断罪されやすい環境を作り上げるための設定だったと思う。


 ともかく今回の断罪では命を取られず、王都追放だけで済んだ。両親から助けの手は望めないだろうが、この日のための準備は、忙しいながらもちゃんとしておいた。よって何も問題はない。


 ということで私はこの乙女ゲームの世界に運悪く事故で転生する前に、動画配信者として身に着けた技を披露することにする。


「まずはネリア男爵令嬢と殿下の温情に感謝いたします。これまで、私の持つ魔力・魔法・時間は、すべて身だしなみ以外に使わなければなりませんでした。ですが今回、婚約破棄と王都追放を賜ったことで、その必要はなくなったのです。このことに、心から感謝いたします」


 そう言ってお辞儀をして、満を持して披露するのは早着替え!


 早着替えと言っているが、着替えているわけではない。だが一瞬で起きる出来事、さらにこの世界の人々はこれを初めて見るのだ。だからみんな「!?」と驚愕する。


 そう、ひと昔の流行遅れのドレスから一転、体のシルエットが浮き彫りになる、まさにグラマラスなデザインのドレス姿に私は変わったのだ! ヒロインが大好きなビラビラフリル系ではない。実に大人っぽいイブニングドレスに皆の目が釘付けになる。


 しかもドレスが浮き彫りにするのは、豊かな胸とくびれたウエスト、長い手足に細い首。非の打ち所がない、パーフェクトな悪役令嬢ボディだった。


 しかもぼうぼうの髪のカツラと瓶底眼鏡も外している。カツラの下には、本物の波打つような艶やかなシルバーブロンド。これまで瓶底眼鏡の印象が強く、気がつく人は少なかったが、これを外した素顔は──。切れ長な紫紺色の瞳、陶器のようなすべすべの肌、そしてローズ色の唇と頬と、ザ・美少女なのだ、ミランダは!


 ミランダの本来の姿を初めて目の当たりにした全員が、まさに狐につままれたような表情になっている。


「これまで見苦しい姿を見せてしまい、大変申し訳ございませんでした。二度と王都には近づきません。それでは皆様、ご機嫌よう」


 きっちりカーテーシーをして、私は全員の視線が集まる中、会場の出口を目指す。ドアマンの二名の男性は、あまりの私の変貌ぶりに、目が釘付けになっている。


「ドアを開けていただけますか?」

「! 失礼しました」


 開けられたドアから廊下へと出た瞬間。


「ミランダ! 待て!」というエドワードの声がする。


(「ミランダ、待て」ですって? 私は犬じゃないのよ!)


 パタンとドアも閉まったので、聞こえなかったフリでそのまま歩き出す。


 だが──。


「ミランダ!」


 ドアをバタンと開ける音がして、エドワードの私の名前を呼ぶ声が聞こえる。


 振り返るとエドワードが自慢のブロンドが乱れているのを気にせず、こちらへと駆けてきた。


 どうやら彼は私に聞きたいことがあるようだ。


(仕方ない。本当は後日知ってもらうつもりだった。会場を出て後を追ってくるなんて……。ヒロインであるタリアを置いて、私を追うなんて想定外!)


 だがエドワードはこちらへ迫っている。ここは仕方なく、ではあるが、相手をすることにした。


「何でしょうか、殿下」


 立ち止まり、問いかけると、エドワードは確認するように尋ねる。


「君は……本当にあのミランダなのか!? まさか魔法で」

「殿下。魔法ではありません。会場にカツラと眼鏡、さっきまで着ていたドレスが落ちていたの、ご覧になっていないのですか?」

「! そうだった。……本当に、あの、ミランダなんだな」


 エドワードが眩しそうにこちらを見るが、私は早く立ち去りたくて仕方ない。


「はい。先ほど殿下が婚約破棄し、侮辱罪に問うたミランダ・シンシア・チェスターで間違いありません」


 事実を伝えただけなのに、エドワードは傷ついたような表情をしている。


「……なぜ、その姿を隠していた?」

「? さっき、言いましたよね。身だしなみに気を使う余裕がなかったと」

「魔法の研究に夢中だった。僕のためにオシャレしようとは思えなかったのか」

「殿下のために、オシャレができませんでした」

「……なに?」


 これには嘘と真実が混ざっている。

 まずは真実。


「……婚約者である殿下には話すな、と言われていました。でも今はもう婚約者ではないので、話してもいいのではと判断して話します」


 私の言葉にエドワードの片眉がクイっと上がるが、無視して言葉を続ける。


「私が使える魔法は、修復魔法<時間遡行魔法>です。この世界で魔法を使える人間はめっきり減り、使えても限られた魔法ばかり。その中でも私が使える魔法はとても特殊です。でも、この魔法が使えれば、食べるには困りません。美術品の修復でニーズがありますからね」


 修復魔法<時間遡行魔法>は“物に対してのみ”有効な魔法。その物に関わる時間を、魔力を消費して遡らせることができる。壊れたティーカップがあれば、時間を巻き戻して元の姿に戻せる――そんな魔法だ。


「実は私、エドワード王太子殿下の婚約者になった直後に、この魔法を使った修復作業を頼まれました。王妃殿下から、内密で」


 エドワードの顔に「何!?」という表情が浮かぶ。


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