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始まり

 公爵令嬢、ミランダ・シンシア・チェスター十八歳。


 公爵令嬢で十八歳。


 それはまさに花の盛り、舞踏会では上質なシルク生地のドレスに豪華な宝飾品を身に着け、誰もが目を奪われる……なんて想像をするかもしれない。しかもここは乙女ゲーム『魔法の(アイ)ランド』の世界であり、ミランダ・シンシア・チェスターは悪役令嬢なのだから。


 だがしかし。


 断罪の場とされる卒業舞踏会に現れたミランダは……。


 シルバーブロンドの髪は……ぼうぼう。

 紫紺色の瞳にかけられているのは、この世界にもあったのかと驚きたくなる瓶底眼鏡。

 着ているドレスは、生地は上質であるし、レースや刺繍は確かにゴージャス。

 だが、どうにもサイズが合っていない。もたついた着こなしに加え、何よりも――そのデザイン!

 何シーズンも前に流行した花柄のドレスを堂々と着ているのだ。


 そのミランダを見て苦々しい表情をしているのは、ミランダの婚約者であり、この国の王太子エドワード・ジョージ・フェルカド。彼女と同じ十八歳。


 こちらは最高級シルクで仕立てた黒のテールコートに、カフスボタンやタイにつけられた宝飾品はゴールド。ブロンドの髪は綺麗に整えられ、少し吊り目の青い瞳で、ザ・王子様。さすがヒロインの攻略対象である。


 そのエドワードのそばにいるのが、タリア・ネリア男爵令嬢、十八歳。ストロベリーブロンドにローズクォーツのような瞳とくれば、皆、ピンとくる。そう、この容姿こそ王道ヒロインの特徴。タリアこそ、乙女ゲーム『魔法の(アイ)ランド』のザ・主人公。


 ヒロインであるタリアの設定、それは男爵令嬢でありながら、自ら素敵なドレスをデザインして着用し、広告塔となり、攻略対象の男子の目に留まる。悪役令嬢の邪魔を受けるも、最後は攻略対象と結ばれる、これぞザ・シンデレラ・ストーリーのヒロインだ。


 攻略対象はクリアするごとに増えるが、初回は三人。その三人全員、ヒロインに一目惚れをする。あとは好感度をどんどんあげていき、最終的に一人をヒロインはロックオン。その彼と共にヒロインは、学院の卒業舞踏会で悪役令嬢を断罪。ロックオンされたのが誰であろうと、悪役令嬢は婚約者である王太子から漏れなく婚約破棄される流れだった。


 ということで現在の状況はというと、ヒロイン、ロックオンされた攻略対象の王太子、悪役令嬢の三人が揃い、場所は卒業舞踏会。悪役令嬢が婚約破棄からの断罪をされる舞台が整った状態だった。


 そして王太子エドワードは、ゲームのシナリオの流れ通りで、まずは婚約破棄をミランダに突き付けることになる。


「みんな、すまない。今は卒業舞踏会の最中で、僕は卒業生代表だ。これからその代表として、挨拶をするべきなのだけど……。どうしても僕は言いたいことがある。これを言わずに卒業はできない」


 このセリフを聞いた私、ミランダは心の中で思う。


(それはそうよね、王子様。君が婚約破棄を告げないと、ヒロインはハッピーエンドを迎えられない。ゆえにたとえ今、逆立ちをしていたとしても、君は私に婚約破棄を告げずにはいられないのよ)


 王道王子様のエドワードが、この場で逆立ちするなどありえない。わかってはいるが、私はそんなことを思いながら、彼の次の言葉を待つ。


「王族というのは、国民の代表であり、彼らが尊敬したくなる存在であること。それが求められていると思う」


(優等生エドワードのなかなか本題に入らない遠回しの自分自慢の演説が始まる)


「僕は国民が望む王太子になろうと努力してきた。この学院でも文武両道を極め、卒業生代表に選ばれた」


(そこでドヤ顔は止めましょうよ、王子様!)


「ところが彼女は――」


 そこでエドワードが私を見る。


(ほら、来たわ!)


「ミランダ・シンシア・チェスターは公爵令嬢であり、僕の婚約者だ。王太子である僕の婚約者ということは、未来の王妃。みんな、彼女を見て、どう思う?」


 卒業舞踏会に出席しているのは、由緒正しき貴族の令息と令嬢たちだ。そう、王立フェルカド学院のモットーは一流の環境で一流の勉強を教えます――だった。高額な授業料を払える高位貴族でなければ通うことはできない。ヒロインとて男爵令嬢であるが、それはいわゆる平民上がりの成金男爵の娘というわけだ。


(父親が繊維業で成功し、工場を有し商会も経営しているから、ヒロインは自身がデザインしたドレスの生産から販売するまでを一貫して出来た。すべてはヒロインご都合主義がまかり通る乙女ゲームの世界のおかげだ)


 というわけでヒロインも含め、ここにいる皆様は、裕福かつ身だしなみに気を使う貴族様なので、私の姿を見てこうささやくことになる。


「あんなの乞食がドレスを着ているみたいだわ」

「見ろよ、あのぼうぼうな髪。王太子の婚約者とは思えないな」

「公爵令嬢のくせに、古臭いドレスを着て……絶対にエスコートしたくない」


 まあ、皆様、言いたい放題。そしてそれを聞いたエドワードは満足げな表情となる。


(針の(むしろ)になることはわかっていたけど……。ホント、容赦ないなぁ~)


「みんなが感じている通りだ。ミランダは王太子である僕の婚約者には相応しくない。王家の婚約者としての努力を、ミランダは放棄していたんだ。自分の興味のある魔法の研究にばかり没頭し、身だしなみを気遣うことさえできない。対して彼女を見て欲しい」


 そこで光沢のあるマゼンタ色のフリル満点のドレスを着たヒロイン、タリアの腰をエドワードが抱き寄せる。


(というかこの時点で婚約者以外の令嬢を抱き寄せるとか、本来許されないと思うのだけど! でもヒロインを抱き寄せるは悪役令嬢ものあるあるなのよね~)


「タリアは自分でドレスをデザインし、こうやって身に着け、広告塔となり、華々しい流行を作り上げた。ここにいる令嬢たちも、タリアがデザインしたドレスを着ているのでは?」


 この問いかけに沢山の令嬢が頷く。


(モブの皆さんが画一的な件。でもこれもお決まり!)


「学生でありながらタリアはドレスを作り、令嬢たちに夢を与えた。僕は……タリアこそ未来の王妃に相応しいと思う」


 エドワードがそう宣言すると、一斉に拍手が起きる。醜いアヒルの子扱いの公爵令嬢ミランダへの同情などどこにもない。


(まあ、ここは乙女ゲームの世界だから、これも致し方なし、よ)


 みんなの反応を見て、さらに自信をつけたエドワードが口角を上げ、話を続ける。


「僕は今ここで宣言する。公爵令嬢ミランダ・シンシア・チェスターとの婚約は破棄だ。婚約契約書第二条の第三項に記載されている、未来の王族に相応しい振る舞い、装いを心掛けること――この項目に反するということで、ミランダ有責での婚約破棄になる。さらに」


 そこでエドワードの青い瞳と目が合う。その目に映るのは、見た目至上主義の彼が許し難いと感じる私の姿だ。


(ちゃんと契約書を踏まえているところはさすが優等生エドワード!)


「ミランダと婚約してから、彼女の身だしなみの悪さで何度も恥をかいた。デビュタントでも、婚約者としてエスコートしたが……」


(ついに……来る……!)


「王族である僕に生き恥をかかせた罪。それは侮辱罪に値する。君のその姿を見るのが苦痛だ。王都から出て行け。王都から追放する!」


(キターーーーーーーーーッ!)


 この言葉を聞いた私は「よし!」と心の中でガッツポーズをする。


(この婚約破棄こそ、私の自由への第一歩なのだから!)


お読みいただきありがとうございます!

20話程度完結で執筆中♪

書けたら公開していきます~

本日初日なので書けている分は公開しちゃいます!

ぜひブックマークや評価で応援していただけると励みになります! 次話もお楽しみに☆彡

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