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03

「モニカ様、そんなところで俯いてどうなさったのですか?」


 鏡の情景に夢中になっていて、気付けばそれなりの時間が立っていたことに気付いた。

 メイドの一人がモニカを探しに来たのだろう、声をかけてきた。


「そろそろ部屋に戻られてお着換えになりませんか?」


 モニカはメイドにもこの鏡の情景を見せようとした。


「ねえ、この鏡に映っているものが見える?」


 鏡に手を触れると、先ほどの情景がまた映し出されている。


「?どうなさったのですかモニカ様。この鏡は何も映さない置物では…今も相変わらず曇っていますし。私とお嬢様の影のような形が見えるだけですが…」


「何か聞こえたりしない?」


「もう、からかうのはおやめください。鏡から何か聞こえたりするわけないでしょう?ああ、留め具でも緩んで、それで音が鳴っているのかもしれませんね。後で執事に相談しておきますね。」


「あ、待って、この鏡、私の部屋に運ぶようにしてもらえるかしら?」


「ええ、わかりましたけど…お嬢様、本当に大丈夫ですか?」


「ちょっとおばあ様との思い出に浸りたくて…!」


「それならいいですけど…、そうそう、早くお部屋に戻って着替えて頂きますよ、せっかくのドレスを汚してはいけませんからね?」


「そ、そうね……せっかくの…ドレスだもの…」


 普段は着ない華奢なデザインのドレスはなんだか借りてきたドレスのを着ているみたいで、鏡に映る華奢でかわいらしい『モニカ』とつい比べてしまって、しょんぼりとした気持ちになってしまった。



               ◇◇◇◇◇◇◇◇



 着替え終わった後、おばあ様の鏡が私の部屋に設置された。


 使用人たちの手によって設置される時、試しに私が鏡に触れると、あの情景が順に映し出されていたのだが、反応する者は一人もおらず私以外には見えたり聞こえたりはしない様だ。

 いわゆる貴族の使用人として主人の醜聞…?には口をつぐむというルールがあるがそれにしたって全員が…年季の入った執事はともかく、まだ若いメイドやフットマン見習いまでそうなのだから恐らく見えても聞こえてもいないのだろう。


 流石にローガン卿の我が家から余分に金銭をせしめようという発言を何度も見聞きしていたら私に何か…例えばローガン卿について尋ねてくるなり、鏡が何か可笑しな代物ではないかと相談するなりすると思う。


 相談……


「私の方こそ誰かに相談したいけどなあ…」


 残念ながら両親は他国へ商談の旅に出かけている。


 私の事はローガン卿に任せておけば安心だと。ただローガン卿は士官学校がお忙しいのだからあまり迷惑を掛けてもいけないよと。

 私もそう思っていたし、忙しいだろうからドレスの手配なども無いのだろうと素直にそう思っていた。

 言い訳するなら、男の人は気が利かないと聞くし、特にパーティのための女性の準備に配慮が無くてもそういうものだろうと思い込んでいたフシはある。


 コンコン─


「入っていいわよ」


 ソファに座り設置された鏡を見つめながら色々と思い考えていると、執事が書類を持ってやってきた


「お嬢様、こちらの支払いなのですが…」


「!?」


 まさか、まさかとは思うけど本当にローガン卿が他の女に貢いだ代金を我が家に請求してきた…の?


「本日お召しになったパーティ用のドレスの支払いですが、お直しは必要ございますか?」


 執事が言うには、直しが必要な場合、上級職人しか対応できない上、特に繊細なレースを使っていることもあり、場合によっては…デザインの変更などで…追加の代金が必要になる、という事だった。

 てっきりローガン卿が不正な支払い依頼をさっそく寄こしてきたのだと思っていた私はあっけにとられた。ドレスと同時に請求書も届ける事はおかしくないし、いくらお金がそれなり以上にあるからと言って、うわさに聞く金に糸目を付けぬ振る舞いなんてしていい訳ではない。特に新興貴族で下位貴族である我が家は慎ましく控え目にしなければ…いや、我が家のような新参者ではなくても、貴族だからと言って好き勝手に振るまって言い訳はないのだ。そう、良い訳なんてないのだ…。

 つい考え込んでしまい、執事が重ねて問いかけてきた。


「モニカお嬢様?」


「…えっ?えっ、え、ええ、そうね。その、ピッタリで着心地は…」


 慌てて応えようとした時、ふいに、脳裏に鏡が見せた『モニカ』を名乗る…たしかテッサだったろうか、華奢な彼女がこのドレスを着たらもっと似合うだろうなとそんなイメージがよぎってしまった。


 私が今日試着したドレスだけではなく、さまざまなローガン卿好みのドレスを彼女は身に纏いアクセサリーをきらめかせている姿が次々と浮かぶ。


 そう、その彼女が身にまとうモノ装束の代金は我が家が支払わさせられることになるのだ。他ならぬローガン卿の手によって!


「……」


 なんだかふつふつと怒りがわいてきた。


「どうなさいました。何か気になる事でもおありですか?」


「…今更なんだけど、新しいドレスを作れないかしら?」


「次のパーティに合わせて…でございますか?」


「ええ、そう。あ、仕立てが悪かったとかじゃなくて、やっぱり私は私に似合うものを着たいなって。勿論、今日届けられたドレスの代金はきっちり支払ってちょうだい。直しも無い良い出来だったもの。」


「そうでございますね、お嬢様にはお嬢様が一番際立つ装いがようございましょう。」


 執事は穏やかな…ホッとしたような顔で答える。

 私、色々心配かけさせてたのね、きっと。


「それでは、明日代金と共に依頼を行いましょう。ただいささか急でございますからね、しかし王都中の針子に声をかけるように致しましょうか。デザインのご要望は既にお決まりですか?」


「そうね、やっぱりあんまり派手じゃなくて落ち着いた感じだけど明るい色が良いわ!」



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