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エピローグ
夜が明けるころ、日暮里の空はほんのりと白みはじめる。
人通りのない道を、悠真はゆっくりと歩いていた。
右手には、開いたばかりのノート。
昨日、ティリアがくれた、“こっちの世界”用の成長記録帳。
中には、見開きでこう書かれていた。
【名前】:佐伯悠真
【職業】:まだ名もなき人
【現在のレベル】:3(仮)
【本日の目標】:何かを、自分の意思で選ぶこと
手書きの文字。少し丸みのある筆跡。
彼女はあのあと、「あくまで仮のステータスだよ」と言って笑った。
でも悠真にとって、その一文はどんなゲームよりもリアルだった。
“こっち”の人生に、ようやく光が差しはじめたような気がした。
誰もが最初は、レベル1。
戦う理由も、旅立つ場所も、はっきりとは決まっていない。
でも、それでも、進める。
この世界は残酷で、優しくて、
──そして、やっぱり面白い。
「よし。今日も、行こうか」
小さく、けれど確かに歩き出す足音が、朝の街に吸い込まれていった。
まだ誰にも知られていない“現実”の冒険が、
いま、ここから始まる。