プロローグ
「転生希望者多数」
──ここは、転生希望者が溢れる世界。
異世界が存在するという確証は、どこにもない。
それでも人々は「次こそはうまくやれる」と願い、
生きることを終わらせようとする。
社会はそれを「病」と呼ぶようになった。
異世界転生病──
原因不明。治療法不明。
患者は年々増加し、10代・20代を中心に拡大の一途を辿っている。
“現実”では何者にもなれなかった。
だから、異世界でなら。
魔法を使って、モンスターを倒して、誰かに名前を覚えられるような存在に──。
けれど、その“異世界”がどこにあるのかは誰にもわからない。
自ら命を絶った者たちは、誰一人として“転生後”の話を語ってはいない。
ただの逃避か、あるいは本当に「向こう側」があるのか。
誰も証明できないまま、世界は、今日もまた一人の命を失う。
そんな時代の片隅で。
東京・日暮里。
非正規のコンビニアルバイト、佐伯悠真は、
“転生する勇気”すら持てず、ぼんやりと人生の余白を漂っていた。
そこに、彼女は現れた。
──異世界で“勇者”と呼ばれていた少女、ティリア。
異世界で生まれ、異世界で戦い、そして、ある日突然“こちら側”へやってきた存在。
彼女の言葉が、悠真の止まっていた時間を、少しだけ動かしはじめる。
これは、「転生」ではなく──
たった一度きりの「現実」でレベルアップしていく、
ひとりの青年の物語。