7,突然の襲撃者
天李の深い憎悪と敵意はノブとアリスが想定していたより遥かに凄まじいものであった。ロアドクレイはこの国に対して、女王に対して何も関与したことがない。それでも大国であり、武力と共存しているというロアドクレイという存在が天李の神経を逆撫でする。大国という立場は非常に難しいことをノブとアリスは痛感していた。大国の力があれば、小国など簡単に蹂躙できてしまう。この特異な力を持つ天陽国ですらも五大組織であるロアドクレイの力をもってすればただでは済まない。同盟を組むということは相手を信用し、自分の腹をさらけ出すということ。自分よりも格上の存在を相手に対等に腹をさらけ出したあとでも、小国である天陽国はロアドクレイを抑えることなどできない。自分よりも格上で自分が制御でき
「・・・我々が武力者との共存を謳う、大国である限り、彼女は心を開かない・・・女王の心はもう・・・」
彼女の心は積み重なれた大国の侵略により完全に砕かれてしまった。心の奥底の期待すらも彼女は抱くこともない。自分たちは侵略しない。信じて。それだけの言葉がどれだけ彼女に届くだろうか。大国にとって小国を裏切るということにリスクはない。ロアドクレイが天陽国を裏切ったところで天陽国の反乱ごとき簡単に押しつぶすことができるだろう。それだけの力を五大組織の一つであるロアドクレイは保有している。弱肉強食。それが世の理だ。弱いものは常に強いもののご機嫌を伺っておかなければ生きていくことすらできない。相手を信じるということは自分の揺るぎない強さと自信があって初めて生まれる余裕であるのだ。一度蹂躙され、完全に壊された心は二度と治ることはないだろう。
「・・・それでも私は手を取り合っていけると信じています。あの時、私はハルトさんを見て確信したんです。あの人はとても優しい人です。武力者を憎み、でも憎しみ切れない自分と戦いもがいている。天李さんとハルトさんは親子です。きっと彼女にも」
ハルトは先の一件で自分の命を顧みることなく、アリスを、皆を助けてくれた。アリスは先ほど自分を助けてくれたハルトのことを思い返し優しく目を瞑る。ハルトは武力者に対して強い憎しみを抱いていた。ハルトは武力者であるアリスが憎くて仕方ないはずだ。それにも関わらず、ハルトはアリスの立場を心配し、助けてくれた。能力者として命にも等しい存在の精霊に触れされてくれた。彼はきっと憎しみを抱きながらも分かり合いたいと、信じたいと願っているのだ。彼らと、分かり合えることはきっとできる。ハルト。そして、ハルトのことを思う天李にも同じ気持ちがあると信じている。檻の外で二人を見張る衛兵はアリスとノブの会話を静かに耳を立てて目を瞑った。
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「あいつらを捕らえた!?」
ハルトは天李の自室に呼び出され、天李から地下牢に閉じ込められているアリスとノブの話を受けた。ハルトは知っている。天李が武力者に対して抱いている憎悪を。自身の夫、そして子までも武力者、そして大国によって奪われたということを。ハルトも武力者に対して憎しみは抱いている。だが、その憎しみは所詮欠けた記憶の中に残る憎悪である。昨日のことに蘇る鮮明な大切な存在を奪われた憎悪。それがどれほどのものであるのだろう。記憶を失ったハルトはこれ以上に誰かに対して抱く憎悪を想像もしたくない。あの時、奈々を助けてくれたあの女性。それがハルトは気がかりだった。武力者にも関わらず、この能力者主義国であるこの国で自分が武力者であることがばれる危険性すら顧みらず、奈々を救った不思議な女性。あの人の善意が、心根がハルトの思い出される武力者であろう誰かと、天李の話す武力者と一緒であるとどうしても思えなかった。
「あぁ。・・・何か思うことでもあるのか?ハルト」
天李は考え込み、少し表情が曇った様子を見せるハルトの顔を心配そうに覗き込んだ。
「・・・いや、なんでもない・」
ハルトは心配そうな天李の言葉に否定をする。天李にいえるはずがない。地下牢にいる彼女たちの存在が気になるということを。先の一件からあの女性がハルトの記憶の何かを刺激し、心をざわつかせると。ハルトは武力者のことが嫌いだ。記憶の欠片と心が武力者への憎悪を反復させる。そんなハルトの憎しみに彼女の存在がノイズを入れると、敵意を揺らがせる何かを彼女もとっていると。記憶を失い、傷つき、一人ぼっちであったハルトに居場所をくれた天李を裏切るような言葉いえるはずがない。
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突然であった。夕食を食べるために天李と共に食堂へと向かっていた天李とハルトの向かう先で大きな爆発音と地響きが響き渡る。それと同時に大きく揺れるこの大きな城。二人は顔を見合わせ、事態を把握するためにも急いで爆発音と揺れる震源地へと急いだ。城門の入り口、そこでは扉とそのあたり一帯が崩壊し、天が城の中を仰いでいた。その場にいた衛兵や、侍女などの城の使用人は爆発に巻き込まれ、瓦礫の下敷きになっている。
「大丈夫か!?」
ハルトは急いで城の瓦礫になっている侍女や執事、衛兵たちのもとへとかけつけ、瓦礫を一つ一つどかし続ける。天李はそんなハルトの様子を見守りながら周囲を警戒していた。誰かが、この惨状を引き起こした犯人がこの周囲にはいる。いないはずがない。
「誰だ!!!」
誰かの激しい殺気がハルトに向けられていた。ハルトは自分に向けられた痛い程の鋭い殺気に気付き、誰もいない空中の一点に向かって反応し大きく声を張る。
「目に傷のあるあいつ、怪しい野郎だとは思ったが、正しい情報だったようだな。そんな怖い顔で睨むんじゃねぇよ。俺様はジン。お前をお迎えにきた男だ~。随分探したんだぜ?ハルト様よ~?」
天李はハルトが睨みつけた場所には誰もいなかった。だが、次の瞬間、ハルトの睨みつけた場所に、二人の人間は突如姿を現した。一人の屈強そうないかにも性格の悪そうなぶっきらぼうな顔をした男と、その後ろにいるフードを被り、仮面で素顔を隠す体格が小さい誰か。彼らはハイエナと鹿のような姿をした精霊であろう獣に乗って空から降りてきた。彼らは、瓦礫の下敷きになっている侍女や衛兵たちを助けながらも彼らを威嚇し目を離すことのないハルトを見下ろしゆっくりと空中から地上へと降りてくる。なぜ、この城を崩壊させたのか。記憶のないハルトにとって、彼らが何者なのか、なぜ自分を知っているのかも理解ができない。迎えにきたという言葉もハルトにとっては理解ができなかった。だが、全てにおいて何も理解ができないハルトが唯一理解できたこと、ハルトの大切なこの場所を、大切な人を傷つけた。彼らは誰であろうが敵であるということだ。ジンはそんな困惑しながらも確固たる敵意を見せるハルトを見下ろし、馬鹿にするような態度で笑い、見下ろした。
少し短めの投稿です。明日は二つ上げれたらいいな。
狐じゃなくて鹿でした。すみません




