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落ちこぼれヒーローの英雄譚  作者: 吉見里香
一章,動き出す歯車
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6,天李の憎しみ

「ロアドクレイの使者をこれより連行する!」

突然現れた天陽国の兵士たちがアリスとノブをアリスとノブはたくさんの兵士たちに囲まれてしまった。

この国で事件が起きるということは非常に珍しい。そのため、突然この国にきた他国の使者が疑われることはおかしいことではない。だが、こんなにも早いタイミングでノブとアリスが疑われ見つかるということは普通ではない。あの目に傷を負った男、あの男の仕業と見て間違いないだろう。あの男はアリスとノブが自分を疑っていることが分かったうえで自分の障害となるアリスとノブに濡れ衣を着せたのだ。完全にアリスとノブは、あの男に嵌められてしまった。アリスとノブはこの状況に周りを囲む衛兵を見る。大国の使者とあって警戒されているのだろう。たった2人相手に60人ほどの兵士たちがアリスとノブを取り囲む。

「お、お姉ちゃん!?」

いつの間に見つけたのだろう。兵士たちに取り囲まれているアリスとノッブに気付き、突然の事態に驚いたように声を上げ、アリスのもとへ近づこうとしていた。だが、奈々の母親は自分を助けた恩人の元へと駆け寄る娘を止め、申し訳なさそうに深く頭を下げて、アリスから目をそらす。先ほどの奈々の母親の娘を助けたことに対する感謝は本物であった。だが、この国の兵士たちがアリスとノブを濡れ衣で逮捕しようとしているにも関わらず、奈々の母親や他の人間たちは兵士たちの行動に口を挟むことはない。兵士の行動は女王の命のもと行われる。ロアドクレイの使者を捕らえるということがこの後の国際問題に発展することは容易に想像できる。大国に対しての国際問題が小国にとってどれだけ恐れ多いものだろうか分からないはずもない。だがそれでも、この国の民たちは大国であるロアドクレイの使者に対する無礼な扱いをする兵士や女王に不満を零すこともなく、大国からの報復を恐れてもいない。大国からの報復が自分たちに危害のあるものの可能性もあるにも関わらず、民衆は恐れも抱いていないのだ。これは極めて異常なことである。

「ノブさん、どうしましょうか?逃げますか?」

アリスは兵士に囲まれているこの現状に警戒しながらノブに視線を向ける。60を超える兵士たちがアリスとノブを取り囲んでいる。この天陽国はスルタの里と同様、秘密主義を貫く国であり、彼らの持つ力は未知数である。だが、それでもアリスとノブは五大組織の一つであるロアドクレイでもトップを誇る実力者である。この群衆レベルであれば簡単に抜け出すことができる。それだけの力のアリスもノブも持っている。

「・・・アリス。残忍さと異質な存在感。俺は、あの目に傷があるあの男こそがスルタの里の人間であると考えている。」

スルタの里の人間はアテナ帝国を躊躇なく滅ぼしたのであるという。一晩がたたないほどの短い時間で、一つの大国を国があったという痕跡すらださないほど残忍に彼らは国を滅ぼしたという。ノブは感じてしまった。あのスルタの里の人間が持つ残忍性は彼の性格そのものではないだろうか。ただものではない異質感を放つあの男がこの世界で最も危険な人物の一人ではないだろうか。もし、彼がスルタの里の人間であるのならば、この里には他にも彼らの仲間がいることになるのではないだろうか。そうであるならばノブとアリスの取る対応は決まってくる。

「あの男が・・・」

この国でお世話になった恩人たちを何の容赦もなく殺す。その感情はアリスにとっては到底理解できるものではない。腸が煮えくり返るほど苛立つ内容である。彼の残忍さと異質な存在感は国一つを容赦なく跡形もなく滅ぼした噂のスルタの里の人間と酷似しているといえるのではないだろうか。

「あいつはあれだけで終わらないだろう。まだこの国で何かを企んでいる、俺はそう考えている。あの男なら一人でこの国を滅ぼすことも簡単だろう。だが、この国を失うわけにはいかない。なあ、アリス。女王にここで貸しをつくるのは悪くないと思わないか?」

目に傷を負った男。あの男の戦っている様子や力を使っている様子をノブやアリスは見たことがない。だが、アリスとノブほどの実力があれば只者でないことや直感で感じる強さなどは理解できる。彼が只者ではない強さを持っていることはノブもアリスも見た瞬間から理解していた。彼にアリスとノブは勝つことはできるかは定かではない。だが、ノブはいたずらっこのような笑みを浮かべてアリスを見た。天李はロアドクレイを憎んでいる。それを分かっていてのノブの発言。この男もまた修羅の道を突き進むことをいとわない。アリスもその道は嫌いではない。

「そうですね!嫌いじゃないです!」

世界でも唯一の二つの種族の共存を謳う組織。他国の人間からはロアドクレイのその異質は理解されることはなく、馬鹿にされ、侮辱されてきた。この世界の常識を変えるなど大逸れた理想を掲げる組織だ。茨の道を突き進むことは必然だ。そうでなければアリスとノブはロアドクレイに所属している意味などない。アリスの笑みにノブも楽しそうに口角をあげる。

「連行ということは城の地下に幽閉されるということだ。城にいけば女王に会うことができる。この国で、スルタの里の人間を相手にするんだ。この国の人間まで敵に回している余裕はないからな。」

天李はロアドクレイを憎んでいる。彼女はノブとアリスがこの国にいる限り、彼女はロアドクレイを恨み、敵対してくることだろう。天李がいる城へと連行されれば、必然的に天李がいる場所へと案内されるということだ。天李に対して対話をして可能な限り協力、最低限敵対しないことだけでも約束させることができれば、スルタの里の人間に対して集中できる。彼らからこの国を護るためには余計な心配事をしていては相手にすらならない。そのための手段。何よりもこの国にアリスとノブは敵対しに来たわけではない。この中で怪我人を出す必要もなすことで敵対と取られることも本意ではない。アリスとノブは大人しく兵士たちに連行されることにした。


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「妾の忠告を無視してこの国に危害まで加えるとは。先の一件で伝えたはずだぞ?身の保障はしないとな。そうだろ?ロアドクレイの使者よ」

アリスとノブは連行され、城の地下に幽閉され鎖に繋がれた。アリスとノブは拘束大胆な身動きを取ることもできずにいた。アリスとノブはこの場所に来た目的を果たすために天李がこの場所に降りてくるのを静かに待っていた。アリスとノブがこの地下に幽閉されどれだけの時間がっただろうか。天李は地下へと入ってきてノブとアリスに不適な笑みを浮かべ見下ろした。ノブとアリスはこの国に対して何の危害も加えていない。だが、こうしてアリスとノブは事件を引き起こした犯人としてこの場所に囚われている。

「我々は何もしていません。我々はこの国に危害を加えるつもりはない。だからこうして反抗もすることなく大人しく連行された。我々はあなた方に敵対も反抗もしない。我々の話をお聞きください。天李女王よ。我々はあくまでも協力を要請しているだけだ。我々もあなた方に力をお貸しします。この国は今、スルタの里の子どもたちに狙われています。彼らを相手にするには我々が力を合わせるほかない。彼らを退けるためにも、これからの平和な世界を築いていくためにも、互いに協力し合える関係を両国で作っていきませんか?」

ノブはロアドクレイを憎む天李に対して冤罪を否定し、まっすぐな眼差しで改めて協力を要請する。スルタの里は世界の秩序を揺るがしかねない世界を滅ぼす可能性すらある危険指定人物たちだ。その彼らがこの国に滞在し、何かを企んでいるとすれば、それはこの小さな国一つで対処できる問題ではない。天李は様々な手をつかってこの国を守り抜いてきた人物である。この国を護るためであれば天李は憎んでいる自分たちとでも手を組む判断をする他ない。そう信じていた。

「・・・妾はそなたら大国に何の協力も期待もへりくだりもしない。そなたらに対する対応が敵対行為と捉えられるならば、それも甘んじて受け入れよう。・・・スルタの里か。妾はスルタの里の哀れな復讐者よりも欲にまみれた武力者や大国の方がよっぽど醜く、そして残忍であると思っている」

ノブの言葉に天李は揺らぐこともなくまっすぐと冷たい瞳で睨みつけた。完全なる拒絶。ノブは揺らぐことのない覚悟が決まっている天李の言葉と瞳に歯を食いしばる。通じなかった。スルタの里の名をもってしても、この女王から協力を要請することはできなかった。彼女の自分たちへの憎悪は世界が警戒するスルタの里の子

どもたちへの恐怖にも勝るものであると再認識させられる。

「女王陛下!我々は何度も言っている通りこの国に危害を加えるつもりはありません!あなたは五大組織であるロアドクレイ、そして武力者である私を嫌っていらっしゃる。それは分かっています。だからこそ私はあなたを刺激するつもりはありませんでした。ですが一つ、あなたにお伺いしたいのです。我々の組織や組織の人間は、今回の件に至るまでこの国に足を踏み入れたことも、そしてあなた方に関わったことすらないと報告を受けています。それなのに関わらず、なぜ、そこまで我らに対して警戒しているのですか?あなたは我々の何を恐れているのですか?」

ノブの交渉は女王に通じなかった。損得勘定で補えない強い憎しみが天李の中では複雑に渦巻いている。この憎しみに対して対処しない限り、何をしてもこの女王には意味がないだろう。天李の揺らぐことのない覚悟に交渉が決裂する直前、アリスはずっとひっかかっていた天李の憎しみの核心に触れた。

「・・・そなたらは・・・自分の命よりも大切なものを失ったことはあるか?誰かを守る強さを持っていたにも関わらず、本当に大切な時に何も為すことができず、すべてを失ったことがそなたらにあるか?」

アリスの天李の憎しみの核心を突く言葉にアリスは鋭い目つきでアリスを睨みつける。そして、その燃え盛るような目を一度力強く閉じ、目を開く。その目には目を伏せても収まることのない強い憎しみが込められており、その憎しみは震える声となって伝わってきた。

「妾の・・・妾の息子は・・・その昔、武力者の治める世界一の大国、アテナ帝国によってさらわれた。あの子が誘われた原因は定かではない。この国に伝わる特異な力に目をつけたからなのか、それすらも天わからない・・・だが、私の子は確かに奴らに攫われ、大国の圧倒的な力を前に・・・なすすべなく・・・そして私の夫・・・も・・・あの子を守り、殺された!!!・・・わかるか?この怒りが!そなたらに!大切なものをなくしたこの憎しみが!!!」

天李は震える声で泣きそうな声で他に誰もいないこの地下牢で怒りに任せて怒鳴り散らす。これは大きく強い憎しみであった。この大国と小国の圧倒的な力の差。踏みにじられたプライド。天李はこれらを容赦なく踏み潰され、修復ができないほどボロボロにされた。だからこそ天李は大国の存在自体が許せなくなってしまっている。

「私があの子を見つけることができた時・・・あの子は大勢の子どもたちの死体の一人になっていた。無造作に・・・あの子は身体にいくつもの銃痕を残して・・・・亡くなっていた・・・・そなたらのことなど信じるわけにはいかぬ。武力者の言葉など・・・大国の言葉など信じることなどできぬ!」

天李の目には大きな涙がたまっていた。この女王はこれだけの憎しみと悲しみを背負って、この場所に立っている。大切な人を同時に二人もなくしている天李が武力者に対して信用していない。これもまたおかしいことではない。たくさんの苦痛と苦労を乗り越えてアリスはこの場所にいる。だからこそ、国民は天李を信用しているのかもしれない。

「妾からすればスルタの里は敵ではない。そなたらの手助けは必要ではない。彼らは妾が成し遂げたかった悲願を、あのアテナ帝国を滅ぼしてくれた。感謝こそすれど、恨みはない。」

天李は冷たい瞳でノブとアリスを見下ろすと背を向ける。

「妾はもう、これ以上大切なものを失うわけにはいかぬのだ。そなたら大国に。武力者に。」

天李はアリスとノブに冷たい瞳で一瞥する。あぁ。この覚悟と憎しみ。彼女はもう誰にも動かすことも止めることもできない。要請することはできない。ノブとアリスは察してしまった。彼女の心は折れてしまっている。この心を溶かすことはもう誰にもできないだろう。天李はそんなアリスとノブの心情を読み取るように一瞥すると隣にある紐を引っ張り人を呼ぶ。紐を引っ張ると一人の兵士が地上から地下牢に降りてきた。

「妾の用は済んだ。こやつらを見張っておけ」

「はっ!」

天李の命令に兵士は元気よく返事をし、天李はこの地下牢から去っていった。

眠いですね。寝ます

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