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落ちこぼれヒーローの英雄譚  作者: 吉見里香
一章,動き出す歯車
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3,奇怪な男

「すっごい殺気でしたね~、彼。」

アリスとノブは殺気と憎悪を放つ天李とハルトから城外へと追い出され、城から下へと下っていく。アリスはこれからの行動に頭を悩ませるノブに向かって笑いながら話しかけていた。ノブとアリスはハルトにも天李にも面識がない。にもかかわらず向けられるのは尋常ではない憎悪と殺意。出会ったこともない人間たちに向けられる殺意と憎悪にはどうすることもできない。

「あぁ。女王も尋常じゃない敵意をもっていた。」

ノブはアリスの軽く放つ言葉に大きくため息を吐く。ノブとアリスはこの国に喧嘩や挑発をしに来たわけではない。ただ、この国の協力を要請しにきただけに過ぎない。侵略も不利な条約を結ぶつもりもない。ただ、特異な力を持つこの国に、世界の情勢を見据え手を組みたいと考えている。対等な条約として、互いに侵略もさせない。この国が危機に扮しているのであれば組織の総力をもってこの国を助ける。その覚悟でロアドクレイの代表として二人はこの国に来ている。だが、その協力関係は女王の拒絶と憎悪により全く見据えることができない。ノブは城下へと降りながらこの国の活気を見る。たくさんの人で賑わっている小さくも豊かな国。治安もよく誰もが笑顔で助け合いながら生活している幸せな空間があふれている国。このような国の雰囲気を作り出すことは簡単ではない。この戦国時代の情勢下で、他国と手を組むこともなくこの国を守り抜いている天李の手腕にはやはり格別のものであることは間違いない。

「協力しようにもお二人とも敵意を隠す素振りもありませんでしたもんね。」

天李の手腕はやはり格別なものであるとこの国を見て思い知らされる。だが、どれだけ話をしようにも敵意を隠すこともない天李にはどうしようも対処することはできない。アリス自身もこの一件の対処の仕方を何度考えても思いつくことができず、大きくため息を吐く。

「まぁ、これが現実だ。分かっていたことだ。この国は能力者主義の国家。俺たちが属している組織は共存主義。掲げる理念が違ければ割れるのは必然。」

この世界では、能力者は武力者を憎み、武力者は能力者を憎んでいる。この憎しみ合いはここ数年に始まったことではない。何百年も昔から、この二つの種族は亀裂が生まれ憎しみ合いは続いている。この二つの種族が憎しみ合うことでこの世界では大きな戦争が繰り返し行われ、そのたびに多くのものが憎しみ合い、二つの種族の憎しみを増幅させてきた。種族として根付いた常識を覆そうとしているのが自分たちの属する組織。それが簡単な道のりでないことは承知のうえで進んでいる。

「だが、この憎悪には未来も終焉もない。変えていかなければならないんだ。この無意味な争いを。それが俺たちロアドクレイにしかできない役目なんだ。」

ロアドクレイは世界で唯一の共存主義国家である。能力者主義にも武力者主義にも属さない二つの種族が憎しみ合わない世界を目指す唯一の国家であり、組織である。終わらせるなければならない。この憎しみ合いが続く世界を。そのためにノブとアリスはロアドクレイに属している。ノブはこの状況に改めて気を引き締め覚悟を決める。

「はい!それでノブさん。どうするんですか?私たち帰れって言われちゃいましたけど、ご丁寧にこんなにすぐ腐るぞって言わんばかりのお土産いっぱい渡されて。それに、まあこの国にいても安全の保障はないって攻撃宣言までされちゃいましたけど」

ノブの覚悟を横目に見ながらアリスは揶揄うように声高にノブの少し前へと進み、城の衛兵に仏頂面で渡されたお土産を笑顔で前に出しながら勢いよくノブと方へと振り返る。天李は明らかなにアリスとノブを、いや、ロアドクレイに敵意を持っていた。このままこの天陽国に滞在し続ければ理由をつけて攻撃を仕掛けてくるだろう。

「何を言われても俺たちの目的には天陽国の協力は必要不可欠だ。なんとしてでもこの国に協力を仰がねばならない。アリス、この国にはここにしかない名物がたくさんある。せっかくここまで来たんだ。食べながら女王について調べるぞ」

ノブは城下の下にある一つのお店に気付くと途端に目を輝かせ先ほどの態度とは一変した様子した笑顔で足早に城下へと降り立っていく。

「ノブさん!あぁ、相変わらず目がないですね。まあいっか。ゆっくり食べながら考えましょう」

突然足早に走り出したノブにアリスは一瞬戸惑いを見せるが、ノブの視線の先にある一つの店を見つけ困ったように肩をすくめ、ノブのあとを追い足早にアリスも城下へと降り立った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「うまい!!!旨いだろ!アリス!やっぱり本場は違うな~!!!」

ノブは狙っていた店に足早に駆け込み店の前に饅頭を頬張りながら目を輝かせていた。アリスはノブの隣で目を輝かせるノブに嬉しそうに苦笑しながらも同じように熱々の饅頭を頬張る。中の身はぷりぷりで外はもちもち。流石饅頭大国の天陽国。自国で食べる饅頭とは一味違った饅頭の美味しさであった。

「おー、兄ちゃん。いい顔するじゃねえか!旨いだろ!何しろうち自慢の一品だからな。」

店の前で饅頭を頬張りながら目を輝かせるノブに店の奥から暖簾を掲げ店主の男が誇らしそうに声をかける。

「珍しいじゃねえか。この国に他国のやつらがくるなんてなあ?」

自分の店の商品の自慢をする店主と饅頭を頬張るノブの間に、突如店の奥から一人の男が出てきた。緑かかった髪色をした整った顔立ちに似合わない左目に大きな傷を負っている男。彼が話す言葉、異様な雰囲気にアリスとノブは一瞬視線と空気が奪われてしまった。

「おい坊主!まだ火起こししている途中だろ!大丈夫なのか?」

頭をかきながらけだるげに店の奥からでてきた目に傷を負った男に店主はため息を吐きながら仕事を途中で終わらせたのではないかと軽く男を睨みつける。

「大将、大丈夫っすよ。火は起こしてきたっすから~。あとはあいつらがなんとかやってくれるっすよ~」

男は大将と呼ぶ店主の言葉にけだるげに、軽薄に笑いながら返事をしながら店に戻る様子を見せず、アリスとノブをじっくりと探るように見つめてくる。

「ったく、お前ってやつは変わんねぇな。どうだ、嬢ちゃん、兄ちゃん。こんなやつだがその饅頭はこの坊主が作ったんだぞ?半年間の修行を終え、ようやく世間に初お披露目した饅頭なんだぜ?褒めてやってくれ」

目に傷のある男に店主は困ったように笑いながらも男の頭を掴み豪快に撫でるとノブとアリスを見て誇らし気に店主は自分の部下を自慢する。この店主は心の底からこの坊主と呼んでいる男の成長を喜び、自慢するほど大切に思っていることが今初めて出会ったノブとアリスにも伝わってくる。

「おいしいです!」

ノブは目を輝かせながら自慢げに男を紹介する店主を見るて笑顔で答える。そんなノブにアリスも優しく微笑み、自慢する店主に対して優しく微笑み頷く。二人の反応に店主は満足したように豪快に笑った。

「はは、兄ちゃん饅頭好きなんだな~。目の輝きが違う。だが、駄目だぜ?兄ちゃん。こういう嗜好は気軽に他人に見せるもんじゃねぇ。どんな危ないやつがあんたを見てるか分からないぜ?」

ノブが見せる目の輝きに男はノブを覗き込み、奇怪な笑みを浮かべ異様な圧を見せる。一瞬であった、好物の饅頭を食べて己を忘れていたノブですら、男の見せる異様な雰囲気に空気の飲まれ引き戻されてしまった。ノブは普段は冷静な男である。だが、そんなノブは公衆の面前にも関わらず、一瞬で警戒態勢に入り、男を鋭い目つきで睨みつける。この男には油断ができない何かがある。そう思わずにはいらなれない何かがあった。

「馬鹿もんが!ま~た、お前は訳わかんねぇこと言いやがって!旨いなら旨いでいいじゃないか!すまんな、兄ちゃん。この坊主、自分以外の他国から来た人間と出会って嬉しかったみたいでな!つい悪乗りしちまったようだ」

異様な威圧感を出す男に店主は呆れるようにため息を吐き、豪快に男の背中をたたく。そして豪快に笑いながらノブとアリスに謝罪をすることでこの凍り付いた雰囲気を収めた。

「はは、そっすね~。」

店主の豪快な笑いに坊主と呼ばれる男は薄ら笑いを浮かべ頭をかいた。だが、あの威圧感と目を見たあとであるとノブとアリスはこの男の笑顔が本物であるとは到底思えない。

「自分以外の他国の人間て、この方もこの国の人ではないんですか?」

この国は他国との交流を基本的に受け付けておらず、観光客も多くない。この国にいる人間は王族が管理する結界の承認を必要とするため、この国にいる人間はあの警戒心が強い天李が承認した存在であるということになる。だが、このような不気味な男をあの警戒心の強い天李が受け入れるとは到底思えなかった。この男の拭えない不気味さと危機感と違和感を探るためにノブは男を警戒しながらも、薄ら笑いでノブを見続ける男について探りを入れる。

「あぁ?まあな!兄ちゃんたちと同じさ。この坊主も。坊主は半年前に外の国からこの国にやってきたんだ。働かざる者は生きていけねぇからな。この国で暮らしていくためにも、俺が彷徨ってるこいつを拾ってやったんだ」

ノブの話に店主は変わらず豪快に笑い、愉快そうに男の背中を叩く。この豪快な笑みの暖かさにノブとアリスは心穏やかな気持ちになるが、男の冷たい視線に警戒心を上昇させる。

「大将!できましたぜ!これでいいですかい?」

豪快な笑みで自慢げに弟子を見る店主に奥から若い従業員の声が聞こえる。店主はその声を聞き、店の中をのぞき、様子を確認しようとした。

「大将、呼んでますぜ?こっちは大丈夫っすから行ってやってください!あいつ困ってる様子でしたぜ?」

その声に反応するように目に傷のある男は店主に薄ら笑いをかけながら店の手前から心配そうに様子を見守る店主に近くに行って様子を見てみるように促す。店主は男に対しても情が熱いように他の弟子たちについても同じように情が熱い。それをこの男は理解しているからこそそれを利用し、言葉巧みに店主を誘導した。心優しい店主は男の言葉に疑うこともなく豪快に笑い、従業員に返事をして店の奥に入っていった。

「これでもう邪魔者はいなくなった。俺と話をしようぜえ?」

店主が店の奥へと姿を消した途端、男は邪魔者を排除するような姿勢で勢いよく店の扉を閉める。男はいなくなった店主に対して邪魔者と呼び、その冷たい瞳と威圧感、にやついた不気味な笑いを隠すことなくアリスとノブに対して向け、見下ろす。

「この国であなたの食いぶちを助けてくれた、拾ってくれた恩人に対する態度とは到底思えない随分と冷たく、無礼な態度ですね。」

不気味で奇妙な威圧感を隠さずに放つ男に、アリスはこの国に来て初めて純粋な嫌悪感を相手に対して放ち男を睨みつける。あの店主はアリスは初めて出会った人間であるが、人当たりがとてもよく素直で情が熱い素敵な人であると感じた。その人物に対して侮辱するような発言と態度を向けるこの男がアリスは純粋に嫌いだった。ノブもアリスと同じような考えを持ち、男に対して警戒心向け続ける。

「恩人、ねぇ~。恩義とか共存とか、やっぱあんたらロアドクレイはつまんねぇな。世はもっと争わねぇといけねえ!自分が世界の中心であると!嫌いなやつは殺す!自分の意見を押し通す!戦争がない世界だと?そんな生死をかけた刺激を味わえないつまんねえ世界、誰が興味あるんだあ?」

男はアリスの言葉に対して興味がないとばかりに耳をかきながら侮辱するようにアリスとノブの組み合わせについて滑稽であると笑う。そして戦争と刺激の面白さに戦々恐々と目を輝かせながら夢見心地の表情で男は語る。男の態度は、思想は異常だ。だが、それ以上にこの男の言葉で見逃せない言葉があった。

「なぜ、俺たちがロアドクレイの人間だと?」

ノブもアリスも、男の言葉から出た二人が属している組織の名前が出た瞬間、臨戦態勢に入った。自分たちがこの国に来ていることはロアドクレイでも上層部しかしらない機密事項であり、天李自身も国に広める人間ではない。城内にいる人間であるならともかく、この城下で饅頭屋として働いている男風情が知っている情報ではない。

「なぜっておかしなこと聞くんだなあ~?兄ちゃん。あんたら二人は能力者と武力者だかんなぁ~。今世界で能力者と武力者が共存している組織は一つだけ。そうだろ?武力者の嬢ちゃん?」

にやついた笑みを浮かべ、アリスを睨みつける男に二人の警戒心は最大限に引き上げられた。

「何者だ・・・あんた・・・」

低い声色でノブは男を睨みつけた。能力者と武力者というものは見た目だけでは区別できるものではない。能力者と武力者の違いは実際に力を使用するところを見るか、体内に流れるマナの形を読み取る他ない。体内に流れるマナを一か所に集め、放出するものが能力者、体内に流れるマナを全体に澄み渡らせ、身体を強化するものが武力者。能力者と武力者ではマナの流れが全く違う。アリスの戦いを見ていないこの男がアリスが武力者であると判別したということはこのアリスの武力者としてのマナの流れを読み取れたということになる。だが、この体内に流れるマナを読み取るということは簡単ではない。少し訓練を受けたことのある一兵卒などでも体内のマナの流れを理解できるものではない。マナの流れを読み取るということはマナの流れを完全に熟知し、完全に使いこなすことができるほど境地と実力を身に着けているものしかたどり着くことができないものである。この境地に至ることができるのは大国でも守護の要になる実力を持つものだけである。この境地に辿り着くということはそれだけの実績と訓練を組んできたということ。一国の女王である天李や女王と一緒に一緒にいた少年がアリスが武力者であることを見抜くことができる実力を持っていることは理解できる。だが、これほどの境地にいる男がただの饅頭屋をやっているということはありえることではない。この男はやはり油断できないなにかがある。それだけは確信できる。

「怖い顔すんなよ~。俺はただの饅頭屋の弟子だぜ。そんな俺よりも武力者禁制の能力者の国に武力者ひきつれた共存主義のあんたらロアドクレイがいる方がおかしいだろ?俺の方が聞きたいぜ。あんたらこの国に何しにきたんだ?ってな~!」

警戒するアリスとノブに男は軽薄に笑い挑発するように二人を見下ろし侮辱しながらも笑いをこらえることができず豪快に笑う。この男の目的は何も分からない。だが、この男はただアリスとノブを、ロアドクレイの思想を馬鹿にしていることだけは分かる。アリスはこの男の言葉に怒りを抑えることが限界を向かえる寸前だった。

「寄せ。アリス」

怒りが限界を向かえる直前のアリスをノブは引き締まった声で制止する。ノブもこの男の言葉には怒りがこみあげてくるが、滞在が認められていないこの国でこの男と戦うことはデメリットがあまりにも大きすぎた。この男は強い。だからこそ、この男と今、この場所で戦うことはできない。

「あんたらがこの国にきた理由をあててやろうか~。理由ひと~つ!この国の王族一族に伝わる特異な力を利用するため協力という名の脅迫をしに来た。そして!理由ふた~つ!女王がこの国のどこかに隠している極悪人、スルタの里の子どもを探しに来た。さーて、あんたらの目的はどっちかな~?」

ノブの思考を読んだかのように男は愉快そうに笑みを浮かべ、ノブとアリスを再度挑発するように上から下まで嘗め回すような視線を向ける。その男の言葉にアリスとノブは耳を疑った。この男の言葉は信じるべきではない。何から何まで怪しい男だ。話を全て真に受けることは絶対にしてはいけない。だが、この男はロアドクレイという大国ですら少しの情報を得るためにたくさんの労力と時間を費やした天陽国の秘術についての情報すら知っていた。その男が、今、この世界で最も危険視されている世界一の大国を滅ぼし世界を震撼さえた危険人物、スルタの里の人間がこの里にいると言及した。その名を聞くだけで多くの者が震えあがるほど、現時点で最も危険認定されている者たちであり、ノブとアリスにとって立場上無視はできない存在だ。その存在がこの国にいると男は告げた。

「おい、その話」

「坊主~!この蒸し器壊れてるじゃねぇか!」

ノブが男に話を再度触れようとした瞬間、奥から中に入っていった店主から男を呼ぶ声が聞こえた。

「あらら!呼ばれちゃった~。また会おうぜ、兄ちゃん。嬢ちゃん!」

引き留めようとするノブとアリスの声を聴かぬまま、男は全ての対応と行動を予期していたとばかりににやついた笑顔を浮かべたまま店の中に入っていった。

私はお饅頭は岩崎本店の角煮饅頭とディズニーシーの浮き輪マンが好きです!

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