15,旅立ち
宴が終わり、一夜が明けた。ハルトと天李たち天陽国の人間は早朝、帰国するロアドクレイの使者であるアリスとノブのお見送りに来ていた。
「ありがとう。あんたたちに出会えて本当によかった。何かあったらいつでも言ってくれ。今度は俺たちがあんたたちの力になる。なあ?天李!」
ハルトはロアドクレイに帰る二人に出会ったことで、この国を護りきることができた。失くしていた何よりも大切な記憶の欠片を思い出すことができた。ハルトは二人感謝し、改めて感謝の言葉を伝えると満足気に天李の方を笑顔で振り向いた。だが、振り向いた先にいた天李の表情はとても寂し気で涙を浮かべているようにも見える。
「天李!どうした?」
ハルトは涙を浮かべる天李の表情に驚き、天李の顔を覗き込むように見つめる。そんなハルトの表情、行動が愛しいと感じたのか、天李は感極まった表情を浮かべながらハルトを力強く抱きしめた。
「・・・お前も、旅たつ時だ。ハルト」
天李の言葉は震えていた。力強く、そして優しく抱きしめ、震える声で告げた天李の言葉をハルトは理解することができず、天李の自分を抱きしめる手を突き飛ばした。
「俺も旅たつって何言ってんだ?・・・天李!」
ハルトは天李の言葉に理解も納得もしたくなかった。天李の言葉を否定するように眉間に皺をよせ、目頭に涙を浮かべ、怒鳴るようにハルトは天李を睨みつけた。だが、天李の言葉に驚いているものは誰もいない。ハルトはこの場にいる全員が天李の言葉に総意しているということを理解してしまった。
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「一つ、条件を、そなたらに提示したい。」
昨夜の宴で、天陽国はロアドクレイと同盟を組むことに同意した。その代わりの条件として、天李がノブに提示したものがこれだった。
「ハルトをそなたらの組織、ロアドクレイで護り、育ててやってくれ。大国であるそなたらにしか、頼めない頼みなんだ」
天李はノブに対して深く頭を下げて懇願した。一国の王が何かを頼むために、ここまで頭を深く下げることなどあってはならない。だが、それを承知で天李はノブに対して深く頭を下げる。ノブは天李が頭を下げることに動揺し、すぐに頭を上げるように頼み込む。
「・・・なぜですか?なぜ、ハルトをうちで引き取ると・・・我々としてはスルタの里の人間であるハルトをうちに引き入れることができるのは願ってもない条件だ。だが、あなたは、・・・ハルトと離れることがないように、ここまで頑張ってきたのでは?」
ハルトをロアドクレイで引き取る。それはロアドクレイにとっては願ってもない状況だ。スルタの里の子どもたちの存在により、今この世界の情勢は大きく変わっている。そんな中、スルタの里の子どもであり、こちらに対して友好的な存在がいるとなれば、この戦乱の世でロアドクレイは大きく世界の情勢をリードできる。それはロアドクレイの悲願、能力者と武力者の共存を達成するうえで非常に有益な手段だろう。天李から言い出すことがなければノブ自身から天李に懇願したい内容であった。だが、それは諦めるつもりでいた。天李がどれだけの深い愛情をハルトに抱いているのか、ノブもアリスもこの短期間の間で十分思い知らされた。アテナ帝国という大国の存在によって夫と子を奪われた過去を持つ天李にまた、大国によって大切な人間が自分の元から離れていく恐怖を思い出させるつもりはなかった。そんな天李が今、嫌いなはずの武力者、そして大国に自分の最も大切な存在を託したいと懇願している。これはノブの想定外のできごとであった。
「私はあの戦いで、この手でハルトを守り切ることはできなかった。挙句の果てに私たちは、あいつに守られる足枷にしかならなかった。これからこ世の情勢は大きく揺れるだろう。複雑に戦況はどんどん悪化していく。その戦乱の世で、渦中となる存在は間違いなくハルトだ。ハルトはこれからたくさんの陰謀に巻き込まれ、狙われていく。今回の戦いですら、あいつを守れなかった私たちがハルトを守ることなんてできはしない。私はどの選択が一番あの子を幸せにするかを考えただけ。私はもう、私の選択で大切なものを失いたくない。ただそれだけだ」
天李の持つ特異な力は戦闘に向いた力ではない。天李はジンとの闘いで倒れ、ハルトを守り切ることができなかった。王族が代々受け継ぐ特異な力ですら、彼らには対して通用しなかった。ハルトがまた、危険な目にあった時、天李はハルトを守れない、むしろ自分たちはハルトの足枷となってしまうということを今回の戦いで痛感してしまった。目に傷がある男のように、これからもハルトを狙う戦力が後を絶たない中、この国でハルトを守り抜くことは不可能だ。だからこそ、天李は自分自身の目で見極めたノブとアリスの二人にならばハルトを託すことができる。そう思うことができたのだ。
「あいつは、そなたらにあって変わった。大切な何かを思い出すことができたんだ。だからもう、こんな小国であいつはとどまることはできないんだ」
過去の罪悪感に苛まれ生きてきたハルトが、この戦いでようやく、大切なことを思い出し、頑張ろうとしている。それはこの一年間、誰よりも近くでハルトを見てた天李であるからこそ、ハルトのことを理解している。天李はいつかそんな日がくることに気付いていた。ハルトがたくさんの託された想いを抱えて生きていることに。それでも、一秒でも長く、ハルトと共にいることを望み、天李は全力でハルトの記憶に背を向け、触れることを避けていた。だが、ハルトがあの戦いで、記憶の欠片を思い出したことで、この日々が終わってしまうことを悟ってしまった。大切な記憶を、想いを思い出したハルトを、自分のわがままで邪魔してはいけない。ハルトの覚悟を受け止め、背中を押してあげることが、ハルトに心を救われた天李がハルトにできる最大限の恩返しだった。
「どうか頼む。その大国の力で、いばらの道を進まなければならないあいつのことを守ってやってくれ」
天李は深く頭を下げた。一国の王が大国とはいえ使者に対しこれほど深く頭を下げるという行為は本来ならばありえないことだ。一国の王というものはそのようなことをすることはしてはならない立場にある。だが、それでも天李はノブに対して深く頭を下げ、ハルトを心から心配し、想っている。その想いにはノブも全てをかけてでも誓わなければならない。
「ロアドクレイ所属、ノブヒロは、我が組織の名にかけて誓います。天陽国女王、天李陛下。我らロアドクレイは全ての勢力をもって全力でハルトを守り抜きます。」
ノブは跪き、天李の覚悟に最大限の敬意をこめ、組織の名にかけて、誓いをたてた。
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「天李!どういうことだよ!!俺は!お前と一緒に過ごせなくなるんだぞ!この国だって、守っててやれなく・・・俺が・・・いたからか・・・俺のせいで皆が巻き込まれたから」
ハルトは天李の言葉に涙を浮かべ、大きな声で反抗しようとするが、ノブの魔法でも消えることがなかった天李の頬の傷を見て震える声で涙を浮かべ、天李を見つめる。だがそんなハルトの言葉を遮るように再び力強くハルトを抱きしめた。
「そんなわけないだろう!お前は私の大切な息子だ!それはこれまでも、これからも!ずっと変わらない!お前がどこにいても、私はお前を想い続ける!だが、お前はもう、私だけじゃない。大切なことを思いだしたんだろ?お前はもう、こんな小さい国にとどまっていてはいけない。お前は誰よりも分かってるはずだ」
天李は自分自身の存在を否定するハルトの言葉を力強く否定するとハルトの目を見て力強く訴える。ハルトの涙を拭い天李は優しくハルトに微笑んだ。
「私はお前は私にもう一度家族をくれた。私は、お前に十分救われたんだ。だから、今度は、お前の記憶の中にいる、助けを呼んでいる誰かをお前が救ってやってくれ。お前は皆を照らしてくれる太陽で、英雄だ。お前の記憶にいる誰かも、お前を待っているはずだ」
天李はずっとハルトを誰よりも一番近くでみてきた。後悔に打ちのめされているハルトも、一年間悩み続けてきたハルトも。だからこそ、知っている。ハルトは誰かを救うために、強くなれる人間であるということを、誰かを照らす、救い出す力を持っていることを、ハルトによって救われた天李が一番理解している。
「辛いときはいつでもこの国に、ここに、帰ってこい。ここはいつでもお前の帰る場所であり続ける」
天李は優しくハルトを抱きしめ引き寄せると抱きしめる手を離しハルトと額と額を合わせ、涙を流すハルトの涙をもう一度拭い優しく微笑んだ。その姿は本当の母のように優しく温かいものであった。
「天李は、誰とも分からない記憶がない俺を受け入れてくれた・・・記憶を失い、不安で押しつぶされそうな俺が不安を忘れさってしまったくらい暖かく迎え入れてくれた。天李は俺のすべてだったんだ。でも、ごめん・・・・俺、行くよ。天李。天李のいう通りだ。こんな俺の助けを待ってるやつがいてくれてるんだ。だから・・・行くよ。絶対・・・この御恩は・・・忘れない・・・ありがとう・・・ございました・・・」
ハルトは涙を流し、旅立つ決意をした。記憶がある中のすべてを一緒に過ごし、様々な思い出を共有した天李。どんな時も味方でいてくれた天李。そんな天李のもとから旅立つのはとても怖く、ずっと一緒にいたい気持ちは山ほどある。だけど、大切な誓いがあるから。一刻も早く、暗闇にいる彼らを救い出すためには、この国にとどまっていてはいけないから。
「あぁ。行ってやれ。お前を待つやつらのもとに」
天李は分かっていた。ハルトがこの決断を下すことを。天李は笑ってハルトの涙を拭い、覚悟を決めたハルトを優しく送りだした。ハルト達は精霊に乗ってこの国を旅立っていった。
「子は親の元を離れていくもの。そうして子は大人になるか・・・覚悟はしていたけど、寂しいものだな・・・」
天李は飛び立つハルトの姿を見て寂し気に小さく呟いた。
「親からしたら子どもはずっと子どもでいてほしいものですよね。大人になるのは嬉しくても、やっぱり寂しさは残ってしまうものです」
天李の寂し気な言葉に後ろから涙を浮かべる侍女の菊の姿があった。菊の言葉に天李は優しく頷き、もう一度見えなくなったハルトの姿を向いた。
「ハルト・・・お前が来てくれたおかげで私は本当に心から救われたんだ。ありがとう。ここはいつまでもお前の居場所だ。」
見えないハルトの姿の後ろ姿を見て天李は寂し気に語り掛けた。
第一結婚ラッシュって何歳なんでしょうね~・・・( ;∀;)Ω\ζ°)チーン




