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落ちこぼれヒーローの英雄譚  作者: 吉見里香
一章,動き出す歯車
14/19

13最強・最悪

「あぁ?落ちこぼれが調子に乗ってるんじゃねぇぞ?そうだな、他の人間なんてなんてどうでもいい。俺はお前を苦しめて、原型もとどめないほど嬲り殺してやれればそれでいい!やつはそのあとで十分だ」

自分が見下している相手から挑発されるということ、これほど屈辱的なことは他にない。ジンはハルトに対して苛立ちを隠すことなく、眼球を大きく見開き、殺気を放ち、ハルトを睨みつけた。

『爆殺』

嵐牙らんが

ジンの攻撃にハルトは瞬時に対抗し術を唱えた。ジンの攻撃は城全体を燃やすほどの強力な威力と殺傷力を誇る炎の攻撃。対して、ハルトは鋭利な風の攻撃で迎え撃つ。ハルトの放った風はジンの大きく強力な炎を断ち切り、ジンを襲った。ジンを乗せた精霊はハルトの攻撃に本能的に恐怖を覚え、右の方向へと避けた。だが、避ける程度でハルトの攻撃を防ぐことはできない。

『守殻!』

ジンは咄嗟にマナを凝縮させる防御を張る。ジンの得意系統魔法は炎である。だが、炎を切り裂く風に炎の守護魔法は通用しない。強大な風は炎を消し去り、効力を無効させる。ジンは本能的に自分の魔法がハルトに押し切られてしまうことを実感し、相性の有無がないマナ凝縮防御である守殻を選択した。だが、それでもハルトの攻撃はジンの守殻を打ち破った。ハルトの放った嵐牙はジンの守殻を突き破り、防御を張っていたジンの右腕は切断され、精霊とともに地面へと叩き落された。

「お前は言ったな、俺は落ちこぼれだって。思い出すことはできないけれど、お前の言っていたそれは多分、本当のことだ。だがな、お前みたいな関係ない人間を巻き込んでしか粋がれない卑怯者ごときに負けるほど俺は弱くない。ジン、お前は俺には勝てない。」

ハルトは冷静な目でジンを見つめる。ジンを苛立たせる最大限の屈辱の言葉。だが、ハルトは意図的にジンを煽ったつもりはない。ハルトはただ、冷静に事実を言ったつもりだった。だからこそ、ジンはハルトの言葉に苛立ち、歯ぎしりをしながら拳を強く握り占める。ジンはあの方に、ボスに自分自身を認めてもらうために必死であった。ジンは愚かであるが、馬鹿ではない。ハルトと自分の実力差など随分前から理解している。だが、ハルトの精神的な弱さや、状況、態度が、そして何より、ハルトなど足元にも及ばないほどの圧倒的な力を持つボスや今だ見たことのない4人の最高幹部がハルト程度の実力の人間に執着しているというこの事実がジンは許すことができなかった。自分とハルトの実力差を誤認し、自分よりも弱いと刷り込ませるほど、ジンにとって、あの方はとても偉大な存在であり、そんな人間がハルトを執着しているということはあの方唯一の汚点となり、高尚なボスの価値が陥れることになる。それがジンにはどうしても許しがたいものであった。



ジンはアテナ帝国と同盟国を組んでいた小国、アルア国の出身の人間であった。大国、アテナ帝国と手を同盟国であるアルア国はアテナ帝国と同じ武力者主義国家である。能力者である自分は当然、迫害対象であった。能力者であるということで嫌われ、便利屋のように都合よく使われ、蔑まれる毎日。そんな毎日を過ごしている中、ボスは現れた。終わりのなかった地獄の日々が、たった数十分でジンの地獄の日常が終わりを迎えた。自分が今まで恐れていた人間たちはこんなにも弱く、惨めであったのだとジンは思い知った。自分が勝てない人間に対して、群れて傲慢に振る舞い、粋がる人間、それはジンが嫌いな人間だ。自分を陥れていた奴らがたった4人の子ども相手に対して、恐れ、許しを請う姿を見ることはとても滑稽で高揚した。

「ありがとうございます!あの!俺、あんたに救われたんだ!俺を、あんたの舎弟に!」

たった一夜で自分を救ってくれた、自分の人生を変えてくれた男に憧れるのは当然であった。自分よりも若く、幼く、華奢な姿をした金髪の髪を靡かせる美少年。だが、そんなものはどうでもいい。外見や年齢など、自分が憧れることを妨げる障害になどなるはずがなかった。ジンにとって、その少年は、神も同然に思えた。ジンは紺色がかった少年と一緒にいたボスに対して必死に懇願した。

「・・・君が、僕の舎弟に?いらないよ。僕は心を許した家族以外を信用するつもりはない。特に、君みたいな野心にまみれた人間は特にね」

ボスはジンに興味を抱くこともなく冷たい目つきで冷静に言い放った。ボスには分かっていたのだろう。ジンが抱いていたボスへの憧れと共にある、ボスの圧倒的な力により実現できる未来への野心をみたことを。

「だったら、俺が!あんたの求めているもんを連れ戻す!そしたらあんたは俺を!」

ジンにはボスが紺色がかった髪を靡かせる少年である最高幹部の内の一人と話していた会話が聞こえていた。ボスがハルトという少年を探していることを。そして、ボスはハルトのことを連れ戻したいと願っていることを。だからこそ、ジンは藁にも縋る思いで出た言葉であった。自分に全く興味を持たないこのボスが異常に執着しているハルトという人間をボスのもとに連れ戻したら、このボスに認められるのではないだろうか。そして、もし、このボスの求めている人間よりも自分に価値があると判断した時、ボスにとってのハルトは自分になるのではないか。そんな欲から出た言葉だった。

「・・・君が・・・彼を?」

ジンの放った言葉に初めてボスが動揺した。空気が凍り、その場が凍てつく。自分の行った発言は失言であったのかもしれない。ジンはボスの周りの空気の変化に死を覚悟した。

「いいんじゃねぇの?確かにこいつは信用ならねえが、もう一年だ。そろそろ居場所くらいは掴んでおいた方がいいんじゃねえの?」

凍てつくボスの空気に待ったをかけるように少年がボスに提案をする。少年の言葉により、ボスの殺気は収まり、ボスは軽くジンを見た。

「いいよ。じゃあ、君は僕の願いを叶えて見せてよ」

期待も何もしていない冷たいボスの視線がジンに突き刺さる。ボスがジンに対して向ける視線はこの紺色がかった髪をした少年とは全く違う。興味もないということは敵対する視線よりもずっとむなしいものである。だからこそ、ジンは好意でなくてもいい。とにかくこの自分に対して無関心を貫くボスの視線を変えたかった。

「信用がないのに、俺がその存在に会わせても平気なんですかい?もしかしたら、あんたの大切な存在を壊しちゃうかもしれないっすよ?」

ボスに好かれたい。そう願っていたのにも関わらず、ボスに対してでた発言は挑発じみたものであった。自分の口からでてしまったふとした発言に自分自身も驚いた。

「心配なんていらないよ。ありえないからね。君ごときでは彼には勝てない。」

その時初めて、ジンは自分に向けるボスの表情が変化したことを感じた。ボスのハルトに向ける執着は遥かに異常だ。だからこそ、そんな執着をむけられる存在があんな弱い、ボスの価値を陥れる存在であるなんてこと、許されるはずがないのだ。あの方に認められるべきは自分なのだ。



ジンは急いで右腕をマナを集めて止血させて怒りのままに左腕で呪文を唱えた。

「俺はまけねえよ」『起爆』

ジンの呪文を唱えた瞬間、各所から大きな爆発音が聞こえ、強大な炎が各方面から立ち上がった。

「馬鹿が!!!お前が俺を攻撃できるということはお前の大切な人間たちの防御を捨てたということ!!お前のせいで大勢の人間が死ぬ!!!泣き叫べ!!!落ちこぼれ!!!」

ジンはハルトの心が弱いことを知っていた。ハルトは何よりも、自分が傷つくことよりも大切な存在が傷つくことを恐れている。だからこそ、この手段はジンが取っていた奥の手であった。ジンが吹き飛ばされていた間はハルトの防御があったせいでハルトの大切な人間を傷つくことができなかったが、今、ハルトはジンと敵対するために防御を捨て戦っている。だからこそ、ジンはようやくこの手段を使うことができた。だが、ハルトはこのジンの奥の手すらも読んでいた。ジンのようなタイプは自分が劣勢になることがあれば、ただでは死なない。周りを道ずれにしてでも、勝ちを掴み取ろうとする。だからこそ、ハルトは劣勢になろうとも民を優先することを選んだ。それでどれだけ自分が傷つこうとも。だが、彼らが、ロアドクレイの二人が来てくれたおかげで形成は大きく変わった。大切な存在が傷つくことを気にせずに、戦うことができる。ハルトは嬉しさのあまり下を向いて肩を震わせる。その様子を見て、ジンは高らかに笑った。ハルトが悔しさのあまりに方を震わせていると勘違いをしたのだから。だが、顔を上げたハルトの笑みに自分の作戦が通用していないことを実感し、その表情は絶望と怒りへと変わる。

「お前にも感謝はしている。お前と戦うことがなければ、お前に苦しまされることがなければ、俺は大切なことをずっと思い出せずにいた。お前のいうように、俺は確かに落ちこぼれだったんだろうな。だけどな、俺は約束した。今は思い出すことはできないけれど、苦しんでいるあいつらを救う英雄になるって。だからもういい。これで終わらせようぜ、ジン」

ハルトは左手を顔の前に立て、3本の指を立てるとその腕をジンに向け、震えるジンを冷静に見ながら近づいていく。顔も名前も思い出せないけれどハルトは記憶の奥で何よりも大切な約束をした。そして、彼らを救うと誓った。だからこそ、その一歩として、ハルトは倒さなければならない。多くの人を巻き込み、快楽を覚えるこの男を。この戦いはハルトの誓いのために進む第一歩だ。

「ふざけるな!!!!『爆焔ばくえん』!」

ジンは血走るような瞳を大きく見開きながら最大限マナを絞り出し大きな声で叫び攻撃を放った。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「・・・ハルトのことが心配ですか?」

ノブと天李は、ハルトとアリスから離れた後方の上空で、ハルト達の戦いの様子を見守っていた。ノブはハルトの守護魔法にマナを供給しながら、心配そうな表情を崩さない天李を静かにみつめた。

「・・・あいつはいつも無茶ばかりするんだ。いつもボロボロで、何かから逃れるように。だが、あいつは思い出せないながらも、自分の為すべきことにあいつが追われ、立ち向かおうとしていたことを私は知っている。・・・だが、こんなにも早くこんな日が来るとはな・・・」

ノブの質問に対して、天李は目頭に涙を浮かべながら、寂しそうに独り言のように呟いた。天李の言葉と涙の意味がノブには理解ができずにいた。だが、天李は一瞬もハルトの後ろ姿から目を離すことなく、静かにその背中を目に焼き付けるように、必死にそして寂しそうに見つめていた。

「ノブ殿。そなたはハルトに対してどう思っている」

突然の天李の質問にノブは驚き、少し考える。天李の言葉の意味はあまりよく分からない。それが人間性のことを言っているのか。それとも、ノブが先ほどから頭を過ぎっている考えを見透かしているのかをノブは答えを出すことができない。

「素直に言うがいい。そなたの思っていることをすべて」

天李はそんなノブの思考を読むようにノブに対して言葉を促す。

「非常に優しく、そして強い人間だと思います。あなたを守る姿勢、そして国の民一人一人を守る決意。それが非常に強いやつだと思いました。・・・だけど同時にハルトは異質です。国民全員に張る防御、結界に天守殻。攻撃魔法にしても、あいつの技一つ一つがどれも強力で、異質の強さだ。」

ジンは確かに強い。世界的に見ても相当な実力を持った能力者であることは間違いない。だが、それでもハルトの強さには通用しない。はっきりいって、技の連弩、威力共に格が違う。

「そして、精神力と潜在マナの質量も異常すぎる。大切な人間を守りたい。その気持ちがどんなに強くても、この国の民全員に防御結界を張り守り抜くなんて行為、考えるはずもない。そもそも、現実的ではない行為だ。精神的にもマナの質量的にも、たった一人の人間が耐えれる行為じゃない。」

ノブは今、ハルトの代わりにハルトが張った防御結界にマナを供給し続けている。今、ノブはマナを供給し、1分以上が経過した。この一分でも相当のマナの消費と心身の疲労がたまっている。ノブは天才だ。だが、その天才と呼ばれてきたノブがたった1分のマナの供給でマナにも心身にも疲労がたまっている。2分は持たすことは絶対であるが、この防御結界を張りながらも奴らと戦ってきたハルトはやはり異質。完全に異常な才能を持っているといえる。そう、それはあの

「あの・・・スルタの里の子どもたちに匹敵する・・・すみません」

ノブはその言葉を呟くとハッとし急いで言葉を閉じた。その言葉はこの世界で今最も禁忌とされている言葉であり、あまりに失礼な言葉である。この言葉はノブにとってこの上ない失言であった。天李の心を害さないか一瞬様子をうかがう。スルタの里の子どもたちとは今では世界に名を轟かす大凶悪犯だ。その彼らに大切な子同然に思っているハルトが重ねられるということは天李からしたら腹正しいことこの上ないではないだろう。それに、スルタの里の子どもたちというのなら最も有力なのはあの饅頭屋にいた目に傷がある男。あの異質性と残略性こそ、スルタの里の人間といえるだろう。

「なぜ謝る?素直にいえと言ったのはこの私だ。腹を立てることなどない」

謝るノブに天李は豪快に笑い、静かに戦うハルトを見る。

「お前のいうようにハルトは優しいやつだ。私はそんなハルトを何よりも大切に思っている。それはこれまでもこの先も変わらない。ハルトがどんな存在でも、だ。ノブ殿、よく見ておけ」

天李は自分を見るノブの視線をハルトに誘導するべくハルトに指を向け、ノブの視線を誘導した。


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「ふざけるな!!!落ちこぼれごときに俺様が負けるわけがないんだ!!!」『絞りつくせ!!・爆焔ばくえん!!!』

ジンの叫び声と同時に今までになかったほどの最大出力の炎がハルトをめがけて襲う。これまでの炎の比ではないほどの巨大な炎である。全てを出し切った最大出力の炎にジンは自慢げに笑った。だが、ハルトはジンの最大出力の攻撃に、焦りもせず静かにその炎を見つめてゆっくりと左手を前に突き出した。

『喰らえ・蒼瀑そうばく

ハルトへと水色の無数の粒子が集まり、その粒子はジンの放出した炎の10倍ほどの大きさの強大な滝と渦となり、ジンの攻撃を喰らい、飲み込んでいく。強大な水の前では、炎など、相手になどならない。強大な水はジンの攻撃をくらい、ジンまでをも襲った。

「ふざけるな!!!!くそがーーー!!!」

ジンは強大な水に飲まれ、大きな叫び声をあげた直後、水に飲まれ、溺れた。その圧倒的な力の差にジンは水が引いた後も、気を失い、倒れこんだ。


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圧勝であった。ノブは魔力の限界を向かえ、戦いが終わったと同時に供給を止め、国の民全員にかけていた天守殻は解除された。ノブはただ、その圧倒的なハルトの力をただ呆然と見つめていた。

「ハルトは迷い人。1年前、記憶を失いこの国に迷い込んだ人間。そなたらのいう最強・最悪の里、スルタの里の子どもたちの生き残りだ」

天李の言葉にノブは息をのみただ茫然とこの光景を見つめていた。

もう、11月に入ったのか・・・1年は早いですね。

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