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落ちこぼれヒーローの英雄譚  作者: 吉見里香
一章,動き出す歯車
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9,あなたを守る

城全体を飲み込む業火。結界の中から聞こえる叫び声。この光景は夢の中の悪夢を連想させる。燃える民家、苦痛の悲鳴を上げる子供たちの声。

《・・・なんで・・・お前が・・・》

《君が能力者で、僕が武力者だから。・・・ただ、それだけだ・・・》

この悪夢の後、決まって思い出されるのは決まって二種族の共存を否定する誰かの声。かつての大切な存在を壊したものは彼らであり、これからも彼らと共にある限りそうであり続けるとハルトは信じて疑わなかった。だが、現実はどうだろう。この国を壊したのは彼らではない。自分を顧みらず奈々を救おうとしたアリスという女がこの国を滅ぼそうと画策しているとはハルトはどうしても思えない。能力者主義国家であるこの国を、大切な存在を壊そうとしているのは能力者であるジンである。容赦のない攻撃。ジンは同じ能力者が苦しんでいる姿を見て、嬉々としている人間だ。だが、能力者はそんなやつだけではない。天李みたいな、この国の人間みたいな、記憶の中にいた愛おしい誰かみたいな存在がたくさんいる。ジンは憎い。だが、他の大切な能力者にまで憎しみは抱くことはできない。彼らはとても大切な存在だから。一年以上前の、この国に来た以前の記憶はハルトにはない。残っていたのは全てを失った悲しみと喪失感だけである。だが、天李は、この国の人達は、ハルトにぬくもりをくれた。優しさを、家族をくれた。この国に来た当初感じていた喪失感、奈々たちのような親子に感じていた家族のぬくもり。天李はハルトに惜しみなく注いでくれた。夫を失い、子どもを失い、ハルトと出会った当初は息子を重ねて、思い出しハルトに隠れて毎晩泣いていたのを知っている。それでも天李は素性も知れないハルトを邪険に扱うこともなく、愛情を注いでくれた。その愛情に、すべてを失ったハルトは救われ、愛を知った。だからこそ、ハルトはもう、大切な存在を失うわけにはいかなかった。ジンの能力は炎。害があるのは直撃する炎だけではない。炎の熱気や煙ですら彼女たちを傷つける要因になってしまう。氷の結界でなければ、この熱さはしのげない。だが、氷は熱に弱い。結界を最大限強くしなければ、溶けてなくなってしまう。天李達は大切な存在だ。だから、この煙は、炎は、彼女たちに吸わせてはいけない。この炎と煙は肺がただれ焼けそうなほどの熱く、苦しいものだから。天李は今でも心配してくれているのだろう。肺と耳はただれるように熱く、声は聞こえないけれど。だけど伝わってくる。ハルトを思い、心配する天李の気持ちが。ハルトは天李達を守る結界の強度をさらに引き上げる。ハルトは叫び、必死に結界を壊そうとする天李を横目見て優しく微笑み、残った力を振り絞りジンを鋭い目つきで力なく睨みつけた。

「ジン、お前ごときに、俺の大切なもん全部傷つけさせねぇよ」

ハルトはジンを睨みつけると挑発するように軽く笑う。暑い。言葉を発するだけでも肺が、喉がただれ焼けしそうなほどの暑さ。だが、それでもハルトはこの場から逃げ出すわけにはいかない。この男は分かっている。ハルトは自分が傷つくよりも大切な誰かが傷つくことの方を嫌がることを。ジンは周りを傷つけることを狙ってくるだろう。例えハルトが力でジンを打倒したとしても、ジンは最後の力を振り絞ってでも最大限ハルトの大切な人を巻き添えにして死んでいく。ジンのような人間はそういうやつであるとハルトの直感が告げている。何より相手はジンだけではない。相手は二人。ハルトがジンと戦っている間にこの国の人間を傷つけられれば意味はない。憎い男に勝っても、それでも守りたかった存在を失えば、それはハルトの負けである。もう、あんな思いはしたくない。だからハルトの必勝条件はこの男に打ち勝つことではない。大切な存在を守り通すことだ。大切な存在を、今度こそ、二度と、失うことは許せなかった。

『来い!』

ハルトは自分の前に精霊を召喚する。召喚された白く威圧感のある大きな虎は大きく一つ遠吠えをすると炎の奥にいるジンを睨みつけた。

「ごめんな。こんな暑い中、お前を呼び出して。だけど、負けるわけにはいかねぇんだ!力を貸してくれ」

ハルトは精霊に対して優しく頭を撫でて、抱き着きこの炎の中に精霊を呼び出したことを謝罪する。そして、ハルトは精霊に向き合うと右手で精霊を触れ、左手を天へと仰ぐように向ける。

『全てを守る盾となれ・守天殻』

たくさんの粒子がハルトと精霊へと集まり美しい粒子がハルトの左上から放出される。数十個の粒子などっではない。何十万何百万の粒子がハルトへと集まり、放出されていく。ハルトが大切なこの国の誰も傷つけさせない。城も、建物も、人がいれば立て直すことができる。だが、失った命はもう戻らない。ジンは人を嬉々として傷つける。だから、ハルトがしなければいけないことはこの場にいる天李達だけではない。この国にいる全員に防御結界を施すこと。ハルトはこの国にいる全員の気配を感知すると全員に周囲のマナを固く変化させ、一人一人を包み込む。ハルトはこの国の民全員を包み込む結界を施すと安心するように微笑む。その瞬間、ハルトの精霊も粒子となって姿を消した。

『切り裂け・風刀』

ハルトは精霊が粒子となり、崩れ去ったあと、力なくジンを見上げる。これでようやく、ハルトはジンに攻撃ができる。全てを守る結界を張った今、ようやくハルトはジンに対して攻撃ができた。ジンに向かって左手を右から左へとスライドさせる。その動作と同時に強大な風が左へと吹き荒れる。

『俺を守る盾となれ・守殻』

ジンはハルトが攻撃の呪文を唱えた瞬間、鳥肌が立ち、怖気が走った。この攻撃はまずい。ジンの直感がそう告げていた。一瞬でジンは自分自身に自身の精霊を盾にして防御結界を張る。だが、無駄であった。ハルトの風の魔法はジンの放った炎を全て吹き飛ばし、その風は勢いを止めることもなく、ジンに直線に迫ってくる。ジンは防御結界を張り、ジンのハイエナの精霊はジンを守るべく、ジンの防御結界の前に出てシールドを張る。だが、精霊はハルトの風の太刀によってシールドは破壊され、切断され、粒子となる。ジンの精霊により軽減された斬撃も、ジンの結界へと直撃すると結界は崩壊し、ジンの頬へと掠め、皮と肉を切り裂いた。ジンの右頬にはジン自身の血が流れ落ちる。

「・・・たった一撃で・・・・」

ジンは自分の頬をかすめた太刀を入れたハルトを驚愕するように目を大きく開き、睨みつける。だが、ハルトは足元がふらつき、倒れこんでしまった。

「ははは!!!所詮お前はそれだけの人間だ!!!そうだろうハルト!!この国の全員に防御結界を張ったところで!この俺様を倒せなければ意味がない!!!お前は順番を誤った!!!守るなんてくだらないことをしたせいで!お前は力尽き、そしてお前は負け、無様に倒れこんでいる!!!そうだろう!!!落ちこぼれ!!!」

ジンは倒れこんだハルトを見て嘲るように豪快に笑い、倒れこむハルトを蹴り飛ばした。

『爆殺』

『爆殺』

ジンはハルトを何度も蹴とばすとこの城を壊した炎を何度も至近距離でハルトに対して打ち続け、ハルトを何度も蹴とばし何度も踏みつける。

「お前は俺様にお前ごときって言ったな!どうだよ!お前ごときって言ったいた奴に!見下していた奴に踏みつけられる気持ちはよお!お前ごときがこの俺様を見下してんじゃねぇよ!!!ふざけるな!お前ごときな落ちこぼれなぜ!!落ちこぼれのお前が!なぜこんなにも弱く愚かなお前が!あの方の温情なんてかけられている!!!殺せばいいんだよ!!!弱いやつは!!!」

ジンは倒れこみ、起き上がることもできないハルトを踏みつけ、何度も何度も手や頭を踏みつけ蹴りかかる。顔も身体も踏みつけられ、攻撃され、ハルトの身体はボロボロだった。

「警告です。先ほどからの行為、許されませんよ?」

ハルトに暴行を加えるジンについにもう一人の10代半ばの幼い声をした女が声をかけ、殴りかかろうとしたジンの手を掴む。ハルトはもう、ぼろぼろだった。

「だからなんだ?お前ごときの警告を聞く義理も理由もないだろ?」

ジンは女の言葉に威圧的に返答し、掴まれた腕を払い落とし、女を鋭い目つきで睨めつける。

「私は我慢強い人間であると自負しています。そんな私が警告はしました。その意味、分かりますよね。あなたの任務はこの方を無事にボスのもとに連れて帰ること。あなたの先ほどからの勝手な行動、あの方に知れたらどうなるかお分かりですよね?」

女は睨みつけてくるジンに小さく冷淡にそう返す。ジンよりも華奢で幼い体系。だが、それでもジンにない威圧感と存在感が彼女にはあった。ジンは顔も見えない少女からの言葉に言葉を失い、顔を逸らす。年齢も体格も幼い少女に対して、体格も態度も大きいジンが引き下がった。薄々感じていた。この女はジンにすらない何かを持っていることを。だからこそ、ハルトは得体のしれない少女を警戒して、全員に防御結界を張ったのだから。

「・・・あの方って・・・ボスって・・・誰のことなんだ・・・なんで俺を・・・」

ハルトは先ほどから自分が狙われている意味も分かっていない。ただ一つ分かることはこの二人のボスが自分を狙っているということだけ。だが、記憶の無いハルトにはその理由すら分からない。ハルトは息を乱しながらボロボロの状態で、精いっぱいに口を開き、疑問を口にする。

「・・・覚えて・・・ないの?」

女はハルトの言葉に小さく、尋ねる。理由は分からない。だが、この少女の声が震えていることをハルトはなんとなく感じていた。ハルトは誰なのかも分からないこの少女に罪悪感がいっぱいになりながらも少女の問いに力なく頷いた。この少女は仮面をかぶっていて顔はよく見えない。だが、それでもハルトはこの少女を知っている。そんな気がした。

「・・・俺は、どこかであんたと・・・」

「いえ・・・私と・・・・あなたは・・・初対面ですよ。」

ハルトの疑問に少女は被せるように震える声で否定する。ハルトは直感で感じていた。この少女は自分の失った記憶の手がかりを持っているかもしれない。ハルトはゆっくりと立ち上がり、女性に声をかけようとするが、仮面をかぶった少女はハルトの目線から目を逸らし、ハルトを拒絶するようにフードを深くかぶり顔を逸らした。

「ふざけるなよ!!!覚えてなもない!!!どういうことだ!!!?なぜ!!あの方はお前みたいなやつに!!何から 何までどこまでお前は俺の神経を逆なでする!!!この最弱の落ちこぼれ!!!」

ジンは怒りで我を忘れていた。少女に一度仲裁されたにも関わらず、怒りに我を忘れ、感情のままに何度も何度もハルトを攻撃する。それはハルトの挑発故か。それとも見下していた相手に傷を負わされ、プライドを傷つけられたせいか。だが、ハルトはそれでよかった。このままであれば、攻撃が他の人間に向くことはない。自分だけが傷つくのはいい。だが、ハルトにとって自分の大切な人がまた、傷つく姿はもう見たくなかった。

『死ね!!!・灼炎』

「やめろ!!!」『我が命じる・力を貸せ・天神障』

最大出撃のジンの攻撃にハルトが最後を覚悟した瞬間だった。ハルトとジンの前に人影と大きな獣が現れ、聞き覚えのある叫び声が聞こえた。ハルトに向けられた攻撃はハルトに直撃することはなく、ジンの炎と人影が直撃し、相殺された衝撃と煙があがる。その煙が引くと懐かしい人影の正体が現れた。神々しい狐のような獣に大切な守りたい存在が現れる。その人影の正体は天李だった。

「天李!?なんで!!」

ここにいるはずがない存在がハルトの目の前に立っている。彼女はハルトの魔法で傷つけられることがないように、戦いに参戦することがないように閉じ込めたはずだ。なのにも関わらず、なぜ、彼女はここに立ち、ハルトを守るように立っている。ハルトは焦り、天李を閉じ込めていた氷の結界を見る。ハルトが守っていた結界は豪快に割られ砕けていて、天李の手は傷だらけでぼろぼろになっていた。聞かなくても分かる。天李はハルトを守るために全力であの結界を壊し、危険な状況のハルトを助けるために、抜け出してきたのだ。

「馬鹿者が!母親が子どもに守られっぱなしでいられるわけないだろう。」

天李はハルトに向かって優しく微笑み、ハルトの顔を優しく触る。だが、天李はハルトに触れた瞬間、気力を失うように倒れこんでしまった。当然だ。天李の今使用した技は天陽国王族に伝わる秘匿された力である。この国の王族だけに伝わる、各国がこの国を狙う所以の力。だが、その力の代償はあまりにでかい。この特異な力を受け継ぐ王族ですら、この力は歴史上限られた人物しか使うことはできずにいた。攻撃に特化した力でないことに加え、使用する魔力が多いことで一撃使用するだけでも相当な負荷がかかってしまう。だからこそ、守られていてほしかった。天李に傷ついてほしくなかったから。

「これが天陽国王族に伝わる秘力か。だが、これでしまいか?女王よ。殺してやるよ。落ちこぼれのあばずれが誑し込んだ人間全てな。」

天李はジンの放った攻撃を跳ね返した。ジンは天李の術に押し返され、多少の傷を負ってしまった。だが、それだけだ。ジンは少し血を垂れ流しながらも楽しそうにハルトを見る。

「お前の大好きな女王を苦しめて殺した後に、お前もじっくり殺してやる。」

ジンはハルトを軽く一瞥すると結界が解けた天李に嬉々として向かって足を進める。ジンの目的はハルトの絶望した表情をみること。天李はハルトを思い、そしてハルトも天李を強く思っていた。だからこそ、ハルトの絶望した表情を見るのに天李を傷つけることは最適だった。ハルトは急いで天李の前に立ち、力なく天李を守るべく、手を大きく広げる。そして精いっぱいジンを睨みつける。ハルトは天李に結界をかけるべく、魔法を唱えようとするが、声もでない。魔法も使えなかった。ハルトは最後の力でできることは天李に触れさせないようにするためにも意地でもジンに隣を抜かせないようにすることだけであった。

『見てろ・爆環』

ジンは右手の人差し指で円を描き、天李に向ける。ハルトは天李を守るべく、倒れる天李の前に立とうと守ろうとするが、ジンに攻撃を向けられ、吹き飛ばされてしまった。ハルトは吹き飛ばされた直後も急いで天李の元へと走るが、ジンは自信に満ちた笑みで自分のもとへと走るハルトを見下ろし笑う。

「よーく見ておけ!落ちこぼれ!お前の大切にしていくものが壊れるさまを!!!」

ジンはにやついた笑みを浮かべながら天李に攻撃放たれた瞬間だった。

「やめろー!!!!」

『死ね・爆殺』

ハルトは、天李に攻撃を放った瞬間、全力で守るために走りながらジンに力いっぱい叫ぶ。間に合いそうになかった。だが、それでも駄目だ。天李だけは駄目である。記憶をなくしたハルトに居場所をくれた母のような存在。失いたくない。もう二度と。大切な存在を。嫌だ。ハルトの記憶の奥にある叫び声と胸をえぐる喪失感と胸の痛みがあふれてくる。

「もう・・・やめてくれ・・・・」

ボロボロの身体でハルトは全力で走りながらも、最悪の事態がよぎり目を瞑り、ただ祈った。

「はぁあああ!」

ジンが魔法を放った瞬間、聞き覚えのある声が一瞬隣を駆け抜けた。その声の主は一瞬でハルトを抜き去り、天李とジンの間に入り、ジンの放った攻撃を吹き飛ばした。

「想像以上の威力ですね、上を向いてください。ハルトさん。」

ジンの攻撃を吹き飛ばした存在は大きく息を吐き、すっきりしたように笑ったような声をしている。この声をハルトは知っている。その声の主は攻撃を吹き飛ばすとその威力の強さに大きく息を吐き、楽しそうに笑い、ハルトを見る。

「・・・誰だ・・・お前!!!」

ジンはまたもや自分の攻撃を邪魔されたことに怒り、怒りに支配されたようにその主を睨みつける。

「人に名前を聞くときはまず、自分からじゃないですか?私はロアドクレイ所属。・・・ただのアリス。ハルトさんの助っ人です!」

その声の主、アリスはジンの声に元気よく反応すると力強く笑った。

なんでテスト勉強の前って片付けがはかどるみたいに、本当にやらなければいけないことはやる気がはかどらないのでしょう。不思議ですね

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